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デジアナ変換が4月末で“混乱なく”完全終了。テレビはどれだけ売れた?

 4月30日ですべてのデジアナ変換サービスが終了した。

 デジアナ変換サービスは、2011年7月のアナログ放送の停波時に、集中する地デジ移行への混乱を避けるため、総務省からの要請によって、ケーブルテレビ事業者が開始した経過措置ともいえる放送サービスであり、ケーブルテレビによる視聴者を対象に、地デジ放送をアナログ方式に変換し、ブラウン管テレビをはじめとするアナログテレビでも地デジが視聴できた。

 今年1月時点においても、330社のケーブルテレビ事業者において、450施設を通じてデジアナ変換サービスが提供されていたが、1月29日に茨城県の土浦ケーブルテレビでサービスを終了したのを皮切りに、全国規模で、順次、サービスが終了。4月30日には、徳島県や北海道などの12施設において、最後のデジアナ変換サービスが終わり、すべてのサービスが終了となった。

 これにより、日本国内のテレビ放送は、完全にデジタル化したことになる。

デジアナ変換の画面例

 実は、4月末までのデジアナ変換サービスの終了に伴い、業界筋では、一部で混乱を招く恐れがあるのではないかと懸念していた。というのも、今年1月時点では、デジアナ変換サービスの視聴可能世帯が2,532万世帯近くにものぼっていたからだ。

 だが、同サービス終了に伴うケーブルテレビ事業者への問い合せ件数は、約13万5,000件。視聴可能200世帯あたり約1件に留まった。電話がかかりにくいというケースも少なく、混乱はまったくなかったといえる。

 2011年7月の地上アナログ放送の停波時には、地デジへの完全移行に対する是非を問うような意見が寄せられることも多かったというが、今回の場合、問い合わせ内容の多くは、引き続きテレビを視聴するためにはどうすればいいのかといった、移行を前提にしたものであり、多くの視聴者が、デジアナ変換サービス終了を自然な形で受け入れていたようだ。

ケーブルテレビにおけるデジアナ変換の概要(出典:総務省。2010年時点のもの)

 2011年7月の地上アナログ放送の停波から、すでに3年以上を経過していたことに加え、デジアナ変換サービスを視聴しているテレビ向けに、早い段階から、サービス終了の告知ととともに、新たな環境へと移行を促すメッセージを画面に表示。一定時間をブルーバックとするなど、業界をあげた周知活動も功を奏したといえそうだ。

 主要なケーブルテレビ事業者では、コールセンターの増員を図り、問い合わせ対応にも万全の体制を整えて臨んだが、それも余剰となった模様だ。業界内では、「これだけ混乱がなかったのは、むしろ肩透かしを食った格好」というジョークも聞かれるほど、同サービス終了はスムーズだったといえる。

デジアナ変換で、テレビ需要はどれだけ生まれた?

 一方で、デジアナ変換サービスの終了に伴って見られたのが、小型テレビの需要が顕在化したことだ。

シャープがデジアナ変換商戦向けに投入したLC-40H20/32H20。30型以下の販売が伸びた

 毎年春は、進入学や新社会人による一人暮らし需要もあり、小型テレビの販売が増加する傾向にあるが、デジアナ変換サービスの影響で、例年以上に、小型テレビの需要が増大したといえる。

 2011年7月の地上アナログ放送の停波時には、リビングに設置してある1台目のテレビへの対応が中心となることから大型テレビの販売が増加したが、今回の場合は、高齢者世帯をはじめとして小型テレビで視聴している世帯が多かったことや、個室などで利用している2台目以降のテレビで視聴しているケースが多かったことで、地上アナログ放送停波時とは、まったく異なる需要が発生していたからだ。

 BCNの調べによると、20型未満の液晶テレビは、2014年1月には9.9%の構成比であったものが、2015年1月には13.1%、2月には14.5%と拡大。3月には10.0%と減少したものの、対前年成長率で見ると、39.9%増という高い成長率。20型台や30型台が、それぞれ前年同期比2%増、40型台、50型台がいずれも2桁のマイナス成長になっていることに比べると、小型テレビの売れ行きが例年以上に好調であることがわかる。

販売台数のサイズ別構成比(2014年4月)出典:BCN

  • 20型未満 13.4%
  • 20型台 23.0%
  • 30型台 34.3%
  • 40型台 19.5%
  • 50型以上 9.7%

販売台数の前年同月比(2015年3月)出典:BCN

  • 20型未満 139.9%
  • 20型台 101.8%
  • 30型台 101.9%
  • 40型台 87.0%
  • 50型以上 85.4%

 だが、こうした旺盛な需要のなかで、デジアナ変換サービスの終了によって、どれだけのテレビ需要が創出されたのだろうか。

 あるメーカー関係者は、次のように試算してみせる。

 「JEITAなどの資料をベースに、国内の液晶テレビ需要を想定すると、1~4月の出荷台数は、平年では約181万台。これに対して、2015年1~4月の出荷台数は約233万台と見られており、この差分である52万台が、デジアナ変換サービスによるテレビの需要創出だと推定できる」とする。また、比較対象となる前年同期には、消費増税前の駆け込み需要が含まれていることから、これを踏まえると58万台程度が、同サービス終了に伴う需要によるものだとの指摘もある。現在、テレビの年間需要は600万台。1か月分以上の需要が創出された計算だ。

 さらに、業界筋の試算によると、デジアナ変換ボックスを含む地デジチューナは、1~4月の出荷台数が約9万台と想定されるほか、デジアナ変換対策用として、「DVDが付属している地デジチューナー」「BSなどを含む3波チューナー」が4万台出荷されたと言われている。

 これらの数字を合計すると、デジアナ変換サービスの終了によって、70万台規模のテレビ、レコーダ、チューナの需要を創出したと想定できそうだ。

 それ以外の世帯では、ケーブルテレビ事業者との新たな視聴契約や、ケーブルテレビ事業者会社からのチューナおよびセットトップボックスの給付などにより、新たな視聴環境へと移行した模様だ。

 デジアナ変換サービスは、混乱がまったくなく終了するとともに、新たなテレビ需要を創出した。これによってデジタル化に伴う特需も終わったことになる。今後は、特需の反動からの回復基調のなかで、どんな提案をするかが、テレビメーカーに課せられた新たなテーマだといえよう。

(大河原 克行)