本田雅一のAVTrends

CEATEC特別編:CEATECに行ったら、ここを見よう!

~ CELL REGZAインタビューと注目ブースを紹介 ~



 火曜日からCEATEC JAPANが始まった。ご存知のように、今年はパイオニアが出展を見合わせ、日本ビクターも開催直前になって撤退し、PC業界ではWindows 7発売直前のマイクロソフトも展示しないなど、昨年までの状況を考えるとホームエレクトロニクス部門のホール構成はやや寂しい状況になっている。しかし、開催前にレポートしたソニーの「HFR Confort-3D」をはじめ、この日のために温められてきた興味深い展示はたくさんある。

 筆者は初日、午後2時半からCELL REGZAに関連したインタビューの約束で会場を訪問したのだが、その後も短時間ながらブースひと周り。CELL REGZAのインタビューを中心に、個人的に目に付いたいくつかの展示を紹介する。


 ■ CELL REGZAオンリーの東芝ブースは必見

CELL REGZAのみの東芝ブース

 幕張メッセ・ホール1~3にある家電エリアで、真っ先に尋ねたいのが東芝ブース。なにしろ、ここには発表されたばかりのCELL REGZA(CELLレグザ)と、CELL REGZAにまつわる将来技術の展示しかしていないのだ。そのおかげで東芝のスマートフォン「Dynapocket」は、となりの小さめのブースに追い出されてしまったほど。この計画を数日前に知ったときは、思わず「本気?」と聞き返してしまった。

 さっそくミスター・レグザ。東芝DM社 映像マーケティング事業部 グローバルマーケティング部 参事で、レグザの商品企画からマーケティングまでを仕切る責任者の本村裕史氏に「一体どういう事?」とインタビューしてみた。

ミスター・レグザ、本村裕史氏
 「CELL REGZAは、我々東芝のテレビ部門が、5~6年をかけて作り上げることを目指したテレビの理想型を具現化した製品なんですよ。通常のレグザは民生用の製品ですから、当然、そこにはコスト面などで妥協しなければならないところもたくさんあります。その代わり、手頃な価格で様々な機能や画質をお届けできているのですが、東芝の考える理想レグザの姿はCELL REGZAなんです」

 「CELL REGZAは従来のテレビの概念を超えたものですから、そこに通常のレグザを混ぜるとメッセージがブレてしまう。したがって、CELL REGZAの魅力を知ってもらい、それが現在のレグザ、将来にレグザにどう繋がっていくのかを知ってもらうブース構成にしました。社内的にも異論はなく、コレ一本で行こう!とスムースに決まりました」と今回のブース戦略。

 もっとも、CELL REGZAの実際の店頭価格は80万円程度になりそうと言われている。ある意味での理想型ではあるが、誰もがCELL REGZAを買えるわけではない。しかしCELL REGZA発売後のシナリオについて、本村氏が興味深い話をしてくれた。

 「CELL REGZAは東芝製液晶テレビの、ひとつの到達点です。“レグザはこれをもって完成し、本当のスタートを切れる”ところにやってきたと自負しています。スゴイテレビが出来たぞ!で終わりではなく、より良いテレビを求めるレグザの旅はこれから始まるんです」と本村氏。

CELLレグザDNAの進化
 「ひとつはCELL REGZAが実現している機能を、コンパクトな専用LSIに落とし込んで、より低価格なモデルにも投入していきます。たとえば9000シリーズではCモデルがなくなり、外部USB HDDに録画できるRモデルが投入しました。新型の低コストなコントローラLSIを開発したことで、Zシリーズのソフトの一部を応用できたからなのですが、CELL REGZAの録画機能の一部のエッセンスは3チューナ同時録画のZXシリーズに活かされてます。超解像LSIも、元々はCELL向けに研究開発していた機能を、ハードとして実装したものですよね。同様にCELL REGZAの機能は、様々な形で皆様に届けます」

 「別の方向として、CELL REGZA自身も進化させていきます。ソフトウェアのアップデートで機能を増やしたり、新機種で追加される機能の一部を既存のお客様にも提供していくというのがひとつ。もうひとつは何年後かわかりませんが、さらにスゴイハードを作れるようになったら、ハードウェアのプラットフォームも進化させたい。そうやってハード・ソフトの両輪で、東芝の考えるテレビの理想型であるCELL REGZA自身もアップデートしていきます」

 この2つがCELL REGZAを起点にした、今後のレグザシリーズの展開なのだが、実はもうひとつ期待していることがあるという。それはCELL REGZAが投入されることによる市場環境の変化だ。

 「たとえば音。CELL REGZAでは音質を大きく向上させましたが、音が良くなると映像がキレイに見え、映像から伝わる感動が増幅されます。立派なAVシステムを持っている人なら知っていることでしょうが、消費者や流通、それに東芝社内の人間なども含め、知らない人もたくさんいます。音なんか良くても、値段が高くなったらテレビは売れない。そう思っているだけでは進歩がありません」

 「CELL REGZAによって社内にも流通にも、そしてお客様にも“良い音にコストをかける”ことが、実はとっても大切という認識が拡がってくれば、通常のレグザシリーズにも、より良い音を実現するためのシカケを入れて行くことができるでしょう。この隠れた波及効果は大きい」と本村氏は話してくれた。


 ■ サウンド体験と3Dに注目

従来型との画質比較

 CELL REGZAには機能面以外にも、画質的に512分割という超細かな分割によるアグレッシブなバックライトの部分制御(ローカルディミング)の凄まじい効果がわかりやすいと思う。従来のローカルディミングは、制御できる範囲が大きすぎ、明るい部分の周りに白い部分(Halo)が出るのを抑えるため、背景が黒くなる時以外、実際にはあまり極端な明るさ制御は行なっていなかった。

 CELL REGZAの場合、ダイナミックレンジの広い映像では漆黒の闇と眩い輝きを両立させる絵が出てくるが、反面、映画ソースになると程良い明るさ感と階調の丁寧な描き分けが行われるなど、とっても塩梅の良いチューニングがされている。

 本村氏は「元々、僕らの中にはブラウン管の底知れないコントラスト感というのが理想としてありました。CELL REGZAプロジェクトでは、通常製品よりずっとコスト制限が緩かったので、それなら自分たちで特注液晶パネルを作ってしまえ!と。そうして生まれたのが、1,250cd/m2の輝きと512分割ローカルディミングだったんです」と話す。

 ただし、ここでひとつ伝えておきたいのは、単に高スペックなパネルを使ったから高画質というわけじゃないこと。まだ未完成だったCELL REGZAの絵を何度か見ていたが、最初はギンギンギラギラで、元気はいいけれど不自然で、ハイライト周辺には目立つHaloがたくさん出ていた。潜在力のあるコストの高いパネルを作り、その上にきちんと絵作りをしたのが今のCELL REGZAの絵というワケだ。

 本村氏が語るように、CELL REGZAのもうひとつ体験しなければわからない良さが、音。コイツの音は本当にいい。良いアンプ、良いスピーカーユニットを用いた独立ユニットなのはもちろんだが、それだけで音が良いわけではない。最初に聴いた時は、「ふ~~ん……」という程度だったのだが、最終的には「えっ? これがあの音の悪いREGZA ?」と耳を疑う出来に仕上がっている。この音の仕上げを担当した東芝DM社でも生粋のオーディオマニア、桑原氏はCELL REGZAのサウンド体験コーナーにいらっしゃるので、是非ともその熱い想いを実際に尋ねてみるといいだろう。

3D CELLレグザ

 そして、将来の技術として展示されている3D。これは並んででも評価する価値がある。デモ内容はジェスチャーによる3Dインターフェイスと3D映像なのだが、液晶パネルでフレームシーケンシャル表示を実現したディスプレイ技術が、実はスゴイ。

 液晶パネルのフレームシーケンシャル3Dは、応答速度の問題もあって、左右の絵の成分が混じり合い、ゴーストの輪郭が見えるなどの問題が出るクロストークが強く出るか、あるいはアクティブシャッターメガネの開口時間が短くなって暗くなるなどの問題がある。ドイツで開催されたIFAに展示されたソニーの液晶パネルを用いたフレームシーケンシャル3Dも、クロストークはよく抑えられていたが、少々暗い印象だった。

 東芝のフレームシーケンシャル3Dは、ソニーのような黒挿入を挟んだ240Hz駆動ではなく、120Hzで左右の眼に向けた映像を交互に出す方式で黒挿入はない。ところがクロストークは非常に少なく、その上、とても明るい。担当者によると、液晶セルの駆動信号に補正をかけ、液晶シャッターの開口率がもっとも早く落ち着くような制御を行なうことで、クロストークの少なさと明るさを獲得しているという。見た目の応答速度を高めるオーバードライブ制御とは、全く別の補正技術とのことだ。

 まだ技術展示とのことで、商品への応用時期などは全くの未定だが、液晶テレビによるフレームシーケンシャル3Dとしては、今CEATECでナンバーワンの完成度だと思う。


 ■ さすがの完成度。製品化直前のパナソニック3D製品

3Dシアターは昨年も人気のコーナーだったが、今年も初日から長い列ができていた。入場には、ブース前で配布される整理券が必要
 3Dと言えば、やはり先鞭を付けたパナソニックは忘れてはならない。パナソニックは昨年の時点でも、自社製のUniphierプロセッサを用い、ソフトウェアの変更だけでBlu-rayからの3D映像再生を行なってみせていたが、今年もそれは同じ。見た目には昨年と大きく違いはないように思えるだろうが、HDMIとBD-ROMの3D規格がほぼ本決まりになってきたことで、より製品に近い形での展示だ。

 製品化を意識した50インチの3Dプラズマテレビは、やはり製品化を意識してデザインや性能、チューニングを見直した新型メガネとともにチューニングされており、103インチの3D試作機でのデモと比べると、フリッカー感が減っている。開口時間がギリギリまでチューニングされて長くなったのだろうか。

 50インチ化で暗くなる事も予想されたが、暗さを感じることは無く、インパルス応答によるキレの良いフレームの切り替わりは、クロストークを大幅に抑え込んでいる。明るさとクロストークの少なさを中心に現地でチェックしてみるといい。

 さすがにもっとも早い時期から取り組み、製品化に最も近いというだけあって、システムとしての完成度はダントツに高いという印象だ。


 ■ HFR Confort-3Dのデモ、鑑賞のポイント

ブース中央のステージは3D一色のソニーブース

 初日、長い行列ができていたソニーのHFR Confort-3Dデモルーム。開発した黒木氏へのインタビューはすでに掲載しているが、知人からは「デモを見ても何が凄いのかよくわからなかった」との感想をもらった。

 このデモでは、240Hz表示が可能なように改造した3Dプロジェクタを使い、左右チャンネルの映像をリアプロジェクションで同時投写している。円偏光をかけてパッシブメガネで見る形式だ。

 このカメラでは1個のレンズを使って3Dの視差を作るため、左右の眼の幅はおおよそ2~2.5センチぐらい(レンズ設計によって変化する)と小さく、左右の映像のズレはほとんど1ピクセル以下。大きな所でも数ピクセル分程度だ。このため、メガネを外しても違和感なく2D映像として楽しめる。しかし、メガネをかけると奥行きがあり、ズーム率やフォーカスポイントが変化しても、違和感なく自然に見えるというのがポイント。

 さらに240Hz表示によって、久米島はての浜のテクスチャが、高速で移動しながらもボケずにハッキリとディテールが認識できる。その前、デモの冒頭でも、地球儀などが動いているのに中の文字が読み取れるのが見える。

 最後のトヨタカップでのサッカー。動きの滑らかさだけでなく、現実の選手が目の前にいるかのような実在感。単に3Dになっているだけでなく、動きの中でもユニフォームのテクスチャや選手の表情などがボケずにクリアに見えるというのは、従来の60Hzでは得られなかった体験だ。


 ■ 手軽に楽しめるDLNAコントロールソフト

TwonkyMedia Beam
 最後に大手ブースの列に並ぶのに疲れてきたら、パケットビデオのブースを訪れてみてはどうだろう。ここでデモしているTwonkyMedia Beamというソフトウェアは、ちょっとしたアイディアソフトなのだが、実に興味深い機能を持っている。

 パソコンを使ってストリームの音楽や動画を見る機会は増えてきている。これをテレビでも見たい、あるいは手持ちのオーディオで楽しみたいという要求は当然あり、YouTubeアクセス機能テレビに追加されたりしている。

 しかし、TwonkyMedia Beamがあれば、各機器がネット上のメディア配信サービスに対応する必要はない。DLNA1.5のDMR規格(デジタルメデイアレンダラー)に対応しているテレビやオーディオ機器に対して、インターネットのストリーム映像を中継してくれるのである。レンダラー側から見るとTwonkyMedia BeamはDLNAサーバー、DLNAコントローラに見え、ネット上のサービスからは通常のストリーム再生クライアントに見える。

 操作はInternet Explorerのプラグインとして動作し、ネット上で見つけたメディアのリンクからDMRへと送信操作をすれば、その機器で再生が始まる。テレビを見ながら手元のNetbookでWebにアクセスし、それをテレビで見たいと思ったら、目の前のテレビに再生指示を行なう。

 ちょっと未来チックな操作を楽しめるTwonkyMedia Beamは、小粒ながらなかなか面白いソフトだ。なお、DMR対応のオーディオ機器は多数あるのだが、対応テレビは現時点では少ない。こちらで無償ダウンロードできる。

□関連記事
【CEATEC JAPAN 2009 レポートリンク集】
http://av.watch.impress.co.jp/backno/ceatec2009/
【CEATEC JAPAN 2008 レポートリンク集】
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/link/ceatec.htm

 

(2009年 10月 7日)


本田雅一
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]