レビュー
スピーカーと付属マイクだけで最適サウンドに!?「iLoud Micro Monitor Pro」試してみた
2025年1月20日 08:00
部屋の環境で聴こえ方が変わってしまうスピーカーからの音。ときにそれは、低音がブーミーになったり、特定の帯域に凸凹を作ってしまったりすることもある。ルームアコースティック対策の必要性は分かっていても、なかなか万全な環境を整えるというのは大変だ。
昨今、業務用のアクティブスピーカーにおいて、スピーカーにDSPを内蔵し高度な音響補正機能を売りにした製品が増えてきた。ノイマンのDSP搭載KHシリーズや、GENELECのSAMシリーズ、ADAM AUDIOのAシリーズなどがそれだ。今回紹介したいのは、音響補正機能を内蔵したアクティブスピーカーでも一際コンパクトで音もいい、IK MultimediaのiLoud Micro Monitor Pro。実売価格は、単品1台48,400円、ステレオペアのマイク付きが96,800円だ。
IK Multimediaはイタリアのメーカーで、ギターと組み合わせる機材やソフトウェア、モニタースピーカーや各種プラグイン、マイクなどを製造販売している。本紙の読者には、モバイル向けオーディオインターフェースのiRigシリーズがピンと来るだろうか。2002年に誕生したAmpliTubeは、ギターアンプやエフェクトモデリングのパイオニアともなっている。
そんなIK Multimediaの大ヒットモニタースピーカーiLoud Micro Monitorは、筆者が今のホームスタジオを作る直前くらいに本誌でレビューをした製品だ。スリム&コンパクト、音はサイズを超えた本格派。当時の筆者の環境では、導入までには至らなかったが、印象に残っているスピーカーだ。
iLoud Micro Monitor Proでパワーアップしたのは、なんと言っても、本体内蔵のDSPによる強力な音響補正が実現したこと(DSP自体は無印モデルにも入っている)。専用の測定マイクでスピーカーから鳴っている音を測定することで、部屋の音響特性を踏まえた理想的なバランスで聴こえるように補正してくれる。当然のことであるが、反響がなくなったり、定在波が消えてなくなる訳ではないので、ルームアコースティック対策は並行してやらなければいけない。その上でさらに理想的なサウンドを目指すなら、iLoud Micro Monitor Proはユーザーの強い味方になってくれる。
大きさは無印のiLoud Micro Monitorより奥行きで3cm弱、高さが2cm、幅が1cm大きくなっているだけで、セッティングの柔軟性をキープしている。本稿では、エンタメ用途を中心に、オーディオファンでも音響補正付きのモニタースピーカーが有用なのかをチェックしていこうと思う。
ガチのプロユーススピーカー
まずは、基本的なスペックから見ていこう。
ユニットは、3インチのセルロース樹脂含有カスタムメイド・ミッドウーファーと、1インチの低歪みシルクドームツィーターを搭載。内蔵アンプは高域/低域それぞれが搭載され、高域側20W、中低域側は30Wの計50Wのハイパワーだ。合計で100Wと無印モデルの2倍の出力を誇っている。周波数特性は、50Hz~20kHz(±2dB)、42Hz~22 kHz(−10dB)。±2dBで、低い方が50Hzというのはサイズを超えた低域再現性といえるだろう。
入力は、XLRバランス/RCAアンバランスの2系統。XLR入力は測定用マイクを挿し込む目的でも使用する。USB-Cポートは、USB入力ではなく、X-MONITORを使ったより詳細な音響補正を行なうための制御用だ。電源は内蔵式でメガネタイプのACケーブルでAC電源を供給する。
コントロール周りは、ボリュームノブが搭載されているほかは、補正のスイッチが4つ。HFフィルターは、高音域(8kHz)をコントロールするシェルビング・タイプのEQで、+2 dB、0 dB(フラット)、-2 dBの3段階。LFフィルターは、低音域(100kHz)をコントロールするシェルビング・タイプのEQで+2 dB、0 dB(フラット)、-3 dBの3段階から選択できる。LFエクステンションは、80 Hz(LFE)、または50Hz(デフォルト)以下の周波数をカットするハイパス・フィルタで、サブウーファーと併用する場合に活用する。MODEボタンで選択できるDESKフィルターは、次の2つのベル型のフィルターが適用される。ベル1、250 Hz、-3 dB、ベル2、1200 Hz、+4 dBとのこと。机に設置した時の反射音の影響を軽減する目的で使用する。
とは言いつつも、この後にじっくり紹介するARCキャリブレーションによる音響補正がすごすぎて、DESKやHFやLFは使いどころが見つからないのが筆者の感触である。
このクラスのアクティブスピーカーだと、片側チャンネルに入力と操作系をまとめ、もう片側はパッシブであるケースも珍しくない。iLoud Micro Monitor Proは、イマーシブオーディオの制作にも対応できるよう11台をセットにしたパッケージも用意されており、まさに1台1台に入力がないと困るケースにも対応できるガチのプロユーススピーカーといえる。
箱から製品を出すと、付属品にUSB-A⇒USB-Cケーブルと、メガネタイプのACケーブルが同梱されている。2台の外箱の内、片側に測定用マイクとマイクホルダーが同梱されていていた。ステレオで始めたい方には、測定用マイク同梱パッケージがお勧めだ。
端子とボタン類は、裏面に集中して配置されている。裏側のスペースが狭い環境では、ハイエンドのRCAケーブルや、XLRケーブルのプラグ部が突っかえてしまうかもしれない。ホームスタジオクラスのオーディオインターフェースのモニターアウトはTRS端子が多いので、入力もTRSコンボジャックにしてほしかったところ。TRSだとL型のプラグを付けたケーブルも探せば案外見つかるからだ。
ボリュームは、マニュアルによると基本0、つまりてっぺんに合わせるようにとある。「スペック上のSPL校正値の基準位置」だそうで、実際使ってみても、てっぺんで何の問題もなかった。ボリュームノブを上げれば、アンプのサーというノイズが目立ってくるので、よほどのことがなければ、0で固定した方がよさそう。ちなみに、サーノイズは、ニアフィールド向けのモニタースピーカーとして、期待に十分応えるものであり、むしろ比較的小さい方だと感じた。個人的にはメチャクチャ推しポイントである。
ARCキャリブレーションを試してみる
ARCキャリブレーション機能は、本体のみで測定・処理・補正が完了する1ポイント測定と、パソコン側にインストールする「X-MONITOR」というアプリと連動する高精度4ポイント測定の2種類。まずは、1ポイント測定をやってみることに。
付属のARC MEMSマイクをマイクスタンドに設置。ARCと描かれている面(マイクカプセルの開口部がある面)を上にして、頭の位置、ちょうど耳の高さになるようにセッティングする。スタンドがブームタイプであれば、アーム部を延ばしマイクからスタンドまでの距離を離して、反響の影響を最小化することが望ましい。
オーディオインターフェースはAntelopeのZen Go Synergy Coreを使用。USB-DACからの接続もあり得ることを想定し、スピーカーにはモニターアウトのRCA端子から接続した。ケーブルは、USB-DACとパワーアンプを接続しているLINE-1.0R-TripleC-FMを流用している。
マイクからのXLRケーブルは、本体のXLRライン入力に接続する。ケーブルはMOGAMIの2534を使用した。実はここがオーディオファンには注目のポイントともいえる。音響補正のソリューションというと、全てをソフトウェア側で行なうSoundID Referenceも有名だ。ソフトウェアベースの場合、マイクでの測定はオーディオインターフェースを必要とする。特に録音の機会が無い方も、音響補正を使うためにオーディオインターフェースを用意しなくてはならないのは手間だ。
しかし、iLoud Micro Monitor Proであれば、1ポイント測定ならアプリも要らないし、マイクは本体に挿せばいい。RCAだけでなくXLR入力もあって、エントリーからハイエンドのUSB-DACまで接続性の心配も無いから、グッと身近になる訳だ。ただ、マイクケーブルだけは別途購入することになる。
さて、マイク測定に戻ろう。測定は1台1台個別に行なう。もう片方のスピーカーは関係ないのでオフにしてもよい。マイクを接続したら、本体の電源を入れて、MODEボタンを長押しする。白い点滅が始まるので、セッティングをもう一度チェック。問題なければ、もう一度MODEボタンを押すと、LEDが点滅を始める。カウントダウンだ。なるべくテストトーンの邪魔にならない場所で待とう。測定時、エアコンを切るなど部屋を静かにするのは言うまでもない。
オレンジの高速点滅から数秒するとテストトーンが4回鳴る。テストトーンが終わると、LEDは白でしばらく点滅する。この間に測定結果を処理している。もうマイクを外して問題ない。接続時もそうだが、スピーカーが軽いので、挿抜時スピーカーの位置がずれないように注意しよう。心配な方は、左右のセッティングが済んだ段階でデスクにバミリのテープを貼るのも一案だ。
1分少々で処理が完了。白点滅から緑LEDが2秒程度点灯すれば成功のサインだ。測定結果から導かれた補正の内容が確定、本体に保存される。同じ事をマイクの位置を変えずに、もう片方のスピーカーでも実施すれば測定は終了。以降は、MODEボタンでCALを選ぶとARCキャリブレーションが有効となる。無効にするときは、MODEボタンを何回か押して、CALとDESKの両方が点灯するようにしよう。なお、左右のスピーカーはそれぞれで設定するので、押し忘れ(設定ミス)には要注意だ。
ARCキャリブレーションを使ってみて感動したのは、音響補正の効果もそうだが、レイテンシーを気にしなくていい快適さだった。筆者は、SoundID Referenceのユーザーであり、アプリベースの音響補正はその設定内容次第で、レイテンシーが発生することも体験してきた。専らレイテンシーが問題になるのは、ゲームや動画コンテンツとの併用だ。動画の場合、リップシンクが明らかに合わないため、設定を変更して補正の善し悪しよりもレイテンシーの改善を優先しなければならないこともあった。細かな設定があって、それを追い込んで最適解を探っていくのもそれはそれで面白いのだが、すぐにコンテンツを楽しみたいときは面倒でもあった。
しかし、iLoud Micro Monitor Proは本体に補正のためのデータが保存されており、演算も本体で行なうため、レイテンシーが気にならない程度に抑えられている。入力されたアナログ信号はデジタル信号に変換されDSPで処理されたあと、デジタル信号のままデジタルアンプへと送られる。DA変換の工程をパスすることで、DSPの処理した意図が正確に再現出来るとともに、ノイズフロアを下げることも出来たという。動画コンテンツを見ても、リップシンクの問題をまったく気にしなくて良い快適さは、想像以上だった。これはやみつきになりそうだ。
Amazon Primeの限定配信作「ムーンフォール」。Windowsのデスクトップ用アプリで再生。本作は、大好きなエメリッヒ監督の最新作なのになかなか国内でBlu-rayが発売されないので、AmazonのPrime会員になって視聴することにした。
冒頭から、タイトルが表示されるまでのシーンをチェック。人工衛星の修理中に未知の存在に激突され、マーカスが吹き飛ばされて宇宙の彼方に。どうにか主人公がシャトルの回転を止めるところまでを描いた緊迫のシーン。CALをオフにしている状態では、台詞の純度は高い。質感や潤いなどに生々しさはある。中低域の量感もあるので、迫力はなかなかだ。一方、SEから受ける場の臨場感はちょっと大味な気はする。
CALをオンにすると、まず無線で通信してる宇宙服の2人の声が、ちゃんと無線の音に聞こえるのにハッとした。補正がないと、なんとなくそんな雰囲気がするだけで、音の作り込みに気付けない。主人公がシャトルの作業場に叩きつけられた後、ひたすらシャトルが回転しているシーン。CALで補正された音は、ちゃんと大きな機体が回ってる感じがSEから感じ取れて驚いた。フロント2chでも位相特性や定位が正確なおかげで没入感が高まっている。ちょっとした効果音も音像が膨張していないので、リアリティが高い。作り手の意図を正確に受け取るなら、CALはオン必須といえそうだ。
続けて、YouTubeのミュージックビデオを見てみる。フラチナリズム「グレイテストライフ」。筆者が住む八王子を中心に活躍するJ-POPバンドで、9年ぶり2回目のメジャーデビューを記念するアルバムのリード曲だ。CALがオフの状態でも、十分に解像度が高い。打ち込みのブラスやシンセの音はきめ細やか聴かせるし、ボーカルもディテールを豊かに表現出来ている。ただ、ベースがやや量感が出過ぎな印象だ。こんなにモコモコしなくていい。
CALをオンにすると、もう最高!まるで別物だ。
目の前がスッキリして、曇りやモヤがなくなり奥行きも出てくる。打ち込みのブラスやシンセは分離が良くなり、音像の立体感も改善。右側のギターも輪郭が浮き出てグッとくる。一番変わったのはベースだ。ブヨブヨ太っていたのがシュッと引き締まり、クリアで音階の変化も分かりやすくなった。打ち込みのシンセもこんなにいろんな音が鳴っていたの?ってくらいよく聴こえる。
ライブ映像なども視聴してみたが、コーラスが混濁から解放され、精細に鳴ってくれたり、ドラムのタムの1個1個がオンマイクの音として分離よくハッキリ聴けるようになったり、基本パフォーマンスの向上が著しい。空間再現、前後の表現、定位、帯域バランスなど、ミックス本来の音が味わえている感動に胸が震えた。厳密に聴けば鮮度や純度は損なわれているかもしれないが、聴いた感じそれほど気にならないし、音響補正による効果が大きすぎて、これでいいや!って思えてしまう。
それと、個人的な実感だが、補正の効き具合がちょうどいい。これは自分の感覚との相性がいいのか、調整の具合が神業なのか、何ともいえないが、イチオシポイントの1つだ。補正の案配が強いと音はより正確なバランスに近付いてはいくが、補正が効きすぎている感は気になることもある。筆者の場合は、長時間聴いていると疲れを感じることもあった。
iLoud Micro Monitor Proでは、アプリを使った高精度4ポイント測定でも、補正の効き具合を調整したり、補正無しの音とのミックスバランスを調整する機能はなく、全てお任せだ。1ポイント測定による補正は、筆者が体感した限り、絶妙のバランスで「ちょうどいい!」と心から納得出来るものであった。
Audirvāna Studioとも合わせて使ってみよう。スピーカー側に補正機能があることのメリットとして、ハイレゾ対応の音楽アプリとの連携がしやすいという点がある。細かいところは省くが、SoundID Referenceでは再生するファイルのサンプリング周波数に合わせて、随時アプリ側でバーチャルドライバーの対応サンプリング周波数を切替える必要があった。本機では、そういった作業が一切無い。処理は全部スピーカー側で行なうからだ。アプリで制御する場合も、USBからは制御用の通信をするのみで、音声処理はスピーカー側のDSPが行なう。よって、内部でAD変換が発生するとはいえ、DSD対応のUSB-DACと組み合わせても音響補正の恩恵を受けられる。
佐々木恵梨の「ミモザ(Movie Edit)」ハイレゾ版を聴く。ギターとチェロ、バイオリン、ボーカルといった小編成の静かなバラード。ボーカルは、序盤チェロの音が聞こえるまで、(弾き語りをイメージしたのか)わずかに右に定位がズレている。左にはアコギだ。CALをオンにすると、やや分かりにくかった定位のズレが、正確にピシッと決まった。オフの時は、何も知らないと自分の耳やスピーカーのセッティングがおかしいのかな?と誤解するほどの小さな違いだったのが、チェロが始まって右寄りからセンターに落ち着いてからの描き分けが高精度で感動してしまった。左右の距離がせいぜい70cm程度しかない狭いセッティングにもかかわらず、ここまで微妙な定位の変化をシャープに聴かせるのには驚きを禁じ得ない。
すごいのは定位だけではない。アコギの輪郭や、音の粒立ちはとても鮮明に変わったし、弦の音と胴鳴りの音の描き分けも明瞭だ。まるで木材の質感まで伝わってくる様である。音像に立体感があり、ハイレゾらしさもより感じられる。
アプリを使った高精度4ポイント測定も試す
次は、アプリを使った高精度4ポイント測定をやってみる。X-MONITORというアプリを使って、1スピーカー当たり4ポイントで測定する高精度な音響補正が使えるほか、ボイス機能で有名モニタースピーカーやスマホのサウンドをエミュレートしたり、Contour presetsでは環境にあった複数のプリセットを選んで簡単にサウンドを微調整できる。Contour presetsはARCキャリブレーションとは独立した設定だが、デスクとコンソールを含むpresets以外は、ARCキャリブレーションとの併用が可能だ。キャリブレーション(CAL)がオンの時、Contourの設定はその上から適用される。
IK Multimediaのサイトでアカウントを作って、IK Product Managerをダウンロード、起動してアカウントでログインしたら、スピーカーに添付されたシリアルを登録しよう。X-MONITORをダウンロードすることが出来る。
ただ、ここで思わぬ事態に。結論から言うと、RCA出力では、PC・DAC(オーディオインターフェース/USB-DAC)・スピーカー、この3つの間でグラウンドループが発生し、常時ノイズが発生してしまう。本機のサーというノイズは比較的小さく優秀であることから、グラウンドループが発生しているときのノイズはどうしても目立っており、制作用途では厳しいと感じた。USB-DACと組み合わせても、同様の事象が発生しており、ループをどこかで切ればノイズは収まった。筆者環境では、最初USBハブを2箇所噛ましていのたで、ラジオチューナーのように大きなノイズとなっていた。スピーカーのUSB-CポートからPCへ直接接続すれば、ノイズはだいぶ小さくなるのは前述のとおりだ。
RCA出力しか無いUSB-DACをお持ちの方は、X-MONITORを使うときだけ、一時的にUSB-DACからスピーカーまでのRCAケーブルを抜くことでノイズを回避出来る。また、X-MONITORで4ポイント測定をしたり、各種設定を変更するとき以外は、USB-Cポートへのケーブルを抜いておくのも対応策の1つだ。
ちなみにXLR入力ではノイズの発生はなかった。Zen Go Synergy CoreのTRSモニターアウトからTRS⇒XLR変換ケーブルでスピーカーに接続したケースだ。オーディオインターフェースやDACにおいて、USBのグラウンドとアナログ出力のグランドが切れているケースはあまりないと思うので、バランス接続によって相対的にノイズが小さくなったか、グラウンドを繋がなくてもHOTとCOLDだけで信号を受けるタイプの入力なのかもしれない。
ひとまず、筆者環境ではTRS⇒XLR変換ケーブル(MOGAMI 2534)を使って、X-MONITORによる4ポイント測定を行なった。X-MONITORは、USB-Cでスピーカーと接続するとシリアルが認識されるため、本体底面のシールを確認し、シリアル通りにアプリの機種選択のプルダウンから選んでおこう。
今度は頭の位置ではなく、図のような4ポイントにマイクを設置する。
分かりにくいので、椅子を置いた状態で床にバミリのテープを貼った。高さは全て耳の高さだ。今度はメジャーで測って極力115cmをキープした。画面の指示に従って4箇所の測定を進めると、本体に結果が転送された完了画面が出る。2つのスピーカーでそれぞれ測定を完了すれば、これでUSB-Cポートからケーブルを抜いても、本体のCALをオンオフすることで、高精度測定による補正が利用できる。
アプリから、Bluetoothスピーカーやテレビとかスマホ、テンモニっぽいスピーカーのエミュレート機能が使えるのは魅力的だが、制作をやらない方にはあまり使いどころがない機能だ。単に音響補正だけ使えればいいという方は、初回の測定だけUSBケーブルを繋ぎ、あとは環境が変わったときの再測定まで繋がなくてもいいかもしれない。
ちなみに4ポイント補正の効果の程は、筆者にはちょっと合わなかった。補正の掛かり具合を微調整できればよかったが、そのような機能は見つからなかったので、補正強めの4ポイント測定は人によっては好みが分かれるかもしれない。
確かに、同じ曲を1ポイント測定時の補正と比べると、音像のディテールはさらに彫り深く、アタックは判別し易いし、瞬間的な音も粒立ちよく一音一音が映えている。ボーカルやコーラスも解像度を増して、どこまでも精密で正確なサウンドだと思えた。ただ、やはり1曲丸々聴いてると疲れてしまう。人間の聴覚は適度な曖昧さを必要としているのだろうか。ファジーもまた “味”であるのか。メカニズムはよく分からないが、自分はこのような感想を持った。
ちなみに以下の画像が筆者のリビングでの補正前の周波数特性と、補正後の周波数特性だ。濃い緑が左のスピーカーで、黄緑が右のスピーカーだ。左右非対称の環境で15畳弱ある環境ではどうしてもグラフにピークやディップは出てくる。200Hz近辺の大山は心配になるし、90Hzのピークにいたっては左右で山の高さが違う。50Hz~60Hzなんて、カーブの位置が左右にずれている。右と左が相互干渉を起こしていそうだ。
こういった音を補正したのが下のグラフ。1ポイント測定でもこれに近い効果は出ていると推測され、実際聴いてみても、4ポイント測定に比べて大きく劣るという印象はなかった。実際に測定して、好みで使い分けるのがよいだろう。4ポイント測定を行なっても、もう一回最初から1ポイント測定を実施すれば結果は上書きできる。
防音スタジオでも聴いてみる
ということで、筆者の好みである1ポイント測定でもって、防音スタジオでの最後のテストと洒落込もう。Discrete 8 Pro Synergy Coreをオーディオインターフェースとする弊スタジオのシステムでは、モニターアウトは2系統(TRSフォン)ある。1つは収録ブースの演者用ヘッドフォンアンプで使用済みなので、もう1回線をiLoud Micro Monitor Proに結線した。1ポイント測定を改めて行ない、本体のデータをこのスタジオの音響特性を踏まえたデータに書き換える。
SONY C-100で収録した音声のみをスピーカーから出してみると、まず音像のダイエットにやったぜ!と感動した。補正なしのサウンドでは、声の音像が無駄にファットになって芯が見えにくく、PANで左右に振っても違いが分かりにくい。試しに左右に微妙にPANを振って定位の変化を聴いてみたら、補正無しは7くらい振らないと分かりにくかった定位の変化が、4振っただけでもう明確に違いが分かった。左右のツィーターとの間隔は56cmしかない。近接したコンパクトなモニター環境でも定位の変化をシビアに示す実力には感心した。
声のローカット(無駄な低域のカット)も、迷いなく追い込める。補正がオンになると、中低域の量感は自然になるが、芯はきちんと通っていて無駄がない。ヘッドフォンで調整しても大体このくらいの値になるよね、って数値で周波数が落ち着いたので実用性はあると見た。
コンプレッサーの掛かり具合も少し試してみた。アタックやリリースの微妙な違いも分かりやすい。特にリリースは、ヘッドフォンで聴かないと違いが分かりにくいこともあるが、スピーカーでもそれ相応の音の変化がチェック出来た。スレッショルドを下げたときの、コンプレッションの効き具合も繊細に表現。正直な話、ヘッドフォンも併用したいが、大体これでパラメーターは決められると思う。
iLoud Micro Monitor Proは、スリムでコンパクト、高度な音響補正機能を備えながら、値段はコンシューマー目線で見ても現実的なプライス。わずらわしいアプリの設定は、1ポイント測定なら不要だし、こだわろうと思えばアプリを使った追加機能も楽しめる。最近はデスクトップサイズのUSB-DACでもバランス出力を備えた機器が増えてきたので、そういったDACと組み合わせるのもお勧めだ。
制作目線で言えば、本機を使うことによってスピーカーでのモニタリング精度は格段に上がると思う。スペースの関係で音響補正機能付きスピーカーを置けなかった人の救世主ともいえるプロダクトだ。ちなみに補正を掛けなくても、トランジェントは良好だし、スピード感の表現も申し分なかった。ついでに書き添えるなら、「シルクツィーターの優しい音色は筆者好み」で音楽的な楽しみも備えている。