【レビュー】音声ケーブル無しで音が出る新世代スピーカー

-オンキヨーDLNAスピーカー「GX-W70HV(B)」を試す


オンキヨーの「GX-W70HV(B)」

 DLNA対応のAVアンプやコンポに加え、最近ではDLNA+DTCP-IP対応タブレットも、国内メーカー各社から登場。一方で、AppleのAirPlay対応iPodスピーカーも増加。これまではピュアオーディオマニアが主に注目していたネットワークオーディオが、一般層に広がる土壌が整いつつある。

 そんな中、ネットワークオーディオをより手軽に、シンプルに楽しめる製品が12月3日にオンキヨーから発売された。DLNA対応アクティブスピーカーの「GX-W70HV(B)」だ。価格はオープンプライスで、実売は3万円前後。

 特徴は“極限までにシンプル化したDLNAスピーカー”だという事。DLNA対応コンポは、iPodなどと連携するためのDockや、CD、ラジオなども搭載した、“多機能コンポ”が多い。「GX-W70HV(B)」はその真逆で、DLNAレンダラー機能をスピーカー自体に内蔵。さらに、アンプや無線LAN機能までスピーカーに搭載。電源ケーブル以外、何も接続しなくても音が出る、超シンプルなDLNAスピーカーになっている。




■セットアップはWPSで簡単

2ウェイのアクティブスピーカー

 ケースを開けるとステレオスピーカーが1セット出てくる。後はACアダプタのみ。当然だがアンプもCDプレーヤーも何も無い。リモコンすら無い。背面を見なければ、単なるPC用アクティブスピーカーに見える。このシンプルさが最大の魅力だ。

 設置場所も電源がとれ、無線LANが繋がればどこでもいい。アンプを内蔵している右スピーカーと、左スピーカーを付属のスピーカーケーブルで接続すれば、設置は完了だ。

 ネットワークセットアップも簡単。WPSに対応しているため、ルータのWPS機能をスタートさせた後、右スピーカー背面にあるWPSボタンを押すだけ。今回組み合わせたのはNECのルータ「WR8370N」だが、ルータ側でWPSセットアップをスタートさせる「らくらくスタート」ボタンを押し、スピーカー背面にある赤い「CONNECT」ボタンを押せば、自動でセットアップが完了。悩むところは無い。そもそもスピーカーにディスプレイも何もついていないため、これ以外にする事がなく、悩みようがない。

右スピーカーの背面。赤い「CONNECT」ボタンが、WPS接続用のボタンだ左右のスピーカーをスピーカーケーブルで接続する

 ただ、ルータ側がWPSに対応している必要があるのは注意したいポイント。また、SSIDとパスワードを手動入力する方がわかりやすいという人もいるだろう。WPS以外でも接続する方法をもう1つくらいは用意して欲しいところだ。

 スピーカーとしての仕様は、既発売のPC用アクティブスピーカー「GX-70HD(B/W)」(実売1万円程度)とほぼ同じ。2ウェイのバスレフ型で、10cm径のOMFコーン振動板を使ったウーファと、2cm径のバランスドームツイータを採用。クロスオーバー周波数は5kHz、全体の再生周波数帯域は48Hz~80kHz。

 1系統のみだが、RCAのアナログ入力も装備。サブウーファ出力も用意する。内蔵アンプには、独自のデジタルアンプ技術「VLデジタル」を使用し、ノイズを抑えている。外形寸法と重量は、右チャンネルが123×203×225mm(幅×奥行き×高さ)で、2.2kg。左が123×184×225mm(同)で、1.7kg。消費電力は21W。

10cm径のOMFコーン振動板を使ったウーファと、2cm径のバランスドームツイータを採用奥行きは203mm。幅は123mm付属のACアダプタ


■再生制御にはDLNAコマンダーを活用

 接続が完了すれば、「DMC」(デジタルメディアコントローラー)の出番。DLAN対応のスマートフォン用アプリなどが利用できる。普段使っている、iPhone用のDLNA対応アプリ「PlugPlayer」を起動すると、レンダリング先の機器一覧に「ONKYO Wireless Speaker」という名前が現れる。後はネットワークHDDやPCなど、DLNAサーバーをソースとして選び、再生したい音楽ファイルを選択すれば、スピーカーから音が出る。

「PlugPlayer」でレンダラーを選択しているところ音楽再生中の画面。上部に「ONKYO Wireless Speaker」と表示される同じく、デジタルメディアコントローラー対応ソフトである「DiXiM DMC」でレンダラーを指定する画面

 Windows PCから再生する時は「Windows MediaPlayer 12」を使うのが便利。「メディアファイルの共有」を有効にしておけば、メディアストリーミングオプションの中に「ONKYO Wireless Speaker」という名前が見える。スピーカーとの接続を許可した状態で、MediaPlayer内の楽曲を右クリックすると、「リモート再生」という項目があり、そこから「ONKYO Wireless Speaker」を指定。

 小さなプレーヤーウインドウが立ち上がり、そこからスピーカーへ楽曲が転送・再生される。再生したい曲をどんどん追加するプレイリスト機能も用意している。なお、音量調節もPlugPlayerやWindows MediaPlayerから行なえる。

メディアストリーミングオプションの中に「ONKYO Wireless Speaker」MediaPlayer内の楽曲を右クリックすると、「リモート再生」という項目があり、そこから「ONKYO Wireless Speaker」を指定このプレーヤーウインドウから、スピーカーに音楽が転送される

 なお、スピーカー側で再生に対応しているファイルは、mp3(16bit/32kbps~320kbps VBR&CBR、44.1/88.2kHz)、WAV(16bit、44.1/88.2kHz)、AAC(32kbps~320kbps VBR&CBR、44.1/88.2kHz)。DRM付きファイルの再生には対応していない。また、24bit/96kHzなどのハイレゾファイルには対応していないので注意したい。

 ただし、Windows Media Player 12など、プレーヤー側でハイレゾファイルを16bit/44.1kHzなどに変換してスピーカーに伝送するタイプのプレーヤーであれば、そのまま再生できる。ただ、FLACやApple Lossless、ハイレゾファイルのダイレクト再生は、ネットワークオーディオの醍醐味の1つでもあるため、対応して欲しかったポイントだ。



■何も繋いでいないのに音が出る不思議

 iPhoneでPlugPlayerを操作するだけで、何も接続されていないスピーカーから音が出る。頭では理解しているが、実際使ってみると、なんとも不思議な光景だ。一度セットアップしてしまえば、電源を抜いて、他の部屋に持っていって電源を挿し変えてもそのまま使えるため、リビングでBGM的に使い、書斎で音楽をしっかり楽しみ、寝室でBGMを聞きながら眠る……といった使い方も可能だ。

 また、背面にはステレオミニのアナログ入力も1系統備えている。これにより、PCやポータブルプレーヤーとの有線接続も可能になっている。普段はPC用スピーカーとして使える事で、活躍の機会は増えるだろう。

 なお、右スピーカー前面にはアナログ入力とDLNAのミキシングボリュームも備えており、左いっぱいにするとDLNAの音のみ、右にするとアナログ入力の音のみを再生できる。両方同時に使いたい時は中間地点に合わせるわけだ。

PCと組み合わせた利用イメージ右スピーカーの前面。ミキシングボリュームを備えている

 音質はオンキヨーらしい、ストレートな音色で、バランスもニュートラル。中高域の付帯音が少なく、デジタルアンプならではの解像感と情報量の高も手伝い、クリアで明瞭な描写が特徴だ。

 TREBLEとBASSの調節も可能で、最初はどちらのツマミも中間地点に合わせて聴いたが、低域に量感があり、「高級なPCスピーカー」という印象のサウンド。しかし、しばらく聴いていると低域が中高域に覆いかぶさり、明瞭度を低下させているのが気になってくる。

 量感はあるが、ズシンと深く低域は沈まないので、BASSのメモリを回していっても中低域が膨らみ、悪く言うとボワボワした音になってしまう。デフォルトの180度位置ではその傾向が強い。かといって、0度では低域が痩せ、スカスカした音になる。中間、だいたい45度くらいに合わせると、エンクロージャの低域が膨らみすぎず、適度に量感があり、明瞭度も低下しないバランスになった。「ズシン」、「ズズン」という、地を這うような重低音よりも、クリアな中高域でヴォーカルなどを定位良く再生するのに向いたスピーカーであり、さらなる重低音再生を目指す場合は、サブウーファの追加を検討すると良いだろう。



■まとめ

 ネットワークオーディオ機器として見ると、FLACやハイレゾ音源のダイレクト再生に対応していない点は残念だ。ライブラリに非対応のファイルが多い場合は、スマートフォンなどからはリアルタイム変換して再生できないため、利用シーンをよく考えてから購入したい。また、次のモデルではDLNAだけでなく、AirPlayへの対応も実現して欲しいポイントだ。

 スピーカーだけで完結した手軽さや、実売3万円前後という価格を考えると、ピュアオーディオとして音質を追求するネットワークオーディオと異なり、シンプルかつ手軽に音楽を楽しむためのネットワークオーディオ機器と考えた方が良いだろう。 置き場所を選ばず、いちいちソースを有線接続しなくて良いという使いやすさ、DLNA機能を使わない場合でもアナログ入力でPCスピーカーとして活用できる事が何より魅力だ。音の良いPCスピーカーをPCの脇だけでなく、様々や部屋で使いたい……そんな用途にピッタリハマる製品だろう。

 音質もミニコンポと互角以上に戦えるクオリティであり、セットアップも手軽だ。スマートフォンの普及が進む中、ミニコンポやラジカセ、PC用アクティブスピーカー、iPodスピーカーに続く、“もう1つの選択肢”として、新しいオーディオ機器ジャンルを切り開く可能性を秘めている。


(2011年 12月 13日)

[ Reported by 山崎健太郎 ]