藤本健のDigital Audio Laboratory
第748回
スマホとPCで曲作り&コラボが全て無料、Androidでも低遅延。「BandLab」でできること
2017年12月11日 13:06
スマホを用いた音楽制作ツールで、PCのブラウザ上で動作するクラウド型DAWでもあり、かつ音楽コミュニケーションツールである「BandLab」というサービスをご存じだろうか? シンガポール生まれのサービスで、全て無料で利用できることから、欧米を中心に現在約200万人が利用しているというもので、そのユーザー数はどんどん増えているという。
まだ国内で利用している人は少なそうだが、つい先日iOS版およびAndroid版のアプリが日本語化したのに合わせ、運営するBandLab TechnologiesのCEO兼共同創設者であり、米音楽雑誌Rolling Stoneの発行元・Rolling Stone InternationalのCEOでもあるメン・ルー・クック(Meng Ru Kuok)氏が来日した。筆者自身、このBandLabについては全く知らなかったが、試してみるとかなり驚くほどの機能、性能を持つサービスだった。どんなものなのかクック氏にインタビューしたので、紹介していこう。
BandLabとはどんなサービス?
――BandLabというサービスは、今回初めて知ったのですが、まずは、これがどんなサービスなのか概要を簡単に教えてください。
クック氏(以下敬称略):BandLabは2015年にスタートした音楽のアプリケーションプラットフォームで、クリエイター・ミュージシャン同士が音楽を制作するプロセスを共有したり、ファンに対して完成した音楽をシェアしていくための“ソーシャル・ミュージック・プラットフォーム”であると位置づけています。
iOSやAndroid、そしてPCのWebブラウザ上で利用できるように設計してあり、つい先日日本語に対応したアプリをリリースしたところです。世界で初めてビデオ・シェアリング、メッセージ、ディスカバリーといったソーシャル機能を追加したクロスプラットフォーム・デジタルワークステーションなんです。
――実際どのくらいの人たちが使っているのでしょうか?
クック:アメリカ、イギリスを中心に、ユーザー数はこの2年で急速に伸びてきており、現在約200万人となっています。これまで英語以外へのローカライズができていなかったこともあり、日本ユーザーはまだ少なかったのですが、やはり日本の音楽制作市場はとても大きいため、各国語対応させる中で、先駆けて日本語対応をしたところなのです。とはいえ、日本だけのサービスを行なうわけではなく、全てはシームレスになっているため、そのまま海外とのやりとりも可能になっています。
――BandLabのアプリは無料とのことでしたが、いくつかの価格体系があるわけですよね?
クック:現時点においてBandLabは全てが無料です。iOS、Androidのアプリ価格は無料なのはもちろんですし、PCのWebブラウザ上で利用するのも無料です。使っていく上で、とくにプレミアムコースなどがあるわけではないですし、誰もが全てを無料で使うことができるようなっています。他社では月額利用料がかかったり、オプション追加にいくらかが必要になったりしますが、BandLabは全てが無料なのです。また、アプリ上やWebブラウザ上で広告が出ることもありませんよ。WebブラウザとしてはGoogle Chromeを利用されることを推奨しています。
――そうなると、実際のところ、どうやって利益を上げようというのですか?
クック:「みんなの音楽をエンパワーしたい!」、そういう意図でサービスを提供しているから無料なのです。また当社はBandLabだけでなく、グループ会社としてさまざまなサービスを展開しているからこそ、BandLabを無料で提供できています。たとえば、アメリカの歴史ある雑誌であるRolling Stoneもグループの1つですし、ギターのストラップやケースなど受賞歴のあるミュージック・ライフスタイル製品を販売するブランドのMONOも1つです。またアジアを代表する楽器の小売り・流通事業を展開するSwee Lee Musicも統括しているので、グループ全体の推進力であると思っていただければ大丈夫です。ただ、今後ハードウェア商品も出していく予定で、これらについては無償ではありません。こうしたものも含めトータルで稼いでいけたらと思っているところです。
Androidで気になるレイテンシーは?
――先ほど、少しiPhoneでの動作を見せてもらいましたが、なかなかサクサク動くし、ギターアンプシミュレータの音もいい感じですね。
クック:はい、先ほどお見せした通り、LINK ANALOGというオーディオインターフェイスを取り付けることで、ギターをiPhoneやAndroidに接続することができ、リアルタイムにさまざまなエフェクトを使って演奏し、レコーディングしていくことが可能となっています。これらスマートフォンで使えるエフェクトはプリセット数で50~60程度用意しており、その数もどんどん増やしているところです。
――iPhoneでのデモを見ている限り、レイテンシーについて問題なさそうでしたが、Androidではどうなんでしょうか?
クック:レイテンシーについては、私たちもかなり気をつかいながら開発しています。その結果、AndroidでもiPhoneとほぼ同等のレイテンシーとなり、演奏面での差はありません。もちろん機種によっての違いはありますが、最近の機種ではほぼ問題なく使うことができます(筆者注:インタビュー後、手元のiPhone Xおよび、Android 8.0搭載Nexus 6Pでギターを接続して試してみたところ、ほぼ同等の感覚で使うことができた)。
――Androidでそこまでのレイテンシーを実現しているものを初めて見ました! iOSでもAndroidでもレコーディングができるとともに、ギター以外のエフェクトも使えるんですね。
クック:はい、ギター用、ベース用、ボーカル用を用意しているので、すぐに使うことができます。さらにルーパーという機能を用意しており、EDMやDubstep、RnB(R&B)などさまざまなループ素材を利用した制作機能を用意しているので、これらを使ってトラックを作っていくことも可能です。こうしたループ素材ももちろん無料で提供しています。
――なるほど、Ableton Live風な機能で簡単に作っていって、それをレコーディングしていくことまで可能なんですね。現在のiOS版GarageBandでも近い機能がありますが、iOSでもAndroidでも使えるわけですね。
クック:そうですね。こうしたループ素材などのコンテンツも今後どんどん増やしていきます。またBandLabは個人で曲制作に用いることができるだけでなく、さまざまな人とデータを共有することができるのが大きなポイントとなっています。つまりiPhoneで作ったデータをAndroidのユーザーに渡して、その続きを作っていくことも可能となっているんです。もちろん、PCで利用することも可能ですよ。
PCブラウザ上でマスタリングまで可能。コラボ機能も
――PCのWebブラウザで使うBandLabについても、もう少し詳しく教えてください。
クック:これは見ても分かる通り、ブラウザ上で動作するDAWです。iOSやAndroidで作ったプロジェクトを開いたり、編集したりすることができるのはもちろんですが、それ以外にMIDI機能も搭載しており、ソフトウェア音源、ドラムマシン機能も搭載されているので、これらを用いてさらに作り込んでいくことも可能となっているんです。PCのキーボードでドラムをリアルタイム演奏・レコーディングしていくことなどもできるし、外部のMIDIキーボードを接続して、それを弾いてレコーディングといったことも可能です。
――見た目もまさにDAWですね。Web MIDI APIを使っているわけですね。こちらのほうは多少レイテンシーがあるようですが、この辺はPC環境次第といったところですね。トラック数的にはどのくらいあるのでしょうか? ?
クック:現在トラック数は12トラックまでとしています。オーディオトラック、MIDIトラック混在で利用することができ、ピアノロールエディタもあるので、ここで打ち込むこともできるし、リアルタイム入力した結果にクォンタイズをかけるなど、エディットしていくこともできます。サンプリングシンセの音色も数多く搭載していますが、今後さらに増やしていければ……と考えているところです。
――市販のDAWと比較すると、さすがにまだそれほど多くの機能が搭載されているわけではないようですが、かなりよくできていますね。音源の音色は数多くあるようですが、基本的にPCM音源ですよね。エフェクトもEQ、コンプ、ディレイ、リバーブ、コーラス……と一通り揃っているようですが、これらを拡張することは可能ですか?
クック:今後のバージョンアップでさらに拡張していく予定ではあります。ただしVSTなどのプラグインに対応しているわけではないので、ユーザーが自由に拡張できる段階ではないですね。
――レコーディングのフォーマット的にはどうなっているのでしょうか?
クック:iOSやAndroidでのレコーディングする場合は44.1kHz/24bitまたは48kHz/24bitまでとなっていますが、PCの場合は96kHzまでサポートしています。そのためプロユーザーでも使っていただけるクォリティーになっています。
――プロがこれだけで曲制作をするというのは、さすがにまだ現実的ではないかもしれませんが、人とコラボしていけばいろいろな広がりは出てきそうです。でも、これはクラウドに保存する以外にローカルにパラで出力することも可能なのですか?
クック:はい、トラックごとにWAVファイルで書き出すことも可能になっていますし、それぞれをミックスダウンしてダウンロードすることもできます。この際、MP3やWAVなど必要に応じて品質を選択することも可能です。さらにもう一つアピールしたいのは、でき上がったデータをマスタリングする機能を備えていることです。マスタリングまで終えたデータも含め、全てクラウド上に保存し、これを公開していくことが可能なんです。
――至れり、尽くせりという感じですね。ところで、そのコラボというところが、まだピンと来ていないのですが、これはどういうものなのでしょうか?
クック:コラボするのがBandLabの最大の特徴といってもいい部分です。BandLabでは「Fork」と呼んでいるのですが、公開されたデータを別のユーザーがForkすることで、トラックを追加するなどして公開が可能になっています。そして、誰がどのデータをForkしたのかなど、その履歴も見られるんですよ。
――なるほど、nana(日本のnana musicが運営するスマホ向け音楽投稿/コミュニティサービス)でいうところの“コラボ”に近い感じですね。
クック:nanaと違い、12トラックまで使えますし、より高品質なPCM音源で、レコーディングすることが可能で、かつ最大6分までの曲を扱えるなど、圧倒的に高機能になっています。またnanaはプレミアム機能を使うには月額料金(iOS版で提供/月額580円)が必要になりますが、BandLabは全て無料です。
スマホ接続向けのオーディオインターフェイスも発売
――先ほどのオーディオインターフェイスについても教えてください。
クック:これはアメリカなどではすでに39ドルで発売しているもので、日本でも来年4月からの発売を予定しています。これはアナログのオーディオインターフェイスなのですが、来年には1ch入力と2ch入力のデジタルのオーディオインターフェイスを2種類発売する予定でいます。
――アナログのオーディオインターフェイス? どういうことですか?
クック:これはギター入力をヘッドフォンに入力させたり、外部スピーカーへ送り出してモニターできるようにするものです。これはBandLabを使う上で非常に便利な機材ですが、これがないと使えないというものではありません。BandLabはオープンなシステムとなっているので、IK MultimediaのiRigなど他社製のものでも、同じように使うことは可能です。
――なるほど、iRigに近い機材ですね。それにしても、ずいぶんとずっしり重たいですね。
クック:これはiPhoneやAndroidに接続することを想定した機材ですが、軽いものだと、シールドを接続すると、すぐに転がってしまいます。また、それによってスマホを落としたりする危険性もあるので、そうならないよう、重たくしています。見てもらうとわかる通り、フロントにはヘッドフォン端子があり、リアにはスマホと接続するための端子、さらには外部スピーカーでモニターできるようにする端子が用意されています。
――microUSBの端子もあるようですが、これを使えば、デジタル接続が可能ということですか?
クック:いいえ、そうではないんです。これは電源用および内蔵バッテリの充電用の端子となっているのです。基本的にLINK ANALOGは電源不要で動作するシステムですが、ここに電源供給すると内部のノイズリダクションが機能し、より高音質でレコーディング、モニタリングできるようになっているのです。もちろん、これをBandLab以外の各種アプリで利用することも可能です。ぜひ、BandLabとともに、日本の多くのみなさんに活用いただければと思っています。
来年に発売予定のデジタル対応のものは、USBやLightning端子が利用できるタイプになります。そのほかにも新しいサービスや、これらオーディオインターフェイス以外の新商品も計画しています。来年1月の「NAMM Show 2018」(米国アナハイムで開催)で発表する予定なので、楽しみにしていてください。