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ExPixel採用の「多重化・不可視映像」を富士通SSLらが実用化。年内に第1弾ソフト

 富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ(富士通SSL)は、神奈川工科大学 情報学部 情報メディア学科の白井暁彦准教授との共同研究を8月1日より開始。白井研究室が開発した映像多重化のソフトウェア技術・ExPixel(エクスピクセル)をベースにした「多重化・不可視映像技術」の実用システム開発に着手する。

偏光メガネを使った「多重化・不可視映像技術」を利用したデモ画像

 ExPixelは、1つのディスプレイで映像を表示した際に、裸眼状態と偏光メガネを掛けた状態で全く異なる映像が見えるようにする多重化技術。下の動画は、メガネを掛けた時と外した時の見え方の違いを撮影したもの。

偏光メガネを掛けた時と、外した時の見え方の違い

 これを応用した第1弾として、富士通SSLと白井研究室は、マイクロソフトのPowerPointファイルを使って、メガネを掛けた人と掛けない人で異なるプレゼンテーションが同時に表示できるソフトウェア製品とサービスを、2014年内に販売。また、多言語対応などが必要な博物館や展示スペースなどにおける展示システムの企画開発を共同で進めていく。

裸眼でディスプレイを見た場合
メガネを掛けると、全く別の画像が見える
ExPixelの概要

 合わせて、多重化・不可視映像技術の普及に向けてコンソーシアムを発足する予定であることも発表。ディスプレイメーカーや、デジタルサイネージ用のクラウドシステム開発、ゲームやテレビ番組制作、AR(拡張現実)などを含むコンテンツ制作者など広く参加を募り、同技術の普及や応用製品/サービスの実用化に向けて進めていく。

神奈川工科大学 情報学部 情報メディア学科の白井暁彦准教授

 ExPixel技術の仕組みと詳細は5月に神奈川工科大学が発表しており、西川善司氏がレポートした通りだが、基本的には偏光方式の3Dテレビの仕組みを応用したもの。液晶パネルの偶数ラインと奇数ラインとで偏光方向が違う液晶パネルを使い、メガネを掛けた人と掛けない人で違う絵が見えるようにする。

 例えば裸眼で見せたい映像Aと、メガネを掛けた人に見せたい映像Bがあったとする。映像Bは、裸眼状態で見た時には消えてほしい映像のため、映像Bのネガ映像(-B)を用意。3Dテレビの表示原理を用いて、第1映像として「映像Aとネガ映像(-B)の合成映像」を、第2映像として「映像B」を表示する。

多重化・不可視映像技術の概念図

 これを裸眼で見ると「映像Aとネガ映像(-B)の合成映像」+「映像B」を見るため、映像Bは全白表示として消失。映像Aだけが見える。一方で、第2映像だけが見られる偏光メガネを掛ければ映像Bを見ることができる。

多重化シェーダーによりラインバイラインの画像を生成する

 市販の3Dテレビに広く使われている偏光3D方式のディスプレイとメガネを使用し、ハードウェアの改造を必要とせずソフトウェアで実現できることから、同じ空間で同時に異なる映像や文字情報などを見ることがより簡単に行なえるのも特徴。教育、医療、店舗、自治体、観光など幅広い分野での応用が期待できる。

富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ ソリューション戦略本部のソリューション企画開発部長の米澤一造氏

 富士通SSLは企業や自治体向けの事業を主に展開している。今回の共同研究により、エンターテインメントシステム(人の喜び、楽しみのために設計されたコンピュータシステム)で培われた技術と知見を業務用システムに取り入れた、新しい商品開発を目指す。

 同社ソリューション戦略本部のソリューション企画開発部長の米澤一造氏は、白井研究室と協力する理由として「ビジネス運営においてもスマホやゲームの世界で当たり前のユーザーインターフェイスの良さ、使いやすさが求められている」ことを挙げた。

富士通SSLと白井研究室が共同研究、エンターテインメントのノウハウをビジネス分野に活用
白井研究室と連携する理由

 一方、白井研究室は、エンターテインメントシステムに関する研究成果の活用先として、ゲームやテーマパークなど娯楽関連業務に留まらず、広くビジネスシーンで応用されることに期待を寄せている。前述したコンソーシアムを設立することで、技術を一社が独占した形で使用するのではなく、幅広い分野で活用されることを目指していく。

多重化・不可視映像技術の普及を目指したコンソーシアムを立ち上げる

 第1弾のExPixel応用商品である、PowerPointファイルを多重化・不可視化コンテンツに変換できるソフトは、9月上旬に行なわれるゲーム開発者向けカンファレンスの「CEDEC 2014」において、ゲーム関連の技術と共に出展。さらに、10月23日開幕の「デジタルコンテンツエキスポ」で評価版を用意するという。正式発表は、11月に行なわれる富士通SSLのプライベートショーで行なわれる見込み。価格やシステム構成などについては今後検討するという。

利用シーンの例
多重化ディスプレイ技術のロードマップ

AR動画連携や、パブリックビューイングの収益化など様々な応用

 今回の発表はビジネス向けの提案だが、白井研究室ではもともと「FamilinkTV」というプロジェクトがある。これは「リビングルームでチャンネル争いを無くすのが出発点」というもの。せっかく大画面のテレビを買っても、親がオリンピックを観たい時に子供がゲームしたいとなると、どちらかが別の部屋へ行くため、バラバラになってしまう。ExPixel技術により、子供は裸眼でゲームをして、父親はメガネを掛けてオリンピックを楽しむことが1台のテレビでできる。必要な場合は子供がどんなゲームをしているかが分かる。こうした“ペアレンタルコントロールよりも緩いコミュニケーション”を可能にするという。

「FamilinkTV」コンセプトビデオ
白井暁彦准教授

 白井暁彦准教授は、他にも様々なExPixelの応用方法を説明。例えば、偏光フィルタを使うのはメガネだけでなく、スマートフォンのケースにあるカメラレンズ部をカバーするといった使い方が可能。これを持つスマホユーザー(あるサービスの有料会員など)だけが特典を受けることなどができる。

 そのデモとして、AR(拡張現実)との連携を紹介。テレビに表示されたある静止画を見た時、裸眼の人と偏光メガネを掛けている人で異なる画像に見えるだけでなく、偏光レンズ付きのケースを装着したスマホのカメラをかざすと、スマホに表示されたテレビ画面上で、別の動画再生が始まった。これは、偏光フィルタを通して表示された画像がARマーカーも兼ねており、それによって特定のAR動画を視聴可能にしたものだ。そのほかにも、バーチャルアイドルのコンサートがあったとき、特定のチケットを購入した人だけ、別の衣装を来た姿を観られるといった特典も実現できる。

 また、パブリックビューイングイベントでの応用例として、無料で視聴している人にはCMが表示されるが、有料会員にはCM無しで観られるようにできる。このように、従来は無料だけだったビジネスモデルを収益化に結び付けていくことも、応用次第で可能だという。

メガネで見ると、別の文字が見えるだけだが……
スマホをかざすとAR動画が観られる

(中林暁)