レビュー
「今までの音はなんだったんだ」39600円の“光アイソレーション”「TOP WING OPT ISO BOX」を試す
2025年1月21日 08:00
光アイソレーションを身近にする「OPT ISO BOX」
オーディオファンの中で“ネットワークオーディオの高音質化”が話題となっている。様々な手法やアクセサリーが存在するが、その中で“LANを光に変換して、ノイズの影響を排除する”という「光アイソレーション」は、機器が高価であり、ちょっと敷居の高いテクニックだった。
トップウイングサイバーサウンドグループが昨年12月末に発売した「OPT ISO BOX」は、39,600円という価格で、光アイソレーションを実現したアクセサリー。しかも1BOX筐体でコンパクトと、非常にインパクトがある。そこで、実際にOPT ISO BOXを使ってLANケーブルを経由して伝わるノイズを遮断し、ネットワークオーディオや音楽ストリーミング、そして動画配信サービスに至るまで、どのような効果があったかレポートする。
結論から先に言うと、クオリティの向上は想像を超えていた。LANのノイズ対策に新たな一石を投じる、注目の新製品を詳しくみていこう。
光アイソレーションとは何か
OPT ISO BOXを開発したのは、トップウイングサイバーサウンドグループだ。トップウイングといえば、輸入オーディオの販売代理店として知られているが、自社製品も展開。カートリッジの「朱雀」「青龍」、4.4mm ⇒ XLR/TRSへの変換を実現する「White Barrel IIシリーズ」、オリジナルケーブルである「TOP WING FLUX」などが代表的だが、ユニークなところでは世界初の4.4mmバランスラインセレクターである「4.4 to 4.4 Balanced Line Selector」もある。
そんなトップウイングが突如として光アイソレーターを発売したので、驚いた方もいるかもしれない。実のところ同社は、オーディオグレードの光メディアコンバーターであるSONOREの「opticalModule」を取り扱ってきた歴史がある。光変換によるノイズ対策の重要性や技術的側面に詳しいのだろう。だからこそコストパフォーマンスに優れるOPT ISO BOXを世に放ったのでは?と筆者はみている。
OPT ISO BOXの本体には、LANポートが2つある。それ以外は、ACアダプター用のDCジャックと、通信速度切り替えのスイッチがあるのみだ。DATAポートには、ネットワークスイッチ(スイッチングハブ)や、無線ルーターなどを接続する。AUDIOポートには、ネットワークストリーマー(トランスポートやプレーヤー)やPCなど、実際にクオリティを高めたい機器を繋ぐのが推奨されている。
DATAポートとAUDIOポートは、それぞれ接続が推奨される機器はあるが、通信は相互に可能だ。単純にLANケーブル1本で結んでいた経路に光アイソレーションを加えることで、物理的嵌合をなくし、ノイズの伝搬を除去するという。
LANケーブルで伝送するデータはデジタルだが、ケーブルそのものは銅線で繋がっており電気が流れている。光ファイバーケーブルに対して、LANケーブルがメタルケーブルと呼ばれるのは芯線に金属材料を用いているためだ。
そのため、本来伝えたいデータに加えて、ノイズが一緒に運ばれてしまい、行った先の機器で影響を与えて音質が劣化するのは、オーディオファンにとって困りの種でもあった。
そこで、小型トランスを用いた絶縁や、メディアコンバーター(LAN-光変換機)を介した物理的嵌合の排除といった、ノイズ除去アクセサリーが数多活用されてきた。筆者も前者の技術を使用したアクセサリーを長年愛用している。LANケーブル経由のノイズ対策が非常に重要であることは、ネットワークオーディオユーザーにとってだいぶ浸透してきたように思う。
その流れで、「メディアコンバーターによる光変換は、効果がとても大きい」という話を、オーディオ界隈ではよく耳にした。ただ、オーディオグレードの製品は、高価で導入には至らなかった。そこへ彗星の如く現れたのがOPT ISO BOXである。手に届きやすい価格であると共に、1BOXで光アイソレーションが完結するため、非常にわかりやすい。
内部を見てみよう。光変換の重要なパーツとなる光変換モジュールには、高耐久品を採用。内部光ファイバーの接続にはST-Link方式を用いることで、接続の信頼性・堅牢性を高めた。ST-Linkは、STコネクタを使った光デジタル接続のこと。その昔Wadiaなどのハイエンドメーカーが採用している。
二次的なノイズ対策になるLANトランスには、一般的なパルストランスタイプではなく、チップ型LANトランスと呼ばれる最新パーツを採用。クロストークの低減とシグナルパスの最短化を実現したという。
筐体サイズは70×83×32mm(幅×奥行き×高さ)。重量は193g。付属品は、12VのACアダプター。
ユニークな機能が通信速度の切り替えだ。本来、最大速度である1Gbpsが理想的ではあるものの、ネットワーク環境によっては10Mbpsあるいは100Mbpsの方がノイズ感を抑えられ、好ましい場合があるという。こちらについても、予想を超える変化があったので、後述したい。
今まで聴いていたものはなんだったのだ
OPT ISO BOXを使ったノイズ対策は、様々な使いどころが考えられる。筆者が試したのは、以下の4パターンだ。
- 【リビングルーム】
ネットワークスイッチとPCの間に使用(音楽ストリーミング/映像配信)
テレビとネットワークスイッチの間に使用(映像配信) - 【防音スタジオ】
ネットワークスイッチと無線中継機の間に使用(音楽ストリーミング)
ネットワークスイッチとネットワークトランスポートの間に使用(音楽ストリーミング)
最初は、リビングルームのパソコンから。普段はWi-Fiでネット接続しているノートパソコンは、DELLのモニターにUSB-C一本で接続されていて、モニターのUSBハブ機能を使ってUSB-DACのSWD-DA15へと接続されている。USB-DACからは、パワーアンプのFX-1001Jx2がControl 1 PROを鳴らすシステムだ。
比較は、Wi-Fi接続・有線LAN接続・光アイソレーションと3種類で行なった。有線接続のときは、Wi-Fiルーターに接続したオーディオ用ネットワークスイッチN8からLANケーブルで接続し、パソコンのWi-Fi機能はオフにしている。
有線接続は、PCにLANポートが無いため、belkin製USB-CイーサネットアダプターINC012(2.5Gbps対応)を使用。LANケーブルはオーディオグレードを使ってもよかったのだが、普段Wi-Fiで接続していることもあり、一般的なCAT7のケーブルを使用した。
なお、Wi-Fiに比べて有線LANの方が音質的に有利なことは過去に経験しているものの、どうしても設置場所の関係でWi-Fiの利便性を取っている。ダウンロードでハイレゾを買ったときは、今でも有線で落とすようにしているのだが、なかなか壁や天井にLANケーブルを敷設することまでは踏み切れていない。
「ユッコ・ミラー/H ZETTRIO」によるコラボアルバムLINKより「ALL Set(Funky)」をQobuzで試聴。Qobuzは、Audirvāna Studioに連携させカーネルストリーミングモードで再生。Qobuzオリジナルアプリよりも音質的に気に入っている。
Wi-Fiから有線LANになると、トランジェントが改善。楽器音同士の分離もよくなって、録音環境から伝わる空気感もリアリティを増した。ハイやローは伸びよく、帯域的に詰まった感じがなくなっている。ダウンロードよりもストリーミングの方がWi-Fi/有線の違いは感じやすいという予想が当たってしまった。音楽データそのものは変わらないはずなのに、なんとも不思議な現象だ。胡散臭いと思われる方もいるかもしれないが、実際試してみると、気のせいのレベルを超えた明らかな違いが感じられた。
続いて、USB-Cイーサネットアダプターに接続している長いLANケーブルをOPT ISO BOXに接続。BOXからは短めのCAT7のLANケーブルで接続した。通信速度のスイッチは、10Mに設定している。
おいおい、ちょっと待ってくれ。今まで聴いていたWi-FiのQobuzはなんだったのだ。まるで別物と言ってもいい。序盤、ピアノがリズムを刻むところを聴いた瞬間、聴感上のS/Nが改善しているのがわかる。そのリズムもキレが抜群によくなっている。アタックとその後の音の減衰具合の描き方が巧みだ。まるで打ち込みの音が生演奏になったような変わりっぷり。左右の広がりや奥行き表現も改善し、ハイエンドの伸びはさらにアップ。
まさかと思ったのが、サックスの音に有機的な質感まで加わったこと。時に艶めかしいユッコの吹きっぷりが、ハイレゾらしい情報量で目の前に現れた。Wi-Fiのときは、そこに気付く余地すらなかったので、音質の改善は劇的と言って差し支えない。
正直、オーディオグレードの光メディアコンバーターや光入力対応のスイッチングハブはとても高価だったので、4万円を切るOPT ISO BOXの効果はそれなりかも?と侮っていた。何事も自分の耳で聴かなければダメだ。改めてオーディオの基本のキを痛感する。
ここまで音が変わるなら、ローカル保存の同じフォーマットのハイレゾ音源と比べてどこまで肉薄できるのか気になる。TVアニメ「もういっぽん!」の劇伴、成田旬によるメインテーマ「もういっぽん!」を48kHz/24bitのハイレゾで。本作は、アニメの劇伴としてはミックスがアコースティック寄りで、リバーブなどもあっさりしている、お気に入りのアルバムだ。
Wi-Fiでは、ストリングスの高域がヨレヨレで、アコギの粒立ち感もイマイチ。OPT ISO BOXを使うと、激変。分離感・音場の広がり・質感の豊かさ・聴感上のS/N・音の粒立ち・解像感・トランジェント、これらが格段に向上している。レンジ感も広がって、ストリングスは透明感も高まった。
続いて、PC本体に保存された「ダウンロード購入で入手した同じ曲のFLAC」を再生してみる。顕著な差というほどではないが、音の密度、情報量、厚みといった要素でローカル音源に分があった。カホンや左右に定位するアコギも音に芯が入り実在感は上回る。それは気のせいレベルでは無く、ちゃんと聴くと結構違う。ダウンロード音源を買って聴くという過程は、やはり大切にしたいものだ。
電源のノイズ対策でさらにクオリティアップ
本機の電源は、ACアダプターによる外部電源方式。これはノイズ対策の余地アリということで、筆者のレビューでは恒例のFX-ADUIO-によるPetit Susie無印版を使ってみる。
接続をするために本体を触ったとき「おや?」と思った。本体がホカホカと暖かい。トップウイングに問い合わせたところ、使用する室温や環境にも依るが、触って暖かいと感じる程度であれば仕様とのこと。
OPT ISO BOXは、DC 12V/消費電流1Aの仕様となり、消費電力は12Wだ。LAN-光変換が入出力で2チップ、光受信モジュールも同じく2チップ。さらに内部で入出力同士のノイズ干渉が起こらないよう絶縁型DC-DCコンバーターが入っており、その分の損失もあるという。ネットワークスイッチなどの1桁台の消費電力より少し大きめなのは、オーディオグレードのクオリティを支えるための工夫の結果だと言えるだろう。
ともあれ、Petit Susieの最新版をACアダプターとOPT ISO BOXの間に挿入する。これでDC電源のノイズがケアされた。さて、変化はあるだろうか。
全体的に小幅な変化だが、音質へはプラスに働いている。わずかにS/Nが向上。もう1枚薄膜のようなベールが剥がれ、音像がクリーンに。高域に残っていた、雑味も一掃された。低域のエネルギー感がわずかに上昇し、地に足の付いた余裕のある音を聞かせてくれる。ディテール表現もさらに一段階ランクアップして、イヤフォン/ヘッドフォンで聴いているような精密さに近付いてきた。DC電源のノイズ対策、余裕のある方は試してみるのも一案だ。
映像配信サービスにも効果がある?
続いて、同じPCで映像配信サービスをチェックする。Amazon Prime Videoで海外のテレビドラマ「FBI:連邦特別捜査官」を視聴。ブラウザでは無く、デスクトップアプリをインストールして、ビデオ品質は「最高画質」に設定した。
Wi-Fiから有線LANにすると、前後感の描き分けがよりはっきりしてくる。フィルムグレインのノイズ感も精細に、よりらしく見えるように。音声はトランジェントが改善。声のディテールもより生々しく、MAによるコンプの掛け具合も分かりやすい。
OPT ISO BOXを使うと、前後感のさらなる向上(特に被写界深度の深浅が写真並みに真に迫る描写)、さらには空気感まで伝わってくる。肌の発色がより本物らしくなり、シワや色ムラなどの情報量が増した。輝度のピークは若干上がって、取調室のライトは緊迫感を高めている。オーディオ方面は、奥行きと広がりが向上。台詞に掛かるルームリバーブのエフェクトも取り調べ室と、司令室で違いがあることに気付きやすい。
音楽だけでなく、映像配信サービスにも多大な影響があるとは驚きだった。筆者は映像の専門家ではないが、そんな自分でも明らかに分かる画質の差。DELLのモニターには、USB-C一本の接続で、映像も音声もUSBハブも全部任せているので、映像はHDMIに、音声はPCから直接USB-DAC接続とすれば、改善の幅は大きくなりそうだ。
なお、映像配信における通信速度切り替え機能は、10Mだとたまに映像が一瞬途切れるコマ落ちのような事象が起きることがあった。後述するテレビで同じPrime Videoを試したときは、10Mでも再生開始はちょっと待つくらいで、コマ落ちや途切れはない。機器や環境によって、通信速度は切替えるといいいだろう。画質や音質が最も良好なのは、10Mだった。
ちなみに通信速度の初期値は100Mに設定されていた。1Gにすると、Audirvāna Studioで再生するQobuzの音は、のっぺりとして寝ぼけたようなヌルいサウンドに変わってしまった。スピード感も減衰してヨレヨレだ。100Mにすると、これらがいくぶん改善して、10Mでは最良の結果が得られた。ライブ音源は、トリップ感が別次元に高い。環境によっても結果は変わるそうなので、一概には言えないが、音飛びがなければ10Mを試してみる価値はあると思う。筆者環境では192kHzのハイレゾをQobuzから流しても無問題。
難点があるとすれば、曲全体の読込みに時間が掛かるので、再生直後に曲の後半にジャンプできないこと、NASからの音源再生でハイレートのPCMやDSD再生時に音が飛ぶことなどが挙げられる。ただ、その場合も通信速度のスイッチを精密ドライバーなどで切替えれば、問題なく通信出来る。切り替えは電源ONのままで可能だ。(数秒だけ通信は途切れる)
同じ映像配信サービスを、リビングのテレビ、ソニーの有機EL「XRJ-48A90K」で試してみる。テレビにはGoogle TV機能があるので、Prime Videoを視聴した。テレビは、普段からすぐ傍にあるネットワークスイッチN8に有線接続している。
OPT ISO BOXの有り無しを比較すると、基本的な変化の方向性は、パソコンで確認したものと同じだった。ただ、音声はHDMI ARCでテレビからAVアンプに送っている。LANから受け取った映像配信のデータをHDMIから音声だけ出力する処理は、テレビが担っているわけで、LANケーブル経由のノイズ対策が効くのは少し驚きだった。
明らかにオーディオのクオリティも上がっている。広がり感は改善し、ボイスなどの音像ディテールはモヤが一掃されクッキリと浮かび上がる。パソコンで聴いたときと同じような変化があった。
映像は、テレビ側でフルHDから4Kにアップコンバートを行なっているので、内部で様々な処理があるにせよ、もう少しでBlu-rayに迫る高画質だ。映像においても、OPT ISO BOXの導入価値は非常に高いということに、しばし興奮が収まらない。
余談だが、オーディオグレードのネットワークスイッチN8から、Wi-FiルーターにLANケーブルを繋ぎ替えたところ、人物やオブジェクトなどのフォーカス感が甘くなり、シャープさは減衰。画質は悪化した。映像配信サービスにおいても、Wi-Fiルーターに直接LANケーブルを繋ぐのは避けた方がよいだろう。オーディオグレードでなくても、まずは市販のネットワークスイッチ(スイッチングハブ)でもいい。
本格的なオーディオシステムでチェック
場所を移して防音スタジオへ。ネットワークトランスポートを使ったオーディオ面の試聴を行なった。環境は以下の通りだ。
- Wi-Fi中継機 ⇒ ネットワークスイッチN8 ⇒ NASやネットワークトランスポート
- ネットワークトランスポート ⇒ USB⇒NEO iDSD ⇒ L-505uXII ⇒ RUBIKORE 2
リビングのWi-Fiルーターを親機として、無線中継機経由でネットワークに接続している。
N8とネットワークトランスポート「DST-Lacerta」の間には、アコースティックリバイブのRLI-1GB-TripleCでLAN経由のノイズ対策を行なっている。Wi-Fi中継機からN8までは一般的なLANケーブルだが、N8からNASとトランスポートまではオーディオグレードのLANケーブルを使用している。
手始めに、Wi-Fi中継機とネットワークスイッチの間にOPT ISO BOXを使ってみることに。Wi-Fi中継機は、電波を飛ばすこと以外にも様々な処理を行なっているので、ノイズ源でもある。N8に接続するのは、オーディオ用NASのSoundgenicとDST-Lacertaだけ。無線中継機からのノイズを遮断すれば、効果は大きそうだ。
DST-Lacertaは、Taktinaでコントロールすることで、QobuzやAmazon Music Unlimited、TIDAL(日本未サービス)との連携に対応する。Qobuzから楽曲を再生した。
OPT ISO BOXがないと、のっぺりした音場に、淀んだような見通しの悪さ。音の立ち上がりや収束がやや鈍い感じがする。NASの音源を再生するときに比べて満足度はイマイチだ。
OPT ISO BOXを間に挟む。これはすごい。本当に同じ音源か?と思うほど激変である。まず聴感上のS/Nが上がった サウンドステージが一気にクリアに晴れる。カメラのピントが合ったような感覚だ。音像にボケやにじみがなくなり、それぞれがミックスの意図通り描写されることで、立体感や前後感も格段に豊かになった。
映画「ルパン三世 THE FIRST」のサウンドトラックより、ルパンが最後の試練を突破するシーンで流れる「THEME FROM LUPIN III 2019~Gotcha!」をハイレゾで。Fujikochansのコーラスが、なまめかしいったらない。トランジェントが改善したおかげで、声の生っぽさが上がっている。ブラス隊のキレも良くなって、エレキギターのノリノリ度も150%アップ(筆者比)。ゴージャスかつハイテンポなルパンのテーマは、劇中の興奮を思い出させるよう。思わず前のめりになってしまう。
「ぼっち・ざ・ろっく!」結束バンドのきららアニソン歌ってみたから、「SHINY DAYS」。こちらもハイレゾで配信中だ。
電気的に絶縁したり、ノイズフィルタリングを行なうアクセサリーは、音質が改善する反面、ときに中低域のエネルギーをスポイルしてしまうことがあった。光アイソレーションもその懸念が筆者の中に燻っていたのだが、OPT ISO BOXは杞憂に終わった。
音像のフォーカスがピタッと決まり、音像周りのボケやモヤがなくなることで、本来のスッキリしたサウンドが実現するのだが、結果として中低域のエネルギー感が減ったと思う方はいるかもしれない。好みの領域を除外するほどの確信はないが、筆者が聴く限り、ソース本来の音に戻っただけと言おう。現に、スネアやタムのローミッドのパワー感の減衰や、ベースの芯が細くなっているといった事象は皆無だ。ただ、楽器の音だけがクリーンに立ち上がって収束していくだけ。
他にもすごいなと感じたのは、質感表現の向上だ。知虹夏役を担当する鈴代のボーカルは、血の通った有機的な音に変わり、キャラクターのかわいらしさが増している。無味乾燥で味気ないボーカルが、生きている声に変わったかのようだ。ストリーミング配信でもここまで聴けるのかと、しばし幸福感に浸ってしまう。
最後にチェックしたのは、ネットワークスイッチからネットワークトランスポートまでの経路にOPT ISO BOXを使用するケース。もともと使用していたLANアイソレーターはいったん取り外してテストしている。
サックス奏者 小林香織の最新アルバムINTERSECTIONより「On the Bridge」。OPT ISO BOXを使う前は、混濁気味で平面的なミックスがどうも気になってしまう。光アイソレーションを行なうと、生ピアノの強弱のコントラストは深く繊細に。サックスの哀愁と切なさを感じさせる音色は、息を吹き返したように蘇ってくる。小さめの音でミックスされているオルガンの音も、何の楽器がちょっと分かりにくかったのが、はっきりと聴き取れる。音楽が生気を取り戻した、という表現が適当か。
新譜をブラウズして、クラシックを再生。「Neujahrskonzert 2025/New Year's Concert 2025 / Concert du Nouvel An 2025」より「Freiheits-Marsch, Op. 226」。CD音源だが、コンサートホールの高さや奥行きの表現力が格段に上がった。というか、天井の高さに関する感覚はISO BOXを使う前はほとんど感じられないくらい不明瞭だった。奏者がタイミングを合わせて一斉に弾く、あのコンサート会場で味わう一体感は、OPT ISO BOXを使うとよりリアルに。音の前後に感じていた不要なリンギングはなくなり、音場の透明度まで改善。本物らしい生演奏に浸れる。
筆者の環境では、Wi-Fi中継機とネットワークスイッチ間の適用より、同スイッチからネットワークトランスポートの間に使った方が好みの音だった。なるべく終端に使った方が効果的とはよく言うが、どちらも結果は素晴らしく環境によっては好みが別れる可能性はある。
ネットワークオーディオの音質向上は“積み重ね”が重要
ここまで光アイソレーションの効果をご紹介してきたが、一点だけ留意していただきたいことがある。ネットワークオーディオの音質向上やその対策は“積み重ね”が重要だ。環境によっては、効果が弱いときや分かりにくいときがある。振動対策、電源ノイズ対策、LAN経由のノイズ対策、ネットワーク機器の使い方、オーディオグレードへの交換などなど、環境面のケアを積み重ねていくことで、以前は大した効果がなかったはずのアクセサリーが実は良い結果(またはその逆)を見せることがある。筆者もLANケーブルでそれを体験した。
OPT ISO BOXについても、環境によって効果の程度は異なる可能性があり、適用する箇所も必ずしも「ここが一番!」と断言できるものではない。ぜひ、いろんな箇所に適用して、最良の効果が出る場所を探してみてほしい。若干面倒くさいことを述べてしまったが、それらも含めて、ネットワークオーディオの面白みがあると筆者は思っている。
OPT ISO BOXは、光アイソレーションを手軽に安心して楽しめるのが最大の魅力だろう。価格もこれまでのアクセサリーとは一線を画す低価格でありながら、効果は抜群。今後のネットワークを使ったAV周りのクオリティケアを活発化させそうなインパクトを感じるテストとなった。昨年末からデモ機の貸し出しサービスも開始されている。効果を事前に確かめたい方は、チェックしてみてはいかがだろう。