藤本健のDigital Audio Laboratory

第778回

14,800円の「Sound BlasterX G6」でPCオーディオを高音質化。DTMにも使える?

 クリエイティブメディアからSound Blasterの新モデル「Sound BlasterX G6」が発売された。以前はよく使っていたSound Blasterだが、最近はゲーム用のサウンドデバイスであることを前面に出して展開していることもあって、あまり取り上げていなかった。ただ先日届いたプレスリリースを見ると、「Windows 10での最大32bit/384kHzのハイレゾ再生やDoPによるDSD再生にも対応、高音質オーディオ再生DACとしても」といった表現もある。これは1度試してみないといけないと思い、発売されたばかりの機材を入手して試したので紹介しよう。

Sound BlasterX G6

片手にのるサイズ。ゲーム以外の高音質化も

 PCサウンドの歴史はSound Blasterが築いてきたといっても過言ではないほど、シンガポールのCreativeはPCに大きな貢献をしてきた。しかし時代の進化に伴い、ひとことでサウンドといっても、オーディオ再生やDTM、ゲームサウンド、サラウンド再生……といろいろな用途に分かれ、機器によって得意分野も分かれていった。そうした中、Sound Blasterはゲームという方面に特化していったこともあり、筆者の興味の範疇からはズレてしまっていた。実際今回発売されたSound BlasterX G6も、「高音質ゲーミングUSBオーディオ『Sound BlasterX G5』の上位モデル」と謳っており、メインユーザーはゲームに利用する人を想定している。価格はオープンプライスで、直販価格は14,800円。

 一方で、Sound BlasterX G6の用途はPCゲームに限らないのも面白いところ。PS4、さらにはNintendo Switchでも利用可能と、広範なゲームユーザーをターゲットとしており、新たな世界へと進んでいる。ただ、必ずしもゲームユーザーだけでない使い方も想定しだしているようで、PCMでの386kHz/32bitへの対応、DSD再生機能の搭載、エフェクトを利用しないダイレクト再生など、オーディオファン向けの機能も用意されている。そこで、ここではゲーム系の機能はそこそこにオーディオ系の機能を中心に見ていきたい。

 まず機材が到着して驚いたのはパッケージが小さいこと。昔のSound Blasterの印象があるからか、それなりに大きなパッケージを想像していたのだが、ずいぶんとコンパクトだったのだ。

パッケージ

 箱を開けて出てきたのは、いかにもポータブルヘッドフォンアンプ、といった小さな筐体。写真に撮ると、メタルの重そうなボディにも見えるが、実際はプラスティック製の軽い機材。カタログを見ると144gとある。ポータブルヘッドフォンアンプっぽいものの、バッテリは内蔵しておらず、USBのバスパワーで動作する。

片手にのるサイズのコンパクトな筐体

 フロントにはボリューム調整ノブを中心に左にヘッドフォン出力、右にマイク入力がある。このヘッドフォン端子のほうは4極となっていて、ヘッドセットを接続すればマイクも使える。ただし、右側のマイク端子と兼用であり、右にマイクが接続されたら、そちらが優先になる。

中央がボリュームノブ、左がヘッドフォン出力、右がマイク入力

 電源を入れるとこのボリュームノブの周りが白く光る。ここでノブを回せば出力音量が調整できるほか、ノブを押し込むとヘッドフォン出力がミュートされる。さらに、長押しするとランプが赤く変わり、マイク入力レベルの調整が可能になる。

ボリュームノブの周りが点灯
マイクレベルの調整も

 リアにはステレオミニ端子のラインインとラインアウトがあるが、いずれもオプティカルと兼用となっており、光端子のケーブルを接続すればS/PDIFでの入出力も可能になる。その右側にあるのがmicroUSB端子だ。

Windowsとの接続で使える様々な機能

 Sound BlasterX G6はUSBクラスコンプライアントのデバイスのようで、USBでPCと接続するとすぐに使える。手元にゲーム機がないので確認できていないが、PS4やNintendo Switchで使えるのも、これが理由なのだろう。

USBでPCと接続

 試しにMacに接続してみたところ、やはり即認識して入出力ともに使えた。さらにiPhone/iPadにLightning-USBアダプタで接続してみたら、こちらは電力不足で使えない。ただし、電力供給可能なLightning-USB 3アダプタを使ってみたところ、うまく接続できた。

Mac接続時
iOS端末との接続は、給電端子のないLightning-USBアダプタでは電力不足だった
Lightning-USB 3アダプタを経由すると接続できた

 Sound BlasterX G6が本領を発揮するのは、Windowsマシンにドライバをインストールした場合だ。このドライバが入った状態で改めて接続すると、Xのロゴが赤く光る。実は、ドライバと一緒にインストールされるSound Blaster Connect 2を使うことで、このランプの色を自由に調整できるほか、Cycleを選択すればさまざまな色に変化するスピードの調整といったことも可能だ。

Windows用ドライバ搭載のPCと接続するとXのロゴが赤く光る
Sound Blaster Connect 2で光の色を調整可能
光の色が変化するスピードの調整なども可能

 もちろん、Sound Blaster Connect 2は、この色を調整するためのソフトというわけではなく、Sound BlasterX G6を自在にセッティングするためのもの。ダッシュボードを見るとゲーム、ミュージックムービー、アドベンチャー&アクション、Arena of Valorと、さまざまなプリセットが用意されている。

用途に応じた様々な音質がプリセットされている

 これらはあらかじめ用意されているエフェクトの設定であり、ソースにプリセットを選ぶと、かなり雰囲気が変わって再生できる。ちなみに、このエフェクトのオン/オフをBlasterX Acoustic Engineのスイッチで切り替えられるようになっているが、これが本体横のスイッチと連動しているので、いちいち画面を見なくても切り替えが可能なのだ。

エフェクトのオン/オフを本体スイッチで切り替えられる

 ちなみに、本体横のボタンにはScout Modeというのがある。これはエフェクトとは排他になっているので、どちらかしか使えないが、クリエイティブの説明を見ると「ゲーム内の足音や武器の切り替え、銃弾のリロードなどの環境音をハイライトする」機能なのだそうだ。またその右にヘッドフォンのゲインをLとHに調整するスイッチがある。通常はLでいいと思うが、ヘッドフォンの内部インピーダンスの大きいものを使っている場合など、Hにするといいかもしれない。

 プリセットを選ぶだけでなく、自分で細かくエディットすることも可能。パラメータとしては、イコライザー、ACOUSTIC ENGINE、SCOUT MODE、DOLBY、フィルターのそれぞれがある。ACOUSTIC ENGINには5つのパラメータがあるが、CRYSTALIZERを持ち上げていくと、よりクッキリしたサウンドに、バスを上げれば低域を強調したサウンドになるといった具合。

イコライザー
ACOUSTIC ENGINE
SCOUT MODE
DOLBY
フィルター

 ところでDOLBYという画面があるあたりでお気づきの方も多いと思うが、Sound BlasterX G6の面白いのは、こここにDolby Digitalのデコーダを搭載していること。Dolby Digitalのサウンドを再生すれば、ステレオのヘッドフォンでバーチャルサラウンドを楽しむことができるのだ。さらに、PCの再生音に対してだけでなく、外部のゲーム機器やDVD/Blu-rayプレイヤーからDolby Digitalの信号をS/PDIFで出力し、それをSound BlasterX G6のOPTICAL INに接続すれば、それだけでサラウンドをデコードして普通のヘッドフォンで聴ける。試してみたところ、確かに少し立体的に聴こえた。あまり過大な期待は禁物だが、それなりの効果はありそうだ。なお、設定によって5.1ch、さらには7.1chにも対応している。

5.1chや7.1chにも対応

 そのほか、マイク入力をリアルタイムに女性声にしたり男性声にしたり、ロボットボイスに変換するといった機能も用意されている。

マイクからの声を色々と変えられる

オーディオ、DTM用途をチェック

 さて、ここからもう少しオーディオ寄りの話を見ていこう。クリエイティブの発表資料を見ると、これが384kHz/32bitに対応していて、DSDもDoPで再生できるとのこと。実際にできるのかを試してみたのだ。

 USBクラスコンプライアントで接続しただけだと、WASAPIとMMEにしか対応していないが、ドライバを入れれば、ASIOとしても使えるので安心。ここでは、foobar2000にASIOのコンポーネントおよびSuper Audio CDのコンポーネントを入れて再生してみた。

foobar2000にASIOとSuper Audio CDのコンポーネントを入れて再生

 まずPCMについてはSound BlasterX G6のASIOドライバをセットすることで、384kHzのデータもまったく問題なく再生できた。通常はエフェクトを使わないダイレクトモードで再生するのがお勧めだが、必要に応じて、ダッシュボードなどからエフェクトを設定して再生してみるのも面白い。

Sound BlasterX G6のASIOドライバを選択
384kHz PCMも再生できた

 同様にDSDについても、なんらトラブルなく再生ができた。ヘッドフォン、モニタースピーカーで聴いてみたが、1万円ちょっとの機材としては申し分ないほどの音質を実現できていると感じられた。

DSDも再生可能

 ASIOが使えるなら、これをDTM的にも使えるのではないだろうか? もし、384kHzに対応したレコーディングができるのなら、このスペックで最安値のオーディオインターフェイスといえそうだ。PreSonusのDAW、Studio One 4 Professionalで設定してみたところ、Sound BlasterX G6のASIOドライバを選ぶと、確かに384kHzまでのサンプリングレートが設定できる。ASIOコントロールパネルではサンプリングレートに関わらず、最小で1msecに設定できる。

Sound BlasterX G6のASIOドライバで384kHzまでのサンプリングレートを設定
ASIOコントロールパネルで最小1msecに設定できる

 そこで、さっそく音を鳴らしてみるとしっかり出せるし、1msecでも音が途切れることなく、なかなか優秀。これは使えそう! と思ったのだが、どうやってもレコーディングができないのだ。Sound Blaster Connect 2のミキサーのセッティングの問題かと思って、いろいろと変更してみたが、やはりダメ。結果的に分かったのはASIOドライバの場合、論理上はしっかり入力があるのだが、実際には入力に対応していなかったのだ。MMEドライバ、WASAPIドライバに切り替えたらあっさりレコーディングできたので、ASIOが使えないのはちょっと残念なところ。今後ファームウェアやドライバのアップデートで対応できるようであれば、ぜひお願いしたい点だ。

 そうした理由で、いつもテストしているRMAAでの音質チェックはASIOドライバではNGとなってしまった。ただしMMEでは測定することはできたので、参考までに載せておこう。ただし、MMEだとWindowsのオーディオエンジン(旧称カーネルミキサー)を経由するために、そこでの音質劣化が大きく、正しい測定とはいえなそうだ。また、RMAA Pro自体が192kHzまでの対応であり、384kHzでの測定はできなかった。

MMEで測定できた
44kHz/24bit
48kHz/24bit
96kHz/24bit
192kHz/24bit

 以上、Sound BlasterX G6についてみてみたがいかがだろうか? 1万円強で、これだけのことができるのなら、かなりコストパフォーマンスの高いデバイスといえそうだ。DTM的にはぜひASIO入力にも対応してもらいたいので、今後のアップデートに期待したい。

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Sound BlasterX G6

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto