藤本健のDigital Audio Laboratory

第891回

同軸/光デジタルのジッターを捉えた!? DIGICheckで可視化に挑む!

同軸も光も同じデジタル接続なのに、違いがあるのはどうして?

デジタルオーディオの性能を表す言葉のひとつに、「ジッター」というものがある。ジッターとはクロック信号の時間軸方向に対する“揺れ”を意味するものであり、よく「ジッターが小さいほど音はよくなり、ジッターが大きくなると音に濁りが出る」などと言われている。

ただ、普段あまりジッターそのものを目で見ることはないし、そもそもどのように測定すればいいのか、よく分からない。もちろん、デジタルオーディオ機器の開発現場には、高価で高精度な測定機があるようだが、一般ユーザーがそのような機材を手にするのは困難だ。

そんな中、RME製オーディオインターフェイスのユーティリティとして用意されている「DIGICheck」というツールを使うことで、ジッターを目にすることができた。その結果、オプティカル(光デジタル)ケーブルとコアキシャル(同軸)ケーブルでの音質の違いが、もしかしたら見えたかもしれない。ややオカルトっぽい面もある実験ではあるが、ちょっと面白い現象を目にすることができたので、紹介してみよう。

オプティカルとコアキシャルの差を何とか数値で示したい!

AV Watch20周年記事でも触れたとおり、このDigital Audio Laboratoryにおいて主たるテーマにしてきたのが、一般的には“オカルト”と言われがちなオーディオの事象をぶった斬ることだ。これまで「CDをCD-Rにコピーして音は変わるのか」「MP3とAACでどれだけ音質に差があるうのか」など、さまざまなテーマで実験を行ないながら、検証してきた。その中で、前々から気になっていたことの一つが、「オプティカルケーブルとコアキシャルケーブルで音に違いはあるのか」ということだった。

どちらもS/PDIFという民生規格のデジタル信号を伝送するものであり、CD1曲分を伝送した際、1ビットたりとも欠けたり、変質したりしないビットパーフェクトが達成できることは実証できている。そこだけを見れば、どちらも音に違いはないはずだ。

しかし、聴き比べてみると、どうもオプティカルよりもコアキシャル接続のほうが、音がいいように感じることが多い。また、同様のことを言う人は少なくなく、何かいい検証方法はないだろうかとずっと思っていたテーマなのだ。

もちろん、オプティカルで音を出しても、ノイズが入るわけでもないし、高域が出ないとか、低域が出ないというような分かりやすい違いがあるわけではない。でも、なんとなく、コアキシャルのほうがシャキっとした音になるような気がするのだが、「気のせいではないか?」と言われると、否定できないのも事実。オカルトネタをぶった斬るというより、自分自身スッキリしないこの状況を、なんとか数値で示すことはできないか、と思っていたのだ。

オプティカルとコアキシャルの音を周波数分析しても、双方に違いが出るようなものではない。そうした中、よく言われているのが「ジッターの違い」だ。コアキシャルの方がジッターが小さく、オプティカルはジッターが大きいため、音のフォーカスがボケる、ということ。しかし、これは本当なのだろうか?

高価な測定機を使わずに、ジッターを捉えることはできるか

実際の検証に入る前に、ジッターについてご存知ない方のために簡単に説明しておこう。

デジタルオーディオのクロックは44.1kHzとか48kHzといった周期の信号になっている。正確なクロックであれば、下図の赤で示す信号のようになるが、ジッターがあるクロックだと、青の信号のように、本来のタイミングより早かったり、遅かったりとクロックのタイミングに揺らぎが出てしまうのだ。

こうしたジッターによって、音質に問題が生じるといわれている。本当にジッターによって音に変化が出るのか、そしてどのような影響が出るのか、検証できていないが、まずは、本当にジッターがあるのかを見てみたい。

ただ、どうすればジッターが見えるのかが難しいところだ。もし、単純なワードクロックであれば、オシロスコープで見ることができそうだが、オプティカルやコアキシャルのケーブルを流れてくるのは、クロックのタイミングに合わせてデジタルオーディオ信号が流れてくるのだから、単なるクロックというわけではない。

そこで試してみたのがRMEの「Fireface UCX」を用い、内蔵クロック、オプティカルクロック、コアキシャルクロックを切り替えながら、そのクリックとマッチしたワードクロックデータを取り出し、オシロスコープで見てみる、という手法だ。

実験時の接続図

オプティカルとコアキシャルの信号は、手元にあるパイオニアのDVD/SACDプレーヤー「DV-610AV」から出力。本機はオプティカル、コアキシャルのそれぞれの信号を同時に出力することができる。使用したケーブルは、コアキシャル用にはビデオ用の安いRCAケーブル。そしてオプティカル用には、ネット通販で1,000円程度で購入した3mのケーブルだ。

ヤマハ製AVアンプの上に乗っているのが、パイオニアのDVD/SACDプレーヤー「DV-610AV」
実験に使ったコアキシャルとオプティカルケーブル。どちらも安価なものだ

RMEのFiraface UCXは、同期に関してさまざまな端子があり、その相互変換が可能になっているのがユニークなところ。

Fireface UCXのリア部にある各種デジタル入力
フロント部

他のオーディオインターフェイスと同様、内部クロックを持っている一方で、S/PDIFのオプティカル、コアキシャルの入力があった場合、Clock Sourceで切り替えることが可能。そして、そのクロックを元にして、ワードクロックの出力端子からクロックを出力できるので、オシロスコープで見てみた。

Clock Sourceで切り替えできる
検証に用いたオシロスコープ

しかし結論からいうと、この方法では残念ながら何もわからなかった。どのクロックソースを選んでも、画面には下写真のようなクロックの波形が表示され、その波形に変化は見られなかったのだ。また、いずれの場合も周波数はドンピシャ44.1kHzと表示され、すべて同じ。写真から見ても分かる通り、理論値のようなキレイな矩形波になっているわけではなく、歪みがあるのは確かなのだが、どのクロックソースに切り替えても、その歪み方に違いは見られなかった。

オシロスコープでの波形表示では、ソースの違いは見られなかった

まあ、実はこのオシロスコープでの確認は、後付けであって、本命はRMEのユーティリティであるDIGICheckを使った検証だ。昨年11月に掲載した第873回の記事を書いた後、再チェックをしていた時に妙な現象を発見したので、それを改めて試してみたのだ。その妙な現象というのが、DIGICheckにある12種類の測定ツールのうちのひとつ、「Channel Status Display」で表示される、ある数値の動きだった。

ついに“コアキシャルが安定している”現象を捉えた!?

Channel Status Displayとは、RME Fireface UCXに入ってくるCDやDAT、MDなどのS/PDIF信号の状況を表示するためのツール。

何の信号も入ってきていない状態だと、何も表示されないのだが、たとえばCDプレーヤーからS/PDIFのオプティカルケーブルを使って、Fireface UCXに信号を流すと、下写真のような情報が表示される。

何の信号も入れていない状態
CDプレーヤーからオプティカルで接続した場合の表示

画面にはどのようなソースの信号なのか(CDかDATかなど)、著作権保護情報(SCMS=シリアルコピーマネジメントシステム)はあるか、現在の再生分数・秒数はいくつか、といった情報が表示されているのが分かる。

しかし、ここで注目すべきは一番下にある「Approximated s/f(slow)」という項目。

これはクロックを100Hz程度の精度で表示する項目で、RMEの説明によると±4%の範囲内でサンプル周波数を表示(測定)するというのだ。が、これを見ると、コアキシャルの信号の場合安定しているのに、オプティカルの信号にすると数字がピラピラと変化することを発見したので、改めて見てみようというのが今回の主旨。

言葉で説明するよりも映像で見たほうが分かりやすいので、検証結果をYouTubeにUPしてみたので、ご覧いただきたい。

DIGICheck

何をしているのか、お分かりいただけただろうか?

画面左側にあるFireface USB Settingsで、クロックソースをコアキシャルとオプティカルを何度か切り替えながら、その時のクロックの状況を画面右側のDIGICheck Channel Status Displayで見ているのだ。こうしてみても、コアキシャルのほうがオプティカルより安定しているように見える。

もっとも、コアキシャルならば完全に安定しているかというと、そうでもなくある程度動く。また内部クロックでさえも、ある程度揺れていることを考えると、このApproximated s/f(slow)もどこまで信用していいのか、ちょっと怪しいところではある。

また、44.10kHzなどと、小数点以下2桁が表示されているが、先ほどの通り、100Hz程度の精度ということは小数点以下1桁の精度であって、2桁目をどこまで信じていいいのかはわからないが、とりあえずこの方法における実験では、コアキシャルのほうがオプティカルよりも安定しているように見える。

これで「オプティカルよりコアキシャルのほうが音がいい」と断言はできないが、高価な測定機を使わずに、一般ユーザーにとっても手が届く範囲の機材で、ジッターがある程度見えた意味はあるのではないだろうか? 一つの実験結果として参考にしていただければと思う。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto