本田雅一のAVTrends

ソニーの左右分離イヤフォン「WF-SP700N」は、スポーツ用の決定打になるか

 ソニーのCES 2018会場では左右完全分離型ワイヤレスながら、ノイズキャンセリング機能とIPX4の防滴性能も搭載した「WF-SP700N」、スポーツ向けネックバンド型ヘッドフォン「WI-SP600N」、ハイレゾヘッドフォン「MDR-1AM2」などを視聴できた。

CES 2018のソニーブース

 ブース内ではスポーツ向けイヤホンの商品企画を担当したソニービデオ&サウンドプロダクツのシニアマーケティングプランナー米田しおり氏も取材できたため、昨年末に掲載したスポーツ用左右独立型ワイヤレスイヤフォンレビューの“続編”をお届けしたいが、その前に少しだけ「MDR-1AM2」について触れておきたい。

MDR-1AM2

 軽量コンパクトでありながら音質にも定評あったMDR-1Aだが、今回のモデルは素材や骨格が大きく見直されている。見た目は写真の通りだが、何よりも装着感が軽快になった点を評価したい。軽量化が図られた上で、イヤーパッドの縫製パターンを改良。より丸みあるフィット感の高い形状となった。

 その上で4.4mmバランスケーブルを同梱したMDR-1AM2は、NW-ZX300にバランス接続されてブースに置かれていた。中にはいくつか聴き慣れた定番曲もあったが、前モデルと比較してのレポートではないため、ごく簡単に印象をお伝えしておきたい。

 ソニーのポータブルオーディオ製品は、Extra BASS(エクストラベース)シリーズなどキャラクターが特徴的な製品を除くと、自然に拡がるサウンドステージや音場全体に漂う空気感まで感じられる見通しの良さなどを目指してきた。何年か前までの、ピシッとシャープな音像が頭の真ん中に定位して突き刺さるような、ある意味ストイックではあるが刺激的な方向ではなく、ハイレゾならではの情報量を感じさせる。

 そうした音質を追求した先にあったのが、MDR-Z1Rなどのハイエンド製品群だったが、MDR-1AM2も軽量・コンパクトといった特徴を引き継ぎながら、そうした“ハイレゾだから感じられる”情報の多さ、柔らかさと硬さの描き分けができる上質な音に進化していた。これはZX300のキャラクターとも重なっており、「ソニーの考えるハイレゾの音」を継承している。春登場の製品版に期待したい。

 さて、WF-SP700Nだが、「装着感」「安定感」「ノイズキャンセリング機能」「音質」についてそえぞれチェックした……のだが、音質は米田氏自身が「エクストラベースシリーズ(XB)そのもの」と説明したそのまま。EDMを流しながらランニングやワークアウトを行うことを意識して、意図してXB系の音作りにしたそうだ。

F-SP700N

 ノイズキャンセリング機能で低域ノイズを低減すると、どうしてもダイアフラムの低域特性の限界が訪れやすいため音痩せしやすいものだが、しっかりと“エクストラベースの音”になっていた。

 もっとも、スポーツ用として考えるなら、装着感がもっとも気になるところ。179ドルと日本円で2万円程度に価格を抑えられており、これでランニングでも安定した装着感を実現しているなら「ラン専用」で入手を検討したい製品と言える。

 さて、本機のシステムとしては昨秋に発売した「WF-1000X」の技術・コンポーネントを踏襲。シングルマイクによる集音でノイズキャンセリングしているのも同じで、アプリでノイズキャンセリングのプロファイルを切り替えながら利用できる。能力的にはやや1000Xの方が高いのでは? という印象も受けたが、概ね同等と言っていいだろう。

 Sony Headphones ConnectもSP700N向けにアップデートされており「Quick Setting」と音楽再生機能が追加されていた。後者はあらかじめプレイリストを指定しておき、ワークアウトを始める際にすぐに”いつもの”音楽をかけることが目的。前者は外音取り込みなどの設定を記憶させておき、ふだん自分がワークアウトしている場所に合わせたセッティングにボタンひとつで切り替えられる。

 たとえば、普段はフラットな特性+最大限のノイズキャンセリング機能をオンにしておき、屋外ランの時だけ低域のリズムを強調するイコライザ設定とノイズキャンセリング機能を外音取り込みモードに切り替える……といった使い方が想定されている。

 できれば、この機能に「いつものプレイリストを自動再生」なんて機能もあれば、装着したらすぐに音楽がかかるが、残念ながらそうしたことはできない。最近はランニングやスポーツを意識したスマートウォッチも増えているので、シンプルに接続先デバイスを切り替えるといった機能も欲しい……などと米田氏に“お願い”を伝えつつ、フィッティングを確認してみた。

 SP700Nのイヤーチップは、耳の溝に沿わせて安定させるアークサポーター(前回のコラムで“角”と表現していたスタビライザ)とイヤーチップに分かれる2ピース構成。アークサポーターはM/L、イヤーチップはSS/S/M/Lが同梱される。余談だが、アークサポーターとイヤーチップの色は各色ごとに微妙に着色されている。

 アークサポーターが2種類で大丈夫か? との疑問が湧くだろうが、実はLサイズも小さめで、硬さも程よい柔らかさ。米田氏はかなり小柄で顔の小さい女性だが、Lサイズでも普通にフィットしていた。商品説明に立つ女性も同じで、基本的にはLサイズだけで多くの人にとって充分な安定性が得られるだろう。

 ただ取材前日、説明員に聞くと「欧州系白人女性の中には、驚くほど耳のサイズが小さい方もいるそうで、そうした小さな耳を想定しているのがMサイズのアークサポーター」とのことだった。

 実際の装着感は重心位置のバランスがいい。機構デザインとしては、耳に差し込むポート部よりも前に位置する方が長いデザインになっているが、重心は逆にポート部よりも後ろに来るように部品配置やドライバユニット配置などが工夫されている。

 その結果、アークサポーターが耳の溝にしっかりとかかり、歩けば歩くほど、走れば走るほどしっかりと密着して落ちにくいという印象だ。Jaybird RUNの方がマスの集中感はあるが、SP700Nの装着感はアークサポーター、イヤーチップとも当たりがソフトで“耳栓感”が小さい。

 では安定性はどうか。

 上記のように重心位置の工夫でラン時の安定性は良さそうだが、実は本機の“空豆型”形状がさらに安定性を高めている理由なのだという。重心は後ろにありながら、前に長いデザインだが、上から見ると内側に緩くカーブしている。人によってはこめかみに軽く当たるぐらい。「詳しくはノウハウもあるので(米田氏)」とのことだが、この形状が運動時の安定性に寄与するという。

 1個あたりの重さは0.27オンス(7.6g程度)とJaybird RUNよりも少し重いが、安定感は同等で、むしろ耳当たりが良い分だけ軽快に感じられる。ノイズキャンセリング機能があるため、元々の設計思想として遮音性を重視していないことが良いフィールをもたらしている。が、もうひとつ同じ理由で優位性を感じたのは、耳栓感が少ないことによる足の着地ノイズが軽いことだった。

 試着は展示会場という特殊な環境だったため、外音取り込みモードを使いながら屋外ランニングをした場合、どのように周囲の状況が感じられるのかなど、まだ気になるところはある。しかし、音楽とランニングに集中するためノイズキャンセリングは欲しいが、人の声や周囲の状況は把握したいとうニーズを満たせる商品はSP700N以外には存在しない。

 日本での発売日や価格は未定だが、北米での手頃な価格設定を考えると、“スポーツに特化”して選ぶなら、極めて有力な選択肢になってくれそうだ。

本田 雅一

PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。  AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。  仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。  メルマガ「本田雅一の IT・ネット直球リポート」も配信中。