ミニレビュー

実は展開がまったく違う! 今こそ「ダリフラ」をアニメ&コミックでイッキ見

自宅で過ごさなければならないGWが到来した。この長い期間、アニメやドラマを“イッキ見”する人も多いと思うが、たっぷり時間がある事を活かして“アニメとコミックの双方で楽しめる作品”に浸るのはどうだろう。今回、アニメの放送は2018年だが、コミカライズ版の最終8巻が今年の4⽉3⽇に発売された「ダーリン・イン・ザ・フランキス」を紹介したい。4⽉末時点でアニメはNetflix、コミカライズ版はスマホアプリ「少年ジャンプ+」でそれぞれ楽しめる。

「ダーリン・イン・ザ・フランキス」
(C)ダーリン・イン・ザ・フランキス製作委員会

アニメ「ダーリン・イン・ザ・フランキス」(以下ダリフラ)は、TRIGGERとA-1 Pictures(現CloverWorks)が共同制作したオリジナル作品で、全24話。監督は錦織敦史、シリーズ構成は錦織監督とMAGES.の林直孝が担当。キャラクターデザインはとらドラ!、超平和バスターズ作品、君の名は。天気の子でお馴染みの田中将賀。

物語の舞台は遠い未来。人類は荒廃した大地に、移動要塞都市“プランテーション”を建設し、未知の巨大生命体「叫竜」と戦いながら暮らしている。人類、「オトナ」たちを守るために戦場に立たされるのは、人類を束ねる賢人(パパ)の指揮のもと、戦うことだけを使命として教えられた「コドモ」たち。叫竜がプランテーション付近に出現すると、男女の2人1組で操作するロボット「フランクス」に搭乗し叫竜と戦う。

かつて神童と呼ばれ、今はフランクスを動かせない落ちこぼれとなった主人公のコード016 ヒロが、プランテーションに備えられたパイロット居住施設“ミストルティン”(通称“トリカゴ”)で、額から2本の角を生やした謎の少女“ゼロツー”と出会うところから物語が始まる。

トリカゴ内の中庭で入隊の説明会をサボっている主人公ヒロ。このあと湖で水浴びしているゼロツーと遭遇する
(C)ダーリン・イン・ザ・フランキス製作委員会
角を生やした謎の少女 ゼロツー
(C)ダーリン・イン・ザ・フランキス製作委員会

魅力は、メカニックなロボットではなく、搭乗するヒロインをイメージしてデザインされた、“キャラクターとしてのロボット”が戦うところにある。フランクスは、女性の雌式操縦者(ピスティル)の意識を機体に表出して、男性の雄式操縦者(ステイメン)が操作するというシステム。そのフォルムは女性的で、可愛らしい顔まで付いており、戦闘でもピスティルの可愛さや個性が存分に発揮される。

ゼロツーのフランクス“ストレリチア”。このほか女性キャラごとに設定されたフランクスが4機登場する
(C)ダーリン・イン・ザ・フランキス製作委員会

戦闘シーンはロボットアニメよりも、物理で戦う魔法少女モノに近いように思う。敵である叫竜は未知の生命体といった出で立ちで、コアを壊さない限り蘇り続ける。最初に見た時の印象は“可愛い見た目のエヴァンゲリオンに2人1組で乗って戦っている”といった感じだった。フランクスに乗ることだけが存在の証明であると信じるコドモたちは、エヴァのチルドレンのように戦いをためらうような事はないが。

また、光の輝き方や爆発、アクションシーンでの線の太さ、フランクスの表現などで、TRIGGERとA-1 Picturesとの演出の違いがわかりやすいのも面白い。TRIGGERが手掛ける部分は、線が太く、光や爆発は派手目。フランクスは戦闘時のピスティルの感情がダイレクトに伝わるほど表情豊かでキャラクター感がとても強い。A-1 Picturesの方は日の光や涙などの表現が繊細で、キャラクターの内面に迫るシーンでは特に心を奪われる。細部まで緻密に描かれたフランクスはロボらしさとキャラっぽさのバランスが絶妙だ。制作会社ごとの特徴に疎い筆者でも、その違いがわかって楽しめた。

フランクスは2人1組の男女で動かすため、ペアでの相性のほか、5機がチームとして動くので、全員の統制が取れていないと戦闘時には命取りになる。しかし、ヒロはゼロツーとであればフランクスに乗れることが判明し、その能力が引き出されたことで、チーム内での立場からヒロのことを認めたくないゾロメとミツル、「3回一緒に乗ると死ぬ」というゼロツーにまつわる噂を心配するイチゴとゴローなど、チーム内の気持ちがバラバラになってしまう。

非戦闘時のコドモたちは、ミストルティン(トリカゴ)で生活している。荒廃する前の地球の自然環境を再現しており、食事や衣服は自動的に用意されるため、コドモたちは比較的自由に暮らしているのだが、ギクシャクしているヒロたちは、ここでぶつかり合ったり、男女の差や自分の気持ちが何なのか分からずに悩んだり、心を交わしたりと男女5人ずつ10人居ることで多くのドラマが繰り広げる。

ヒロが所属する13部隊のメンバーたち。左からミツルとイクノ、ゾロメとミク、フトシとココロ、ゴローとイチゴ。ヒロ含め全員配属前の育成所(ガーデン)からの同期で、この組み合わせでフランクスに乗り込む
(C)ダーリン・イン・ザ・フランキス製作委員会

そういった非戦闘時のキャラクター同士のやりとりはそれぞれピックアップされたエピソードが用意されており、ヒロとゼロツーはもちろん、イチゴとの関係や、見守る立ち位置だったゴローの変化、ミツルとココロのカップルの行く末などから目が離せなくなる。無垢だったキャラクター達の心情の変化は、戦闘時の連携や動きにも変化をもたらすなど、物語が進むにつれ、10人全員に愛着が湧いてくる作品になっている。

作中以外で注目して欲しいのがエンディングテーマ。配信では何話も連続でみるためにオープニングやエンディングをスキップする人も少なくないと思うが、6部構成のストーリーに合わせて、「トリカゴ」「真夏のセツナ」「Beautiful World」「ひとり」「Escape」「ダーリン」と6曲も用意されている。

作詞作曲編曲は、乃木坂46や家入レオ、倖田來未などに楽曲提供している杉山勝彦が担当。作中の女の子たちが現実の世界に居たらというテーマで曲とアニメーションが作られているのだが、アニメの世界観にも合った曲に仕上がっており、筆者は後で曲を聴き直すだけでも物語の世界に浸れたので、アニメを視聴して気になったらチェックして欲しい。

少年漫画としてのストーリーを展開する矢吹版「ダリフラ」

アニメと漫画、両方をオススメする最大のポイントは、なんとこの2つが“全く異なるラスト”を迎えるためだ。コミカライズはアニメ放送終了後に開始。「BLACKCAT」や「To LOVEる」の矢吹健太朗が手掛け、アニメ3話時点でストーリーが分岐。アニメで起こった事象はしっかり抑えながら、漫画版でのキャラクター達の成⻑に合わせたストーリー展開となっている。

コミカライズ版「ダーリン・イン・ザ・フランキス」1巻

とくにコドモ達それぞれが下す決断や行動、胸の内を明かすシーンが見所。ゼロツーとイチゴの信頼関係、ゾロメとミクのバランスの良さ、ミツルの因縁、ココロの強さなどがアニメとは違った形で表現され、それらが漫画版のラストに結びついていく。

コミカライズで気になるのが、アニメとの絵柄の差だが、キャラクターはもちろん、フランクスや叫竜までアニメのデザインに忠実で、違和感なく読める。フランクスが獣の形状になる暴走(スタンピード)モードも迫力がある。フランクスが女性のフォルムなので、絵柄がマッチしていることもあるが、ダリフラからはデジタル作画になっており、戦闘シーンやフランクスの機体は非常に細かく描き込まれていてとても読み応えがある。

アニメでは物語として美しく、感動的な結末を迎えるが、コミカライズ版では、ある意味少年漫画らしい最後を迎えるため、それぞれ好みが分かれると思う。筆者はアニメでのキュラクター同士のやりとりで引っかかっていた部分がコミカライズで回収され、連載時に加え、単行本化してからもそのシーンを含めて何度も読み返すほど好きな作品になった。

一方で、コミカライズならではの尺の都合や、オリジナルの展開上、アニメで明かされた世界が荒廃するまでの経緯や、あるシーンなどがカットされているため、「コミカライズの方が素晴らしいからこれだけでも読んで」というようにはおすすめできない。もちろんコミカライズだけでも面白い作品だが、アニメをみた上で読んで、あのシーンがこうなるのか、と楽しめた部分もかなり多い。

一方で、すでにコミカライズだけを読んでおり、世界観や設定面で、物足りない、腑に落ちない部分があると感じた場合はぜひアニメの方もみて欲しい。世界観や隠されていた真相などについてはアニメの方が丁寧に語られているため、きっと納得できるだろう。

ダーリン・イン・ザ・フランキスは、アニメ、コミック、主題歌と様々な方向から少しずつ違った世界を楽しめる作品だ。アニメは24話、コミックは8巻で全60話と一気にみるには少し時間がかかるかもしれないが、この機会にまとめてチェックして、ダリフラの世界に浸ってみて欲しい。

野澤佳悟