レビュー

“ハイブリッド”のイメージを変える完成度、Unique Melody「MAVERICK II」、「MAVIS II」

 イヤフォンのユニットと言えば一昔前はバランスドアーマチュア(BA)が全盛。こっちは3個だ、あっちは5個だ、10個だと、個数を競う時期もあったが、その後は反動のようにダイナミック型にも再び注目が集まり、振動板を極限まで薄くしたり、特殊な素材を使ったりといった方向に進化。BAとダイナミックを組み合わせたハイブリッドが登場したと思えば、いやダイナミック×2基だと、現在のイヤフォン市場は良い意味で混沌としている。

左からダイナミック+BAのハイブリッド「MAVERICK II」、ハイブリッドかつデュアルダイナミックの「MAVIS II」

 搭載するドライバの能力や個数は、そのイヤフォンの特徴の1つではあるが、それが音の全てを決めるわけではない。“BAの個数が多い方が高価で高音質だ”というイメージが薄れ、「中のユニットの種類や個数はどうあれ、出て来る音が良いかどうかが一番大事」という認識が広まるのは、イヤフォン市場にとって健全な事だろう。

 そんな中、Unique Melodyから2月の中旬に登場したのが、ダイナミック+BAのハイブリッド「MAVERICK II」、ハイブリッドかつデュアルダイナミックの「MAVIS II」というイヤフォンだ。Unique Melodyではカスタムも扱っているが、今回取り上げるのはユニバーサルタイプで、価格はオープンプライス。実売は「MAVERICK II」が137,600円前後、「MAVIS II」が111,000円前後とハイエンドだ。しかし、その価格もうなずける、すこぶる音の良いイヤフォンに仕上がっている。

右から「MAVERICK II」、「MAVIS II」

Unique Melodyとは

 Unique Melodyは中国のメーカーだ。経済特区の珠海市に本社があるメーカーで、補聴器業界で培ってきた技術をベースに、2006年からオーディオファン向けのカスタムイヤフォンの開発をスタート。

 2008年に本格的にカスタムイヤフォンの販売をはじめ、当時はまだ珍しかった、BAとダイナミックのハイブリッド型カスタムイヤフォン「MERLIN」を開発して注目を集めた。

 その後も、日本で販売するミックスウェーブとタッグを組んで、日本のファンにもマッチするイヤフォンを次々と投入。この、“各国の代理店と協力して、地域に特価したチューニングやドライバ設計のイヤフォンを作る”という手法も、Unique Melodyの特徴と言えるだろう。

 中国メーカーというと、日本では“価格破壊”的なイメージを覚えがちだが、Unique Melodyは高級モデルが主体であり、新たなユニットの組み合わせを追求する先進的なイメージを持っている人も多いハズ。例えば昨年末の「ポータブルオーディオフェスティバル 2016 冬 in 東京/秋葉原(通称:ポタフェス)」では、平面振動板を採用したイヤフォン「ME.1」を展示して話題を集めたのも記憶に新しい。

ポタフェスで参考展示された、平面振動板を採用したイヤフォン「ME.1」

 話を戻そう。今回の「MAVERICK II」と「MAVIS II」は、どちらもBAとダイナミックのハイブリッド型だ。前モデルの「MAVERICK」、「MAVIS」はいずれも評価が高く、その後継モデルになる。

 「MAVERICK II」は、低域用に10mm径のダイナミック型ユニット×1、BA×1、中域にBA×1、高域にBA×2を搭載。4ウェイ5ドライバ構成だ。ハイブリッドイヤフォンでは、低域をダイナミック型だけが担当する事が多いので、BAも低域用に1つ搭載しているのが面白いポイントだろう。

「MAVERICK II」

 「MAVIS II」は、低域用に7mm径のダイナミック型ユニットを2基、中域用にBA×1、高域用にBA×1を搭載した、3ウェイ4ドライバ構成だ。ダイナミック型ユニットのサイズがMAVERICK IIより小さいが、2基搭載しているので、音にどのような違いがあるか楽しみだ。

MAVIS II
MAVIS II

 ハウジングを見ていて気がつくのは、2つの小さな穴が空いている事。これはいわゆるベントの穴で、2ポートにする事で、空間表現を拡張したそうだ。2モデルとも、穴は2つ空いている。

フェイスプレートの部分に2つの穴が空いているのがわかる

 さらに共通する特徴として、ノズルの部分にプラチナ塗装の合金製サウンドチューブを採用。イヤーピースを外してみると、確かに4本のノズルがいずれも銀色に輝いているのが見える。

イヤーピースを外したところ。ノズルがプラチナ塗装されている

 「MAVERICK II」の再生周波数特性は10Hz~20kHz。入力感度は111.7dB。インピーダンスは23.3Ω。「MAVIS II」は再生周波数特性は10Hz~18kHz、入力感度110.6dB、インピーダンスは24.3Ωとよく似ている。

 ケーブルは着脱可能で、2ピン端子を採用。入力プラグはステレオミニだ。

どちらのモデルもケーブルは着脱可能で、2ピン仕様
入力ケーブルはステレオミニ

 イヤーピースはシリコンタイプとフォームタイプを同梱する。どちらのモデルも内蔵ユニットが多く、ハウジングが大きめなので、手にすると「こんなに大きなものがちゃんと装着できるかな」と不安になるが、装着すると意外に安定感がある。大きさが大きさなので耳からはみ出る部分が大きいのは仕方ないが、耳穴にフィットするサイズのピースを選べば、首を振った程度ではまったく問題ない装着安定性がある。より固定感を高めた場合は、フォームタイプを選ぶといいだろう。

イヤーピースはシリコンタイプとフォームタイプを同梱する
左がフォームタイプ、右がシリコンタイプ

 筐体が大きいので遮音性は高い。その反面、耳穴付近を大きなものがピッタリと覆う感覚はあるので、長時間装着し続けると疲れを感じるかもしれない。このあたりは個人差もあるだろう。

音を聴いてみる:MAVERICK II

 まず「MAVERICK II」(137,600円前後)から聴いてみよう。プレーヤーは「AK380」を使用した。なお、2モデルともスマートフォンのXperia Z5でもボリューム値80%程度で十分な音量が得られる。鳴らしにくいことはない。

MAVERICK II

 「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best OF My Love」を再生。音が出た瞬間に、ニヤニヤするほどクオリティが高い。まず2つ驚く点がある。1つ目は音場の広さだ。MAVERICK IIは低域用の10mmダイナミック×1、低域BA×1、中域BA×1、高域BA×2と、多数のドライバを搭載している。この手のイヤフォンは、うまくやらないと狭い空間に各帯域の音が詰め込まれたような、広がりのない、ミッチリした息苦しい音になってしまうが、MAVERICK IIは真逆。開放的で、音の響きが遠くまで広がる様子が心地いい。おそらく、2つ空いたベントの効果によるものだろう。

 もう1つ驚く点は、低域から高域までの音の繋がりの良さだ。ハイブリッドイヤフォンでは、ダイナミック型の低域がウォームで、BAの中高域が金属質でシャープと、ドライバの種類の違いが音でわかるイヤフォンも存在するが、MAVERICK IIは見事に統一されている。

 響きのキャラクターだけではない。量感や解像感も“ドライバの境目”がわからない。つまり、ダイナミック型が担当する中低域はモリモリに量感と音圧が豊か、BAの中高域はスッキリシャープという違いが無い。全帯域がトータルでスッキリシャープであり、同時に、その背後に、巨大な風圧のような中低域の“スケール感”だけがプラスされているような、非常に面白いサウンドだ。

 想像だが、低域を10mm径のダイナミック型だけで描写するのではなく、BA×1基でも担当している事が、この“全帯域のシャープさの統一”に寄与しているのだろう。同時に、前述のベント×2個の効果で、ダイナミック型の音圧が「オラオラ! 張り出すぜ!」と1人だけ目立つ事なく、言葉は変だが“ガス抜き”され、BAのシャープなサウンドを下支えする“黒子”に徹している感じがする。

 ハイブリッド型イヤフォンは、方式の異なるドライバを同居させているので、どうしても“各ユニットの特性を発揮しないともったいない”わけだが、それが時として“全体の統一感の無さ”に繋がってしまう事がある。「MAVERICK II」はそこをグッと踏みとどまって、全体としての音の完成度、統一感を重視。ドライバの得意な部分を上手くまとめていると感じる。センスが良いというか、“イヤフォンの事をほんとに良く知っている人が作っている”感がある。

 スケールが広く、音の統一感があり、バランスも良好なので、オールマイティーに楽しめる。ジャズでもクラシックでもポップスでもなんでもござれだ。特にクラシックのオーケストラでは、ホールの広がりと、ストリングスの弦の動きといった、空間と描写の細かさといったMAVERICK IIの特徴が上手くマッチしてクオリティが高い。アニメソングで多い、打ち込み系のハイスピードな楽曲も、早口なボーカルをシャープに描きつつ、空間が広いので音数が多くてもガチャガチャした音にならない。なんでもござれといった懐の深さを感じる。

 一方で、「ハイブリッドイヤフォン」にダイナミック型のパワフルさ、低域の盛り上がり、押し出しの強さ、いわゆるクラブサウンドっぽい迫力を求める人にはマッチしない。とはいえ、14万円近いイヤフォンを求める人の趣向には、このモニターライクなバランスの方がマッチしているだろう。

音を聴いてみる:MAVIS II

 「MAVIS II」は、低域用に7mm径のダイナミック×2基、中域BA×1、高域BA×1という構成。低域に注目すると、BAが使われておらず、ダイナミック型がMAVERICK IIの10mmから7mm径に小さくなりつつ、個数が2基に増えている。

MAVIS II

 「すると、BAっぽいシャープな低域ではなく、MAVIS IIはダブルのダイナミック型ユニットを活かしたゆったりパワフル系なサウンドなのかな?」と予想しながらイヤフォンを耳に入れると、まさに想像した通りの音が出てくる。

 ただ、パワフル系と言っても俗にいう「重低音サウンド」のように低音がボンボン、ドンドンと膨らんで主張するタイプではない。あくまでモニターライクなバランスの良さを維持しつつも、中低域の張り出しがMAVERICK IIよりもアップしている……という程度だ。

 「Best OF My Love」のアコースティックベースをMAVERICK IIで聴くと、弦がブルンと震える描写のシャープさを保ちながら、その振動がベースの筐体で増幅された低音の波が、その背後から雄大なスケールでこちらに迫ってくるように感じる。

 対してMAVIS IIは、弦のシャープさはMAVERICK IIより一歩劣るが、量感のある低音のカタマリが「ズォーン」と頭蓋骨に振動を伝えるようなパワー感を伴って飛び出してくる。

 こう書くと、MAVERICK IIの低音が弱いように感じるかもしれないが、そんな事はない。純粋な低域の沈み込む“深さ”はMAVERICK IIの方が一枚上手なくらいで、凄みがある。こうした低音の描写に、2つのイヤフォンの大きな違いがある。

 一方、MAVIS IIの凄いところは、量感ある、押し出しの強い低域を持ちながら、中高域はMAVERICK IIにも負けていないクリアさ、清涼感のあるシャープな描写を維持しているところだ。

ハイブリッドイヤフォンのイメージが変わる完成度

 個人的な好みを言えば「MAVERICK II」の方が好きだが、その“差”は限りなく近いし、楽曲によって結論が変わる事もある。例えばRADWIMPSの「前前前世」のような、疾走感のある楽曲を「MAVIS II」で聴いていると、ベースの押し出しが強くて心地良く、それでいて透明感のあるボーカルがどこまでも広がる空間描写も伴い、とにかく気持ちがいい。

 「こういう曲を聴くならMAVIS IIの方がいいのかなぁ」と感じた後で、「MAVERICK II」に変更すると、音の広がりがさらにアップし、遠い青空まで音が広がるような爽快なサウンドに意識が奪われる。一聴しただけではMAVIS IIより目立たないベースラインも、精密な描写の後ろでしっかりと下支えしており、広大な空間とキッチリマッチした、雄大な低音として存在感を発揮。「あーやっぱりMAVERICK IIも凄いわ、これも最高だわ」と決められなくなる。2つ揃えて曲に合わせて使い分けられれば言うことなしなのだろうが……。

 両機種に共通する特徴は、ハイブリッドイヤフォンではありながら、従来の“ハイブリッドイメージ”を覆す完成度の高さにあるだろう。上から下まで音の繋がりがよく、BAとダイナミック型の“いいとこどり”をしながら、それぞれの“いいとこ”が分離せず、自然にまとまっている。ドライバの種類の違いを意識せず、すんなりと、それでいて濃厚に音楽が楽しめる。ハイブリッドイヤフォンの音質の、1つの指標になる2モデルだ。

山崎健太郎