【レビュー】マクセルの注目ハイブリッドカナル「DBA700」を聴く

BA+ダイナミック搭載。「MXH-DD600」はバランス重視


左がバランスド・アーマチュア(BA)とダイナミック型ユニットを搭載した「MXH-DBA700」、右がダイナミック型ユニットを2基搭載した「MXH-DD600」

 日立マクセルから21日に、注目のイヤフォン2機種が発表された。バランスド・アーマチュア(BA)とダイナミック型ユニットを搭載した「MXH-DBA700」(実売1万円前後)と、ダイナミック型ユニットを2基搭載した「MXH-DD600」(実売8,000円前後)だ。発売日は12月10日となっている。

 注目の理由はなんといっても価格だ。BA+ダイナミック型のイヤフォンとしては、AKGが2011年に「K3003」(実売13万円前後)を発売。今年の10月に発売されたULTRASONEの「IQ」(実売79,800円前後)や、7月発売のAtomic Floyd「SuperDarts + Remote」(33,800円)などが存在するが、いずれも高級モデルとして展開されており、実売1万円前後の「MXH-DBA700」は、価格破壊的なインパクトを持っている。

 概要は既報の通りだが、「MXH-DBA700」は高域用のBA×1と、中低域用の8mm径ダイナミック×1を搭載。「MXH-DD600」は、高域用に6mm径、低域用に8mm径のどちらもダイナミック型ユニットを搭載している。型番の数字が「700」と「600」なので、「700」の方が上位モデルのように感じるが、ユニットの種類が異なるため、別の2機種と捉えた方が良いだろう。


BAとダイナミック型ユニットを搭載した「MXH-DBA700」
ダイナミック型ユニットを2基搭載した「MXH-DD600」

 なお、どちらのイヤフォンもネットワークは搭載しておらず、DBA700はBAユニットの背後にダイナミック型を斜めに配置。直接耳に向けて設置しない事で、ダイナミック型から出る高域を抑え、高域はBAが担当。ダイナミック型は中低域の音だけを耳に届けるような配置になっている。

 DD600は、2基のダイナミック型ドライバをいずれも耳に向けて配置。6mmの高域用を前方に、8mmの低域用を後方に配置している。磁気回路にはネオジウムマグネットを採用。筐体は2機種ともアルミの切削となっている。

「MXH-DBA700」の内部。ダイナミック型が斜めに搭載されている「MXH-DD600」の内部。2基のダイナミックを搭載する



■BA+ダイナミックのMXH-DBA700

MXH-DBA700のパッケージ
試聴の様子

 2モデルを試聴したので、音の印象をお伝えしたい。再生には「iBasso HDP-R10」、iPhone 4S+iBassoのDAC内蔵アンプ「D12 Hj」を使用した。

 まず、BA+ダイナミックの「MXH-DBA700」。 「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best OF My Love」を再生すると、ダイナミック型らしい、音圧と量感豊かな低域と、BAらしい高解像度な高域が同時に耳に届く。アコースティックベースの豊富な響きと、ヴォーカルやパーカッションのキレの良い描写が同時に成立しているのは、BA+ダイナミックのハイブリッド構造ならではだ。

 全体のバランスとしては、BAらしい高域の抜けの良さと共に、中域の張り出しも強め。ややドンシャリ気味の、派手目なサウンドだ。細かく聴いていくと、低域はダイナミック型らしいナチュラルな音色だが、高域にBA特有の硬質な付帯音を少し感じる。ダイナミック型の音に慣れている人だと、この音色の違いが気になるかもしれない。BAに慣れた人は、BAらしい細かな描写に、ドッシリとした安定感のある低域がプラスされた、新鮮なサウンドと感じるだろう。なお、AKGやULTRASONEの高級ハイブリッドでは、こうした音色の違いはあまり感じられないようになっており、高級モデルとの違いはこのあたりになりそうだ。

 一般的に、BAイヤフォンでは、高価なマルチウェイタイプにならないと低音が不足しがちになる。また、ダイナミック型では、高価な大口径になると低音の迫力はアップするが、高域の解像感が低下しがちになる製品が多い。そうした中で、実売1万円という、低価格モデルからのステップアップ機種でありながら、BAの良さやダイナミック型の良さを両方取り入れたモデルとして注目すべき製品だ。




■ダイナミック×2のMXH-DD600

 ダイナミック型×2の「MXH-DD600」は、その構成から「中低域がモリモリ出てくるサウンドなのかな」と思いながら装着したが、良い意味で裏切られる。中低域の張り出しは適度なレベルで抑えられ、非常にバランスが良い。

 高域の解像感は、BAで描写するDBA700の方が確かに上だが、2つのユニットがどちらもダイナミック型であるため、高域から低域にかけての音色の統一、つながりの自然さ、ナチュラルさではDD600の方が上だと感じる。

 また、中低域の張り出しがDBA700と比べて、DD600の方が抑えられているため、結果として高域の見通しがDD600の方が良く、付帯音も少ないため、高域の動きは良く見える。

MXH-DD600のパッケージ2機種の周波数特性

 低域の沈み込みはDBA700とほぼ同じで、8mmのダイナミック型によるズシンと芯のある低音が楽しめる。中低域の張り出しは抑えられているが、最低音の深さで2機種に大きな違いは無い。実際、使われている8mmユニットは同じものだがチューニングが異なり、DBA700はBAの高域とバランスをとるため、中低域を張り出し気味にしているという。

 DBA700と比べると、全体的におとなしめのサウンドだが、バランス良くまとまっており、ソースを選ばないサウンドになっている。音にこだわる人ならば、低価格ではあるが、DD600の方が好みだという人もいるだろう。低価格イヤフォンからのステップアップだけでなく、既に高級なイヤフォンを使っているという人にも聴いて欲しいサウンドになっている。


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(2012年 11月 21日)

[ Reported by 山崎健太郎 ]