藤本健のDigital Audio Laboratory
第950回
未来の楽器が大阪に集結!? 第2回「ゆる楽器ハッカソン」に行ってきた
2022年8月1日 11:11
7月23日(土)、24日(日)の2日間、大阪大学の箕面キャンパス内において、第2回目となる「ゆる楽器ハッカソン」が開催された。
「ゆる楽器ハッカソンって何?」という方がほとんどだと思うが、本催しは誰もがすぐに弾けて合奏できる「ゆる楽器」を、各自のアイディアを元に2日間で開発しよう、というイベントだ。
昨年レポートした、神奈川県川崎市の洗足学園大学で行なわれた「ゆる楽器ハッカソン2021」に続く第2弾。前回非常に楽しかったので、大阪で第2回目が開催されると聞き、取材に行ってきた。
もちろん参加者は関西圏の方が中心ではあったが、中京地区や関東からの参加者も少なくなく、下は高校生、そして上は50代の現役エンジニアまで年齢層は様々。2日間という時間制限の中、かなりレベルの高い楽器が開発されていたので紹介していこう。
誰でもすぐに演奏&誰とでもすぐに合奏できることがMUST
ゆる楽器ハッカソンは、“世界ゆるミュージック協会”が主催するイベント。
同協会は、「すべての人に楽器を演奏する喜びを提供する」ことを目的とした団体であり、「音楽は好きだけど楽器は苦手、リズム感や音感がないから…」という方でも、気軽かつ気兼ねなくプレイできる楽器を広めていこう、というユニークな試みを実践している。
その“ゆる楽器”の定義は、MUSTとして「誰でもすぐに演奏できること」、「誰とでもすぐに合奏できること」であるが、BETTERな条件として「練習するともっとうまくなっていくこと」、「音階の制御ができること」という条項があるのも面白いところ。
世界ゆるミュージック協会の中心人物であり、ソニー・ミュージックエンタテインメント EdgeTechプロジェクト本部 MXチーム チーフプロデューサーの梶望氏は、「このハッカソンは前回も今回も大阪・関西万博『TEAM EXPO 2025』の共創プログラムの一環として行なっているものです。大阪・関西万博の1,000日前イベントとして、7月23・24日に大阪大学のキャンパスを利用してTEAM EXPO FESを開くことが決まったので、我々も参加することになりました。ゆるミュージック協会のホームページでハッカソン参加者の募集の告知をするとともに、TEAM EXPOや地元FM局であるFM802などにも協力してもらって告知していった結果、40名弱の方々に参加いただくことができました」と話す。
筆者は「ハッカソンがある」という情報だけで、全体像を知らないままに大阪まで来てしまったが、この日は大阪大学のキャンパス全体が文化祭のようなフェス会場になっていて、学びの場があったり、ライブ会場があったり、テントでの食べ物販売であったり。
その会場の一つである4階の中講義室&交流スペースでハッカソンが行なわれていたが、世界ゆるミュージック協会関連の出し物としては、ハッカソンのほかにも2カ所。1つはテントブースで、ここには前回のハッカソンの優勝作品が「ハーモニーフラッグ」という名称がついて、多数展示されるとともに、子供たちが楽しそうに演奏していたのだ。
もしかして、前回のハッカソンで優勝した作品が製品化されたのか? と思ったらそうではなく、優勝チームの中心メンバーがより精度を上げ、3Dプリンターを使って整形するとともに、10台生産したものをここに持ち込んでいたのだ。
もちろん、協会側からも援助があって、生産しているようだが、ハッカソンでの作品がここまで昇華しているのは、見ている側も嬉しくなるし、ゆる楽器ハッカソンの今後もますます期待したくなるところ。ちなみに、その第1回の優勝チームメンバーのうち3名が、今回のハッカソンにも参加していた。
そして、もう一つの出し物というよりイベントが、SME所属のアーティスト「ゆるミュージックほぼオールスターズ」(略称:ゆるほぼ)による屋外ライブだ。
ゆるほぼは、ボーカルにトミタ栞、バンドメンバーに小澤綾子、五十嵐LINDA渉、ラヴィ・クマール、村木ひらり、杉本星斗で構成される、ゆる楽器を演奏するバンド。大阪・関西万博の応援ソング「満ちる愛・繋ぐ夢」などを熱唱したが、ステージではハーモニーフラッグをはじめとしたゆる楽器を使って演奏していた。
さて、そのゆるほぼも審査員として加わる形で開催されたハッカソン。
ファシリテーターは、この手のハッカソンの進行役としてお馴染みの伴野智樹氏が仕切る形で進められ、ここに集まった40人弱の人たちが、全部で10チームに分かれて作品作りが行なわれた。最優秀チームには賞金10万円と、ゆるほぼライブでの演奏参加権、優秀チームには賞金4万円とゆるほぼライブでの演奏参加権が与えられる。
なお、ソニーセミコンダクタソリューションズの協賛ほか、ソニーのグループ各社も協力しており、ソニーの関連デバイスが3種類提供されていた(使うことがMUSTというわけはない)。
具体的には小さなキューブ型ロボットトイの「toio」、ソニーのスマートセンシングプロセッサーCXD5602が搭載されたボードの「Spresense」、そして特別な知識がなくてもプログラミングが体験できるIoTブロックの「MESH」。各デバイスの使い方などを説明するサポート要員も東京から駆けつけていた。
というわけで、実際にどんな作品ができたのか、最優秀チームから簡単に紹介していこう。
【最優秀賞】グーチョキパー/チーム名:TS
Spresenseを用いて、じゃんけんのジェスチャー……つまりグー、チョキ、パーのそれぞれをAIが認識して、じゃんけんに合った音を出すという楽器。
グー、チョキ、パーそれぞれのジェスチャーをした手の写真を各100枚程度ずつ撮影した上で、AI学習させることで、認識できるようにし、カメラセンサーに手をかざすことで、それにマッチした音階がなるようにしてある、とのこと。
ただ、最終的にはSperesenseへの落とし込みまでできず、プレゼンではPCを使ってのシステムとなっていたが、ダイバーシティへ対応した楽器の可能性やアイデアのユニークさから最優秀賞に輝いた。
【優秀賞】ニャクニャク/チーム名:Shotaro's Factory
今回参加の最年少で、愛知県から参加した高校2年生が作った作品。
肉球はかわいい、まん丸な目はかわいい、それらがたくさんあればもっとかわいい……をコンセプトに作った楽器で、アップリケのような肉球を握ると音階を演奏するとともに、iPad画面の目玉を触ると音色を切り替えたり、画面操作でピッチベンド操作ができるようになっている。
システム的には全体をRaspbery Piで制御しており、各肉球の中にはスイッチが入っているかたち。そのスイッチをトリガーにして各音階を鳴らしている。ここではPythonでプログラミングし、各音階の波形を生成することでビブラート効果なども出せるようにしているとのことだ。
【優秀賞】ゆるフラメンコ/チーム名:ゆるフラメンコ
フラメンコのカスタネットは高速に叩いて鳴らすし、靴も釘のついたハードなもので、これを演奏するのは非常に大変。そうした訓練、練習なく、簡単に演奏できるカスタネットとフラメンコシューズをSpresenseと加速度センサーで実現させたもの。
手をクルッと回すジェスチャーでカスタネットの連打を実現し、足をタップすればカンカンと鳴る。SDカードにカスタネットなどの音を事前収録しておき、これを鳴らす仕組みになっている。
【Spresense賞】傘コード/チーム名:ふーぎー
6面ある傘の数字を目の前の人に向けて傾けると、番号のコード=和音が鳴るという仕組みの楽器。1ならIの和音、4ならIVの和音が鳴る。
傘の柄の部分にSpresenseと追加モジュールの加速度センサーがあり、これで傾きを検出するとともに、信号を発信して音源ボードを鳴らす仕掛け。その音源ボードには宇田電子の非売品モデルが用いられているとのことだった。
アンプ&スピーカーも柄の部分に内蔵していて、傘一つで完全な楽器に仕上がっている。またもう一つの傘にはtoioが入っており、これで傾きを検知した上でパソコンのドラムが鳴らせる仕掛けになっていた。
【ゆるほぼ賞】演武楽器/チーム名:痛快
武器や盾を使って演舞をしながら音楽を演奏するというもの。
武器の先端および盾にtoioが埋め込まれており、盾にはコードが記載されているtoio用のプレイマットが敷き詰められているため、武器で縦のどこを触るかによって異なる音階が鳴らせるようになっている。
信号はBluetoothを用いてPCに飛ばす形で、Scratchベースのプログラムで音をトリガーできるシンプルなシステムとなっていた。
【ゆるほぼ賞】カンフー発する/チーム名:チーム発する
ロボットアームような形のグローブの中にSpresenseが入っており、手を動きをセンシングすることによって、「あちょー!」といった複数の声を発する形になっている。
この効果音は自分たちでサンプリングしており、連打も可能。Spresenseのオーディオ出力をBluetoothで飛ばして、外部のBluetoothスピーカーから鳴らす仕組みになっている。プログラムはC++の派生ともいえるArudino言語で組んであった。
【ゆるほぼ賞】DJプラレール/チーム名:プラ電
プラレールを走る電車が、音階が書かれたマットを踏むとメロディを奏でるシステムで、そのマットを手で置いていくことで演奏できるシーケンサ。
電車にはtoioが仕込んであり、ド、レ、ミ……と手書きされたマットは、実はtoioが読めるコードが書かれたシートになっていることから電車が音階を認識。それを元にPCで音を鳴らす形になっている。
【ゆるほぼ賞】スマホ、3台寄れば文殊の知恵/チーム名:島田兵
3台のスマホおよび1台のPCをそれぞれP2Pで接続して、1つのドラムセットに仕立てたもの。1つ1つにアプリが入っていて、それで1つの打楽器になっている一方、WebRTCを用いてストリーミングさせることで音をまとめている。
スマホのタッチパネル液晶は電界の変化を検知する静電式のため、アルミ箔を導体として利用したドラムスティック、キック用ペダルを作成して反応させていた。
【LINDA賞】お掃除道具バンド クリーン/チーム名:京都精華大学
京都精華大学・メディア表現学部の先生と生徒で、掃除道具を利用したゆる楽器を作成。マサチューセッツ工科大学で開発された、電気を通るものなら何でも電子楽器にする基板・MakeyMakeyを持参の上、ほうきに電極を付けてエレキギターに。同じ手法でひしゃくをフルート風に仕立てたものや、紙コップをドラムセット風に仕立てたものが登場。
ほかにも持参したIoTデバイス・obnizを利用し、リモコンでソレノイドコイルを動作させて、チーンと鳴らすベルも作成。toioをシートに当てることで、どこに当てたかを検知し、それに伴う音程を発生させる楽器と、いろいろなものを使ってみんなで合奏していた。
【LINDA賞】たこ焼きくるんくるん/チーム名:たこパ
会場が“大阪”ということもあり、たこ焼き屋台をモチーフにしたゆる楽器。
大きなたこ焼きの中にはタコならぬtoioが入っており、串でたこ焼きをひっくり返すと、それを検知してでメロディーを奏でるというもの。システム的にはPC上のScratchによるプログラムでで制御しており、Scratchの持っている音源で鳴らしている格好だ。
以上、10チームが参加し、結果的には全チームが何等かの賞を受賞した格好となったが、どれも面白いゆる楽器が開発されたように感じた。この受賞発表の後、ゆるミュージックほぼオールスターズを交え、開発されたゆる楽器を使っての全員での合奏が行われた様子がこちらのビデオだ。
ゆる楽器が作りやすくなるシステム「ゆるコア」
さて、今回のハッカソンをソニーグループ各社によるデバイスが支えていたわけだが、今後さらにゆる楽器を作りやすくするシステム「ゆるコア」なるものを間もなくリリースする旨の情報もあったので、少し紹介しておきたい。
これはSpresenseを利用しつつ、楽器として各種センサーとの接続をしやすくするためのSpresenseの拡張基板およびソフトウェアライブラリからなるもの。
拡張基板のほうはソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズが担当し、ライブラリのほうはソニセミコンダクタソリューションズが担当する。
拡張基板の発売は来年くらいになりそうとのことだが、ライブラリ自体は近いうちにGitHubを通じて無料で公開される予定で、これらを利用することで誰でも簡単に安定して動作する電子楽器が作れるようになるという。この辺については、また具体的なモノが登場したあたりで、詳しく紹介してみたい。
なお、そのSpresenseに関連してソニーセミコンダクタソリューションズと公益社団法人計測自動制御学会システムインテグレーション部門が共同で主催する形の「Sensing Solutionアイデアソン・ハッカソン 2022」なるものが2022年12月17日にオンライン開催される。
これは楽器に限ったものではないが、日本国内の高等学校もしくは大学等に在籍する生徒・学生を対象にした無料で参加できるアイデアソン、ハッカソンとなっている。参加登録は8月1日~10日となっているので、興味のある方はエントリーしてみてはいかがだろうか。