ミニレビュー

4,999円でコスパ最強? バランス対応「碧-Light」イヤフォンを聴く

e☆イヤホンが2月から発売している、intime(アンティーム)ブランドのハイブリッドイヤフォン「碧-Light Balanced」。2.5mm 4極のバランスケーブルを採用し、高音質なバランス接続対応ながら4,999円(税込)という手頃な価格が魅力だ。

碧-Light Balanced 2.5mm 4極モデル

intimeブランドは、「ポタフェス」などのイベントや、e☆イヤホンに買い物に行く人には知られているが、比較的新しいブランドで馴染みがない人もいるかもしれない。2016年に創立したオーツェイドのブランドで、「創業者自ら30年かけて習得してきたエレクトリックセラミックの技術と自身の持つ音の感性を最大限に活かしハイレゾイヤフォンを開発」したという。ブランド名のintimeは、フランス語で“親友”の意味。

そのintimeブランドが'18年夏に発売したのが、3,999円の「碧(SORA/ソラ)-Light」。独自のセラミックツイーターを採用したハイレゾイヤフォン「碧」(’16年末発売)を軽量化し、音質を新チューニングしたモデルだ。現在もe☆イヤホンの週間購入ランキング上位にほぼ毎週入っており、いわゆる“U5000”(5,000円以下)でコストパフォーマンスに優れた製品として人気を集めている。

今回紹介する「碧-Light Balanced」は、「碧-Light」のステレオミニケーブルを2.5mm 4極のバランスケーブルに変更した限定生産モデルで、e☆イヤホンでの販売価格は4,999円。U5000の価格帯には珍しく、高音質なバランス接続に対応しているのが特徴だ。イヤフォン直付けでケーブル交換はできないが、その分コストを抑えてこの価格を実現できたのだろう。

イヤフォン直付けの2.5mm 4極ケーブル

バランス対応イヤフォンにしてはずいぶん安いので、「音はどうなんだろう?」と気にはなっていたが、実際に聴いてみた結論から言うと、碧-Light Balancedの音は個人的には結構気に入った。

筆者は2.5mm 4極バランス対応イヤフォン「Co-Donguri Balance」(茶楽音人、実売4,600円)を時々使っているが、これは音の個性と聴きたい音楽の傾向がマッチすると非常に気持ちよく聴ける一方、激しいロックやオーケストラ楽曲では音のクリアさや響きに物足りなさを感じていた(以前のレビュー記事)。

その点、碧-Light Balancedはズシッと太く重い低音から繊細な高域表現までしっかり表現でき、基本的にどんなジャンルの曲にもマッチする。アンバランス接続と比べて、左右のイヤフォンから聴こえる音のステレオ感やクリアさも高く、音場の広いスッキリした“バランス接続らしい音”が約5,000円で手に入るのはお得感が高い。

「碧-Light Balanced」(左手前)と、同価格帯の「Co-donguri balanced」(右奥)

セラミックツイーター+ダイナミックで「解像度の高い自然な音」

碧-Light Balancedのサウンドのヒミツは、碧-Light Balancedに搭載されている、10mm径ダイナミック型ドライバーと、独自開発の積層型セラミックツイーターVSTの組み合わせにありそうだ。

セラミックツイーターには「VST(VerticalSupportTweeter)」技術が導入されており、セラミック固有の音を無くすために、外周部に垂直方向に支持するニッケル合金の振動板を採用し、感度低下を防ぐために高効率なセラミックエレメントも開発。中心にはドーナツ状の穴を開け、ダイナミック型ドライバーとの特性のバランスを取って最適化している。

ダイナミック型ドライバーにセラミックツイーターを組み合わせる設計は、既存イヤフォンの碧や碧-Lightと似ているが、バランス対応モデルはツイーターにセラミックを2枚使う「VST2」を導入。さらに新しいチューニングで「VSTの周波数特性をわずかに可聴域側に寄せ、低価格ながら解像度の高い自然な音」を実現するという。

再生周波数帯域は20Hz~40kHzで、ハイレゾ対応を謳う。音圧レベルは102dB/mW。インピーダンスは22Ω。

イヤフォン部の樹脂製クリアパーツ。奥にドライバーなどの配線が見える

筐体は真鍮と樹脂を組み合わせ、既存の「碧」(重量25g)から7g軽い16.4gを実現。真鍮素材にはセラミックツイーターを固定する役割があり、表面には高耐久ニッケルメッキを施している。また、樹脂パーツには「音質を柔らかくする」役割があるという。パーツの一部にくぼみをつけることで、暗所などでも手触りでイヤフォンの左右を分かりやすくしている。

ニッケルメッキを施した真鍮素材を採用。音道管はやや太め

入力は金メッキ2.5mm 4極プラグ。ケーブルの手触りは被覆が少し硬めで、滑りが良いのでタッチノイズの発生は抑えられてはいるものの、収納時などに曲げると後でクセが付きやすい。個人的にはもう少し、柔らかい素材が良いと感じた。芯材には既存の碧-Lightよりも高品質な無酸素銅(OFC)を採用し、インピーダンスを下げて鳴らしやすくする改良が加えられている。ちなみに、ケーブルの長さは付属の本革製コードリールで調整できる。

イヤーピースは、3サイズのSpinfitが付属する。ただ、筆者の耳からはすぐ抜けてしまって馴染まなかったので、手持ちのイヤフォンについていたfinalのクリアイヤーピース(Eタイプ)に差し替えた。音導管がやや太めにみえるが、final Eタイプは柔らかい素材なので多少押し広げれば挿せた。

スッキリした音の拡がりとドッシリ低音

Astell&Kernのポータブルプレーヤー「A&norma SR15」(実売約99,900円)に碧-Light Balancedを繋ぎ、イーグルス「ホテルカリフォルニア」(192kHz/24bit)を聴く。なお、試聴には価格のバランスも考慮し、AK70 MKII(約49,800円)やFiiOのポータブルヘッドフォンアンプ「Q1 Mark II」(約14,200円)も使った。

A&norma SR15で碧-Light Balancedを聴く

再生が始まるとすぐ、バランス接続の良さがよくわかる。一番わかりやすいのは音の余韻が広がる空間の広さで、ボーカルやベース、ドラムの音が奥までスッキリ伸びていくのが感じられる。特に曲の3分30分〜4分あたりのリバーブ(残響)っぽい音でそれを顕著に感じた。また、ステレオミニ(3極)のイヤフォンをスマートフォンやオーディオプレーヤーにアンバランス接続したときと比べて、音場に定位する音像の立体感、解像感もアップする。

SR15の2.5mm 4極バランス端子の出力レベルは、アンバランスが2.0Vrmsに対してバランスが4.0Vrms(負荷無し)でドライブ力がアップ。グランドも共用しないので、左右のクロストーク低減やステレオ感(左右の分離)が明確になるといったメリットがある。

碧-Light Balancedもこの恩恵は十分受けられ、音の奥行き感がアンバランス時よりはっきりと感じられた。これはハイレゾ音源に限らず、たとえばCDからリッピングした音源でもその効果が分かった。

碧-Light BalancedとAK70 MKIIの組み合わせ

製品名の通り、イヤフォンの重量は確かに「ライト」だが、音は決して軽くない。むしろ、AK70 MKIIに繋いで宇多田ヒカル「SAKURAドロップス」(96kHz/24bit)の冒頭のドラムロールを流したときなど、非常に量感ある低音が出て驚いた。FiiOのポータブルアンプ「Q1 Mark II」に繋いでも、こちらは元々低域が強く出るアンプではないが、Bass boost機能をオンにすると芯のある低域が鳴り響いた。

プレーヤーの音質が素直に音に出るイヤフォンのようで、試聴に使ったSR15/AK70 MKII/Q1 Mark IIの音の傾向の違い(高音や低音、音の響きなど)を確かめることもできた。

iPhone 7とポータブルアンプQ1 Mark IIに、碧-Light Balancedを繋いだところ

クラシックやジャズ風の音楽も聴いてみる。アントニオ・パッパーノの指揮で、聖チェチーリア国立音楽院管弦楽団、マルタ・アルゲリッチが共演したサン=サーンス「動物の謝肉祭」では、様々な楽器の旋律がきらびやかに鳴り響き、コンサートホールのステージに最も近い列で聴いているような感覚。

RPG「ゼノブレイド2」追加シナリオの「黄金の国イーラ」オリジナルサウンドトラックのうち、平松建治によるハイスピードなジャズ風のバトル曲「戦闘!」では、ベースラインのうねるような太い低音にピアノやストリングスの旋律が絡んで曲を盛り上げていく様子が生々しく伝わった。

約5,000円のハイレゾ/バランス対応イヤフォンに、当初は過大な期待を寄せてはいなかったが、手持ちのCo-Donguri Balanceや、MMCXリケーブルで2.5mm 4極対応にした「UE900s」とつなぎ替えながらしばらく聴き比べていくうち、「普段使いは碧-Light Balancedでいいんじゃないか?」と思えてくるほど、聴きやすく良い音が楽しめた。この音質が約5,000円で手に入る、ということに改めて驚かされる。

同じ価格帯のバランス対応イヤフォンとしては、茶楽音人の「Co-Donguri Balance」がある。先に少し触れたように、Co-Donguri Balanceは激しいロックやオーケストラ楽曲よりも、落ち着いたジャズやフュージョン、女性ボーカルの曲がハマりやすく、そういった曲を聴きたい人には合っている。一方、碧-Light Balancedはどんなジャンルもそつなく鳴らせるので、こちらは万人受けしやすそうだ。

碧-Light Balancedは限定生産品ではあるが、U5000クラスのバランス対応イヤフォンに新たな選択肢が増えたのは喜ばしいことだ。バランス接続に対応するポータブルオーディオプレーヤーも、最近では発売から1〜2年ほど経過したモデルの流通在庫が3〜4万円台で購入できることもある。一昔前は高価でバランス環境の構築を諦めたという人にも、挑戦しやすい価格になっているので、ぜひ手頃なバランス対応プレーヤーと「碧-Light Balanced」の組み合わせを体験して欲しい。

庄司亮一