藤本健のDigital Audio Laboratory

第913回

約3年ぶりメインPC新調。スリムなAMDマシン「MINISFORUM」を導入した

Minisforum EliteMini HX90

PCをどのくらいの頻度でリプレースするかは人それぞれだと思うが、筆者のメインマシンは2年に一度程度で新マシンに置き換えている。前回リプレースしたのが2018年12月だったので、1年半ほど前から、そろそろ……と思って探していたのだが、なかなか思ったマシンが見つからずのままだった。

が、先日ようやく新マシンを導入するとともに、Windows 11正式リリースに合わせてOSもアップデートした。今回導入したのは、「Minisforum EliteMini HX90」というAMD Ryzen 9 5900HXを搭載したベアボーンだ。正常動作させられるまでちょっとトラブルはあったが、使ってみると想像していた以上にハイスペックで、コストパフォーマンスの高いマシンだったので、導入までの経緯や実際にしっかり動作するまでの流れ、実際の処理速度などもチェックしてみたので、紹介してみよう。

香港PC・MINISFORUMのベアボーン購入。メモリとSSDを合わせ約10万円

機材やソフトをレビューするような仕事をしている関係上、筆者は複数台のPCを使っている。

メインマシンはずっとWindowsベースのデスクトップPCで、ここにオーディオインターフェイスを接続し、DAWや波形編集ソフトなどを入れている。Windowsだけだと網羅できないので、メインマシンとディスプレイを共有する形でMac Miniも初代機から新機種が出るたびに買い替えて使っている。

その一方で、取材用に持ち歩くとにかく軽いノートPCがあるほか、「DTMステーションPlus!」というネット番組を運営している関係で、外に手軽に持ち出せるデスクトップPCが便利と思い、NUCも長年使っている。また一応、会社を運営していることもあり、会社の事務用PCというものも別途用意して使っている。

そうした中、ここ15年近く入れ替えながら愛用していたのが、Shuttleのキューブ型のベアボーンだ。

それ以前はタワー型PCを自作していたが、Shuttleのマシンだとタワーやミニタワーと比較してもコンパクトだし、CPUとメモリ、ストレージをセットするだけで好きなスペックのマシンに仕立て上げられるという点で気に入っていた。そのため、CPUの世代が新しくなったら、それにマッチしたShuttleのベアボーンを手に入れて組み立てていた。

もっとも、Shuttleの新ベアボーンが登場するのは、新CPUが出てから半年~1年近く経過してからだったので、ちょうどCPU価格もこなれてきていて、入手しやすくて好都合だった。そう、必ずしも最速のマシンを手に入れたいというより、そこそこの性能のマシンが手元にあればいい、という発想なので、ちょうどよかったのである。

ところが、ここ数年、そのShuttleの動きが鈍く、新ベアボーンが出てこないままなのだ。正確にいうと、デジタルサイネージやFA用途のスリムPCは出ているけれど、メインストリーム的なマシンが出ず、いまだに3年前に購入した「SH370R6」というIntel第8世代Core用のマシンが最新機種のまま。2年近く待ったけれど、出る気配がないため、別の道を探ることにした。

最近はPCの詳細について、さっぱり分からなくなっていたため、新機種導入にあたって相談していたのは、小岩井ことりさんやそのスタッフの方々。そこからのアドバイスによれば、いまはIntelよりもAMDのRyzenのほうが断然ハイパワーで、コストパフォーマンスがいいとのこと。完全に自作の形でタワー型を組み立てようかと探していたけれど、結構コスト高になってしまうし、何より大きいマシンになるのが気に入らず、どうしようかと迷っていた。

そんな中、8月にたまたまSNSで見かけたのが、MINISFORUMのHX90というマシンだった。デザイン的にもカッコいいスリムマシンであり、狙っていた第5世代Ryzen 9を搭載したベアボーン。正確にはRyzen 9 5900HXというノートPC用ハイパフォーマンスCPUを搭載したマシンになっていて、ベアボーンのほかに組みあがったPCも選択できる。ただ、ベアボーンのほうがコストパフォーマンスが高く、より大きなメモリ、ストレージを載せられるので、ベアボーンのほうがよさそうだ。

MINISFORUMは最近、よくネット広告で見かけるメーカーではあるが、まったく馴染みがなかった。販売サイトを見てみると香港の会社のようだが、軽くチェックしてみても評判も悪くはない。その時点では予約販売とのことで到着は9月中旬になるとあったが、魅力的に感じたのは82,690円という安さに加え、予約特典として今買えば、1万円オフの72,690円になるとのこと。「大丈夫だろうか」と一瞬迷いはしたものの、その場でクレジットカード番号を入力し購入することに。

筆者にとってAMDのCPUは「K6-2 Athlon」以来のほぼ20年ぶり。正確には昨年末、NUCの後継にすべく、新マシンとしてRyzen 5 4500U搭載のミニPCを購入したが、それまで使っていたNUCよりも性能が劣っていたため、すぐに手放してしまった。そのため本格的な導入は久しぶりだ。

機材は予定通り9月10日にFedexで無事到着。開封してみると、キレイな状態で、ぱっと見では何らトラブルもなさそう。ちなみに、9月中は「予約割引の10,000円OFFはあと〇日」という記載がされていたのだが、10月になった今アクセスしてみても「予約販売再開! 10,000円OFF実施」となっているので、焦る必要はなかったのかもしれない……。

Fedexでマシンが到着
さっそく開封。とくに問題はなさそう
10月現在も“10,000円OFF実施”の案内が

さて、購入したHX90はベアボーンなので、このままでは動かない。NUC同様CPUは入っているので、メモリーとストレージを入れることで動作させることができる。

事前に購入しておくこともできたけれど、海外からの通販でもあるため、到着を確認してからAmazonで購入した。具体的にはTEAMのDDR4 3200の16GBx2のセットと、同じくTEAMのM.2の1TBのSSD。合わせて27,960円だったので、ベアボーン本体と合わせて、ピッタリ10万円(正しくは100,650円)。かなり手頃な価格ではないだろうか?

AmazonでメモリとSSDを購入

到着後、HX90のネジを外して、メモリーとSSDを中に組み込む。作業自体は簡単ではあったが、ネジを外しただけでは蓋が簡単には取れない構造。プラスティック製のシャーシなのだが、外すにはちょっとコツがいり、少し力を加えなくてはならなかった。壊すのではと怖かったが、問題なくセッティング終了。

メモリーとSSDを組み込む

その後、Windows 10 Professionalをインストール。動作するところまでは確認できたので、ここでひとまず安心。しかもPCの起動時間が爆速で、完全シャットダウン状態から電源を入れて、Windows起動まで7秒。MINISFORUMのロゴ表示状態からカウントすると3秒での起動は、筆者の歴代マシンの中での最速である。

これまで使っていたShuttleのベアボーンと並べて比較すると体積的に20%以下になった感じだ。ただし、本体と比較して、ACアダプタがかなりデカイのが、難点といったところ。最大消費電力が119.7Wとなっているので、これくらいのACアダプタが必要ということなのかもしれない。

これまでのメインPC(Shuttle)とのサイズ比較。体積的に20%以下になった感じ
ACアダプタが大きいのがやや難点

AMDサイトから必要なドライバを取得。Windows 11も動作確認

本来であれば、すぐに旧マシンから引っ越しを行なうべきだったが、9月中はずっと忙しく、簡単な動作確認だけで、少し放置状態になっていた。

そして9月下旬になって、ようやく引っ越し作業を開始した。一つ課題だったのが、これまでのマシンに内蔵させていたHDDをどうするか、ということ。今まではCドライブに1TBのSSDを、Dドライブに6TBのHDDを装備し、数多くのデータと、アプリケーションのインストーラーなどをHDDに入れていた。

筆者の場合、いろいろな機材やソフトをチェックするため、システムをクリーンインストールしたのち、絶対必須のドライバや最低限のアプリケーションをインストールした状態で、TrueImageを用いてSSDのイメージをHDDにバックアップをしておき、新しい機材やソフトを試すたびに、このバックアップをリストアするというちょっと特殊な使い方をしている。場合によっては週に数回、リストアをして、まっさらな状態に戻すといった感じなのだ。

TrueImageを使い、SSDのイメージをHDDにバックアップ

まあ、6TBものHDDが常に必要というわけではないが、長年の記録がつまった需要なHDDなので、HX90になっても使いたい。とはいえ、このコンパクトなマシンに3.5インチのHDDは入らない。

2.5インチのドライブであれば2つ収容できる構造なので、Dドライブ用に2.5インチのSSDドライブを追加して、ここによく使うデータやアプリケーションのインストーラーをコピー。その一方で、HDDはUSB経由で外付けすることにした。この際、PCの電源に連動するタイプのHDDケースがあることを知り、これを利用することにした。

よく使うデータやアプリケーションのインストーラーをコピー
PC電源連動のHDDケースを用いる

これで、ほぼ全面移行できるはずだったのだが、どうも納得いかなことがいろいろあった。

まずはHX90内蔵のサウンドが何か変であること。なぜか音がブチブチと途切れたりして調子が悪いのだ。まあ、普通はオーディオインターフェイスは使うので、内蔵音源などあまり使うことはないのだが、何か気持ち悪い。

PCの警告音や、YouTubeの音などは、ovoというUSBスピーカーを使っているのだが、こちらも調子が悪く、内蔵音源と同様にブチブチと途切れることがあり、さすがに困る。また、HDMI経由でスピーカー内蔵の4Kディスプレイに接続しているのだが、本来見えるはずのディスプレイのサウンドデバイスが見えないのもしっくりこないところ。

それでもDAWなどは問題なく動くので、だましだまし使っていたのだが、ディスプレイの解像度が変えられないことに気が付く。本来であれば、3,840×2,160の解像度のほかに、1,920×1,080などさまざまな設定が選べるはずなのに、この設定項目が非アクティブになっていて動かせないのだ。ほかにもディスプレイ周りで不具合が多く、どうもここがおかしいと気づいた。

なぜかディスプレイ解像度が変更できない

Windows 10をインストールした段階で、HX90のドライバは一通りインストールしたはずだが、再度インストールしなおしてみても変化なし。そもそも、HX90の販売ページからドライバーのダウンロードページへのリンクが見当たらず、いろいろ検索した結果、MINISFORUMの英語のサポートサイトからRARの圧縮データをダウンロードできることを発見し、これを入れる。

そういえば、HX90はAMD Radeon GraphicsというGPUも搭載していたはず。

普段ゲームもしないし、GPUを多用するソフトもあまり使うことがないので、ふ~んという程度にしか捉えていなかったが、ビデオ編集ソフトまどはより快適に動くはず。しかし、どうも効果を感じられない。おや? と思って確認してみたところ、ディスプレイアダプターがMicrosft基本ディスプレイアダプターとなっており、Radeonが機能していない。

Radeonが機能していない

AMD初心者でGPUも使ったことがない筆者にとっては、お手上げ状態だったが、AMDサイトにあるドライバ&サポートのページに行けば、自分の環境にマッチしたドライバ一式がインストールできるということをSNSで教えてもらい、これを試した結果、すべてが解決した。

AMDのドライバ&サポートページ
環境にマッチしたドライバ一式がインストールできた

デバイスマネジャーにRadeon Graphicsが表示され、GPUが使えるようになり、ディスプレイの解像度変更もできるようになった。そしてサウンド系のドライバも正しく入ったようで、納得のいかなかった音の問題まで解決した。このGPUは筆者にとっては宝の持ち腐れともいえそうだが、気持ちよく動いてくれるのであれば、それに越したことはない。

ディスプレイアダプターにRadeonの文字!
サウンド系のドライバもインストールされた

これにより、完全にPCの引っ越しを終え、快適に使えるように。ちょうど10月6日を過ぎたタイミングなので、この環境をアップデートする形でWindows 11に移行してみたところ、特に問題もなく、快適に動作してくれた。

Windows 11に移行する
特に問題もなく、快適に動いてくれた

Shuttleマシンも比較的静かなマシンであったが、HX90はそれに比較しても圧倒的に静穏。しっかりファンもついているので、マシン負荷が高まるとそれなりに音はするけれど、それでも静かだし、マシン負荷が低いときは、ほぼ無音の状態になるので、原稿を書くなど仕事をするのには最高にいい。

強いて改善を指摘するなら、USB端子が少ないという点だ。

リアにUSB 3.1準拠のUSB Type Aの端子が4つ、フロントにUSB Type Aが1つとType-Cが1つの計6つしかない。一方でHDMIが2つ、Display Portが2つと4つもディスプレイ出力がある。筆者はHDMIを1つしか使わないので、ここをUSB端子にしてほしかったところ。まぁここはUSBハブを使ってしのぐことにする。

リアにUSB 3.1準拠のUSB-A端子を4つ搭載
フロントはUSB-A、USB-Cの2つ

なお、USB-Cの端子はあくまでもUSBであって、Thunderboltではない。AMDなので、これは仕方がないところであり、その点は理解の上、購入はしている。また、SDカードリーダーなども内蔵してくれているとよかったのだが、これもUSB外付けのカードリーダーを使ってしのぐことにした。

DAWに思い切り負荷をかけた際のCPU消費を検証

設置面積も小さくなり、騒音も低くなり、DAWも以前と比較してサクサク動くように感じる。

とはいえ、このRayzen 9はノートPC用の低消費電力タイプであることから、実際には、そこまで高速ではない可能性もあるわけだが、どうなのか?

一般のPCのレビューであれば、ベンチマークソフトを動かして数値を比較するところだが、この連載で、そんなベンチマークをしても面白くない。そこで試してみたのは、DAWに思い切り負荷をかけた際、どの程度のCPU消費になるのか、以前使っていたShuttleのマシンと比較するという実験だ。ちなみに、ShuttleマシンのCPUはIntelの第8世代CPUであるCore i7-8700 3.20GHzを搭載しており、メモリは32GBを搭載していた。これがRyzen 9 5900HX 3.3GHzにすると、どれくらい違うのかを見るわけだ。

ShuttleマシンのCPUは、Intel第8世代CPU「Core i7-8700 3.20GHz」
新マシンは「Ryzen 9 5900HX 3.3GHz」

検証に使ったのは「Studio One 5 Professional」。それぞれのマシンに最新のVer 5.4をインストールし、オーディオインターフェイスとしてSteinberg「UR22C」と接続。

オーディオインターフェイスのSteinberg「UR22C」

新規ソングを作成の上、マルチインストゥルメントのトラックを作成。このマルチインストゥルメントの中に、Studio Oneの標準音源であるMaitai、Mojito、Presenceの3つを並列に設定し、Presenceには標準のアコースティックピアノのプリセットを読み込む。さらにMai Taiにインサーションエフェクトとして、アンプシミュレーターのAmpireを設定。これを「ドレミファ」と鳴らすMIDIシーケンスを組んでループ再生を設定。これだけでもそこそこのパワーを喰うはずだが、このトラックをそのままコピーする形でまったく同じ内容を10トラック並べてみた。

Maitai、Mojito、Presenceの3つを並列に設定
Mai TaiにアンプシミュレーターのAmpireを設定
MIDIシーケンスを組んでループ再生させる

このソングをShuttleマシンに44.1kHzの設定で読み込むと、再生もしていないのに、結構ファンが回りだす。

タスクマネージャーを起動し、CPUのパフォーマンスを見ると、8つあるスレッドそれぞれに負荷分散はされているがトータルでの使用率は22~23%となっている。そして、再生ボタンを押すと、さらにファンが激しく回り、CPU負荷は50%超に。

CPU負荷は50%超に

音を確認してみると何とか鳴ってはいるものの、時々ブチブチとノイズが入る状況。オーディオインターフェイスのバッファサイズを最小の32sampleにしている影響もあると思うが、Studio Oneのパフォーマンスモニターを見てみると、時々100%に達していて、許容量を超えていたのだ。ここで、ドロップアウト保護の項目をデフォルトの最小から最大に変更すると音切れはなくなるが、CPU負荷は高いままだ。

Studio Oneのパフォーマンスモニター

では、同じことをHX90で行なうとどうか? ソングを読み込んだ状態だとCPU負荷は12%程度、再生をスタートしても23~26%程度を推移し、音も安定しており、ファンもほとんど回らない静かな状態。明らかにShuttleマシンよりも高性能であることがわかる。

再生してもCPU負荷は23~26%程度だった

ここで同じソングでサンプリングレートを192kHzに上げるとどうなるのかを試す。

まずはShuttleマシンのほうから。これはソングが読み込まれているだけの状態でCPU負荷が50~52%となりファンも激しく回っている。ここで再生をすると、CPU負荷が100%に達してしまい、音は出ているものの、ブチブチと途切れるどころか120のテンポで再生すべきものが30くらいのテンポになったり、80くらいになったりと、もう完全にダメな状況。

試しに、先ほどのドロップアウト保護を最大にしたらどうなるかと試してみたら、再生もしていないのに、CPU負荷が100%に達し、Studio One自体がハングアップしてしまった。

CPU負荷が100%に

続いて同じことをHX90で行なってみた。こちらも192kHzに設定したところでCPU負荷は32%に達し、パフォーマンスメーターも40%程度にまでなる。ここで再生ボタンを押してみるとCPU負荷は65%程度まで上がり、ファンも回りだすけれど、動作は安定しており、しっかりと再生される。やはり第8世代Core i7とRyzen 9とでは格が違うのが明らかなようだった。

CPU負荷は32%
パフォーマンスメーターも40%程度に
再生すると、CPU負荷は65%程度まで上がる

ちなみにワットメーターで測定してみたところ、HX90でソフトを何も動かしていない状態だと18W程度で、先ほどのCPU負荷65%までうごかしたところで64Wと、ノートPC用のCPUだけあり消費電力も小さそうだ。

ソフトを何も動かしていない状態だと18W
CPU負荷を65%まで引き上げても64W

AMDのCPUだと、不具合があるソフトというのもなさそうだし、その後使っている限り、とても快適で大満足。これから2年程度はMINISFORUMのHX90をメインマシンとして使っていこうと思っている。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto