ミニレビュー

バランス対応で約4,600円、進化したハイレゾドングリ「Co-Donguri Balance」

 個性的なイヤフォンを手がけるTTRの「茶楽音人(さらうんど)」ブランドから、人気シリーズ「Co-Donguri」の新製品が登場した。2つのうち注目は、高音質なバランス接続に対応しながら実売4,600円というリーズナブルさが魅力の「Co-Donguri Balance」だ。

「Co-Donguri Balance」(2.5mm 4極タイプ/左)。右は「Co-Donguri Brass」

 初代Co-Donguri(’16年発売)の正常進化版として、真鍮筐体を採用した「Co-Donguri Brass」(実売3,700円、以下Brass)と、イヤフォン部が同じでバランス対応の「Co-Donguri Balance」(以下Balance)。リケーブルできないのは初代と同じだが、Balanceはプラグが2.5mm 4極と4.4mm 5極の2種類を用意する。Brassのプラグはアンバランスの3.5mmステレオミニ。

 イヤフォンのリケーブル製品は安いものでも5,000円程度、上を見れば数万円もするので気軽に手は出せない、そもそもリケーブルできるイヤフォンを持っていない……という人も、Balanceと対応プレーヤーがあれば、バランス接続で聴ける。

鮮やかなインディゴカラーの「Co-Donguri Balance」(2.5mm 4極タイプ)

 今回は、TTRからBalanceの2.5mm 4極タイプとBrassを借り、私物の「Co-Donguri 雫(SHIZUKU)」と聴き比べてみた。先に結論を言ってしまうと、Balanceは初代Co-Donguriからしっかりと音の進化が感じられ、筆者の好みにマッチしたので返却後に購入してしまった。それくらい良かったのだ。

Co-Donguri Balance(2.5mm 4極タイプ/手前)。左奥が「Co-Donguri Brass」、右奥が「Co-Donguri 雫(SHIZUKU)」

見た目のキュートさはそのまま、真鍮筐体で低域強化

 ドングリのような丸みを帯びたコロっとしたデザインはBalance、Brass共に初代Co-Donguriと変わらない。真鍮を採用したことで共振を抑え、「クリアで引き締まった低音を再現する」という。手に乗せてみると初代Co-Donguriよりも少し重い。

 ドライバは10mm径のダイナミック型で、独自技術の「トルネード・イコライザー」を組み合わせて高域のマスキング現象を抑え、10kHz以上の高域を伸びやかに再現できるとする。周波数特性は5Hz〜40kHzで、ハイレゾ再生に対応。出力音圧レベルは106dB/mW、インピーダンスは18Ω。

 実にあたる部分には、光沢を抑えて微細な凸凹のあるメタリック塗装が施され、カラーはBalanceの2.5mm 4極タイプがIndigo(インディゴ)、4.4mm 5極タイプがSonar Black(ソナーブラック)。Brassは、Bordeaux(ボルドー)とNoir(ノアール)の2色を用意する。

筐体の金属部分に真鍮を採用

 まずはAK70 MKII(実売約7万円)にアンバランスのBrassを繋ぎ、イーグルス「ホテルカリフォルニア」(192kHz/24bit)を聴く。使い始めは低価格イヤフォンにありがちなドンシャリっぽい音だが、数日使っているうちに全体のバランスが落ち着き、聞こえ方が変化。中高域に厚みがあって、ベースやドラムのアタック感も感じられ、従来モデルでは「もっと出て欲しい」と感じた低域がしっかり鳴るよう改善されたことが分かる。

ボルドーカラーを採用した、アンバランスの「Co-Donguri Brass」

 次に、Balanceに差し替えて同じ曲を聴いてみる。イヤフォン部が共通なので音の傾向はBrassと似ているが、音の詰め込み感や閉塞感が無く、音場が広大でバランス接続の効果が分かりやすく音に反映される。初代Co-Donguriの音場の広さも気に入っていたが、改めて聞き比べてみるとBalanceの方が広々と聞こえる。見た目の可愛さや手頃さからすると、これだけ奥行き感のある音が出るのは意外な印象だ。

 音の情報量がぐっと増え、個々の音の分離感もアップ。ボーカルやベース、ドラムの響きが立体的になり、特に曲の3分30分〜4分あたりでこの傾向が顕著に感じられた。音の迫力も上がってよりパワフルに聞こえ、Brassで聴いてちょうど良いと感じた音量(80)が、Balanceでは73位で十分に感じられる。

 Balanceで特に気持ちよく聴けたのは、サックスの響きや力強いドラムが印象的な神保彰のインスト曲「ブロウイン・イン・ザ・ストリート」(96kHz/24bit)や、ゆったりした歌い方で波間にたゆたうような曲調のやなぎなぎ「アクアテラリウム」(同)など。落ち着いたジャズやフュージョン、女性ボーカルの曲がハマりやすい。

 ただ、音楽のジャンルによってはマッチしないこともあり、例えば激しいロックや、クラシックや映画サウンドトラックなど大編成のオーケストラ楽曲ではハイハットやシンバルの高域がキツく耳に刺さるように感じる。また、弦楽器の音色がカサついた感じで鳴るので、もう少し響いてほしいと感じた。

 従来のSpinFitイヤーピースは素材が固めで、個人的には耳に馴染まなかったが、新モデルでは柔らかいファイナル Eタイプに変わって収まりが良くなったことも、音が良いと感じた理由のひとつかもしれない。適度な遮音性がありつつ外の音も聞こえ、それでいて音漏れはほぼ気にならない。通勤/通学時の電車などで重宝するだろう。

 Co-Donguriシリーズの魅力は音の他にも、ケーブルの取り回しの良さが挙げられる。BalanceとBrassはOFCリッツ線4芯構成の「スパイラル・コード」を採用しており、下に垂らして普通に装着したり、Shure掛けのような耳掛けスタイルでも使える。柔らかい素材の表面に細い溝を沢山刻んだ加工を施しているおかげで、うっかり適当に束ねたり無造作にポケットに入れてしまっても絡みにくい。

Balance、BrassのどちらもOFCリッツ線4芯構成「スパイラル・コード」を採用

 Co-Donguri Balanceのケーブルは直付けで交換できない。しかし、交換ケーブルを買うよりも手頃な価格でバランス接続の魅力を味わえる点は、他にはない特徴といえるだろう。なお、TTRも以前はヘッドフォン祭などのイベントでリケーブル版Co-Donguriを参考展示していたが、現時点で製品化する予定はないとしている。

 バランス接続というイヤフォンのマニアックな楽しみ方を、約4,600円で実現したCo-Donguri Balance。リーズナブルなだけでなく、音の満足度も高く、バランス接続の利点をしっかりと楽しめる。鳴らす音楽のジャンルに得手不得手はあるが、音の個性と好きな音源の傾向がマッチすれば手放せない一品となるだろう。「バランス対応のプレーヤーを持ってはいるけれど、イヤフォン/ヘッドフォンはアンバランスのままで聴いている」という人にも、ぜひ一度聴いてほしいと思える製品だ。

庄司亮一