ミニレビュー
レコード初心者が、オーテクのレコードプレーヤーとアクティブスピーカー買ったら震えた
2026年1月29日 08:00
レコード好きな人は、音質にこだわる人も多いらしい。プレーヤーやアンプを1ランク上のものに買い替えたり、カートリッジを交換したり……。他にも、針圧を普段よりも強くしてみたり、スピーカーの配置を変えて音の変化を楽しむこともあるという。
しかし、このような話は私のようなレコード初心者からしたら遠い世界に思えた。そもそも今はスマホ1台で簡単に音楽が聴ける時代。そんな時代に決して安くはない金額を払って、再生に手間のかかるレコードを聴くこと自体のハードルが高い。プレーヤーを買うしても、1万円台、2万円台の、スピーカー内蔵型のような比較的安価な製品を購入する人がほとんどだろう。
私も実際そうだった。あることからレコードに興味を抱き始め、人生初のレコードプレーヤーとして、ION Audioのスピーカー内蔵プレーヤーを購入した。正直言って、ラジオのような音質に多少の不満を持ったのだが、それで満足していた。そのため、「機材のグレードアップ」や、プレヤーとスピーカーの組み合わせ、セッティングによる音の変化と言われても、自分には関係がない話だと思っていた。
だが、レコードを集め始めて1年が経った頃。そろそろ、もう少しグレードの高いレコードプレーヤーとスピーカーを購入してもいいんじゃないか?と思うようになった。
きっかけは去年の11月中旬、Amazonで開催されていたブラックフライデー。インターンとしてAV Watch編集部に参加した私は「いい機会なんで新しいレコードプレーヤー欲しいっすね」と口をこぼしたら「じゃあその体験を記事にしてみない?」と提言された。
そんなこんなで「給料がレコードプレーヤーに化けたと思えばいいや」と考え、ブラックフライデー最終日にオーディオテクニカのレコードプレーヤー「AT-LP120XBT-USB」と、アクティブスピーカー「AT-SP3X」を購入してしまったのである。
前置きが長くなってしまったが、今回は「レコード初心者がAT-LP120XBT-USBでレコードを聴いたらどうなってしまうのか」を、プレーヤーの組立から音質の違いを体験した感想を踏まえてお届けする。
到着&組立まで
購入から一週間ほど経った日曜日、我が家にAT-LP120XBT-USBとAT-SP3Xが到着した。圧倒的な存在感と重量。この時点で高級感が漂ってくる。
レコードプレーヤーに限った話ではないが、自宅に大きい段ボールが届いて、テープをカッターで丁寧に切る時の高揚感はいつになっても衰えることがない。それではまずAT-LP120XBT-USBから組み立てていこうと思う。
箱からターンテーブルを取り出した時点でもう驚いた。回転するプラッターが分離されていて、なんとターンテーブル本体の中がむき出しなのだ。今まで使っていたプレーヤーは開封した時点で本体とプラッター&フェルトマットが取り付けれ、「完成した状態」だったのに……。
ドキドキしつつプラッターをスピンドルに丁寧にはめ、マットも重ねて乗せる。IONのプレーヤーはプラッターとマットがセットになっていたがために、マットも自分流にカスタマイズできることに少し感動した。
お次はカートリッジ付きヘッドシェルを、アームに取り付ける。今までトーンアームとヘッドシェルがセットになったプレーヤーを使っていたものだから、このようにヘッドシェルが取り外し可能なことに対し、また驚いた。
ヘッドシェルをトーンアームに取り付け、どんどん組立を続ける。次は……なんだこれ。
どうやらカウンターウェイトという部品らしい。前のプレーヤーにはこんな部品ついていなかったぞ。とりあえず説明書通りに付けてみることにする。
なになに……「カウンターウェイトを逆時計回りに回してトーンアームが水平になるように調節してください」か。書かれた通りにカウンターウェイトを回してみると……なんとトーンアームの角度が変化した。特に重量を与えているわけでもないのに、だ。
もしかして、カウンターウェイトが要因か?
このようにカウンターウェイトを回転させて、位置を変えることで、トーンアーム全体が上を向いたり、下に下がったりする。つまり先端に取り付けたカートリッジ委の重さと釣り合うように、カウンターウェイトの位置を調整すると、アーム全体が水平になる……らしい。
まさかこんな小さな部品が、レコード再生に最も重要な役割を果たしていたとは……いやはやレコードの世界は奥深いものである。
その後、ダストカバーの設置、ターゲットライトの取り付け、ACアダプターを差し、ようやく完成した。作業時間は大体20分ほど。組立工程が説明書に詳しく書かれているので、レコード初心者でも問題なく設計できるだろう。
次にAT-SP3Xだが、こちらは左右のスピーカーをスピーカーケーブルで接続。あとはACアダプターを取り付けるだけで、すぐに使用可能となった。実にレコード初心者に嬉しい設計である。
AT-SP3XにはBluetooth接続と有線接続を切り替える機能が搭載されているのだが、今回はBluetoothでレコードプレーヤーと接続した。接続が簡単なのと、早く新しいプレーヤーでレコードを聴きたかったためだ。
こうして、ようやくレコードプレーヤーとスピーカーの組立が完成した。スマートフォンならば指を操作するだけで聴けるのに、レコードではこのような手間と時間とお金をかけなければならない。再生するときにもレコードを棚から探して、OPP袋とスリーブから取り出して、ターンテーブルにセットし、針を落とすといった手間もかかってしまう。
そういった「簡単には聴けない」手順を踏むことで、一つ一つの曲を大切に聴こうという気持ちが芽生えてくるのだろう。二か月間のバイト代を貯金して購入し、設計書とにらめっこして時間をかけて組み立てながら改めてそのことを実感した。
レコードを聴いてみる
それではさっそくレコードを聴いてみることにしよう。
まず、初めに聴くレコードはThe Stalinの「虫」(1983年盤初回プレス)。極限まで削ぎ切った歌詞と疾走感のある構成、それに遠藤ミチロウ(Vo)の叫びが加わった、当時の社会情勢に対するありのままの感情をさらけ出したようなアルバム。私がジャパニーズパンクに興味を持つきっかけとなった作品で、もし「あなたの人生を変えた作品10個挙げて下さい」って聞かれたら、何の躊躇もせずこの名前を1番にを挙げる。
では、さっそく1曲目の「水銀」から聴いてみよう。なんせこのレコードプレーヤーで初めて聞く曲だ。今までのスピーカー内蔵型プレーヤーとは一体どのように違うのか?音質はどこまでよくなったのか?気になるところである。
まず初めに思ったのが、音量がはるかに大きくなった。スピーカーのツマミを1/4回転しただけでも少しうるさいと感じる程度だ。そして音量を大きくしても音が割れることがない。普段聴く音量の範囲なら、常にクリアな音で聴ける。
次に、音が団子にならない。ギター・ベース・ドラム・ヴォーカルの4つ全てが独立して聴こえるのだ。例えて言うなら、ターンテーブルの上でアーティスト達が生演奏してくれているような感覚だ。普段使っているBluetoothイヤフォンや、今までのプレーヤーでは、このように音が独立して聴こえることが少ない。ほとんどの場合ベースがギターに重なって聞こえなくなる。しかし、このレコードプレーヤーではしっかりとベースの音、ひいては低音域がはっきりと聴こえるのだ。
ただ、このアルバムはミチロウのシャウトも相まって全体的に音が重い。つまり低~中音域が強い印象だ。したがって次は全音域をまんべんなく使ったアルバムを聴いてみよう。
言わずと知れた日本語ロックの名盤。ギターに鈴木茂、ベースに細野晴臣、作詞に松本隆とはっぴぃえんどのメンバーが参加しており、発売から40年以上たった今でも老若男女問わず幅広い世代に愛されている。たぶんレコード好きの家に行ったら絶対に1枚はあるだろうアルバムだ。
さっそく1曲目の「君は天然色」から聴く。
聴いてみた感想として、ベースがかなり強調されているように思えた。特に最後の「さらばシベリア鉄道」では、曲が後半に進むにつれて、徐々にベースが頭角を現しはじめる。レコードで聴かなければ絶対に気がつかなかっただろう。音が徐々に徐々に勢いを増して届いてくるのだ。
そして、同じことを何度も言っている気がするが、やはり各音域や楽器が、それぞれ独立して聴こえる気がする。AT-SP3Xはスマホの音楽をBluetooth接続して再生できるのだが、スマホと連携させた場合よりも、AT-LP120XBT-USBと連携させて聴いたレコードの音の方が、各音域がそのまま分離して聴こえるのだ。
図に表すとこうなる。
かつて、サークルの先輩に自分よりも高性能なレコードプレーヤーを所有している先輩がいて、その人にプレーヤーの感想を聞いてみた時のことを思い出した。確かその人も「アーティストが目の前にいるように聴こえる」と言っていた気がする。その時はどういう意味なのかさっぱり分からなかったが、こういうことだったんだな……。
最後に、ちょっと変わったレコードを聴いて記事を締めさせていただく。
先ほどザ・スターリンの虫を聴いた際に、「ノイズがほとんど無くなった」と書いた。確かに、新しいレコードプレーヤーに変えた事で、明らかにノイズが減り、音がクリアになった。
それなら「もともとノイズを使った曲はどのように聴こえるのか?」という疑問を抱いた。そこで今回急遽用意したのが、昨年発表されたMerzbow/Cavalera/Bernocchiによる「Nocturnal Rainforest」だ。
Harsh Noiseの先駆者の一人として、今なお国内外でカルト的な人気を誇るジャパノイズの巨匠・Merzbow。ブラジルのドラマー兼プロデューサーとして名高いIggor Cavalera。そして前衛的イタリア人ギタリスト/サウンドデザイナー・Eraldo Bernocchiによるコラボレーションアルバム。アンビエント、ドローン的音像に加えて、Merzbowによる粗く機械的なノイズが響き渡る。あたかもジャケットのような暗い森の中を何者かの視線を感じながら、いつまでも彷徨うかのような感覚に襲われる、2025年傑作アルバムの1つだ。
これをレコードで聴いてみたところ、ノイズ特有の低音域が圧倒的に強化されたのを感じた。Bluetoothイヤフォンでは気づけなかった低音域が、レコードではまるで地面を這うようにしてこちらに襲い掛かってくる。これによってDark Ambientの要素が形成されていたのだと、サブスクリプション音源では気づかなかったことに気づいた。
これをレコードプレーヤーとスピーカーセットで聴いてみたところ、音楽を構成する”意図的なノイズ”、いわばロックでいうベースの部分が強化されたのを感じた。まるで地面を這うようにしてこちらに襲い掛かってくるようだ。
Bluetoothイヤフォンではわからなかったが、これによってDark Ambientの要素が形成されていたのだ。サブスク音源をイヤフォンで聴いているだけでは気が付かなかったことに、新しいレコードプレーヤー+本格的なスピーカーの再生で気づくことができた。
ただ、中高音域のノイズに関してはそこまで大差ない。「多少クリアになったかな?」と思ったくらいだ。変わったのは低音域が強化されて、曲の本来持つ迫力がそのまま表れた、といった形だろうか。
というかそもそも“ノイズ”ミュージックなんだから、音質を良くして聴いてしまったらそれはもう“ノイズ”ではないのではないか?むしろ音質が悪い状態で聴くことがノイズミュージックの本質なのではないか?ノイズのアーティストがやたらとカセットテープで発売したがるのはそれが理由なのではないか?
……この考察を進めてしまうともう1つ記事が作れそうなレベルなので、もし次に機会があればそこで紹介させていただく。
終わりに
ワンランク上のレコードプレーヤーとスピーカーでレコードを聴いた率直な感想を言うと、今までのレコードがよりクリアに、ワイドドレンジな音で楽しめ、レコード再生の素晴らしさをより感じることができた。
そして、配信での再生と比べても、音楽を“形あるもの”としてとらえることができる。これは、この時代にあえて「不便な」レコードを愛する者だけがもてる発想だ。
たしかに、デジタル音源はいつでもどこでも音楽を聴くことができるという利点がある。しかし、それゆえに音楽を聴く場所と時間を奪ってしまい、結果として音楽はCD/レコードといったような実世界では視認できない形而上学的なものになってしまった。
CD/レコードは聴く場所と時間の制約がある反面、大きなジャケットデザインやライナーノーツ、そしてクルクルと回る円盤……といったように音楽を聴覚以外に視覚でも楽しむことができる。そして形あるものには必ず出会いの場がある。今回挙げた3枚のレコードも、購入した時の記憶は今でも私の中に鮮明に残っているものだ。
例えば、ザ・スターリンの虫は初めて聴いた時からずっと探し続けていたもので、半年間程探し続けていた記憶がある。ようやく町田のディスクユニオンで見つけた時は、値札を観ないでレジに持って行ったよなぁ……あの日は風が強くて帰り道にレコードを入れた袋が揺れていたっけ……
他にも何気なく入ったBOOKOFFで売られていた希少なものや、ちょっと奮発して購入した1万円越えのもの、中には家族が譲ってくれたものまで……CD/レコードにはそうした出会いの場が必ず用意されている。私がこの上なくレコードを愛する理由の一つだ。音楽を聴覚のみで楽しむのではない。視覚や出会い、特別な感情を抱いて私はレコードを聴いている。これだからレコード探しはやめられない。
そして、レコードの真価を発揮するために必要なことが、今回行ったプレーヤーのアップグレードだ。アップグレード前と後では、同じ曲でも全く違う音に聴こえる。それゆえ、もっとたくさんの音楽をレコードで聴きたくなる。プレーヤーにカスタマイズできる部分が増えたこともあり、さらに音質を追究したくなった。編集長から「Bluetooth接続じゃなくて、RCAケーブルで有線接続するともっと良くなるかも」と言われており、試してみたい。
機材のグレードアップで、レコードがもっと好きになる。このスパイラルに陥ってしまった私は、これからも新たなるレコードとの出会いを求めて、レコードショップへ足を運ぶのだろう。いつまでも音楽との出会いを大切にしていきたい。





















