レビュー
ビクター「WOOD master」の名は伊達じゃない、新ウッドドライバが奏でる極上ボーカルを聴いた
2025年11月27日 08:00
ビクターの完全ワイヤレスイヤフォンに、新たなフラグシップが登場した。モデル名は「WOOD master(HA-FW5000T)」(41,800円)。WOODシリーズに属することは名前からも明らかだが、それでもなお思い切った呼称と言える。
フラグシップの刷新は、2021年の「HA-FW1000T」以来。前作を基準とした期待値は高く、その基準をどう上回ってきたのか? 早速、確かめてみた。
新たな方向性を打ち出したハイブリッドWOODドライバー
本モデルの核心は、ウッド振動板の刷新だ。
HA-FW1000Tでは無垢の木材(カバ)に、カーボンコーティングされたPETを組み合わせた「ウッドドームカーボン振動板」が採用されていた。それに対して、WOOD Masterでは大きく発想を変えている。“木を原料”とするパルプに、アフリカンローズウッドを散りばめた「ハイブリッドWOODドライバー」を新開発した。
今回のドライバーの仕様は、これまでのウッド振動板とは大きく異なるアプローチであり、またそれを完全ワイヤレスイヤフォンに搭載したのが興味深い。
このドライバーの特性を最大限に引き出せるよう、ドライバー前面の音響空間を最適化。加えて、ノズルの長さや角度の調整、音響チャンバーの緻密な設計は、ノイズキャンセリング性能の向上にも寄与している。
豊富なサウンドモードに加えて新機能も搭載
現代のフラグシップモデルなだけあって、機能面も幅広い。
アクティブノイズキャンセリングは、高性能ICと筐体設計の組み合わせで性能を向上。風切り音を抑制するウインドカット、外音取り込み、会話をしやすくするタッチ&トーク、スマートフォン非接続でノイキャンのみ効かせる耳栓モードなど、使用環境に応じて選択しやすい構成だ。
付属イヤーピース「スパイラルドットPro SF」のパッシブノイキャン効果も相まって、かなりの静音性能だ。屋内の空調や外出時のロードノイズなど7割程度カットしてくれる印象。不快感のない自然な効き具合で、これだけ静かになるのはありがたい。
ノイキャンのオン/オフによる再生音への影響は極めて少なく、特有の圧迫感も軽微。ウインドカットだけはちょっと効きが甘い印象もあったが、総じてノイキャン性能は“最強クラス”の一角に並ぶだろう。基本はオンで運用して良さそうだ。
サウンドモードにも特徴がある。一般的なプリセット(FLAT/BASS/CLEAR/DYNAMIC/VOCAL)に加えて、ビクタースタジオのプロエンジニアによるWOOD master専用のPROFESSIONALモードを、次の5つから選択できる。
- PROFESSIONAL1:音楽のエネルギーをしっかりと感じられる、中低域が豊かなチューニング
- PROFESSIONAL2:原音に忠実なナチュラルサウンドと、立体的な音像の再現を目指したチューニング
- PROFESSIONAL3:エモーショナルで泣ける音。深い没入感と、心を揺さぶるチューニング
- PROFESSIONAL4:豊かなアンサンブル感とボーカルの表情、楽曲アレンジの巧みな工夫まで感じられるチューニング
- PROFESSIONAL5:楽曲の構成を問わず、各楽器のプレイがしっかりと伝わる、臨場感のあるチューニング
これだけでも十分ではあるのだが、さらに2つの音質機能が追加されている。1つが、独自立体音響技術「EXOFIELD」を活用して新開発された「空間オーディオ」モード。もう1つが、ユーザーの耳の特性に合わせて自動で音質調整を行なう「パーソナライズサウンド」だ。その効き方については後述したい。
なお、今後のアップデートによって同社の高音質化技術「K2テクノロジー」が利用可能になるそうだ。iPhoneとの接続においても、伝送された信号をハイレゾ相当まで拡張してくれる。ちなみにコーデックは、AAC、SBCのほか、LDACをサポートする。
詳細設定は「Victor Headphone」アプリから行なえるほか、本体のタッチ操作をかなり細かく指定できる。覚えるのが大変なほどだが、アプリを開くことなくたいていの操作ができるので、よく使う機能をあらかじめ設定しておくことで、使い勝手が向上するだろう。
そのほか、2台までのマルチポイント接続、低遅延および安定接続の切り替えなどに対応。バッテリー持続時間はノイキャンオン時/イヤフォン単体で最大7時間、ケース併用で最大21時間ある。日常使いで困ることはほとんどない仕様と言えそうだ。
楽器をモチーフとした本体デザイン、楽器ケースをイメージさせる充電ケースは、ハイエンドモデルらしい差別化ができていて好ましい。耳元を飾るには存在感があるため、さり気なく使いたい方には好みが分かれそうだが、個人的には高級感があって好きだ。少しの傷なら時間の経過とともに目立たなくなる「自己修復塗装」がトップハウジングに採用されているので、扱いに慎重になりすぎず使えるのも嬉しい。
ボーカルの再現性が際立つ、聴き心地のよいサウンド
それでは、いよいよ試聴していこう。Androidスマートフォンと、LDAC接続して確認する。ノイズキャンセリングはオンで、サウンドモードはFLATだ。
全体としてバランスの良い丁寧な描写で、ボーカルの輪郭がひときわ濃く感じられる。ボーカルが一歩前に出ているようなイメージではなく、楽器と横並びだが生々しさが故に浮かび上がってくる、という印象を受けた。
刺々しいところの一切ない再現性で、聴き心地がとても良い。まろやかすぎず、引き締めるところは締め、しかしタイトにはしない。こういうサウンドを、ナチュラルと呼ぶべきなのだろう。この表現はモニタライクと紙一重なところがあり、良い音だが、面白いかは人それぞれかもしれない。ただ、聴きやすいあまりに何度も聴いてしまう、一種の中毒性がある。
「米津玄師/IRIS OUT」では、ボーカルのメロディラインを脳内で思わずなぞってしまう。サビの“ゲロ”の歌いわけや、合いの手のように入る笑い声など、意識することなくスッと聴き取れる。跳ねるようなピアノは、キラキラとはさせず軽やかに描写。低音の量感は必要十分といったレベルで、楽曲をまとまり良く楽しめる。
男女ボーカルを問わず優れた再現性を堪能できるが、かといってそれ以外が苦手なわけではない。「坂本龍一/Merry Christmas Mr.Lawrence」はピアノの弱音が空間に溶けて消えていく様を、自分の呼吸がうるさく感じられるほどの静けさの中で聴くことができるし、「ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団/ハリーの不思議な世界」では奏でられる壮大な物語性にどっぷりと浸れる。あくまで、ボーカルものはボーカルが目立つ、というだけの話だ。
サウンド機能も大いに活用したい
サウンドモードは、ハイエンド完全ワイヤレスイヤフォンには珍しいくらい、それなりに変わる。特にPROFESSIONALモードは「低音が強くなった」といった単純なチューニングではなく、立体感や臨場感などを生み出す大きな変化が体感できる。
個人的には激しめの楽曲にはグッとサウンドが前に出てくる「PROFESSIONAL 2」、しっとりした楽曲には少しだけ重心が下がって感じられる「PROFESSIONAL 3」、といった使い分けが楽しめた。
パーソナライズサウンドは、筆者の場合だが音の抜け感が少し減り、重みが増したように感じられた。この状態が正とも言い切れないが、試してみて損はないだろう。また、パーソナライズサウンドオンの状態でサウンドモードを選択することもできる。
空間オーディオをオンにすると、これまで脳内で展開されていたステージが、頭を中心とした直径30cmほどの円にまで広がるような感覚が得られた。こういった機能のなかではかなり違和感がなく、自然な効果を体験できる。他の空間オーディオ再生に不満がある方も、これは使いたくなるのではないだろうか。
さて、WOOD Masterの価格帯では、音質面で評価の高いテクニクス「EAH-AZ100」もライバルになってくるだろう。FLATの状態で聴き比べてみると、EAH-AZ100はWOOD Masterよりもボーカルが目立たず、少し低音に力強さを感じる。また、響きがわずかにシャープな印象を受ける。音楽を聴く際、どこに重きを置くかで判断が違ってくるだろうが、個人的にはそのままの状態でポップスを楽しく聴けるのはEAH-AZ100かもしれない。
一方で、ボーカル好きならWOOD Masterを選ぶだろう。筆者もボーカルとアコースティックな楽器1本といった構成の楽曲ならWOOD Masterで聴きたい。低音にパンチが欲しければ、上述したサウンドモードで対応もできる。
毛色の違う高音質イヤフォン同士、できるなら2台持ちしたいが、そうもいかない価格帯。どちらか選ぶなら普段聴く音楽の系統と相談したい。
高次元のサウンドと機能を備えたフラグシップらしいモデル
試聴を終えて感じたのは、「WOOD master」という名前が決して誇張ではないということだ。
原音再生を目指して音質を高めると、どこかで個性が薄われがちだが、WOOD Masterのボーカル再生には確かなキャラクター性を感じる。「この音が聴きたいからWOOD Masterがほしい」と十分に思わせてくれる、さすがはフラグシップというべきモデルだ。














