藤本健のDigital Audio Laboratory

第749回

iPhoneで部屋の音を測ってオーディオ環境改善。小型マイク「i437L」を試した

 いま聴こえている音を客観的に測定するツール「SPLメーター」。単純に騒音レベルを測るための安価な騒音メーターから、より精密に測定するプロ音響用のメーターまでいろいろあり、精密に測れるツールがあれば自分のオーディオ環境も客観的にチェック可能となる。

マイク「i437L」をiPhone Xに装着

 高精度なものとなれば、当然かなり高価となり、一般ユーザーには手が届きにくくなってしまう中、比較的安価にiPhoneを使ってチェックするツールも存在する。測定用のマイクを用いてiOSアプリでリアルタイムに音を解析するという手法なのだが、先日発売されたばかりのMicWというメーカーの、2万円を切る「i437L」というマイクで試してみたところなかなか面白いものだったので、どんなものなのか紹介しよう。

部屋でどのように音が鳴っているのかをiPhoneとアプリでチェック

 自分のオーディオ機器の音をいかにいい音で聴くか、というのはオーディオファンにとっては永遠のテーマであり、みんなさまざまな手で改善を試みていると思う。スピーカーやアンプをより良いものにするのもいいし、ケーブルを変えるというのも一つの手段だ。もちろん電源周りを見直したり、電源ケーブルに高価なものを用いることでも音が変わるケースもあるけれど、結構見落としているのが“部屋そのもの”ではないだろうか?

 スピーカーと壁の距離がどうなっているかで、音は大きく変わるし、壁がコンクリートなのか、木なのか、カーテンがかかっているのか、といったことでもかなり音は違ってくる。また部屋にある本棚やCDラックなどの家具の配置、さらにはどんな本が置いてあるのか、その本の数などによって反射音が変わってくるために、オーディオの聴こえ方は大きく変わってくる。この辺はちょっとケーブルを変更するなどよりも大きな影響があるのが実際のところだ。もちろん壁や天井に吸音材を貼り付けたり、調音パネルを置いてみるというのも、かなり効果があるのだが、どのように家具を置き、吸音材を設置すればいいのかというのは、部屋やスピーカーの配置によってまったく変わってくるだけに、「これが王道」というのがないのが難しいところでもある。

 最近のオーディオシステムの場合、いわゆるキャリブレーション機能を装備したものもあるので、部屋の状況に合わせてオーディオ側を調整することで、ある程度最適化を図ることは可能だ。ただし、この場合はEQで補正をかけるため、「EQを使うなんて邪道」というピュアオーディオ派には受け入れられないかもしれない。それなら、自動でのEQ調整などは利用せず、自ら部屋を調整しながら最適な音にしていくのがよさそうだ。もちろん最終的には自分の耳でチェックすべきだが、客観的なチェックをするために測定器があれば大いに役立つはず。かといって、あまりにも高価なものだと、なかなか手が出しづらいところだが、今回紹介するシステムなら、一般ユーザーでも手が届く価格で、かなり正確な測定ができてしまうのだ。

 今回テーマにするのはMic Wの「i437L」というLightning接続の無指向性測定用マイクロフォン。わずか50mm、10gという小さなマイクではあるが、IEC 61672 Class 2サウンド・レベル・メーター標準に準拠した測定用のマイクとなっている。MicWというメーカーについてご存知ない方も多いと思うが、同社では、これまで音響測定とレコーディングのための高品質・高性能のマイクを数多くデザイン/製造してきたメーカーで、「iシリーズ」というiPhone/iPad/iPod touchなどを対象にしたマイクは世界各国で幅広く使われているようだ。

i437L
重さはわずか10g

 筆者も以前、i266およびi456という単一指向性のマイクを使ったことがあったが、なかなか高感度・高性能なものだった。ただしi266やi456など、従来のiシリーズはいずれもアナログの4極ヘッドホン端子に接続するタイプのものだったため、同端子が無いiPhone 7以降だとやや扱いにくいものだった。しかし、今回発売されたi437LはLightning端子に直接接続可能なため、iPhone 7、iPhone 8、iPhone Xでも変換アダプタなど使わずに利用でき、非常に便利になるとともに、さらに高性能化している。

i456(左)、i266(右)

 マイクの難しいのは、基本的にアナログ機器であるだけに、個体ごとに微妙に特性が異なる点だ。とくに感度がどうなっているかは測定器として利用する上では非常に重要なポイントとなるのだが、このi437Lを含め、iシリーズは、出荷前に個別に感度の検査が行なわれており、付属のマニュアル内に、その検査結果が記載されている。実際、今回使ったマイクの場合、24.5Pa/FSと手書きで記載されているので、これを元に、測定アプリ側で調整すればいいのだ。

感度の検査結果が添付されている

 とはいえ、この数値も特定条件下での検査した結果だけに、自分の測定したい環境では多少のズレが発生する可能性もある。そこで、さらに厳密に調整するためにMicWではCA114という別売のキャリブレータを用意している。

キャリブレータのCA114

 これは小さな黒い小箱なのだが、中央にiシリーズのマイクをスッポリさせる穴が開いていて、この穴の内側から1kHzのサイン波が94.4dBという音圧で出力されるようになっているのだ。そのため、アプリ側で入力が94.4dBであるように一度調整してしまえば、その後は正しい値での測定ができるようになる、というわけだ。このCA114は電池2本で動作するサイン波発生装置で、電源のON/OFF以外の設定もないシンプルなシステム。

電池駆動でサイン波を発生させる

 公開されているブロックダイアグラムを見ると、内部にリファレンスマイクおよびA/Dコンバータも搭載されているので、実際に鳴っている状況を逐一チェックしながら、94.4dBを出し続けるようなフィードバックをかけているようだ。もっとも、発売元であるエムアイセブンジャパンのネット直販価格を見ると、i437Lが19,800円(税込)であるのに対し、CA114が48,060円(税込)と値が張る。そのため、「音圧の数字が大切」ということでなければ、まずはマイクだけの導入でもいいかもしれない。CA114を用いてキャリブレーションをしても、しなくても周波数特性など相対的な測定結果に大きな差はないので。とはいえ、ここでは、このCA114を使いながら試してみた。

アプリを追加するとさまざまな測定が可能に

 今回、マイクのi437Lと組み合わせて使ったのは、先日購入したiPhone X。ここのLightning端子にi437Lを取り付けてみた。普段よく使っているShureのマイク、Motive MV88と違い、iPhoneケースを取り外さなくてもそのまま取り付けられたのは嬉しいところ。

iPhone Xにi437Lを装着

 この状態で、すでにiPhoneの入力は内蔵マイクではなくi437Lになるのだが、測定器として使うにはアプリをインストールしなくてはならない。MicW自体はアプリをリリースしていないので、他社が出しているアプリを入手する必要があるのだ、発売元のエムアイセブンジャパンによると、動作確認ができているアプリとしては、下記の4つがあるという。

・Faber Acoustical社 SignalScope Pro
・Studio Six Digital社 AudioTools
・Studio Six Digital社 SPL Meter
・Embedded Acoustics社 iSTI Professional

 調べてみるとSignalScope Proは8,800円、AudioToolsが2,400円。iSTI Professionalは199ドルだが、国内では発売されてない模様。一方で、SPL Meterは無料とのことだったので、とりあえずこれを使ってみることにした。

 SPL Meterをインストールし、起動してみると、いかにもという画面が登場。この時点ではまだキャリブレーションができていないので、設定画面を見てみるとMicrophone Setupという項目がある。ここでは複数のマイクの設定を記憶させることができるようになっているが、1つを選んだ上で、CA114を用いてキャリブレーションをしていく。

SPL Meterの画面
Microphone Setupでキャリブレーションなどが行なえる

 まず、マイクの先端にCA114付属のリングを取り付ける。こうすることでCA114の穴にピッタリフィットするようになる。そして、CA114に差し込んだ上で電源を入れる。すると、dBAの値が大きく上がる。しかし、80.8と小さな値とだったため、トリミングの-/+を使いながら94.4になるように調整する。これでキャリブレーション完了だ。これで元の測定画面に戻せば、音圧を測ることが可能となる。試しに、この状態で、再度、CA114に接続してみると、ピッタリ94.4dBと表示されるので、間違いなさそうだ。

マイクの先端にCA114付属のリングを装着
CA114に差し込んだ上で電源をON
最初は80.8dBAと表示
94.4になるように調整

 あとは、「RANGE」でメーターが動くレンジを調整すれば、各所での音圧レベルをチェックできる。自分のオーディオルームでの音圧を測るのはもちろん、街中の騒音チェックにも使えるし、ライブハウスなどで、どの位置でどのくらいの音圧が出ているかをチェックするのにも有効だ。

RANGEの値を設定

 でも、このSPL Meterだけだとなかなか使い道が難しいのも事実だし、自分のオーディオ環境チェックにどう活用すればいいのかもわかりにくいところ。やはり、単なる音圧チェックだけでなく、周波数特性を合わせてチェックできるとその価値は大きく広がりそうだ。上記のSignalScope ProやAudioToolsを買おうと思って、AppStoreを見ていたら、SPLnFFT Sound Meterという480円のアプリをお勧めされた。ネットで調べてみると、英語での情報しかないものの、なんとなくよさそうに思えたので、これを購入してみた。ちなみにSPLnFFT単体も、Speker Meter、DiapasonAG、SPNnWatchという4つのアプリがセットになったものも480円と同額だったので、セットで購入してみた。ただ、結果的にSPLnFFT以外の3つのアプリは、i437Lを直接有効活用するものではなかったようだ。

4つのアプリがセットになったものもあった

 SPLnFFT Sound Meterを起動してみると、SPL Meterと同じようなアナログメーターの画面が現れる。どう使えばいいかよくわからなかったので、マニュアルを読むと、Micタブをタップすればマイクのキャリブレーションができるとのこと。さっそく見てみると、Micの種類にMicWのi436が用意されていた。i436はi437Lと同じ特性を持つアナログ接続のマイクで、iPhone用測定マイクとして世界的にもヒットしたモデル。これをLightning対応させた新製品がi437Lなので、これを選択。

SPLnFFT Sound Meterの画面
i436を選択して測定

 次は、CA114を使って先ほどのようにキャリブレーションを行なうのだが、方法は簡単。Mic.gainを使って、入力レベルが94.4dBになるように調整すればいい。

CA114を使ってキャリブレーション
入力レベルが94.4dBになるように調整

 あとは、単純に音圧を測れるし、FFTタブやPSDタブを用いれば周波数特性を見られる。またHistoのタブを選べば、音圧レベルの変化を見ることも可能だ。

FFTタブ
PSDタブ
Histoタブで、音圧レベルの変化を見られる

 ここで試しに、efu氏のフリーウェア、WaveGenを用いてピンクノイズを発生させ、モニタースピーカーから出力。これをFFTで見てみると、実際に鳴っている音を、目でも確認できた。場所を動かすと明らかに特性が変化するし、周囲に置いてあるものを動かすだけでも、そのグラフ表示が変化する。測定した状態は記録させることもできるし、スクリーンショットを取っておけば、前の状態との比較も可能。いろいろと使い道がありそうだ。まだ筆者も使いこなせてはいないが、今後i437LもiPhoneとともに持ち歩いていろいろな場所の音をチェックしてみようと思っている。

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i437L

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto