ミニレビュー

ソニー撮影用新マイク。8つの収音モードで撮ってみた

α7 IVに装着した「ECM-M1」

ソニーの撮影用マイクにユニークな製品が登場した。ダイヤル操作で8つの収音モードに切替えられる「ECM-M1」だ。同じカテゴリでは、ショットガンマイク「ECM-B1M」(44,000円)と肩を並べるモデルということで、価格は45,100円となっている。

特徴は前述の通り、8つの収音モードを状況に合わせて切り替えて使えること。ECM-B1Mと同じ鋭指向性/単一指向性/全指向性のほかに、後方鋭指向性、鋭指向性(前+後)、鋭指向性(前/後)セパレート、ステレオ、超鋭指向性というモードを備えている。

それぞれ簡単に説明すると以下の通りだ。

  • 全指向性:360度全方向の音をモノラルで収音する
  • 単一指向性:正面の音を広く収音する
  • 鋭指向性:単一指向性よりも周囲の音を低減して前方を集中して収音する
  • 超鋭指向性:鋭指向性よりもさらに周囲の音を解析して抑え、効果的に前方の音を収音する
  • 後方鋭指向性:鋭指向性の範囲で後方(撮影者側)の音を収音する
  • 鋭指向性(前+後):鋭指向性と後方鋭指向性の範囲を同時に収音する(被写体と撮影者が会話するといった場面で均一に音が録れる)
  • 鋭指向性(前/後)セパレート:鋭指向性(前+後)の前方の音をL側(もしくはCh.1)、後方の音をR側(もしくはCh.2)に記録する(編集時に前後の音のバランスをそれぞれ調整しやすくなる)
  • ステレオ:左右の方向性を強調して収音する
収音モードの変更の操作

このモードの違いは文字で説明するよりも実際に聴いてみるのがわかりやすいだろう。ということで、動画を用意したので確認してほしい。今回、川沿いで収録しており、音量はオートを使用し、調整していない。川の流れる音も編集で調整していないので、それぞれのモードの違いがわかりやすいだろう。

今回はα7 IVと組み合わせて撮影している。

α7 IV+FE 20-70mm F4 G+ECM-M1で撮影した
ソニー撮影用新マイク!! 8つの収音モードで撮ってみた

全指向性は全体の音が満遍なく聞こえているので、川の音が大きめに聞こえ、声もしっかり乗っているように聞こえる。これが単一指向性になると、全指向性ではゴォオオと聞こえていた川の音の反響音が少し抑えられ、前方からのザァアアアアという音が主に聞こえるようになる。声は低い部分を拾っていてだいぶ篭もって聞こえる。

鋭指向性も川の音は単一指向性と同じように反響音の少ないザァアアアアという音が録れており、これは筆者の声質もあると思うが、声は単一指向性よりも少し高めの音を捉えている。

超鋭指向性は、周囲の音を解析して減衰するという特性からか「鋭指向性よりもさらに~」と話している「え」の部分だけ捉えてしまっている。その後はほとんど話しているのかわからない程度だが、機械音のようになってうっすらの声が残っているのがわかる。

後方鋭指向性は、見事に川のザァアアアアという音を抑えて、声がはっきりと捉えられている。川の音も後ろの木々に反響している低い音の部分が聞こえるので、その場にいる感じもしっかり感じられる。

鋭指向性(前+後)と(前/後)セパレートは捉える場所は同じものの、収録方法が異なるので聞こえ方が変わってくるようだ。

鋭指向性(前/後)セパレートは画像の通り、前の音と後ろの音が別のチャンネルに入るので、編集時に調整する場合はこちらを使うとより聴きやすい音での動画が作れそうだ。

【ソニー ECM-M1】鋭指向性(前/後)セパレートの音を調整してみた

最後にステレオは今回の例ではわかりにくいかもしれないが、イヤフォン/ヘッドフォンで聴くと、筆者の喋っている場所が若干動いているのがわかると思う。

MIシュー対応で、カメラからの電源共有によるバッテリーレス、バリアングル液晶モニターを邪魔しないケーブルレスで使えるので、対応のαシリーズと組み合わせると、本体のサイズ感もあって非常に取り回しが良い。

先端が短いこともあって、かなりコンパクト
マイクのシュー部

これまで有線でマイク端子に差し込むタイプのマイクを使用していたのだが、普段使っているケーブルがごく短いものであっても、若干指に巻き込んでしまったり、急いで準備する際に差し込む端子を間違えて、撮影する直前に気づいたり、ということもあったのだが、それが一切無いというのがとても楽だ。

さらにデジタルオーディオインターフェイスに対応したMIシュー搭載のカメラを使えば、音声をデジタル信号のままカメラに伝送できるので、高音質で収録できる。今回の動画も全てデジタルで収録したものになっている。

デジタル伝送では、4chの録音にも対応しており、Ch.1、Ch.2は主音源のLRとして使用され、Ch.3には全指向性のバックアップ音源、Ch.4には同じく全指向性の音源を-20dBされた音声が収録されるので、万が一主音源側でトラブルが発生してしまっても、バックアップ音源でどうにかできる安心感がある。

PremiereProで取り込むとこのような感じで音声が4chで入る

ちなみに、4ch録音はカメラ側でも設定が必要だ。音声記録>miシューの音声設定>48kHz/24bit 4chを選択すれば設定完了。撮影画面内のメーターも4本現れるようになる。

miシューの音声設定で48kHz/24bit 4chを選択
オーディオのメーターが4本になった
デジタルオーディオインターフェイス対応機種

αシリーズ:α1、α9 II、α7R V、α7R IV、α7S III、α7 IV、α7C、α6700
VLOGCAM:ZV-E1、ZV-E10
Cinema Line:FX3、FX30

今回のレビューでは実際に使わなかったのだが、フィルタースイッチも備え、雑音をデジタル信号処理するNC(ノイズカット)、風切り音や空調ノイズ、振動ノイズなどの低音域を低減するLC(ローカット)、OFFが選択できる。

アッテネータースイッチも付いており、録音したい音声の大きさに応じて、0dB/10dB/20dBの3つの減退設定も行なえる。

フィルタースイッチとアッテネータースイッチ

また、録音レベルのスイッチとダイヤルも備えているので、スイッチを「MAN」すれば、AUDIO LEVELダイヤルを使って音量を自由に設定可能だ。今回の動画では全てオートで収録した。

筆者はまだガッツリ音量設定を追い込んで撮影できるほどのスキルを身につけてはいないのだが、ECM-B1Mはそんな筆者でも環境や撮りたいものに合わせて収音モードを切り替えるだけで、聴きやすい音で撮れていたことに、編集時に感動した。

とくに後方鋭指向性や鋭指向性(前後)は、撮影しながら喋ることに慣れていない筆者のぼそぼそ声もある程度聴き取れる音で拾ってくれるので、これを使えば、街中で声を張って周囲の視線を集める……といったことなく撮影ができそうだ。

当初は8つも収音モードがあると使い分けるのが大変では? と思っていたのだが、メインは鋭指向性、その場の雰囲気を強めに伝えたい時は単一指向性、自分も話すときは後方を含んだどれか、と役割が整理できると自然に使い分けることができた。

ちなみに、この幅広い収音モードを活かして色々な撮影をしたい人はこのECM-M1を、主に前方の音をより高音質で撮りたいという人にはECM-B1Mがオススメとのことだ。

コンパクトなサイズ感で、軽くて取り回しも良く、モード切替も簡単に行えるECM-M1は、まさに手軽にいい音が録れるマイクに感じる。45,100円とこれから動画を始めようという人には手に取りにくい金額ではあるが、カメラ本体のマイクや、エントリー向けのマイクからのステップアップとして考えると、とりあえず購入すれば良い感じに録れるようになるマイクというお手軽さは感じられた。

αシリーズ、とくにデジタルオーディオインターフェイス対応機種を使っている人はマイク購入の際にぜひチェックしてみてほしい。

野澤佳悟