藤本健のDigital Audio Laboratory

第745回

26年ぶりのソニー新マイク、各社DTMスピーカーやDAW登場。AI活用の曲作りも

 今年も音と映像と通信のプロフェッショナル展「Inter BEE 2017」(第53回 2017年国際放送機器展)が11月15日~17日の3日間、幕張メッセで開催された。今年は1,139社・団体が出展し、登録来場者数は過去最多となる38,083名だったとのこと。

Inter BEE 2017が行なわれた幕張メッセ

 オーディオ・音楽制作系のブースはInter BEE全体の中の2割弱という印象ではあるが、それでも今年も数多くの新製品、新サービスがお目見えした。気になったもの、面白かったものなどをいろいろと紹介していこう。

ソニー26年ぶりの新マイク登場

 Iner BEEの当日、Twitterなどのタイムラインでも大きく話題になっていたのがソニーのマイク3機種だ。ソニーのマイクといえばC-800Gが今も幅広く使われている業務用定番マイクであり、現行製品であるC-800G/9Xは専用の電源とセットで今も80万円以上するシロモノ。しかしソニーからは、その後マイクの新製品がないまま長い月日が経過していたが、来年26年ぶりとなる新製品をリリースするというのだ。

 今回3本のマイクが参考出品の形で展示されたが、目玉はそのC-800Gを継承する新しいマイク「C-100」。スタジオボーカル録音用の2Wayコンデンサマイクで、新たに開発した2つのマイクカプセルとC-800Gで培った防鳴筐体構造を採用しているという。

3本のマイクが参考出品された
C-100

 しかもC-800Gよりも広い20Hz~50kHzをカバーするハイレゾ対応というのだ。あと2つはペン型のエレクトレットコンデンサマイクで全指向型のECM-100Nと単一指向ECM-100U。いずれも、楽器録音などをメイン用途に据えたマイクで、やはり20Hz~50kHzをとらえることが可能なハイレゾ対応。

ECM-100N
ECM-100U

 これらには17mmのダイアフラム(振動板)が採用されたマイクであり、周囲にいた数名のレコーディングエンジニアからも、DPA製品と比較しつつ好意的な印象が聞かれた。まだ正確な発売時期や価格などは明らかになっていないが、来年の早いうちを目指しているとのことで、価格も「個人が手の届く範囲」と言っていたので、C-800Gなどと比較すると圧倒的に安い価格設定となりそうだ。

ゼンハイザーのVR対応機材、マイク関連も充実

 同じくマイク関連では、昨年ゼンハイザーがInterBEEで参考出品し、以前のDigital Audio Laboratory記事でも取り上げた後、2月に発売されたVR用360度音声を収録する「AMBEO VR MIC」が、ZOOMの4chのデジタルオーディオレコーダ「F8」と組み合わせて展示されていた。

AMBEO VR MICとレコーダF8の展示

 実はこのF8、最新ファームウェアにアップデートするとAMBEO VR MIC対応となり、Ambisonics(アンビソニックス)方式で収音された360度空間音声の信号モニターとレコーディング可能になる。またAMBEO VRマイク内蔵の4つのマイクカプセルのゲイン調整が1つのノブで同時に行なえるようになる。つまり従来であれば、4chでレコーディングしたものを、Ambisonicsの変換プラグインを用いてデコードする必要があったのが、F8があればこれ一つでOKとなったわけだ。

Ambisonics方式の360度空間音声のモニターとレコーディングが可能

 現状はまだまだ高価なAmbisonics対応マイクだが、今後F8のような機材とともに、より手軽に扱えるようになり、価格も手ごろになってきてくれると一般ユーザーにとってもVRサウンドの制作環境が整ってきそうだ。

 同じくゼンハイザーではiPhone/iPadのLightning端子およびUSB端子に直接接続可能なマイク、digitalシリーズの新製品としてダイナミックマイクタイプのHandmic digitalを参考出品していた。これは2018年上旬のリリースを目指しており、アメリカでは250ドルくらいの価格設定を想定している模様。

Handmic digital

 使い方はシンプルで、単にLightning端子、USB端子に接続するだけ。すでにコンデンサマイクタイプのMK 4 digitalは発売されており、こちらは内部にApogeeのA/Dコンバータを内蔵しており、DAWとも連携できるとのことだ。そのほか、ゼンハイザーではノイマンの定番コンデンサマイクU87の銀色に輝く50周年モデルも展示されていた。これは500個限定の製品で、2018年春の発売予定。価格は45万円前後になるとのことだ。

コンデンサマイクタイプのMK 4 digital
銀色に輝く、U87の50周年モデル

 さらにマイクネタを続けると、iPhone用の測定マイクとして高評価のMicW i-Seriesの新製品としてLightning接続タイプのi437L|Class 2 omniが発表された。これは無指向性測定マイクロフォン。長さ50mm、重量50gと非常に小さいながらもIEC 61672 Class 2サウンド・レベル・メーター標準に準拠。このマイクをキャリブレーションさせる機材CA114とセットで使って一度キャリブレーションをしてしまえば、まさにiPhoneを音圧測定器などとして利用できるというユニークなシステムだ。ぜひ近いうちに入手してレポートしたい。

i437L|Class 2 omni
CA114

 YouTuberやネット生放送配信者用マイクとして参考出品していたのはinMusicが発売するMarantz Professionalブランドのライブストリーミングシステム「Turret」。これはポップガード付きのコンデンサマイク、1080p対応のHDウェブカメラ、LEDリングライトをセットにしてデスクトップ上に設置できるスタンドとセットにしたオールインワンとなったもの。発売は来年の3月ごろを予定しており、価格は未定だが4万円弱になる見込みだ。

Turret

FOSTEXの新モニタースピーカー、サーモスは魔法びん技術の本格モデル

 続いてDTM用途のスピーカー関連でも面白いものが2つ出ていたので紹介してみよう。1つはFOSTEXの小さなアクティブモニタースピーカー「NF04R」だ。同社では今年の春にNF-01Aを復刻したNF01Rというモデルを発売していたが、このNF04Rもそのデザインを継承するもの。アルミボディを採用し外形寸法は120×157×189mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約3.1kgとコンパクトながら30Wの出力を持つ。ユニットには10cmのHR形状ウーファーと、19mmのソフトドームツィータの2ウェイバスレフで構成されている。発売は2018年の初夏を予定しており、1本で5万円(ペアで10万円)前後が想定されている。

FOSTEXのモニタースピーカー「NF04R」

 もうひとつは、魔法びんで知られるサーモスが発売したアクティブ ニアフィールド モニター「MSA-380S」。これは魔法びんで保温するための真空二重構造を応用したサーモス独自の「真空エンクロージャー」という技術を使ったスピーカー。

サーモスの「MSA-380S」

 触ってみると、まさにアルミの水筒という感じの軽いスピーカーながら、高品位な音が飛び出してくる。同社はすでにSSA-40Sというもっと小さいBleutoothスピーカーを発売していたが、それを発展させ業務用として利用可能なモニタに仕立てたというもの。角度を5度単位で水平~45度まで調整可能で、台座部分がディスクリートの完全バランスのアンプとなっている。12月1日の発売予定で、価格は14万9,800円だ。

水筒のような筐体

 マイク、スピーカー以外の機材についても見ていこう。TASCAMが参考出品していたのは業務用ダブルカセットデッキの「202MKVII」。

TASCAMの業務用ダブルカセットデッキ「202MKVII」

 見た目通り、昔ながらのダブルカセットデッキであり、202MKVIの後継機となるもの。リアにはUSB端子が搭載されており、再生した音をPCに取り込むことが可能だ。なおDolby Bはすでにチップ供給がされていないため搭載されていないが、Dolby B相当のNoiseReductionスイッチが搭載されており、ほぼ同等のものとして利用できるという。ちなみに「業務用」といっているのは、これがラックマウントできるから。2018年3月~4月ごろの発売を予定しており、価格的には一般ユーザーでも購入可能な7万円前後とのこと。

再生した音を、USB端子でPCに取り込める

 もうひとつTASCAMが参考出品していたのがBleutooth、AM/FMチューナ搭載のCD/SD/USBプレーヤー「CD-400U」という1Uラックマウントの機材だ。AACもサポートするBluetoothでスマホなどを接続すればスマホのサウンドを鳴らすことも可能な、まさにオールマイティーなプレーヤー。ラジオチューナはワイドFMにも対応しており、出力はXLRバランスとRCAアンバランスの2系統が装備されている。発売は2018年3月~4月を予定しており、価格は75,000円程度になる見込みだ。

CD-400U

Cubase 9.5やSEQUOIA 14などDAW関連

 DAWとしては、Inter BEE初日、11月15日の夜にCubaseの新バージョンCubase 9.5が発表され、16日より展示がスタートした。今回の新バージョンはオーディオエンジンを刷新し、従来の32bit-floatから64bit-floatへと進化。すでに64bit-floatとしてリリースされているStudio Oneなどに追いついた格好だ。

Cubase 9.5

 機能的には、普通にプラグインエフェクトを挿す感覚でオフラインで使えるダイレクトオフラインプロセシングを搭載。フリーズとは異なり、普通に使えるのが非常に便利で、もちろん一度設定してしまえばCPUパワーを食わないのが大きなポイントとなっている。

ダイレクトオフラインプロセシングを搭載

 もうひとつ、マスタリング用のDAWとして知られるMAGIXのSEQUOIAもバージョンアップしてSEQUOIA 14となった。

SEQUOIA 14

 DAWの本体機能としては大きく変わっていなそうだが、SpectraLayeres Pro 4のフルバージョンがバンドルされたのが目玉。SpectraLayeres Proは以前、Sound ForgeのSONY CREATIVE SOFTWAREが持っていたソフトだが、数年前にSONY CREATIVE SOFTWAREがMAGIXに買収された結果、SEQUOIAにバンドルされる形となったようだ。このソフトは、スペクトル解析を活用することで、楽曲の中から特定楽器の音を抽出するといったことが可能な高性能ソフト。現在単体発売がされていない状態だったが、今後このソフト単体がどう扱われるのかも気になるところだ。

SpectraLayeres Pro 4のフルバージョンがバンドル

 同様にスペクトル解析をするソフトとしては、AudionamixのTRAX PRO 3の上位バージョン、TRAX PRO 3 SPが発表された。TRAX PRO 3については一昨年のInter BEEでも展示され、2MIXのサウンドからボーカルを完璧に消す“魔法のソフト”として紹介されていたが、今回のTRAX PRO 3 SPはオーディオの中からセリフを分離してしまうというもの。SPとはSPEECHを指している。

TRAX PRO 3 SP

 このソフトにWAVをドラッグ&ドロップすると自動的に、スピーチ、ボーカル、伴奏に分離される。この分離がうまくいかない部分があった場合、ピッチらしき部分を教えてくれるマグネットツールなどで、直接ピッチを書き込んで自動分離結果をリファインすることもできる。さらに3段階目で子音やリバーブ成分、またドラムなどのパーカッシブなノイズを分離することでほぼ完了する。それでもまだ残る部分があれば、最後にスペクトログラムのタイムライン上で細部をリファインすることも可能となっている。これらすべての機能をもつTRAX PRO 3 SPはMacのスタンドアロン版として発売されている。ダウンロード価格は円・ドルレートにより日々変わっているが、11月20日現在では112,006円となっている。

 ソフトウェア関連ではAIを前面に出した製品も目立っていた。まずは米iZotope社のトラックトリートメントソフト、Neutronの新バージョン、Netron 2と、定番マスタリングソフトOzoneの新バージョン、Ozone 8だ。これらはすでに先日発売を開始しているが、いずれも共通するのは、プラグインとしてDAWに組み込んでAsistボタンをクリックすると、あとは人工知能が音を聴いて分析した上で、いい具合にEQやコンプなどをかけて仕上げてくれるということ。

Ozone 8

 Neutron 2はトラック用で、Ozone 8はマスター用。何の知識がないユーザーでも、ボタン1つであとはお任せできてしまい、結果もかなりいい感じに仕上がってくる。プロのレコーディングエンジニアから見ても「80点近い結果を出している」という実力だ。しかもNeutron 2とOzone 8はプラグイン同士が連携し合うことを可能にしており、マスタリングにおいて理想形になるよう、各トラックの調整もしてくれるという機能も搭載されている。まさに未来感満載の技術だ。

Neutron 2とOzone 8はプラグイン同士が連携

 もうひとつAIを搭載してすごい機能を持っているソフトが、iZotopeと同じく米マサチューセッツ州にある米Accusonus社のRegroover Proというソフト。これはドラムループ素材など、すでに2MIXされているドラムサウンドを、キック、スネア、ハイハット、タム、シンバル……とトラックに分解してくれるというもの。従来からスライスを用いてリズムを分解するソフトはいろいろあったが、重なったサウンドを分離してしまうのはかなりの驚きだ。

Regroover Pro

 同じく、AccusonusのDrumatomはドラムのかぶり音へのアクセスを実現するソフトウェア。通常、ドラムをマイク録りすると、たとえばハイハットには、ハイハットだけでなく、スネアやシンバル、タムなどの音も一緒に拾ってしまう。しかし、Drumatomを使うと、AIを用いてそのかぶりを消し、目的の音だけに分離できるというのだ。これもなかなか画期的なソフトといえる。まあ、AIとは何なのかという定義があいまいではあるが、ユニークなソフトウェアがいろいろと登場している印象だ。

Drumatom

 もう一つ、プラグインとして、人だかりができていたのがKROTOSのREFORMER PROというソフト。以下のビデオを見ていただくとわかる通り、人の声をリアルタイムにモンスターなどの声に変換してしまうというものだ。

REFORMER PRO
KROTOS「REFORMER PRO」のデモ

 パラメータを変更することで、さまざまな怪物の声に変化するため、映画やゲームなどのアフレコなどにおいて、いろいろな活用ができそうだ。

 以前記事でも紹介したヘッドフォンでサラウンドを実現したり、ヘッドフォンで前方においてあるスピーカーからの音を再現する「HPL」を生み出したアコースティックフィールドもブースを出展していた。ここではその2chのスピーカーの音を再現するHPL2サウンドを生成するVSTプラグイン、そして普通の音楽ファイルをHPL2化してくれるプレーヤーソフトのそれぞれを参考出品していた。プラグインのほうは無料での配布を予定しており、アプリのほうも無料もしくは2,000~3,000円の低価格での販売を予定している。さらに業務用としては放送局などに向けたサラウンドのリアルタイムでのHPLエンコーディングを実現するシステムの販売も予定しているという。

HPL2サウンドを生成するVSTプラグイン

「イマーシブサウンド」がキーワード

 今回のInter BEEのあちこちで見かけたキーワードが、Immersive Sound(イマーシブサウンド)というもの。Immsesiveを直訳すれば没入感といったところで、VRなどとセットで使われているようだが、その定義は企業によっても少し違うようだった。

 そうした中、ベルギーのAuro Technologiesが定義するのは、単に横からのサラウンドだけでなく、上からの音も取り入れたサラウンドとしている。同社が展開するAuro-3D(オーロスリーディー)は、従来の5.1chに4つのハイトスピーカーを加えたAuro 9.1や7.1chに5つのハイトスピーカーと天井スピーカーを加えたAuro 13.1などが注目されている。その一方で、Auro-Cxというストリーミング向けのシステムも展開。11月15日の初日のInter BEE会場の終了後、隣のAPA東京ベイ幕張ホールで行なわれたセミナーでは、Auro TechonologiesのCTO、Bert Van Daele氏が海外からネット中継の形でAuro-Cxに関する技術内容についての解説を行なった。

Auro Technologiesによるセミナー
Auro TechonologiesのBert Van Daele CTO
Auro-Cxの技術

 そして、このAuro-Cxのエンコーダ、デコーダをハードウェア的に組み込むシステムをリリースすることが発表された。これは長野にあるレゾネッツ・エアフォルク製のシステムRSX-1010に搭載する拡張ボードで、この2社による共同開発によるシステムだ。すでに発売されているRSX-1010はNTTのひかり電話を利用して、リアルタイムにオーディオ伝送を行なう。

RSX-1010に搭載する拡張ボードを使ってオーディオ伝送

 30msec以内のレイテンシーで接続可能で非常に安定して利用できるということから、すでに放送局などで活用されているそうだが、ここにAuro-Cxを搭載することで、パブリックビューイングなどで、非常にリアルなサウンドを体験できるようになるという。

 こうしたイマーシブサウンドが家庭で実現可能になるには、まだ時間がかかりそうな気がするが、これからのキーワードとして捉えてチェックしていきたい。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto