レビュー

ソニー「WF-1000XM6」“第6感、揺さぶる”って何?「AZ100」「WOOD master」と聴き比べ

記事後半でこの3機種を聴き比べ。よろしければお付き合いください

ソニーの完全ワイヤレスイヤフォン最新フラッグシップ「WF-1000XM6」が発売されて、早1カ月。言うまでもなく、そのクオリティは各方面から絶賛されているわけだが、みなさんは本機の発表時に、以下のキャッチコピーが大々的にアピールされていたのを覚えているだろうか?

「第6感、揺さぶる」

おそらく型番末尾の“6”にちなんだワードだと思うが、このコピーを初めて目にしたとき、筆者は画面を二度見した。「第6感だなんて、良いのですか……?」と。

ヘッドホン:WF-1000XM6『第6感、揺さぶる』アーティストの想いに満ちる音。【ソニー公式】

というのも筆者、AV機器や家電のレビューをしながら、同時に「ムー」というオカルトのメディアでも筆を執る身だ。つまり日頃から「目に見えない力」や「未知の感覚」など、“第6感”の領域を扱っている。

そんな自分の立場を自覚しているので、オーディオ関連の仕事をするときは「私オカルトの人ですけどオーディオのレビューしても大丈夫です?」なんて、丁寧に確認しつつやってきた。

……のだが、まさか天下のソニーが、最新テクノロジーを投入しているはずのフラッグシップイヤフォンにこの言葉を冠するとは。よく世間がネタにする、「オーディオはオカルト」という表現を真正面から包み込むこの力強さはなんだ。

ソニー「WF-1000XM6」。公式ストア価格は44,550円

こうなったら、オーディオとオカルトの間を漂う人間として、確認しなくてはならない。ソニーの最新プロセッサーというデジタル演算の極致が、どのようにして人間の深層意識にまで踏み込むのかを。

というわけで少々前置きが長くなったが、今回は大人気のWF-1000XM6のサウンドがいかにして人の“第6感”を揺さぶるのかを軸に、比較対象になりやすいであろうTechnics「EAH-AZ100」、ビクター「WOOD master HA-FW5000T」とも聴き比べる企画だ。三者三様のフラッグシップが描く、“五感と第6感”の狭間に潜っていきたい。

最先端の演算処理が、“第6感”を揺さぶる面白さ

まずは、WF-1000XM6の基本プロフィールを見ていこう。と言いつつ、すでにAV Watchでは何度も記事化されている製品なので、ここでは簡単な紹介とさせていただく。詳細スペックやスタンダードな音質レビューは、以下の過去記事を参照されたい。

ざっくりまとめると、製品としては8.4mm径ダイナミック型ドライバーを搭載した完全ワイヤレスイヤフォン。Bluetooth規格は5.3に対応し、対応コーデックはLDAC/AAC/SBC/LE Audio(LC3)をサポート。バッテリー駆動は本体最大8時間(NC ON時)/ケース充電込み最大24時間となる。

デザインは「黒豆っぽい」との反応もあったようだが、個人的にはマットな質感で好印象

サウンドに関する構造的な注目点としては、上述のドライバーが特許出願中のノッチ形状を採用した専用設計のアコースティック部。そして、高音質ノイズキャンセリングプロセッサー「QN3e」と統合プロセッサー「V2」との連携という、デジタル部の進化が見逃せない。

「QN3e」は、3年前に発売された従来モデル「WF-1000XM5」から処理能力が約3倍に向上し、“世界最高クラス”のノイズキャンセリング性能はさすがのひとことだが、音質に関係する部分でDAC性能が強化されているのもポイント。さらに、統合プロセッサー「V2」との連携により、32bitオーディオ信号処理を実現している。

これら最新プロセッサーの演算能力による、“第6感”を揺さぶる音の表現力とは? ズバリどんな音がするのだろうか。オカルトの目線では、「幽霊を見やすい音域と言われる18Hz~19Hzの低周波をカバーします」みたいな製品の可能性も妄想する。

充電ケースから取り出しやすくてシンプルに使いやすい

で、そんな期待に胸を膨らませ、実機を試聴した筆者を待っていたのは、サイキックな驚き……ではなく、むしろストイックで本質的なサウンド進化だった。

骨格美形なサウンド

WF-1000XM6の音作りには、国際的な音楽賞であるグラミー賞受賞/ノミネート歴のある世界的に著名な4人のマスタリングエンジニアが関わっている。公式によれば、「実際に音楽制作スタジオへ足を運び、さまざまな音楽ジャンルを手がける彼らと意見交換を行なうことで、あらゆる音楽作品の表現や魅力を引き出す高次元の音質を実現しています」とのことだ。

耳へのフィット感も良好

実際に音楽を鳴らしての第一印象は、“余計なものがなく、楽曲に込められた音が満ちる”。デフォルトの帯域バランスはフラット傾向で、低音が上質であり、メリハリが効いている。立ち上がりの良さによる輪郭のクッキリ感など、わりと本質的な進化で、2026年時点の“ソニーの基準の音”を提示された感覚である。

決してモニターライクなわけではなく、低音には深みがあり、オーディオ機器としてちゃんと音楽的だが、ドラマチックになりすぎない。イメージとしては、骨格から整った美形って感じだ。

言うなれば、五感にパッと訴えかけやすい“個性派の音”ではなく、感覚を研ぎ澄ませて感じられる“静寂”とか“質”といった要素にこだわりが感じられる。そう考えると、「第6感、揺さぶる」というキャッチコピーは、本機の魅力をかなり本質的に表現しているのではないか。

結果的に聴き疲れもしにくいし、個人的には、オーディオ目線でもオカルト目線でもかなり好感度が高い。なお、これらの特徴は結構マニア向け(褒め言葉)な気もしていて、そういえばヘッドフォン「WH-1000XM6」を聴いたときも、同じように思ったものだ。

WF-1000XM6は、基本どんな音楽ジャンルにも合うだろうが、個人的には「ボーカル力が高く、早いBPMで多様な質感の音を使った遊びの多い現代ポップス」を、立体的に楽しく鳴らすのが刺さる。何気にそこも、ヘッドフォンのWH-1000XM6と似ていた。

ソニー「WF-1000XM6」を試聴

というわけで、続いてはそんな今どきポップスの試聴感をレポートしていこう。スマートフォン「Pixel 8a」とLDAC接続で、「Qobuz」アプリをプレーヤーとして再生した。

ちなみに、イヤーピースで聴き心地はかなり変わる。筆者は付属のフォームチップをSサイズに付け替えてフィット性を高めたら圧倒的に音が良くなった

まずは男性アイドルの「M!LK/好きすぎて滅!」。とにかくBPMが早く、打ち込みからアコースティックまで質感の違う複数の音が組み合わさるアッパーチューンだ。

激しいリズムのビートに、レトロ感のあるシンセやシルキーな弦など色々な音が同居するが、ひとつひとつにメリハリがあってコントラストが高く、現代感とノスタルジー感を融合したアレンジの遊びがよく見える。ボーカルがわかりやすいので、シンプルに「推しのソロパートを満喫したい」という人も楽しめそう。

なお、新旧問わず、打ち込みやEDM要素のある楽曲は、リズムが立体的に再生されて相性が良いと思う。それこそ懐メロのYMOとかも良い。

一方、ユニゾンやコーラスが多いアイドル楽曲のパターンとして、「日向坂46/クリフハンガー」はどうか。こちらは低音がスピーディで楽曲の疾走感が増し、世界観が研ぎ澄まされて聴こえるのが素晴らしい。シンプルな音で、ドラマが爽やかに展開するイメージだ。

「Mrs. GREEN APPLE/lulu.」は、出だしのブレス音から、複数種類の音が鳴り続けるバック、真ん中に定位する細かいリズム、それらの上に浮かび上がるボーカルまでワイドレンジに描写され、楽曲前半の静けさとサビのゴージャス感にメリハリがある。Aメロ〜Bメロの音数が少ないパートでは、ベースの低音の深みがわかりやすい。

なお、もちろんジャズやクラシックなど昔ながらの定番曲にも、本機はブレずに対応してくる。おなじみの「ワルツ・フォー・デビィ」は、音が近すぎず遠すぎず、程よい距離感のステージ。暗騒音が浮かび上がるように聴こえてきて、ジャズの軸を構成するグルーブにカジュアルにノレる。

Technics「EAH-AZ100」を試聴

さて、WF-1000XM6の対抗馬として真っ先に名前が上がるイヤフォンといえば、やはりTechnicsのEAH-AZ100だろう。

Technics「EAH-AZ100」。公式ストア価格は39,600円で、今回聴き比べた3機種の中で唯一、4万円をギリギリ切る

独自の磁性流体ドライバーを採用したアコースティック構造による音作りで、約1年前の発売から高評価を獲得しているTechnicsのフラッグシップモデル。 AV Watch読者のみなさまはよくご存知だろうし、おそらく店頭で、WF-1000XM6とEAH-AZ100を聴き比べている人も多いのではないか。というわけで、参考までに筆者も聴いてみた。

WF-1000XM6に続いてEAH-AZ100を聴くと、まず低音が厚くて量感がある。同時にクリア感もあり、リッチなドンシャリという印象。全体的に音が近くて余韻の表現があり、楽曲の世界観が頭の中に充満するのがエモい。

WF-1000XM6が骨格の整った美形なら、こちらは目鼻立ちのはっきりした美形って感じだ。程よくリッチで、濃すぎずバランスが良い。オカルト的には、第6感だけでなく五感(聴覚)に真っ直ぐリーチするようなわかりやすい表現も感じられ、釣り合いが取れていると思う。

ちなみに、筆者の耳へのフィット性はEAH-AZ100がぶっちぎりで良い

「M!LK/好きすぎて滅」は、サビ前の「え、好き」というセリフのしっとり感がマシマシで、耳元の近い位置から聴こえる声に潤いがある。音数が多い展開の中で、アコースティックな質感と豊かな低音による打ち込みの圧、どちらもバランスが良い。

なお、「日向坂46/クリフハンガー」の聴き心地は最高だった。大勢で歌う女性ボーカルに華やかさがあるし、ギュッと中身が詰まったように濃厚。豊かな低音と余韻のある表現がうまくハマっていて、楽曲のストーリー性が感じられてグッとくる。

Mrs. GREEN APPLEの「lulu.」は、出だしからボーカルが近くて濃く、低音の沈み込みが感じられる。耳の近くでさまざまな楽器の音が広がって鳴っているのもあり、ボーカルとバックミュージックが一気に鳴り出すサビの迫力が満喫できた。

「ワルツ・フォー・デビィ」は、一気にステージとの距離が縮まって、ウッドベースやピアノの輪郭が太く聴こえる。他機種と比較すると、空間全体の空気の濃度が増して聴こえるイメージで、聴き終わった後に満腹感があった。

ビクター「WOOD master HA-FW5000T」を試聴

さて、WF-1000XM6→EAH-AZ100と来たら、今どきはもう一つ取り上げておきたいモデルがある。ビクターのWOOD master HA-FW5000Tだ。こちらも読者のみなさまはよくご存知だろう。振動板素材に木を採用した、唯一無二のアイデンティティを持つビクターイヤフォンのフラッグシップである。

ビクター「WOOD master HA-FW5000T」。公式ストア価格は41,800円で、WF-1000XM6と同等のハイエンド価格帯

デジタル演算のソニーに対し、天然素材のビクター……と表現するのはさすがに雑かもしれないが、あえて掴みやすく言うならそんな感じ。そして磁性流体(化学)のTechnicsと考えると、それぞれの位置付けがわかりやすい気がする。

しかしこのWOOD master、そもそも日本では古来より、樹木には神や精霊が宿ると信じるアミニズム信仰があるわけで、そんな木を効果的に使って鳴らす音というのは、オカルト的には大変興味深い。オーソドックスに“第6感”に訴えてくるのでは……と期待が上がる。

で、実際に聴いてみたら、むしろびっくりするほど五感(聴覚)にリーチしてきてすごかった。アコースティックな楽器やボーカルの表現力が高いのもそうだし、機能的に「パーソナライズサウンド」や、音声の「PROFESSIONALモード」を搭載するのも象徴的である。鳴らしたい“音そのもの”へのユーザーのこだわり、ある種の偏愛を肯定してくれる感じだった。

例えるなら、「世界観が強いナチュラル美形」である。基本は整っているし美形なのだが、芯があって世界観(たぶん木)が強い。こちらはこちらで、“ビクターの基準の音はコレ”と提示されている感覚。

今回は、デフォルト状態の「FLAT」で体験したサウンドをベースにレビューするが、ユーザーの聴き方そのものをサポートするサウンド機能は、本機の大きな魅力だと思う。

ゴージャス感のあるデザインだが、装着してみると軽くて着け心地はバッチリ

「M!LK/好きすぎて滅!」は、バックで鳴る楽器系の音の綺麗さが印象的で、低音は豊かだがゴリゴリに攻めるタイプではないため、打ち込みのビートはややインパクトが弱まる。ただ、ウォームな音色が合わさることで全体に独特のエモさが漂っているのが面白くて、このエモさが“クレイジーさ”に直結している。

楽曲のテーマ=狂おしいほどの愛で限界突破的な世界観を鑑みると、意外とこのクレイジーな聴き方が最も“らしい”のかもしれない。

「日向坂46/クリフハンガー」は、バックの音の細かさや煌びやかな空気感が印象的。スピーディな疾走感というよりは、そこに体温が感じられる鳴り方だ。ミセス「lulu.」は、楽曲全体を見渡すことができ、楽器の分離感がある。ボーカルの質感やベースの低域に温かみが宿っている。

そして「ワルツ・フォー・デビィ」は、さすがの得意分野だった。ウッドベースの弦が震える細かな振動まで見えるようだし、ドラムのブラシの繊細な描写も良い。ジャズが持つアコースティックなグルーブに、心地よく身を委ねられる。これはエモい。

まとめ:“第6感”の正体

最後に、三者三様のフラッグシップを聴き終えて、改めてソニーの「第6感、揺さぶる」という言葉を反芻してみる。

WF-1000XM6が提示したのは、超自然的な現象ではなく、徹底的なテクノロジーによる音の描写力だった。そのストイックなアプローチが、五感の先にある“第6感”を呼び覚ますトリガーとなるのは、やはり興味深い。つまり、音の情報量が人間の感覚の奥を刺激する。

なお、本文中でソニーを「骨格が整った美形」、Technicsを「目鼻立ちのはっきりした美形」、ビクターを「世界観が強いナチュラル美形」と表現したが、まあつまり、結論は全員美形なのである。どの美しさがナンバーワンかと言われれば、最後はユーザーの好みだ。

もちろん、これら“美”の表現は筆者個人の感覚なので悪しからず……。だが美的感覚とは、我々が日常的に使っている“第6感”の要素だ。なので、感覚を研ぎ澄ませてイヤフォンを聴いた結果の表現と受け取っていただければ嬉しい。

そう、最後はどの“美”が自分の感覚に響くか。ぜひ各自の“第6感”を開いて、最新イヤフォンたちの音に揺さぶられてほしい。

杉浦みな子

オーディオビジュアルや家電にまつわる情報サイトの編集・記者・ライター職を経て、現在はフリーランスで活動中。音楽&映画鑑賞と読書が好きで、自称:事件ルポ評論家、日課は麻雀……と、なかなか趣味が定まらないオタク系ミーハーです。 執筆履歴はhttps://sugiuraminako.edire.co/から。