藤本健のDigital Audio Laboratory

第864回

“AIノイキャン”で通話がクリアに!? ASUSマイクアダプターの実力検証

ASUS「AI Noise-Canceling Mic Adapter」

先日、某誌の新製品情報ページにあったニュース記事に目が留まった。ASUSが“AIノイズキャンセリング技術”を搭載した「AI Noise-Canceling Mic Adapter」なるマイクアダプターを発売すると書かれていたのだ。

気になって検索すると、すぐにAV Watchのニュース記事を見つけることができた。製品に関する詳細は記載されていなかったが、価格が5,500円程度だったので実験用に購入を決意。実際に使えるものか、そして本当に効果があるのかを検証してみた。

出力ではなく“入力”にノイズキャンセリングを用いたマイクアダプター

ノイズキャンセリングヘッドフォンは、これまで数多くのメーカーが出しており、シンプルにアナログで逆相を足して打ち消しあうタイプや、DSPを使って処理するタイプなどがあったが、今回ASUSが発売したのはマイク用のノイズキャンセリング。つまり音を出力するほうに使うのではなく、入力するほうに用いるものとなる。一体どんなものなのか、なかなか想像がつかない。

写真を見る限りは、単にUSB Type-Cをヘッドセット用の端子に変換するアダプタとほぼ同じ形だ。この中にAI処理をする機能が入っているということなのだろうか?

AV Watchのニュース記事リンクからASUSの製品情報ページに飛ぶと「ASUS AIノイズキャンセリングマイクアダプターは、AIの力を利用してヘッドセットのコミュニケーションを強化します。AI機能を強化したプロファイルを搭載したプロセッサーが、5,000万種類以上のバックグラウンドノイズを低減しながら、ボーカルの高調波を保持することで、どんな環境でもクリアな音声コミュニケーションを楽しむことができます」とある。

やはりこの8gのボディの中にチップセットが入っており、それで処理をしているようだ。また「携帯電話、PC、Mac、Nintendo Switchとの幅広い互換性を提供します」とあるので、USBオーディオ・クラスに対応したデバイスでもあるようだ。

チップセットのイメージ

ただ、ノイズキャンセリングヘッドフォンのように、外部の音を拾うマイクなどが搭載されているかどうかは、この記載からはよくわからない。またマイクだけでなくヘッドセットが取り付けられるので、オーディオ出力機能があり、そちらには96kHz/24bitのDACが搭載されているという。

そして「96kHz/24ビットDACには、ASUS独自のハイパー・グラウンディング技術が採用されており、マルチレイヤーPCBと特殊なレイアウト設計により電磁干渉を防ぎ、EMIノイズのないピュアなオーディオを実現します」とも記載されていた。

とにかく、モノを入手して試してみない限り、どんなものかわからない。まぁ高額な製品ではなかったので、試しに購入することにした。

数日後に届いた小さな箱を開けると、中にはUSB Type-Cを3.5mmに変換する小さなアダプタと、USB Type-CをUSB Type Aに変換するアダプタがセットで入っていた。

製品のパッケージ
同梱物

箱の中には、多少厚めの冊子とB5用紙を折り畳んだものが同梱されている。てっきり詳しい情報が書かれているのだろうと思ったのだが、80ページで構成された冊子は様々な言語で書かれた製品保証書で、使い方などが書かれているわけではなかった。一方のB5用紙を開いてみると、こちらが取扱説明書のもよう。しかし、各言語で記載されているため、日本語での記載は……

1) USB Type-Cコネクターをお使いの機器のUSB Type-Cポートに接続します。
2) 3.5mmステレオミニジャックにヘッドホンの3.5mmステレオミニプラグを接続します。

……とあるだけ。まあ、使い方は説明書に書くまでもない簡単なもの、ということなのだろう。普通に考えれば、USB Type-CのスマホにこのAI Noise-Canceling Mic Adapterを接続し、そこにヘッドセットを付ければそれだけでOKということのようだ。

取扱説明書の記載

では、実際にその効果を確かめるにはどうすればいいのか。

街中など雑音が多い場所で誰かと通話した際、相手に声がよく聞こえるというのが通常の効果ではあるが、それでは自身で確認することができない。そこで考えてみたのが、やや裏技的な方法だ。

まずスマホを利用するのではなく、PCを使い、マイクからの声をそのままレコーダーソフトで録音する。その際、バックに大きめのノイズを存在させる必要があるため、幹線道路脇で録音した音をモニタースピーカーで再生し、疑似的に路上にいるような環境に作ることにした。

一方で、その効果を確認できるよう、ほぼ同じ環境においてAI Noise-Canceling Mic Adapterではなく、一般のサウンド機能でも録音して比べられるようにする。この際、どちらでも利用できるマイクはないだろうか、と考えて見つけたのが、大昔のSound Blasterに付属していたマイクだ。

これは、第861回で取り上げた中華オーディオインターフェイスの時に引っ張り出してきたもの。ちょうど手元にあった10年以上前のエレクトレットコンデンサマイクを使うことにした。

ただ、これをそのままASUSのアダプタには接続できないので、ヘッドセット端子をヘッドフォン端子とマイク端子に分離するためのアダプタを用意し、これを介してマイクに接続して使用した。

ヘッドフォン端子を分離するためのアダプタ
マイクに接続した状態

このマイクであればPC内蔵のマイク入力に接続できるはずだが、なぜかこのサウンド機能が不調で使えなかった。そこで、以前記事でも紹介したSoundBlasterX G6(第778回参照第)に接続して使用する。

SoundBlasterX G6に接続して使用した

AIノイズキャンセリングによるマイク性能や如何に

まず聴いていただきたいのが、普通に雑音がいっぱいある中でしゃべるとどんな声になるかを録音したものだ。44.1kHz/24bitのWAVで録音したが、確認したところMP3でも十分そうだったので、以下にMP3データを公開する。

【録音サンプル】
SoundBlasterX_NR_OFF.mp3(0.46MB)
※編集部注:編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

いかにも路上でしゃべっている風に録音できたように思う一方、古いマイクではあるけれど、電話の音とは違って周波数レンジが広く、ノイズであるはずのバックのクルマの音も含めてすごくクリアにリアルに録れているのが分かるだろう。録音はWindowsのMMEドライバを使ってSOUND FORGE Pro 14で行なったのだが、クルマの音も含めて録音されているのが見て取れる。

クルマ音も録音されている

続いて、今回のテーマであるASUSのAI Noise-Canceling Mic Adapterを使ってまったく同じようにしゃべったものを録音してみた。

【録音サンプル】
ASUS_AI_NC.mp3(0.52MB)
※編集部注:編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

聴いてみると、なるほどその効果は一目瞭然ならぬ一耳瞭然。目の前で大きな音で鳴っていたはずのクルマの音がほぼ完全に消されている。

ただ、この音を聴いた感じで気になることもいっぱいある。まずは、冒頭のマイクに向かってしゃべりだす直前に妙な音が入っている。まるで人の声にエフェクトを掛けたような音だ。

筆者の声ではないし、周りには誰もいないので、クルマの騒音が人の声のように変換されたということなのではないだろうか。また、筆者の声も変な変調がかかったような音になっている。確かにノイズはないが、決して聴きやすい声とは言い難い状況と思う。まさに極端にノイズリダクションをかけて音質を悪化させてしまったような音だ。

SOUND FORGEで波形を見てみると、人の声のところだけが波形表示され、それ以外はほぼ無音になっていることは分かるが、やりすぎという気がする。まあ、電話で話をするのであれば、結果的に狭い帯域だけを切り出すからこれで十分なのかもしれないが、高音質を標ぼうする製品としてはいかがなものか……。

人の声だけに波形が確認できた。それ以外はほぼ無音になっている

せめて、ノイズリダクションの具合を調整できたりするとよさそうだが、マニュアルが2行しかないほど、単純さを前面に出した製品だけに、設定・調整要素は皆無……と思い込んでいたのだが、読者から指摘があり、ASUSがWindows用の設定ユーティリティを出していることが分かった。

というわけで、早速ダウンロードして試してみた。

ユーティリティで確認したところ、マイクの位置とノイズリダクションレベルの強さをそれぞれ3段階で調整できるようになっている。そして、デフォルトではマイクの位置が「5-10cm(インラインマイク)」で、ノイズキャンセリングレベルが「中」となっているようだった。今回の実験でいうと位置は「5cm(ブームマイク)」を選択するのが最適だったようなので、これにした上で、高、中、低それぞれで改めて実験してみた結果が以下のものだ。

【録音サンプル】
ASUS_AI_NC_Hi.mp3(0.50MB)
ASUS_AI_NC_mid.mp3(0.47MB)
ASUS_AI_NC_Low.mp3(0.53MB)
※編集部注:編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

やはりどの設定でも音質的には変調のかかったようなものになってはいるものの、会話における聴きやすさという面では結構使えるようにも思う。どの設定がいいかは利用するマイクや位置、そして環境によっても変わってくると思うので、いろいろ試してみる価値はありそうだ。

【追記】記事初出時、“ノイズリダクションの具合を調整できたりするとよさそうだが、設定・調整要素は皆無のようだ”と記載しておりましたが、ユーティリティで変更できることが分かりましたので、その結果を追記しました。(8月31日17時)

ところで、実は録音をする前に、SoundBlasterX G6をドライバを入れないままPCに接続して試してみたところ、先ほどの結果とはかなり違う感じだった。そう、実は、ASUSのアダプタとかなり近い感じで、目の前で大きな音で聴こえていたクルマの音がほぼ消されていたのだ。

これはきっとSoundBlasterX G6の内部で何か処理をしているの違いないけれど、ドライバを入れないとその正体が分からない。そこで、改めてドライバを入れてみたところデフォルトでNoise Reductionという項目がオンになっていたのだ。その項目をオフにして録音したのが先ほどの結果だったのだ。

デフォルトでNoise Reduction項目がオンになっている

では、オンだったらどうなるのか? それがこちらだ。

【録音サンプル】
SoundBlasterX_NR_ON.mp3(0.55MB)
※編集部注:編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

冒頭ではそのままクルマの音も入っていて、声が入りだしてからクルマの音が消される格好だ。ASUSのアダプタほど徹底的にノイズを取り除いているわけではなく、それなりにノイズが残っているが、音質面ではSoundBlasterX G6のほうが断然いいように感じる。それでもノイズリダクションがオフのときと比較すると、オフのときのほうが音質はいいのだが、この程度なら悪くないように思う。

とはいえ、ASUSのAI Noise-Canceling Mic Adapterであれば、スマホでもバスパワーで動かせるし、何より軽くて小さく邪魔にならない。その意味で、音質面では優れているとはいえ、スマホとほぼ同サイズで、電源供給も厳しいSoundBlasterX G6を持ち歩くというのは現実的ではないだろう。

これらをどう判断するかは人によって違うだろうし、本当に騒音の酷い場所で使うのであれば、多少音質が劣ったとしても、コンパクトなAI Noise-Canceling Mic Adapterは有用と思う。価格も手ごろなので、そうしたこと理解した上で導入してみるのもいいかもしれない。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto