藤本健のDigital Audio Laboratory

第628回:波形編集ソフトもDSD対応。「Sound it! 8」で互換性などをチェック

第628回:波形編集ソフトもDSD対応。「Sound it! 8」で互換性などをチェック

 先日、CakewalkのDAWである「SONAR」の新バージョンがDSD対応となったことについて紹介したが、今度は国産ソフトである株式会社インターネットの「Sound it!」新バージョン、「Sound it!8 Premium for Windows」もDSDに対応した。このDSD対応とはどんなもので、SONARとは何が違うのか、実際に互換性において問題はないのかなど、DSD周辺についてフォーカスを当てて紹介しよう。

Sound it!8 Premium for Windows

64bitやVST3対応など機能強化。DSDも入出力可能に

「Sound it!8 Premium for Windows」のパッケージ

 Sound it!は波形編集ソフトとして、古くからある老舗ソフトであり、アナログ素材のデジタル化などの用途で、数多くの人が使っているものだ。このDigital Audio Laboratoryでも、これまで何度も取り上げてきたが、初出は2002年8月の第67回。この時すでに「Sound it! 3.0 for Windows」というバージョンだったことを考えると、いかに歴史あるソフトなのかがわかるだろう。

 開発元のインターネットは、Singer Song Writer、AbilityというDAWの開発元としても知られるが、Sound it!のほうは古くから一貫して波形編集ソフトとして発展させてきたものだ。

 今回のSound it! 8 Premium for Windows(以下、Sound it! 8)では、ついに64bitネイティブ対応になり、プラグインもVST2に加え、VST3をサポートするなど、いまどきソフトへと順調に進化してきている。そして、今回のバージョンの目玉ともいうべきものが、DSD対応なのだ。波形編集ソフトのDSD対応とはどういうものなのだろうか? 個人的には、これでDSDのレコーディングができ、そのままDSDネイティブで再生、保存ができるというのが理想ではあるのだが、現時点においてDSDネイティブ対応のオーディオインターフェイスが存在しないことを考えると、ソフトだけが対応するというのは非現実的。結果的には、SONARと同様にDSDのインポートとエクスポートを可能にした、というのが実際のところだ。

 ただし、SONARとは少しアプローチが違う点もあり、機能的にも異なる面があるので、少しSONARと比較しながら見ていくことにしよう。

64bit版OSにネイティブ対応

DSDファイルの扱いは、WAVとどう違う?

 まずはインポートについて。Sound it! 8では、ソフトを起動し、「ファイル」メニューから「開く」を選択すれば、もうそれだけでDSDファイルを読み込める。対応しているのは音楽配信で使われているDSF(.dsf)、SuperAudioCDのマスタリングで利用されるDSDIFF(.dif)、そして学術用で利用されているWSD(.wsd)のそれぞれ。ファイルを選択すれば、読み込まれて波形で表示される。また画面下に表示されるメディアブラウザを使って目的のファイルを見つけ出し、それをドラッグ&ドロップで上に持ってきても、同様に読み込むことが可能だ。

「ファイル」メニューから「開く」でDSDファイルを読み込み
メディアブラウザからドラッグ&ドロップでも開ける

 ここでの読み込み方において、DAWであるSONARとは違いがある。SONARの場合は、あらかじめプロジェクトを作成しておき、その1つのトラックとしてインポートする形となるため、事前にサンプリングレートやビット深度を設定しておく必要がある。つまり44.1kHz/16bitのプロジェクトにインポートすれば、そのフォーマットでDSDファイルが読み込まれるし、192kHz/24bitのプロジェクトであれば、そのフォーマットに変換されるのだ。それに対し、Sound it! 8の場合、あらかじめ存在しているプロジェクトにインポートするのではなく、そのファイル自体を開くという形になっているのだが、DSDファイルの場合、Sound it! 8では自動的に192kHz/24bitのフォーマットに変換されて読み込まれるのだ。もっともSound it! 8は波形編集ソフトなので、読み込んだ結果を別のファイル形式ですぐ保存できるのも一つのメリットであり、まさにファイルコンバータとして利用できるわけだ。

 試してみたところ、2.8MHzのファイルはもちろん、5.6MHz、さらには11.2MHzのファイルでも読み込むことができ、このファイルを指定すると「デコード処理中です」というダイアログが表示され、変換がスタートする。ファイルの種類や大きさによって数十秒から数分といった時間をかけてDSDへと変換されるのだ。SONARの場合も変換にそこそこの時間がかかるが、途中でキャンセルが効かないのに対し、Sound it! 8は途中でキャンセルできるのが、意外と便利に感じた。

 またメディアブラウザ上では、そのファイルのフォーマットがどんなものなのかを判別できるようになっている。ただし、WAVやMP3、AACなどのPCMファイルの場合、ファイルを選択するだけで、試聴することができるが、DSDの場合は対象外のようだった。

デコード処理中の画面
メディアブラウザでファイルのフォーマットなども確認可能

 では、この読み込み速度というか変換速度はSONARと比較して違いがあるのだろうか? 条件を整えるため、SONAR側も192kHz/24bitのプロジェクトとして同じファイルを読み込ませて、それにかかる時間を比較してみた。結果は下表の通りで、Sound it! 8のほうが3割程度長い時間がかかるようだった。


    5.6MHz DSFファイル(8分59秒)の読み込み
  • Sound it! 8 2分44秒
  • SONAR 2分2秒

 ここで扱ったのは、レコーディングエンジニア・マスタリングエンジニアであるオノセイゲン氏が、以前Facebook上で無料公開していた5.6MHzのデータで、アクロバット飛行するジェット機の爆音を記録した8分59秒のDSFファイル。ちなみに利用したPCのスペックはCPUがCore i7-4770K 3.50GHz、メモリが16GBというもの。もっとも、これにかかる時間だけで単純比較するわけにはいかない。というのもDSDからPCMへの変換は1:1の対応ではなく、演算処理の仕方によってデータの中身も変わるし、それによって音に違いも出てくるからだ。ただ、ちょっと聴いてどちらの音がいいというほどにはわからなかったので、音質の評価については割愛する。なお、DSFファイル以外にも、DSDIFFファイル、WSDファイルも読み込むことが可能であるが、どれも読み込みにかかる時間では大差なかった。

5.6MHzで8分59秒のDSFファイルを使用した
使用したPCのスペック

 なお、すでにお分かりのとおり、DSDのデータはSound it! 8で開いた時点でPCMデータに変換されるため、DSDデータをネイティブ再生するということはできない。たとえば、KORGのDS-DAC-100などのDSDネイティブ再生に対応したUSB-DACを接続した場合でも、PCMとして再生されるわけである。

書き出しや、AudioGateなど他ソフトとの互換性もチェック

 では、書き出しの形式はどうだろうか? Sound it! 8の場合は書き出しというよりも、単にファイル形式をDSDにして保存するだけのことなのだが、ここにはSONARとは機能面等でいくつかの違いがある。まず、SONARは2.8MHz、5.6MHzそして11.2MHzでの書き出しが可能になっているのに対し、Sound it! 8は、11.2MHzをサポートしていない。

保存時のファイル形式としてDSDも選択可能
SONARは2.8MHzと5.6MHz、11.2MHzでの書き出しが可能
Sound it! 8は2.8MHzと5.6MHzのみ

 また、SONARではフィルタの構成として「90% of Nyquist」、「Nyquist Frequency、Large Order FIR」、「FFT FIR」という4種類を選択できるのに対し、Sound it! 8は特に指定がない。一方で、Sound it! 8のほうはMP3ファイルなどと同様のタグ情報設定ができるようになっている。曲のタイトルやアーティスト名、年代やジャンル、作曲者名などが指定できるほか、ジャケットデータも埋め込むことができるようになっている。もっとも、こうしたタグ情報の設定ができるのはDSFファイルのみ。DSDIFFやWSDファイルは対象外となっている。また、保存が終わった時点で「再度読み込みを行いますか? 」というダイアログが表示される。これは元のオーディオファイルよりも低いクオリティーで保存した場合の注意点のようなので、無視していいようだ。

SONARはフィルタの種類が選択できる
Sound it! 8は、タグ情報設定が可能
保存が終わると「再度読み込みを行いますか? 」と表示

 さて、この書き出しにかかる時間もSONARと比較してみた。ここで使ったのは、CDからリッピングした3分34秒のデータ。SONARのフィルタの構成はデフォルトの設定である「90% of Nyquist」を選んだ結果、それぞれの結果は表のとおりであり、読み込みでは多少時間差があったが、書き出しにおいてはほぼ同じという結果になったわけだ。


    44.1kHz/16bitファイル(3分34秒)のDSF書き出し時間
    【2.8MHzファイル】 Sound it! 8→38秒 SONAR→36秒
    【5.6MHzファイル】 Sound it! 8→1分3秒  SONAR→1分2秒
    【11.2MHzファイル】 SONAR→2分3秒(Sound it! 8は非対応)

 SONARで書き出したDSF、DSDIFF、WSDのデータをSound it! 8に読み込ませたり、反対にSound it! 8で書き出した各データをSONARに読み込ませてみたが、いずれも問題なく、読み込み、再生することができた。

 では、これをAudioGate 3.0で再生させるとどうだろうか? こちらも、もちろん問題なく再生することができ、埋め込んだタグ情報も確認できた。

AudioGate 3.0でも問題なく再生でき、埋め込んだタグ情報も表示された

 以上が、Sound it! 8のDSDに関する機能だが、もちろんこれはSound it! 8の機能全体から見れば、ごく一部に過ぎない。これは波形編集ソフトなので、さまざま編集ができるほか、今回のバージョンでは、ローランドのユーティリティソフト、R-MIXとそっくりな機能であるF-REXというエフェクト機能も追加された。これは音を左右の定位を横軸に、周波数を縦軸にとって解析し、指定した範囲の音を消したり、反対に範囲外を消すといったことができるものなのだが、同じ曲を読み込んでR-MIX、F-REXそれぞれで試した結果、まさにソックリな音となったので、ほぼ同等のものと考えてよさそうだ。

Sound it!の新エフェクト機能「F-REX」
こちらはローランドの「R-MIX」

 そのほか、複数のファイルに対してバッチ処理する機能や、CDを焼く際に曲間をなくしたりクロスフェードさせる機能、さらに波形をカットしたりペーストする際、前後の音と10~30msecの短い範囲でクロスフェードさせてスムーズにつながるようにする機能などが搭載されるなど、機能的にも充実してきている。また以前の記事でも扱ったSonnoxのノイズリダクションのプラグインなども搭載されているので、レコードやテープをデジタル化し、最高音質でアーカイブしたい、といった際にも役立ちそうだ。

バッチ処理
クロスフェード
Sonnoxのノイズリダクションプラグインも搭載
カット&ペーストした前後の音と短い範囲でクロスフェードさせる機能も
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Sound it!8 Premium
for Windows

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto