ミニレビュー

Astell&Kernの小型DAC「PEE51」を聴く。MacBookともマッチ

Astell&KernのUSB DAC「PEE51」

Astell&KernといえばDAPというイメージが強いが、イヤフォンやBluetoothレシーバーなどアクセサリ類も意外に多い。先日発表された「PEE51 AK USB-C Dual DAC Amplifier Cable」はドングル型のポータブルDACで、パソコンやスマートフォンにUSB Type-Cでつなげば使える簡便さがウリのアクセサリだ。発売日は4月23日で、価格は14,980円。

発売に先駆けて手にする機会を得たので、そのクオリティを検証してみよう。

DACチップ「CS43198」をデュアル搭載

一昨年あたりからUSB Type-C接続タイプのDAC兼ヘッドフォンアンプが増えはじめた。すでに十数種類の製品を試したが、どれも挿せば使えるシンプルさとは裏腹に、意外に品質差がある印象だ。まずまず価格相応と思えるものもあれば、ホワイトノイズが目立つもの、基板のあたりが異様に熱くなるものもある。

ヘッドフォンジャックは3.5mmシングルエンド

PEE51という製品は、このカテゴリの製品のなかでもUSB Type-Cプラグ部と再生部がセパレートされた「分離型」。やや大柄にするなどしてプラグにチップを収めてしまい、見た目がほぼ(USB Type-C/3.5mm端子の)変換ケーブルという「統合型」もあるが、音質指向をうたう製品の多くは分離型を採用している。

外形寸法はUSBプラグ部が約12×8.2×20mm(幅×奥行き×高さ)、本体が約17×10.3×50mm(幅×奥行き×高さ)。ケーブル長は約6cm、重さは約25g。

DACチップはCirrus Logicの「CS43198」で、384kHz/32bitのPCM、DSD 256までのネイティブ再生対応というスペック。これをデュアルDACで搭載している。CS431xxシリーズは同社が'15年に買収したWolfsonの技術を融合した「CS43130」の後継であり、兄弟機的存在としてヘッドフォンアンプ内蔵の「CS43131」がある。

「PEE51」の裏側

ざっくりいえば、左右独立/デュアル搭載したCS43198の後段にアナログヘッドフォンアンプを配した回路が、PEE51という製品の骨格だ。

MacとAndroidは挿すだけでOK

使いかたはシンプルそのもので、PC/スマートフォンのType-Cポートへ挿し込めばOK。Windows 10はDSD再生のためにAstell&Kernが提供する専用ドライバーが必要となるが、MacとAndroidはDSD再生を含めドライバーなしで動作する。

Xiaomi/Redmi NOTE9Sで「ONKYO HF Player」を使いDSD 256を再生したところ

Andorid端末(Xiaomi/Redmi NOTE9S)で「ONKYO HF Player」を使い試したところ、起動直後に表示される「このUSBデバイスへのアクセスを許可しますか?」にOKと応えると対応周波数が表示され、最大384kHz/32bit対応のプレーヤーとして動作するようになった。

ONKYO HF Playerに検出された「PEE51」の情報

設定画面の「DSDの出力形式」でダイレクト転送を選択すると、DSD256/11.2MHzのネイティブ再生が可能になるから、いわゆるハイレゾフォーマットはひと通り網羅している。

Mac版Audirvanaに検出された「PEE51」の情報

Apple M1搭載のMacBook Airでも試したが、DoP方式となる都合上DSDネイティブ再生が最大DSD128/5.6MHzになることを除けば、やはり挿すだけで動作した。

Apple M1搭載のMacBook Air/SHURE SE846で試聴した

デザインの相性もよく、メタリックな質感はMacBook Airと並べても違和感がない。筆者所有のM1 MacBook Airはゴールドのため、PEE51のチタンとは色の相性がいまひとつだが、スペースグレイならさらによく似合うはず。

デザインといえば、PEE51のプラグ部・再生部ともにAstell&Kern製品共通の立体的な造形(「光と影」の設計)が施されている。もちろんUSB Type-Cだから裏表なく利用できるが、この「光と影」が上になるよう挿し込むほうが気分があがるのは言うまでもない。

デュアルDACの実力は

試聴はAndroid端末(ONKYO HF Playerを使用)とMacBook Air(Amazon Music HDを使用)、イヤフォン/ヘッドフォンにはSHURE SE846とAKG K612 Proという組み合わせで実施した。

音の傾向を簡潔に表現すると「淡麗辛口」という印象。SE846で聴くと解像度は高くS/Nも良好、アメリカ「ベンチュラ・ハイウェイ」のカッティングギターが軽やかで心地いい。ヴィブラフォンの繊細な共鳴音はどう聴こえるかと、ゲイリー・バートン・クインテット「Dreams So Real」も聴いてみたが、緻密で透明感があり伸びも自然。若き日のパット・メセニーのギターソロも適度にほぐれ、クセなくそつない音色だ。

メセニーつながりで彼の新譜(彼はほとんど弾いていないのだけれど)「Road to the Sun」も聴いたが、こちらはややあっさり目な印象。ラストのメセニー自ら弾く42弦ギターの曲は、残響音を巧みに生かした構成が魅力。その音場を淡麗辛口よりも「濃醇甘口」で楽しみたいところなのだけれど、まとまりがややコンパクト。

AKG K612 Proでも試聴した

一方で、SE846のような効率のいいイヤフォンで聴いても、ホワイトノイズが少なく、メロディーに浸れる。ただ、据え置きのヘッドフォンアンプと比べると、音場感・空気感という点では大きさ・物量相応の部分はある。

ところで、PEE51の出力レベルは無負荷状態で2Vrms。インピーダンスがやや高め(120Ω)のK612 Proでは最大音量の80~90%あたりで聴くことになり、出力にもうひと息余裕が欲しいところ。この点、ヘッドフォンアンプ内蔵型のCS43131ではなく、セパレートのCS43198を選んだがゆえのパワーを見せてほしかったように思う。

PCの“高品質ヘッドフォンジャック”のように気軽に使える

このPEE51、サイズは小さいが音の切れ味よくSN比に優れ、ヘッドフォンアンプとしてなかなかの実力を持つ。“光と影”のデザイン、アラミド繊維を使用したノイズシールドケーブル、自社専用製造のマイクロ抵抗とタンタルコンデンサの採用など、Astell&Kernらしい細部へのこだわりも健在だ。

省エネ設計が売りのCS43198だけあって、数時間連続使用してもほんのり温かい程度の発熱量で、PC/スマートフォン側の消費電力も気にならない。

注文があるとすれば、付属品だ。金属製ボディは、むき出しの状態で持ち運べばPCやスマートフォンにキズをつけそうで、これが結構気になる。ちょうどいい布袋でも欲しいところ。ちなみに、本体上部にはホストとの接続(つまりON/OFF)を知らせるLEDインジケーターを搭載している。視界に入りやすいので、個人的には不要な気がする。搭載するのであれば、3.5mmプラグがある側面に配置してほしかったところだ。

ともあれ、USB Type-Cが主流となったPCの、“より高品質なヘッドフォンジャック”として効果があることは確か。「大きなハイレゾプレーヤーをUSB DACとして接続するほどではないが、気軽に、良い音が聴きたい」という機動性重視のPCユーザーが、Amazon Music HDやmora qualitasといったハイレゾ/ロスレス再生に対応したストリーミング再生を楽しむためのガジェットとして使うのであれば、いい選択肢になることだろう。

海上 忍

IT/AVコラムニスト。UNIX系OSやスマートフォンに関する連載・著作多数。テクニカルな記事を手がける一方、エントリ層向けの柔らかいコラムも好み執筆する。オーディオ&ビジュアル方面では、OSおよびWeb開発方面の情報収集力を活かした製品プラットフォームの動向分析や、BluetoothやDLNAといったワイヤレス分野の取材が得意。2012年よりAV機器アワード「VGP」審査員。