藤本健のDigital Audio Laboratory
第873回
RMEインターフェイスの高性能測定ツール「DIGICheck」。全12機能を試す
2020年11月9日 09:51
家電製品でもオーディオ機器でも楽器でも、ヨーロッパメーカーの製品は息が長い。毎年のように新製品に刷新していく日本メーカーに対し、ヨーロッパのメーカーは10年以上も同じ製品を継続している印象があるが、それは技術進化のスピードが速いデジタルオーディオ機器でも同様かもしれない。
ドイツのRMEもそんなメーカーのひとつだ。もちろん新製品も打ち出す一方で、10年近く前の機材も現行商品として生産を続けている。
たとえばUSBオーディオインターフェイス「Fireface UCX」も2012年発売なので、8年続くロングセラーモデルとなっている。じつは先日、そのFireface UCXを今さらながら購入した。目的は測定器として使うためだったのだが、長い歴史のある製品だけに安定して使えるのも本機の大きな魅力だ。
そのFireface UCXには、「DIGICheck」という測定ツールも以前から付属しているのだが、一体どのようなツールなのか、今回改めて試してみたので紹介しよう。
徹底したクオリティコントロールで製造されているRME製品
RMEは、高級オーディオインターフェイスとして定評のあるドイツのメーカーだ。
プロがレコーディング現場で利用するのはもちろん、多くのDTMユーザー、そしてハイエンドPCオーディオの世界でも数多くのユーザーから高い支持を得ている。筆者が先日、今さらながら…と思いつつ購入したFireface UCXは、2012年の登場当初にこのDigital Audio Laboratoryでも取り上げていた(第505回参照)。その間、何度も購入しようか……とも考えたのだが、やはり15万円超という値段に躊躇して見送っていたのである。
それなのに、8年以上経過して購入したのは、先日RME製品を販売しているシンタックスジャパンの担当者と「Babyface Pro Fs」についての話をしていたのがキッカケだ。
幾つかのやりとりをしている中、「その結果となったのは、個体差のせいもあったのではないか?」という筆者の問いかけに対し、「RME製品に関しては、個体差が絶対にないのが特徴なのです」と断言してきたのだ。確かにいろいろな数値を発表しているRMEだが、彼は「これらの数値はすべて再現可能なものであり、同じ実験をすれば、どのロットの製品を使ってもまったく同じ値になる」というのだ。
一般的にオーディオ製品で発表されている数値は、理論値・理想に近いものであり、それを再現することなど不可能だし、個体差もあって、アタリ・ハズレがあるのが当然の世界。そうした中、RMEは実直にデータをとっているだけでなく、生産時の検査で徹底的なクオリティーコントロールをしているから、品質にブレがないというのは、簡単にいえることではないと思う。筆者としては、このDigital Audio Laboratoryでの測定機材として、安定して使えるもの、しっかり再現性のあるものを持っておきたい、という思いから、RME製品をついに導入することにしたわけだ。
新製品であるBabyface Pro Fsでもよかったのだが、個人的にはハーフラック形状が好きなのと、アナログ入出力に加え、オプティカル、コアキシャルの入出力もあるオールマイティーなものが欲しかったので、8年前のモデルではあるが、Fireface UCXにすることにした。
最初に試してみたのは、本当にデータにブレがないのか、2012年の記事で行なったのと同じ、「RMAA Pro」を使ってのテストである。当時の記事を見ると入出力をループするにあたり、マイクプリアンプの影響を受けないよう、入力はリアにある5chと6chにした、とあったので、同じ接続をして、44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzのそれぞれで実験した結果がこちらだ。
これらを見ると、8年前の数値とほぼ同じではあるけれど、厳密に見ると、ノイズレベルやダイナミックレンジ、THDなどの数値において、2桁目とか3桁目あたりで若干の違いがある。
が、そもそも表示されている数値の表示されている小数点以下の桁数に違いもあるようだ。そう、2012年5月の記事だったので、Windows 8が登場する前のWindows 7時代。今とはPCも違うし、ドライバのバージョン、ファームウェアのバージョンも異なる上、RMAA Proのバージョン自体、当時は6.2.3で現在は6.4.5。それら外的要因によって結果に若干の違いが出たということなのかもしれない。
全12機能が入ったRME専用測定ツール「DIGICheck」
Fireface UCXを使うことで、今後各種実験などを行なっていくつもりなのだが、このFireface UCXにはDIGICheckという測定のためのツールがバンドルされている。
140ページ超の立派な日本語ユーザーガイドも付属しているので、結構気合の入ったツールでもある。以前はCD-ROMが付属していたようだが、現在はRMEサイトからダウンロードする形になっている。
DIGICheck自体は、Fireface UCX専用ではなく、BabyfaceシリーズやFireface UFXなどRMEの各種オーディオインターフェイスで利用可能なものであり、これも10年以上の歴史がある。実際、2010年のBabyfaceの記事の中でも軽く紹介したことがあったが、改めて今後の実験用に活用できないか? という観点から試してみた。
RMEサイトから最新のDIGICheckのWindows版をダウンロードしてみると、インストーラ自体は1.48MBなので、とっても小さなファイルサイズ。でも、ここに……
- 2-Bar Level Meter
- 4-Bar Level Meter
- Multi Channel Level Meter
- Global Level Meter
- Spectral Analyser
- Vector Audio Scope
- Totalyser
- Surround Audio Scope
- ITU 1770 / EBU R 128 Meter
- Channel Status Display
- Bit Statistic & Noise
- Global Record
……という全12種類のツールが入っているのだ。
DIGICheck自体は、RMEユーザーでなくても誰でもダウンロード可能で、特にシリアル番号などなくてもインストール自体はできる。ただ、起動後に、Input Device Setupというメニューから入力デバイスの設定が必要なのだが、ここでRME製品以外は選択ができず、ASIO driver selectというところに他社のASIOドライバは現れてこないため、RME製品を持っていないと使うことができない。
では、これら12種類のツール、どんなものなのか。すべてチェックしてみたので、簡単に紹介していこう。
まず「2-Bar Level Meter」は、ピークレベルとRMSの両方を測定する2chのメーターで、上にピーク値が、下にRMSが表示される形になっている。ほかのツールにも共通するが、測定できるのはFireface UCXが持つ、アナログ・デジタル含めた全18chの入力および出力のうちの任意の2ch。そしてDIGICheck自体は完全独立なマルチクライアントのアプリケーションなので、いくつでも起動することが可能で、それぞれ別のchの指定することが可能になっている。
面白いのは測定機として入力される信号を調べるだけでなく、単純に再生する音もチェックできるので、実質的には手元にあるWAVやAIFF、MP3などの特性をチェックすることにも使えるというわけだ。
「4-Bar Level Meter」は、2-Bar Level Meterを見やすく、ピークメーターとRMSメーターを別々に表示させたもの。基本的な考え方は同じだ。
「Multi Channel Level Meter」は2-Bar Level Meterをマルチチャンネルに拡張したもので、最大8chまで表示することが可能。どのチャンネルを表示させるかは、Input Device Setupで設定することができる。
「Global Level Meter」は、さらに広げてFireface UCXの全チャンネルの状況をモニターするというものとなっている。
ここまでは、すべてレベルメーターだった。
「Spectra Analyser」はその名の通り、スペクトラムアナライザーであり、入力信号もしくは出力信号をリアルタイムに周波数解析してグラフ表示してくれるものだ。必要に応じてセットアップ画面で、バンド数やグラフの表示の仕方などを調整したり、画面右側にレベルメーターを表示させることなども可能だ。
「Vector Audio Scope」は、信号をX-Y軸に割り振って表示させるもので、位相などをチェックできる。またこれも設定画面を使うことで、いろいろ調整が可能で、必要に応じてキャリブレーションを行なったり、画面右側にレベルメーターを表示させることもできる。
「Totalyser」は、これまで紹介してきた全機能を統合したようなもので、全体を見渡すことができるようになっている。
「Surround Audio Scope」は、5.1chサラウンドを分析するための機能。各チャンネルのレベルメーターを表示させるとともに、レーダーチャートでリアルタイムに状況を把握できる。また、レーダーチャートの下にはL/C、C/R、L/R、L/SL、R/SR、そしてSL/SRとそれぞれのバランスもチェックすることができるようになっている。
「ITU 1770 / EBU R 128 Meter」は、付属の日本語ユーザーガイドには記載がなかったので最近追加されたツールのようだ。
名前からも分かる通り、ITU 1770、およびEBU R128に準拠したラウドネスメーターとなっている。5.1chのリアルタイムのメーター表示ができるほか、画面右側にはM、S、Iという3つのメーターがある。このうちMは0.4秒のラウドネスを測定したもの、Sは3秒、Iは統合ラウドネスとなっている。なお、測定はStartボタンを押してからストップするまでの間の時間で行なう形になっている。
「Channel Status Display」は、デジタル信号が持っているステータス情報を表示させるための機能。
マニュアルを見ると、これはS/PDIFが持つステータス情報……たとえばシリアル・コピーマネジメント・システムが有効かどうか、トラックナンバーや現在の時間などが表示されるそうだ。ただ、試してみたところCDからのS/PDIF信号をオプティカルで見ても、コアキシャルで見ても、うまく表示されなかった。試しに昔のDATを引っ張り出してきてそのS/PDIF出力も読み込ませてみたが、うまくいかない。何らかの設定を間違えているのか、ソフトウェアのバグなのか、判然としなかった。
しかし本記事掲載後、ユーザーの方から指摘をいただき解決。原因はFireface USB Settingにおいて、SPDIFinのTMS=Track Maker Supportがオフになっていたこと。これをONにしたところ、CD再生時の信号を受信し、細かいステータスが表示できるようになった。
【追記】Channel Status Displayに関する情報を追記しました。(11月10日17時)
「Bit Statistic & Noise」はオーディオビットの状態を表示するためのもの。各ビットが0なのか1なのか、もしくはオルタネイト状態なのかを表示する形になっている。これを見ることで、本来の解像度またはワードレングスの計測が可能だ。
最後の「Global Record」は、測定というよりは、とにかく全チャンネルまとめてWAVで録音してしまうという機能。44.1kHzや48kHz動作時であれば、全18chを一気に1つのWAVファイルとして記録していくので、結構大きなサイズにはなるが、絶対に記録しなくてはならないデータなどは、この機能で丸ごと抑えてしまうというのも手かもしれない。
以上、今回はDIGICheckの12のツールについて、ざっと見てみたが、シチュエーションに応じていろいろな使い方ができそうだ。今後記事の中でも実践投入していこうと思っている。