藤本健のDigital Audio Laboratory
865回
IK Multimediaの注目USBオーディオ2機種。ギターサウンド変化! 性能良好
2020年9月7日 10:54
イタリアのDTM系ハードウェア、ソフトウェアを手掛けるメーカーに、IK Multimediaがある。ハードウェアにおいてはiPhone/iPad用デバイスのイメージが強かった気もするが、最近は「iLoud MTM」など、プロユーザーも好んで使うモニタースピーカーを出したり、オーディオ出力を可能にしたMIDIキーボード「iRig Keys 2シリーズ」を出したり、また「UNO SYNTH」のようなシンセサイザなど、幅広い製品をラインナップしている。
そうした中、かなり目立つ存在になってきているのが同社のオーディオインターフェイス製品だ。スマホのヘッドセット端子にギターを入力できるようにした「iRig 2」から、ネット配信用の「iRig Stream」、さらには高性能なギター入力機能を装備する「AXE I/O」までさまざまなニーズに合わせた製品を出している。
今回はその最上位機種である「AXE I/O」(実売5万円前後)、そしてコンパクトなモバイルオーディオインターフェイスである「iRig Pro Duo I/O」(同2.95万円前後)の2機種をピックアップし、これらのオーディオ性能についてチェックしてみることにしよう。
ギター用に作られた2in/5outのUSBオーディオ「AXE I/O」
2020年9月現在、IK Multimediaのオーディオインターフェイスの現行製品としては……
- AXE I/O
- AXE I/O Solo
- iRig 2
- iRig HD
- iRig Pre
- iRig Pre HD
- iRig Pro Duo I/O
- iRig Pro I/O
- iRig Stream
- iRig UA
……といろいろある。マイク機能搭載の製品を含めれば、さらに多くのラインナップがあるわけだが、その中で最高峰に位置づけられるのが、2019年1月にリリースされたAXE I/Oだ。
192kHz/24bitまで使えるUSB 2.0に対応したオーディオインターフェイスで、2in/5outというちょっと変わったスペックを持つ。これだけ数多くのメーカーが参入するオーディオインターフェイスの世界だから、やはり独自色を出さないと生き残れないわけだが、このAXE I/Oはギタリスト向けという点を前面に打ち出した製品となっている。
最大の特徴はフロント左側のギター用入力端子にZ-TONEなるパラメーターが用意されていること。Z-TONEのZは入力インピーダンスを表すもので、その入力インピーダンスの値を調整できるようになっている。具体的には2.2kΩ~1MΩの範囲で調整でき、この値によってギターサウンドが変化するわけだ。
電気的にいうと、ギターの出力インピーダンスとオーディオインターフェイスの入力インピーダンスがピッタリと合う、インピーダンスマッチングの状態がベストと言われているが、その調整を行なうことができるユニークな機材となっている。
もっとも、どこでインピーダンスマッチングするかを調べる術はないので、自分で音を聴きながら……ということになるのだが、実際にZ-TONEパラメーターを動かしていくとかなりサウンドが変化するのを実感できるので、あとは好みで調整することになる。
Z-TONEのツマミの下にPASSIVE/ACTIVE、およびJFET/PUREという切り替えスイッチがある。これもギターサウンドに大きな影響を与えるスイッチとなっているのだが、PASSIVE/ACTIVEはギター側がアクティブピックアップなのか、普通のピックアップなのかを選ぶことができる。
JFET/PUREのほうは、FET型のトランジスタを通した音にするか、自然な音にするかを選択するためのものになっている。取り込んだギターのサウンドにさまざまな信号処理をして音を変化させるエフェクトは数多くあるが、取り込む時点でこれだけ多くのパラメーターを持っている製品はほかにないはずだ。
フロントパネルにあるツマミやスイッチ以外にも各種設定を行なうAXE IO Control Panelというものがあり、ここでサンプリングレートやバッファサイズ、ダイレクトモニタリングに関する設定、オーディオ出力レベルの設定ができるほか、フットペダルなどの設定もできるようになっている。
AXE I/Oが2in/5outという妙な仕様であるのは、5チャンネル目としてギターアンプへ送るための専用出力があるためだ。フロントの右側にAMP OUTという端子がそれだ。いわゆる“リアンプ”を行なうためのもので、すでにレコーディングしたギターサウンドをここから出して、ギターアンプへと持っていき、そのアンプから出た音をマイクなどを通じて再度録音するのを目的としている。
IK Multimediaとしての本命の機能ともいえるのが、実は付属ソフト。AXE I/Oには単体で購入すると約3.6万円(税込)する「AmpliTube 4 Deluxe」というソフトが付いてくる。これと高い連携性を持っているというか、AmpliTubeを最大限活用できるオーディオインターフェイスとしてAXE I/Oが開発されたというのが実情でもある。
以上のように、ギターとの関係性を紹介してきたAXE I/Oだが、本連載でチェックするのはギター入力ではなくライン入力。普通のオーディオインターフェイスとしてみたときどんな性能なのか、いつものようRMAA Proを用いてチェックしていく。
リアを見ると、4系統のライン出力のほかに、マイク入力とライン入力を兼ねるコンボジャックの入力端子が2つある。このライン出力とライン入力を接続してループ状態にした上で、RMAA Proを用いて44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzのそれぞれのサンプリングレートでテストした結果(周波数特性)がこちら。
AXE I/Oはギター用途ということで、あまりハイファイなサウンドは期待していなかった……というのが正直なところ。しかし実際に試してみると、どのサンプリングレートでの結果も非常に好成績であり、ギターの話を抜きに考えても、十分導入する価値のあるオーディオインターフェイスといえそうだ。
では、レイテンシーはどうだろう? いつものようにCEntranceのASIO Latency Testを利用して、WindowsでのASIOレイテンシーをチェックした結果が下記の画像だ。44.1kHzだけはバッファサイズ128サンプルのものと、最小値。それ以外のサンプリングレートではすべて最小値での実験結果となっているが、まずまずの好成績といったところだろう。
スマホやPC/Macでも使えるモバイル向け「iRig Pro Duo I/O」
続いて「iRig Pro Duo I/O」をチェックした。
これまで筆者はiRig Pro Duoというオーディオインターフェイスを愛用していたが、本機はその後継となるコンパクトな機材だ。IK Multimediaによると、内部回路を刷新するとともに、外観も従来のプラスティック仕上げからラバー塗装の持ちやすいものにしたという。
もっとも基本的な仕様は、旧製品と同様で2in/2outのオーディオ入出力を持つとともに、MIDIの入出力も備える。iPhone、iPad、そしてWindowsおよびMacで利用でき、アップルのMFI認証の取れた機材なので、Lightning-USBアダプタなど不要で、iPhoneやiPadに直接接続できるのが特徴。さらに注意書きはあるもののAndroidでも動作すると記載されている。
WindowsやMacと接続した場合はUSBバスパワーで動作する一方、iPhoneやiPad、またAndroidスマホなどで利用する場合は単3電池2本で駆動させる。これにより+48Vのファンタム電源の供給も可能となっている。前後左右のパネルはこのようになっている。
iRig Pro Duo I/Oが国内で発売されたのは3月初旬だったが、その後、4月末にIK Multimediaから待望のソフトがリリースされている。それが「iRig ASIO Driver for Windows」という、iRigシリーズ共通で使えるASIOドライバだ。
ご存知の方も多いと思うが、AXE I/Oを別にするとIK Multimediaのオーディオインターフェイスやマイク製品、またiRig Keys I/O、iRig Keys 2シリーズなどはUSBクラスコンプライアント製品ということもあり、ドライバが提供されていなかった。iOSやAndroid、そしてMacの場合は、特に大きな問題はなかったが、Windowsでは問題が生じていた。
具体的には、DAWで使いたいとか、より高音質に使いたいのでASIOドライバを利用したい、といったときに利用できなかったのだ。まあ、そうした機材でもASIOを利用できるようにするためのASIO4ALLなどを使うという手はあったが、先日のVoicemeeter Bananaの記事(第862回参照)でも触れた通り、ASIO4ALLは相性問題なども多く使いにくいし、レイテンシーもあまり詰められないという問題があった。
しかしiRig ASIO Driver for Windowsが正式にリリースされたおかげで、ようやくWindowsでも安心して使えるようになった。もっともiPhoneやiPadでの利用を主体とするオーディオインターフェイスなので、利用できるサンプリングレートは44.1kHzと48kHz(32kHzにも対応)に限られる。というわけで、この2つのサンプリングレートでRMAA Proを用いたテストを行なった。
さすがにAXE I/Oと比較すると、ちょっと劣った結果とはなってしまうが、気軽に持ち歩ける軽量なオーディオインターフェイスであり、iPhoneやiPadでも簡単に使えるという意味で考えると便利な機材だと思う。
ではレイテンシーのほうはどうだろうか? 先ほどのAXE I/Oと同様、44.1kHzの場合はバッファサイズ128サンプルおよび最小、48kHzの場合は最小で測定してみた。その最小は8サンプルと小さくできるのも重要なポイントだが、ASIOドライバの設定を行なうコントロールパネルを見ると、Safe Modeなるものがある。これはASIOドライバで動作させる際、出力レイテンシーを少し大きくして、音が途切れたりしないようにするモードのようだが、これがオンの場合、オフの場合のそれぞれで測定してみた。
この辺はPC側の性能にも左右されるところだと思うが、筆者PCマシン(Core i7-8700 3.2GHz)においてはSafe Modeをオフにしても問題なく動作してくれた。
ところで、このSafe Modeの表記や、このIK Multimeda iRig Device Contorol Panelのユーザーインターフェイスを見て、どこかで見たことがある画面だなと思った。そう、これ以前にも紹介したNative InstrumentsのKOMPLETE AUDIOシリーズのドライバ設定画面である「Native Instruments Komplete Audio Control Panel」とそっくりだったのだ(第821回参照)。
正確にいうとNaitive Instrumentsのほうにはない、Formatというタブが追加されているが、それ以外はほぼ同じ。違うのは名前とロゴ、それにStatusで表示されるデバイス名くらい。普通に考えれば、両社とも、同じドライバ開発メーカーに委託したということなのだろう。使い勝手を見ても性能的に見ても、とてもいいドライバなので、まったく問題ないが、なるほどなと思った次第だ。
ちなみに、機能・性能はほぼ同じドライバであっても、認識するのはそれぞれのメーカーのデバイスのみなので、Native InstrumentsのドライバをインストールしてもIK MultimediaのiRigシリーズが認識されることはないし、その逆もない。あくまでもそれぞれ別のドライバとして存在しているようだ。
以上、今回はIK Multimediaの2つのオーディオインターフェイスについて見てきた。いずれも、他社のオーディオインターフェイスにはない特徴的な機能、性能、スペックを持つユニークな機材。このコロナ禍のオーディオインターフェイス不足の中なので、やや入手しづらい状況ではあるが、自分のニーズにマッチすると思う人は検討してみてもいいのではないだろうか。