藤本健のDigital Audio Laboratory

第975回

PC買い替え失敗!? Core i9-12900HがRyzen9 5900HXにやられた話

筆者はおよそ2年に1度の間隔で、メインマシンであるデスクトップPCを買い替えているのだが、先日、第12世代Core i9-12900Hを搭載したPCを購入した。

これまでCore i9に憧れを感じつつも、価格が高くなかなか手が出せなかったのだが、昨年末に発表・予約注文を開始した中国MINISFORUMのベアボーン「NAD9」が81,440円(現在87,790円に値上げ)と手ごろな価格だったため、飛びついたのだ。

DTM用途を中心に、Webのブラウズや原稿書き用などの普段使いに購入した結果、どんなマシンであったのかを紹介してみよう。

2度目のMINISFORUM製パソコン。メモリなど総額で124,236円

前回購入したPCも今回と同じMINISFORUM製で、AMD Ryzen 9 5900HXを搭載した「EliteMini HX90」というマシンだった。初MINISFORUMの感想については、第913回の記事で書いているので、詳しくはそちらを参照いただきたいが、前回が2021年10月だったので、1年半弱でのリプレイスとなる。

とくにHX90に大きな不満があったわけではないし、パワー的には十分すぎるほどではあったのだが、2点ほど気に入らない点があった。その2点、実はこの原稿を書いている間に解決してしまったのだが、1年半近くずっと納得いかないままに使ってきた。

1つは音の問題。普段USBスピーカーのOVOを使っているが、なぜかサンプリングレートが合わないような現象が生じ、ブチブチいったり、途中で音飛びしたり、音が止まったりするのだ。ただし、外部接続のオーディオインターフェイスにいったん切り替えてから戻すと問題が解決するので、起動するたびに、そんな切り替えを行なってゴマかしていた。

USBスピーカー「OVO」

もうひとつは、スリープから復帰しても画面が表示されなくなってしまうという問題。PC自体は動いているようだが、画面に何も表示されないので、強制シャットダウンをするしか方法がない。そのためスリープしないように使っていた。

ファームウェアやドライバがアップデートすれば改善されるのでは? と期待していたが、あまりアップデートはなかったし、アップデートを適用してもまったく解決せず。ただ、ネットを探しても同じような症状の人がいないので、ウチだけの問題なのか、どこかに不具合があるのでは? と思っていたのだ。

そんな中、昨年11月、MINISFORUMがCore i9搭載のマシンNAD9を発表したことをネットニュースで知ると同時に、メールでもMINISFORUMからお知らせが届き、これは購入しなくては! と思った。

ただ、発送は2023年1月中旬以降と記載されていたほか、ドル建てで購入したほうが1割ほど安かった。そのため、ドルで購入する方法はないかと模索したり、もしかしたら年末のセールなどがあるのではとウダウダしていたのだ。

結局、日本配送の場合、円建てでしか購入する方法がなく、クリスマスセールスタート時も新製品であるNAD9は対象外だったこともあって、買おうと決心したタイミングで、売り切れ・予約販売中断になってしまった。

「しまった!」と思ったけれど、時すでに遅し。もしかしたら、部品不足で生産がなかなかできないのかもしれないし、そのうち値上げになってしまうかもしれない。試しに、Core i9搭載の他社製品を探してみたけれど、そんな安いものはほかにはなく、一番安くても倍くらいで、ますます口惜しさが増した。

日々MINISFORUMの販売ページをチェックしつつ、ため息をついていたが、大晦日に販売が再開されたのを発見し速攻で注文。ベアボーンなので、メモリやストレージ、OSはない。これらは自分で揃えるとして、まずは到着を待つことにした。2月か3月になってしまうんだろうな……と思っていたところ1月20日に到着。それから慌ててメモリとSSDを購入した。

大晦日に販売が再開されていた
急遽、メモリとSSDを購入

これまでのマシンのメインメモリは32GBだったが、メモリもだいぶ安くなっていたので、DDR4 SODIMMの32GBを2枚、ストレージはM.2 SSD 1TBを購入。その後、さらに2.5インチのSSD 1TBをAmazonで購入した。

特に大きな意味があったわけではないが、これまでトラブルがなかったのですべてCrucialのものを購入。メモリは12,850円×2=25,700円、M.2のSSDが13,236円、2.5インチは8,360円だったので、ベアボーンと合わせてトータル124,236円。OSは以前別のPCで使っていたライセンスを引っ張ってくることにした。

初期不良でマシン交換。KVMスイッチで表示不安定に

さて、中を開けてみてメモリを装着。そしてM.2 SSDを装着して電源を入れてみると……、なぜか画面がうまく映らない。

メモリを装着
M.2 SSDを装着

あれ? と思い、普段使っている4Kディスプレイではなく、24.5インチのフルHDディスプレイにHDMI接続するとBIOS画面が表示されるが、メモリが32GBしか認識されていない。これは、うまく接続できていなかったかなと、挿しなおしてみると、今度はまったく認識しない。それぞれを入れ替えてみてもうまくいかないのだ。

ハズレのメモリを買ってしまったかなと思い、今まで使っていたHX90に入っていた16GB×2を挿してみても、やっぱりダメ。反対に、買ったばかりのCrucialの32GBx2をHX90に入れてみると認識するので、明らかにPC側に問題がありそう。

SNSに「何かいい方法はないだろうか?」と投げてみたら、「おそらく接触不良なので、エタノールでメモリ端子をじゃぶじゃぶ漬けてスロットに抜き差ししたら、うまくいくはず」というアドバイスをもらい、試してみたけど、やっぱりダメ。

仕方なく、メーカーに連絡をしてみたところ、すぐに日本語で「交換するので、一度、横浜の倉庫まで返品してほしい」という連絡。ただ、ちょうど中国の旧正月に入るタイミングだったため、到着確認まで1週間程度を要し、さらにその後中国から発送となったため、結局手元に新しい機材が届いたのが2月13日だった。

新しく届いたマシンにメモリ、SSDを挿してみたところ、今度はあっさり動作。さらに2.5インチSSDも追加し、Windows 11をセットアップした。

モノが届いて気づいたのだが、IntelのNUCと違って、Thunderbolt 3/4の端子がないのは残念なところ。単なるUSB-Cではなく、Thunderboltであれば、Universal AudioのApolloなどが使えたわけだが……。

一方、メモリやM.2 SSDを挿そうとして、ふと気になったのは、SODIMMでもM.2でもないスロットだ。

スロット

最初間違えてメモリを挿そうとしたのだが、それとも違うし、これは何? と知人経由で調べてもらったところ、MXMというスロットであったことが判明。

MINISFORUMのサイトには何も記載がなかったが、ここにMXM仕様のGPUボードなどを挿して機能拡張できるようだ。もっともMXMのGPUは市販はされておらず、BtoBでノートPCメーカーなどへの供給のみ。ただ、ネットオークションなどには結構モノが出ているので、機会があれば、入手してみたいと思っている。

メモリ問題は解決したが、次は4Kディスプレイでの表示で躓いた。

BIOS画面が表示されなかったり、Windowsの画面がチラついたり。もともと4K用のHDMIケーブルを使ってはいたのだが、ネットで調べてみると「ULTRA HIGH SPEED対応のHDMIケーブルを使うといい」という情報を見つけて買ってみたがダメ。

Ultra High Speed対応のHDMIケーブル

リフレッシュレートを変更してもダメ。ところが前述のフルHDディスプレイに接続するとキレイに問題なく映る。これは、4Kディスプレイが悪いのでは…と疑い、新たに購入しようかと、探してみたのだが、HX90やMacは問題なく映るので、この新マシン、NAD9と相性が悪いのだろうか? と悶々としつつも解決しない。

そこで、もしかして…と思ったのが、PCとディスプレイの間に入れているKVMスイッチ。

KVMスイッチ

事務用と仕事用のPCを切り替えるのに、KVMスイッチを使っているのだが、コイツがダメなのでは? とHDMIケーブルをディスプレイに接続してみたところ問題解決。

ちなみに、このKVMスイッチ。数年前に4Kディスプレイを購入した際に、追加で買ったもの。4K対応していて、価格も安く、とても気に入っていたのだが、コイツが問題だった。幸い、ディスプレイには3つのHDMIポートがあったので、ここに直接接続し、キーボードとマウスの切り替えだけはKVMスイッチを使うことにした。

DTM的ベンチマークテストを敢行。そして残念な結果が……

ブラウザとテキストエディタの秀丸だけが立ち上がっている状態で、使用電力を見てみると25W程度だった。Core i9といっても、Core i9-12900Hはモバイル用のCPUなので低消費電力。負荷が小さい状態だとファンも回らず、ほぼ無音の状態なのは快適だ。

モバイル用のCPUなので低消費電力

前述の通り、HX90はCPUがRyzen 9 5900HXで、これもモバイル用だが、8コア/16スレッド。それに対し、Core i9-12900Hのほうは14コア/20スレッド。きっと断然速いはず! と考え、DTM的ベンチマークテストも行なってみた。

左がNAD9、右がHX90

使ったのは、HX90の導入記事でも使用したStudio Oneのプロジェクト。当時はStudio One 5を使っていたが、同じプロジェクトをStudio One 6 Professionalで開いて使ってみることにした。

簡単に紹介すると、PCに負荷をかけるため、1つのインストゥルメントトラックにStudio One標準の音源であるMaitai、Mojito、Presenceの3つを並列に設定し、Presenceには標準のアコースティックピアノのプリセットを読み込む。

さらにMaiTaiにインサーションエフェクトとして、アンプシミュレーターのAmpireを設定。これを「ドレミファ」と鳴らすMIDIシーケンスを組んでループ再生を設定。これだけでもそこそこのパワーを喰うはずだが、このトラックをそのままコピーする形でまったく同じ内容を10トラック並べた。

これをHX90、NAD9双方で再生してみて、どのくらいの負荷がかかるのかをモニターしようというわけだ。また、この際、オーディオインターフェイスにSteinbergのUR22Cを使い、48kHzと192kHzのそれぞれのサンプリングレートでチェックしてみることにした。

が、ここで問題発生。HX90では48kHzにおいて一番小さなバッファサイズである32samplesの設定で問題なく再生できるのだが、NAD9ではなぜかブチブチとノイズが入ってしまうのだ。仕方なく、それぞれバッファサイズを64samplesにして測定してみることにした。

まずこの48kHzにおいてプロジェクトを読み込んだだけの状態でStudio OneのパフォーマンスメーターをみるとHX90だとCPUが18%前後なのに対し、NAD9は27%前後と表示される。

HX90だと、CPUが18%前後
NAD9は27%前後

ここで再生してみるとHX90は28%程度になるが、NAD9は45%程度にもなる。これをタスクマネジャーで見てみると、下記写真の感じで、どうもNAD9は思ったほどのパフォーマンスが出ていない。

HX90の場合
NAD9の場合

サンプリングレートを192kHzにするとどうなるか。するとHX90ではパフォーマンスメーターが39%前後なのに対し、NAD9は57%程度。さらに再生すると、HX90の66%程度に対し、NAD9は94%程度となり、赤がついてしまった。

HX90の場合
NAD9の場合

タスクマネジャーで見ても、同様の傾向。コア数、スレッド数が多いNAD9が、HX90に負けてしまった。

HX90の場合
NAD9の場合

まあ、ここまで大きな負荷をかけることはそう無いし、NAD9を数週間使ってもまったく不満は感じない。HX90で起きていた音のトラブルや、スリープ復帰時のトラブルもなくなったし、その点は快適になった。しかし、1年半ぶりに買いなおした新マシンが、旧マシンに劣るというのは納得いかない。Core i9はスゴイCPUだ、という思い込みは正しくなかったのか。

そこで、普通のベンチマークテストも試してみた。試したのは、CineBenchというソフト。CPUがマルチコアの場合とシングルコアの場合、それぞれでテストした結果がこちら。

HX90の場合
NAD9の場合

なんと、CPUのシングルコア比較ではCore i9-12900Hが勝つものの、マルチコア比較ではRyzen 9 5900HXに大きく負けていた。これにはちょっとガッカリだが、HX90での2つの不満点は解消されているので、新調してよかった…と無理やり自分を納得させることにした。

が、この原稿を書いている途中で、HX90のHDMIケーブルをKVMスイッチ経由でなく、直接ディスプレイに挿したらスリープ復帰時のトラブルが解消するのでは? と思い、試してみたら、1年半の悩みがアッサリと解決。しかも、OVOがブチブチいう問題も解消してしまった。どうやら、このKVMスイッチが諸悪の根源だったというわけだ。

ちなみに、ブラウザと秀丸だけの状態でのHX90の消費電力は、16WとNAD9よりも小さい。先ほどのStudio Oneのプロジェクトを動かしている状態においてはHX90は31Wで、NAD9は92Wと、どれも見てもHX90の圧倒的勝ち……。

HX90の消費電力(ブラウザと秀丸時)
HX90の消費電力(Studio One時)
NAD9の消費電力(Studio One時)

どうやら、HX90を使っている筆者にとって、NAD9への乗り換えは失敗だった。せっかく買ったのに、前のマシンに戻すべきか、しばらく悩んでみることにする。

藤本健

リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto