レビュー
音は良いけどおいそれと買えなかったAK第3世代が身近に!「AK300」を聴く
2016年6月28日 10:57
Astell&Kernのハイレゾ対応ポータブルプレーヤーと言えば、優れた音質・デザインで人気の一方、高価でなかなか手が出ないイメージがある。例えば上位モデル「AK380」は直販価格499,980円(税込)、それに次ぐ「AK320」も249,980円(同)と、据え置きのオーディオにも匹敵する。そんなAK3xxシリーズに、頑張ったらなんとかなる感じの製品が登場した。その名も「AK300」。直販価格は129,980円(同)だ。
AK300がどのようなモデルかは、上位モデルと比べるとわかりやすい。主な違いは内蔵メモリ、DACまわり、そして本体の素材だ。
まず内蔵メモリ。AK380は256GB、AK320は128GB、AK300は64GBと、わかりやすく半分半分になっている。ハイレゾ楽曲を持ち歩くのだから、当然ストレージは大容量に越したことはないが、どのモデルもmicroSDカードスロットを備え、128GBまでのカードが増設できるので、AK300の内蔵メモリが64GBでも大丈夫だという人もいるだろう。
DACは3モデルとも、旭化成の人気DAC「AK4490」を採用している。違いはその“個数”だ。AK380とAK320は、AK4490を左右チャンネルように合計2基搭載している。“デュアルDAC”というやつだ。対して、AK300はこれが1基になっている。なんだか寂しい気もするが、そもそも1基でも高音質なDACなので、これで十分という意見もあるだろう。
DACまわりでもう一つ、大きな違いは“ネイティブ再生”だ。3機種とも、PCMは最高で384kHz/32bitまで再生できる。しかし、それをネイティブで処理できるのはAK380のみで、AK320/300はダウンコンバートしながらの再生となる。ネイティブ再生できるのは192kHz/24bitまでだ。
DSDは、AK300/320が5.6MHzまで、AK380は11.2MHzまで再生できる。AK380は11.2MHzまでネイティブ再生でき、文句無しのスペックだが、AK320/300はDSDのネイティブ再生はできず、2.8/5.6MHzどちらのデータもPCM 176kHz/24bitに変換再生となる。再生対応ファイル形式はWAV、FLAC、WMA、MP3、OGG、APE、AAC、Apple Lossless、AIFF、DFF、DSF。
USB DACとして利用する際も、下表のような違いがある。
モデル名 | AK300 | AK320 | AK380 |
直販価格 (税込) | 129,980円 | 249,980円 | 499,980円 |
内蔵メモリ | 64GB | 128GB | 256GB |
DAC | AK4490×1 | AK4490×2 | AK4490×2 |
PCM | 192kHz/24bit ネイティブ (最大384kHz/32bit) | 192kHz/24bit ネイティブ (最大384kHz/32bit) | 384kHz/32bit ネイティブ |
DSD | DSD 2.8/5.6MHz ↓ 176kHz/24bit 変換再生 | DSD 2.8/5.6MHz ↓ 176kHz/24bit 変換再生 | DSD 11.2MHz ネイティブ |
USB DAC | 96kHz/24bit | 96kHz/24bit | 384kHz/32bit DSD 11.2MHz |
筐体素材 | アルミ | アルミ | ジュラルミン |
筐体の素材にも違いがあり、AK300/320はアルミを使っているが、AK380はよりグレードの高い、航空機などでも使われるジェラルミンを使っている。とはいえ、持ち比べてみても、AK300の質感は十分に高く、高級プレーヤーらしい風格はしっかりと感じさせてくれる。
デザインが似ているので、サイズも同じなのではと思い込んでいたが、AK380とAK300を並べてみると、かなり違う。AK300の方が“薄い”のだ。また、ボリューム部分もAK380は前後に回すツマミだが、AK300は上下に回すダイヤルになっていたりと、細部も少し異なっている。
数字で比べてみると、AK380は112.4×79.8×17.9mm(縦×横×厚さ)で約230gだが、AK300は112.4×75.15×15.45mm、約205gと、やや細く、薄くなっている。
重さも205gと軽くなっているので、ズシリとくるAK380に対し、AK300はさほど重いとは感じない。確かにAK380の場合、この重さが「高価な凄いプレーヤーだぞ!」という雰囲気を倍増させているようにも思う。だが冷静になってみると、ポータブルプレーヤーとしては“重い”というのはネックだ。
そう考えると、AK300の軽量さは魅力に思えてくる。薄くもなっているので、ワイシャツの胸ポケットなどにも入れやすい。これでもし筐体がプラスチックなど、いかにも安っぽい素材であれば興ざめだが、アルミで十分に高級感はある。
操作系はAK380、300とほぼ同じなので割愛するが、ディスプレイは4型(480×800ドット)で、静電容量式のタッチスクリーン方式。大きく、操作はしやすい。同時に、ディスプレイをタッチしなくても、楽曲の送り、戻し、一時停止や、ボリュームダイヤルは物理的なボタンとして用意されているので、ポケットの中に入れた状態でブラインドの操作はできる。
ただ、側面のボタンの間隔が小さく、ボタンの面積自体が小さめなので、急いでポケットに手を入れてとっさに押すと、違うボタンを押してしまう事もある。このあたりは慣れも必要だ。
製品には標準で、イタリアンPUレザーケースや画面用保護シートも付属する。キャリングポーチ的なものを同梱するプレーヤーは多いが、AKシリーズでは専用ケースと保護シートまで付属するのが特徴だ。当然ながら、デザインや色のマッチは専用品ならではのクオリティになっている。
音質に関わる部分として、高精度で、200フェムト秒という超低ジッタを実現するVCXO Clock(電圧制御水晶発振器)を備えているのもポイントだ。Bluetooth 4.0にも対応しており、ワイヤレスヘッドフォンとの連携も可能。無線LANも備え、DLNAを使い、ネットワークオーディオプレーヤーとして使う事ができるのも上位モデルと同じである。。
なお、第3世代のAKシリーズは、下部に専用の端子を備えており、ジャケット型アンプを取り付けられるようになっている。AK300でも、にも、それが踏襲されている。
イヤフォン出力はステレオミニのアンバランスで、光デジタル出力も兼用。2.5mm 4極のバランス出力端子も備えている。出力レベルはアンバランス:2.1Vrms、バランス:2.3Vrms(負荷無し)、出力インピーダンスはアンバランス:2Ω、バランス:1Ω。SN比は116dB(アンバランス)、117dB(バランス)。
新エントリー「AK70」との違いは?
発売されたばかりのAK300だが、気になる製品が21日に発表された。下位モデルになる「AK70」だ。「AK Jr」の後継モデルとなり、具体的な発売日は未定だが、7月頃に登場予定。価格も未定だが、海外では599ドルで販売予定となっている。日本での価格は6万円台だろうか。
おおよそのイメージとしては、AK300の半額となるAK70。その主な違いもチェックしよう。
内蔵メモリは64GBで共通。microSDカードスロットを備え、最大128GBまでのカードが増設できるのも同じだ。
AK70の外形寸法は96.8×60.3×13mm(幅×奥行き×高さ)、重量は132gで、AK300の112.4×75.15×15.45mm(同)/約205gと比べると一回り小さい。
スペック面での大きな違いはDACだ。AK300はAK4490×1基だが、AK70はシーラス・ロジックの「CS4398」を1基採用している。このDACは、第2世代のAK240/120II/100IIで搭載されていたものと同じである。
ネイティブ再生できるのはPCMが192kHz/24bitまでで、384kHz/32bitまでのファイルが再生はできるが、ダウンコンバート再生となる。DSDもネイティブ再生はできず、5.6MHzまでのファイルが再生はできるが、PCMへの変換再生となる。これらの点は、AK300とAK70で違いはない。
イヤフォン出力はステレオミニのアンバランス、2.5mm 4極のバランスを備え、アウトプットレベルはAK70がアンバランス:2.3Vrms、バランス:2.3Vrms(負荷無し)。AK300はアンバランス:2.1Vrms、バランス:2.3Vrms(負荷無し)と大きくは違わない。出力インピーダンス(アンバランス:2Ω/バランス:1Ω)は共通だ。
細かい点では、第3世代モデルに搭載されているパラメトリックイコライザがAK70では省かれ、デジタルイコライザとなる。また、フェムトクロックも非搭載だ。光デジタル出力もAK300にはあるが、AK70には無い。
AK70はUSBから、USBオーディオとしてデジタル出力が可能で、スマートフォンのように別売のDAC内蔵ポータブルアンプなどと接続する事もできる。ただ、この機能は、AK300にも今後のファームウェアアップデートで追加される予定だ。
音を聴いてみる
試聴には、AKとbeyerdynamicがコラボした「AK T8iE」や、JH Audioの「TriFi」を使用する。
上位モデルとの音質差で気になるのは、搭載している旭化成のDAC「AK4490」が、デュアル構成か、シングル構成かという点だ。
AKシリーズではこれまでAK240やAK380など、他社でもiBasso Audioの「DX90j」など、デュアルDACで高音質化を図ったモデルは幾つか存在する。それらを聴いてみると、左右チャンネルの音声を個別のDACで処理する事で、SNが良くなったり、音場が拡大したり、サウンドに厚みが出るといった効果が感じられる。逆に、シングルDACのAK300は、立体感に乏しい、痩せたような音になってしまうのでは? と心配になる。
だが、実際に音を出すと、それは杞憂に終わる。上位モデルと同様に、低音から高音まで、バランスよく出ており、中低域が弱いとか、音が痩せているというような感覚はまったく無い。中高域もクリアで色付けは感じられない。
空間描写が広く、中高域の繊細な表現は「AK4490」ならでは。基本的な音の方向性はAK320、AK380と同じだ。第2世代のAK120II、AK100IIあたりと比べても、見通しの良さや、音場の広さはAK300の方が上手だ。「茅原実里 /この世界は僕らを待っていた」のボリュームを上げてもゴチャゴチャせず、音像がわかりやすく再生される。
なお、AK300はバランス出力を備えているが、バランス接続した方が、音場が広く、立体感も出る。低域の分解能もバランス接続時の方が優れている。
では上位モデルでデュアルDACのAK380と比べるとどうだろうか? 一聴してわかるのが、音場の広さの、特に奥行き方向の広がりがAK380の方が上手だ。「藤田恵美/Best OF My Love」のボーカルやピアノの余韻が、アコースティックベースの裏側に隠れながらも、奥のほうまでフワーッと広がり、消えていく様子がAK380では良く見える。この奥行きの深さが立体感に繋がり、AK380の方が生々しいというか、実在感のあるサウンドになっている。
AK300の低域は十分にパワフルで沈み込みの深さも備えているが、AK380の方がさらにクオリティが上だ。ベースが「グォーン」と押し寄せる際も、その背後の量感が豊かで、音がさらに肉厚だ。広がる低音の響きの中で、弦が「ブルン」と震える様子も、AK380の方が鋭く、同時に“重い”。
比較すると、確かにこのような違いはある。だが、AK300単体で聴いていた時に何かの不満を感じていたかというと答えはNOで、AK300自体は非常に高音質なプレーヤーだ。バランスも良く、10万ちょっとという価格も適正に感じられる。
比べればもちろん、デュアルDACのAK380の方が間違いなく良い。だがAK380は約50万円、同じくデュアルDACのAK320も約25万円と、大きな価格差は悩ましいところだ。また、サイズや重さの面で、AK300の方が取り回しが良く、ポータブルとして使いやすいと感じる面もある。究極の音質を追求するか、使いやすさと音質のバランスを重視するかといった選択ができるようになった事が大きいだろう。
AK第3世代の音を身近にしてくれる重要モデル
価格の面で、「あんまり関係ないかな」と感じていたAK第3世代のサウンドを、ググッと身近にしてくれる製品としてAK300は非常に意味のあるモデルだ。ネイティブ再生の範囲やDACの数など、確かに省かれている部分はあるが、バランス駆動やネットワーク再生、周辺機器との連携など、AKシリーズのマニアックさや豊富な機能を楽しめる部分は損なわれていないのも好印象である。
もう1つ気になるのは、発表されたばかりの「AK70」との比較だ。発表会場で、極めて短時間聴いただけなのでまだ詳しくはわからない部分もあるが、両者は音の傾向が大きく違う。
前述の通り、AK70はDACにCS4398、AK300はAK4490を使っている。もちろんDACで音の全てが決まるわけではないが、大まかな方向性が違ってくる。結論から言うと、AK70のサウンドは、AK120IIやAK240といった第2世代に近く、密度が濃く、音のコントラストが強く、メリハリやパワフルさが感じられる。
一方で、AK380やAK300では空間の広さ、そこに存在する音像同士の距離感、余韻が広がる奥行きの深さといった、空間表現に優れている。ざっくり言うと第3世代の方が、据置型のピュアオーディオっぽい音だ。
ただ、AK70はアンプがずいぶん良くなったように感じられ、第2世代の低価格モデルであるAK100IIで感じられたような、低域の線の細さや、ハイ上がりな傾向が無い。低価格で小型ながら、満足度の高い音であるという意味では、AK70もAK300もよく出来た製品と言えるだろう。