藤本健のDigital Audio Laboratory

第944回

スマホ/PC直挿しのプロ仕様インターフェイス「iRig Pro Quattro I/O」を試す

iRig Pro Quattro I/O

イタリアのIK Multimediaが「iRig Pro Quattro I/O」という最大96kHz/24bitに対応した4in/2outのオーディオインターフェイスを発売した。“Quattro”という名前からも想像できるように、4入力を持つオーディオインターフェイスでありWindowsやMacで利用できるのはもちろん、iPhone/iPadやAndroidにも直接接続できる機材となっている。

税込実勢価格は53,300円と、かなり強気な価格設定となっているが、実際どのような機材なのか試してみたので紹介してみよう。

ユニークな機能・製品をリリースするiRig

個人的にIK Multimediaのハードウェアというと、12年前に発売したiPhoneの4極端子でギター入力を可能にする「iRig」のイメージが今でも非常に強く残っている。

iRig

当時、実売価格が5,000円弱だったこともあり、“手ごろな価格の製品を出すメーカー”という印象を持っていたが、最近はかなり高級路線にシフトしている。たとえばモニタースピーカー「iLoud MTM」はペアで12万円を超えているし、ギター用のオーディオインターフェイス「AXE I/O」は61,600円と他社メーカー製品と比較してもかなり高めな値段設定。

もっともiLoud MTMはDSP搭載でキャリブレーション機能を装備していたり、AXE I/Oはギターに特化した特殊な回路が搭載されているなど、他社にはない非常にユニークな機能を搭載しているために、価格設定も上がって来ているのだろう。また昨今の円安も一つの要因になっているのかもしれない。

iRig Pro Quattro I/O

そんな中、登場したiRig Pro Quattro I/Oは、ちょっとゴツイ見た目のオーディオインターフェイスだ。オーディオインターフェイス単体のiRig Pro Quattro I/Oという製品と、小さなマイクとキャリングケースをセットにした「iRig Pro Quattoro I/O Deluxe」(実勢価格69,300円)という製品があり、単体写真の前にDeluxeの写真を見たこともあり、「ついに、IK MultimediaもリニアPCMレコーダーを出したのか!」と思ってしまったが、そうではなかったようだ。

iRig MIC XYステレオ・マイク、ウィンド・スクリーン、9V電源アダプタ、キャリング・ケースを同梱した「iRig Pro Quattro I/O Deluxe」

Deluxeに付属しているのは本体のキャノン端子に直接接続できるコンデンサマイクで、これを装着することでZOOMやTASCAMなどが出しているリニアPCMレコーダー風にはなるが、実際にはオーディオインターフェイスにマイクを搭載した機材になっているだけで、本体自体に録音機能を持っていたり、SDカードスロットを装備している、というわけではない。

Deluxeに付属しているコンデンサマイク

iRig Pro Quattro I/Oの入出力端子や機能をチェック

というわけで、実際どんな機材なのか詳細に見ていこう。今回借りたのは本体だけのiRig Pro Quattro I/Oのほうで、パッケージを開けると中には写真のようなものが入っている。

パッケージ
同梱品

本体のほかに、USB Type Aケーブル、USB Type-Cケーブル、Lightingケーブル、MIDI用の2.5mm-DIN変換ケーブル、それに三脚接続用アダプタと単3電池×4という構成。本体の底面を見ると電池ボックスがあり、これを使うことでiPhoneなどパスパワー電力が足りない機材であってもしっかり動作させることができる、というわけだ。

本体底の電池ボックス

端子を順に見ていくと、まずトップにあるのがコンボジャックでの入力。IN 1、IN 2ともにマイクとインストゥルメントとなっており、特に切り替えスイッチはないのでXLRを挿せばマイク、フォンを挿せばHi-Z入力として扱われるようだ。先ほどのDeluxeに付属のコンデンサマイクもここに挿す形だ。

上部のコンボジャック入力

右側面には、2つのコンボジャックがある。これがIN 3、IN 4となるものだが、こちらはマイクとラインとなっている。やはりこちらも切り替えスイッチはないので、基本的にXLR接続がマイク、フォン接続がラインということのようだ。

右側面

ほかには、IN /IN 2用のファンタム電源スイッチを搭載。これをオンにすると+48Vのファンタム電源が送られ、コンデンサマイクを使用できるようになる。さらにIN 3、IN 4用の入力も並んでいる。上写真の左側が3.5mmのステレオミニジャックで、右側がRCA入力となっている。

が、気になるのはいろいろ入力がある場合、すべてミックスされての入力になるのか、どれかが優先されるのか、という点。これについては実際に試してみた。結論からいうととても簡単。優先順位はなく、すべてミックスして入力される形だ。ただし、レベル調整が効くのはコンボジャックのみであり、ステレオミニとRCAについてはラインレベル固定となっていた。

左側面

続いて左側面を見ると、ライン出力としてXLRのキャノン端子が2つ用意されている。メインがXLRというあたりで業務利用を考えて設計されていることが想像できるが、これだと一般ユーザーにとっては扱いにくい面もありそう。他には3.5mmのステレオミニでの出力、3.5mmのヘッドフォン出力、2.5mmのMIDI入出力端子が搭載されている。

そしてボトムには主に電源関連の端子が並ぶ。左側は別売のACアダプタを経由して9Vを供給するためのもの、その隣は電源スイッチで、バッテリーを使うのかUSB供給なのかを選択できるようになっている。真ん中はmicroUSBによる電源供給端子、一番右のミニDIN端子は付属のケーブルを用いてPCやスマホとの接続をするためのものだ。

底面

フロントパネルには、LEDメーターやノブ、スイッチなどがあり、ここで各種操作を行なっていく形。まず上にある2つのノブはIN 1/IN 2のプリアンプであり、ここでゲインを決めていく。その下の2つのノブも同様にIN 3/IN 4のゲインを決めていくものだ。

前面

さらに一番下にある2つのノブは、左側がヘッドフォンレベルを決めるもの、右側がライン出力レベルを決めるものとなっている。が、見てみるとスイッチやLEDがいっぱいある。

非常にユニークなのが、4つのゲインボリュームの間にあるMICというスイッチ。実はこれ、内蔵MEMSマイクのスイッチになっており、これをオンにするとIN 1の入力としてMEMSマイクからの音が立ち上がるのだ。そう、iRig PROのロゴの下に小さな窪みがあり、ここがマイク。MEMSマイクとはいえ、そこそこの音質で音を捉えることができ、IN 1のゲインノブで調整もできるので、いざというときには結構活用できそうだ。

MICスイッチ

そして真ん中にあるMODEスイッチはMULTI、STEREO、MONOの切り替えができる。MULTIはDAWなどを使ってレコーディングする際、IN 1~4を別々にレコーディングできるというもの。STEREOはIN 1とIN 3、IN 2とIN 4がミックスされる形でステレオ2chで入力できるもの、さらにMONOはIN 1~4すべてがミックスされてモノラルで入力されるというもの。

MODEスイッチ

ただし、いずれの場合もPC側から見ると4in/2outのままだ。実はSTEREOモード、MONOモードの場合、Ch1/Ch2の入力とCh3/Ch4の入力があり、いずれも同じ音が入ってくるけれどCh3/Ch4のほうは12dB小さい音で入ってくるため、何かで大きな音が入ってきたような場合でもクリップしないようにセーフティーチャンネルとして利用できるようになっているのだ。どう使うかはユーザー次第だが、この辺も業務用を意識した機能なのだろう。

モード別の入力図

一番下には3つのスイッチが並んでいる。左のDIRECTはダイレクトモニタリングのスイッチ。オンにすると入力してきた音がそのまま出力へも流れる形になってモニターできる。LOOPBACKはいわゆるループバック機能で、これをオンにするとPCからの音をCh1/Ch2にミックスして戻す形になる。そして、LIMITERはリミッター機能。これはIN 1/IN 2のみに対応したもので、ここに入ってきた信号が過大な場合にはリミッター機能が作動しレベルを抑えるようになっている。

DIRECT、LOOPBACK、LIMITERの3ボタン

LEDのほうは上部にあるのが入出力を司るレベルメーター。中央の1-4はIN 1~4の入力レベルを示すもので、右のLとRは出力レベルを示すもの。また一番左はバッテリーレベルを示すもので、その右はファンタム電源の状態を示すものとなっている。

レベルメーター

さらに、ヘッドフォンノブとラインアウトノブの間にあるのはMIDIの入出力状態をモニターするもの。赤く点灯しているのはPCやスマホに接続していることを示すものとなっている。

MIDIの入出力状態を示すランプも

以上、ざっと入出力や操作等について説明してみたが、このiRig Pro Quattro I/Oは樹脂ボディでラバーコーディングされたとっても軽い機材。バッテリーなしなら325gなので、常にカバンに入れて置き、いざというとき使うオーディオインターフェイスとして持ち歩くのもよさそうだ。

またUSBクラスコンプライアンスになっているので、Windowsを含め、すべてのホストにおいてドライバなしで使うことができる。WindowsのASIOで使うためには、IK Multimediaがユーザー向けに配布をしているiRig USB Audioドライバのインストールが必要。WindowsのDAWで使うにはこれが必須だ。

WindowsのASIOで使うには、専用ドライバが必要

実はホストに接続しなくても、バッテリーやACアダプタ、microUSBからの電源供給によりスタンドアロンでも使えるようになっている。この場合は4入力を持つ簡易ミキサーもしくは、4つのマイクにも接続可能なマイクプリアンプとしても使える。ファンタム電源供給も可能だから、いざというときに活用できそうだ。

入出力の音質とレイテンシーを検証

では、このiRig Pro Quattro I/Oの音質性能やレイテンシー性能がどれだけのものなのか、このWindows用ドライバをインストールした上で、テストしてみた。

まずはいつもの音質テストツール、RMAA Proの結果から。44.1kHz、48kHz、96kHzのそれぞれでテストした結果がこちら。

計測結果
サンプリングレート・44.1kHzの場合
48kHzの場合
96kHzの場合

結果を見ると、悪くはないが、一般的なUSBオーディオインターフェイスと比較するとやや見劣りする感じではある。まあ、このRMAA Proはライン入力とライン出力をループ接続して、ラインでの入出力の総合性能を測るためのツールであり、マイク入力を主とするiRig Pro Quattro I/Oにとってはややポイントのズレるテストである可能性もあるので、あくまでも一つの参考ととらえてほしい。

一方、レイテンシーテストをした結果がこちらだ。

レイテンシー
128 Samples/44.1kHzの結果
8 Samples/44.1kHzの結果
8 Samples/48kHzの結果
16 Samples/96kHzの結果
Safeモードを外した状態でテストしている

こちらは先ほどのドライバにおいてデフォルトでチェックが入っているSafeモードを外した上で、44.1kHzのみはバッファサイズ128サンプルと最低値の8サンプル、48kHzおよび96kHzではいずれも最低値の8サンプルと16サンプルで測定して結果だ。こちらも、5msec前後なので、まずまずといった結果だ。

以上、IK Multimediaが発売したばかりの4in/2outのオーディオインターフェイス、iRig Pro Quattro Proについてみてきたがいかがだっただろうか?

少し高めではあるが、機能的にもオールマイティーに使え、とても軽いので、カバンに入れて持ち運ぶモバイル用2台目オーディオインターフェイスとしてとってもよさそうに思う。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto