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Westoneの新カナル続々登場。BA×5基のW50、初の6基W60の音は? ネザートン氏に直撃

バランスド・アーマチュアを5基搭載した「W50」

 米Westone Laboratoriesのイヤフォン新機種が、テックウインドから続々と登場する。5月16日に発売されるのが、コンシューマ向けと位置づけられている「W」シリーズの上位モデル、バランスド・アーマチュアを5基搭載した「W50」(オープンプライス/実売89,800円)だ。

 これに先立ち、プロミュージシャン向けモニターUMシリーズの最上位「UM Pro50」(オープンプライス/実売69,800円前後)も2月19日から発売されている。

 また、既報の通り、5月10日~11日に開催されたる「春のヘッドフォン祭 2014」では、Wシリーズのさらに上位となる、Westone初の6ドライバモデル「W60」も6月に登場すると予告。

 さらには、カスタムインイヤモニターの新モデルとして、同じく6ドライバ搭載「ES60」の予約受付も開始と、目白押しだ。

プロミュージシャン向けモニターUMシリーズの最上位「UM Pro50」
6月発売予定、Westone初の6ドライバモデル「W60」

 この中で、発売中の「UM Pro50」と、新製品の「W50」は、ヘッドフォン祭に出展されていたので、実際に聴いてみたという人もいるだろう。生憎、取材で各社ブースを回るのに手一杯でW50を試聴できていなかったので、後日、テックウインドにお邪魔して聴いてみた。また、イベントに合わせて来日していたWestone社、インターナショナル・セールス・ディレクターのハンク・ネザートン氏にもお会いできたので、新製品について話を聞いてみた。

WとUM Proシリーズの違い。そしてW50とは?

インターナショナル・セールス・ディレクターのハンク・ネザートン氏

 色々なモデルが登場するので、わかりやすくするために、少しラインナップを整理しよう。WestoneのBAユニット搭載イヤフォンには、大きくわけて「UM Pro」シリーズ、「W」シリーズの2ラインナップがある。

 UM Proシリーズは、主にステージ上で使うミュージシャンのために作られたイヤフォンで、生音に近い再生音を追求しながら、現場で聴き取りやすいような音に仕上げられているという。搭載しているBAドライバは、カスタムイヤフォンのESシリーズと同じドライバが使われているのもミソだ。

 Wシリーズはコンシューマ向けと位置付けられたシリーズで、ゆったりとした低域や、メインの音がクリアに聴こえるように作られているのが特徴。これに合わせ、UM Proやカスタムイヤフォンに搭載されているのとは異なるBAドライバが使われている。

 それぞれにUM Pro10、20、30と、W10、20、30、40というラインナップが用意されており、十の位の数字がBAユニットの数を表している。UM Pro10、W10はシングルユニット、UM Pro20とW20は2基(低域×1、高域×1)、UM Pro30とW30は3基(低域×1、中域×1、高域×1)、W40は4基(低域×2、中域×1、高域×1)。非常にわかりやすい。

 よって、2月に発売された「UM Pro50」と、5月発売の「W50」は5基(低域×1、中域×2、高域×2)のユニットを搭載している事になる。6月発売予定の「W60」は6ドライバだ。

型番ドライバ発売日店頭予想価格
(税込)
UM Pro101基発売中14,800円前後
UM Pro202基
(低域×1、高域×1)
29,800円前後
UM Pro303基
(低域×1、中域×1、高域×1)
39,800円前後
UM Pro505基
(低域×1、中域×2、高域×2)
69,800円前後
W101基19,800円前後
W202基
(低域×1、高域×1)
29,800円前後
W303基
(低域×1、中域×1、高域×1)
39,800円前後
W404基
(低域×2、中域×1、高域×1)
49,800円前後
W505基
(低域×1、中域×2、高域×2)
5月16日89,800円前後
W606基
(低域×2、中域×2、高域×2)
6月予定

 なお、Westoneでは、これら「UM Pro50」、「W50」、「W60」という新製品について、ラインナップシリーズの壁を超えて、「Signature」シリーズと、1つにまとめて訴求している。ネザートン氏によれば、「シリーズをまたいで、トップラインとして訴求する狙いがあり、BAを5ドライバ以上搭載したハイパフォーマンスイヤフォンをSignatureシリーズと位置づけている」という。

コンシューマ向けの新製品「W50」

 コンシューマ向けの新製品「W50」は、従来のW40やW30とどこが違うのだろうか? ハウジングサイズに大きな違いは無いが、ネザートン氏は「下位モデルと共用しているドライバもありますが、W50ではドライバの数そのものが増えていますし、クロスオーバーネットワークの調節もまったく変わってきます。また、ドライバが増えてもシェルのサイズは変わっておらず、そこも技術的に力を注いだポイント」と説明する。

 また、音の傾向としては「低域用ユニットに注目して欲しい」という。前述のようにW30は、低域×1、中域×1、高域×1で、低域ユニットは1基。W40は低域×2、中域×1、高域×1で、低域は2基。そしてW50は低域×1、中域×2、高域×2で低域は1基となる。

 低域が1基のモデルは、比較的大きなサイズのBAユニットを1つ採用、2基のタイプは小さなものを2つ採用しており、これによって基本的な音の方向性が異なるという。ネザートン氏によれば、1基のW30、W50は、豊かでゆったりとした低域を再生。

 その一方で、2つの小さな低域BAを2基搭載したW40、そしてまだ登場していないW60(低域×2、中域×2、高域×2)は、低域のスピード感やディテールの再現性に優れているという。

左がW50、右がW30。どちらも低域用BAは1基
低域用BAが2基のW40

 つまり、Wシリーズの中にも、音質的にはかつてのWestone 3、そしてW30、W50という1つのラインと、Westone 4、Westone 4R、W40、W60という、2つ目のラインが存在すると表現できるわけだ。

 従来のWシリーズやUM Proシリーズについては、以前、詳しくレビューしたが、ネザートン氏の話を聞きながら、既存のW30と、新機種のW50を順番に聞いてみた。ポータブルハイレゾプレーヤーのAK240を使っている。

 W30はゆったりとした低域を特徴としながら、全体的にまとまりが良く、低域の豊かさをしっかり味わいながら、様々な音楽を楽しみたいというニーズにマッチするサウンドだ。中高域の抜けは良く、クリアでこもった感じはまったく無い。各帯域の繋がりも自然である。

W50

 W50に切り替えると、低域の雄大さがさらにアップ。ブワッと熱風が吹き付けるように、分厚くて迫力満点の低音が押し寄せてきて、その豪快さに驚く。「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best of My Love」を再生すると、1分過ぎからのアコースティクベースがさらに肉厚でパワフルになる。人によっては「ちょっと出すぎかな」と感じるかもしれない。ただ、これだけパワフルな低域が出ているにも関わらず、ヴォーカルはクリアで、低域に埋もれてナローになった感じは無いのが面白い。

 実売89,800円と高価なモデルで、高価なイヤフォンはどちらかというとモニターライクな、“優等生”的なサウンドの製品が多いが、W50は大切な音はキッチリ耳に届けつつも、低域の勢いをかなり重視したモデルと感じる。言い方を変えると、「BAイヤフォンなのに、中低域がダイナミック型のような迫力」と表現できる。W50は、大型の低音用BAを採用したラインの、1つの到達点といえそうだ。

従来のWシリーズと同様、フェイスプレートの変更によるデザインカスタマイズにも対応する。カスタムイヤフォンの楽しさをユニバーサルモデルでも提供したいという考えで、この機構を採用したという

 ネザートン氏も、「W50の開発にあたっては、さらにリッチで豊かで、深みのあるサウンドをターゲットにした。それと同時に、細かなサウンドの再現も強化したいと考えた」という。

 こうなると、W40の流れを受けたW60の音も気になってくる。W40は、どちらかというとモニターライクで、バランス重視。細かなディテールも聴き取りやすいサウンドだ。当然ながらW60は、その上位モデルとして登場するわけで、W50と比べると、よりバランスを重視した音作りになると予想できる。ネザートン氏の話をまとめると、どうやらそのようなサウンドになりそうだ。

UM Pro50も聴いてみる

UM Pro50

 2月に発売された、UM Proシリーズの最上位「UM Pro50」(実売69,800円前後)も聴いてみた。前述の通り、「録音音源にマッチし、バランスに気をつけている」というコンシューマ向けのWシリーズに対し、UM Proシリーズはステージのミュージシャンなどに向け、生音源の聴き取りやすさなどを重視。言い換えれば、カスタムイヤーモニターのような使い方を想定したユニバーサルモデルと言える。

 UM Proシリーズに共通する特徴としては、誇張や演出を排して、素の音をそのまま出しつつ、細かな音が聴き取りやすいように、低域の膨らみはタイトに抑えられている。

 UM Pro50もその流れに属しているが、シリーズの中では低域が豊かで、バランスはニュートラルに近い。歌手の口の開閉や、ピアノの左手など、細かな描写はWシリーズより見えやすく、分析的な描写をする。無駄を削ぎ落とし、綺羅びやかさ、派手さは無いが、玄人向け、マニア向けするサウンド。精進料理のような印象も受け、同じ個数のBAユニットを搭載しているにも関わらず、シリーズによってこうも音が違うものかと驚かされる。

カスタムイヤフォン最上位「ES60」にも自信

ヘッドフォン祭会場置かれていたES60のパンフレット

 せっかくなので、新製品を離れ、今後の製品の可能性についても質問してみた。まず気になるのが、今後も7個、12個というように、BAユニットを増やした製品が続々登場する可能性はあるのだろうか?

 ネザートン氏は「今後の話なのでわからない」と笑いながらも、個人的な見解として「補聴器メーカーとして人間の耳については詳しく研究しているが、人の耳が拾える音は、6ドライバまでが限界ではないかと考えている」と言う。

 また、市場ではダイナミック型ユニットを複数搭載したり、BAとダイナミック型を組み合わせたハイブリッド型など、ユニットの可能性を追求する各社の動きも活発化している。Westoneで、このようなモデルが登場する可能性について聞いてみると、「既にダイナミック型ユニット採用のAdventureシリーズ Alphaを展開しており、BA型のみに限定しているわけではありません。ハイブリッド型は現在のところ考えてはいませんが、テクノロジー的にはオープンで、様々な検討はしています。現時点では音の再現の正確性を求めて、BAの方に重きを置いているという形ですね」とのことだ。

 最後にネザートン氏は、カスタムイヤフォンの最上位として開発された「ES60」(ヘッドフォン祭時点でのフジヤエービックでの価格は168,000円/耳型採取の費用除く)についても、同社の技術の粋を集めたモデルとして手がけたと説明。

 「カスタムイヤフォンのフィット感は素晴らしいものですが、逆にそれを好まない人もいます。そういう方にはUM Proシリーズをお勧めします。また、カスタムでなくても、気軽にポータブルプレーヤーで良い音を楽しみたいという人にはW50などのWシリーズを選んでいただきたい。こうしたラインナップを展開する事で、お客様の選択肢を広げられると考えています」と、ユーザーニーズに合わせた商品展開の豊富さもアピールした。

(山崎健太郎)