第389回:ソニーの24/96対応リニアPCMレコーダ「PCM-M10」

~ コンパクトで低価格。microSD/SDHCにも対応 ~


PCM-M10

 既報のとおり、10月21日にソニーから24bit/96kHzに対応したリニアPCMレコーダ「PCM-M10」が発売される。「PCM-D50」の弟分という感じで登場するこの新機種はPCM-D50よりコンパクトで店頭予想価格は30,000円前後と手ごろになっている。

 一足先に製品を借りることができたので、実際どんな性能なのかテストしてみた。



■ PCM-D50と比べ、コンパクトで低価格な「PCM-M10」

 ソニーのPCM-D50は発売された当初、他社の24bit/96kHz対応レコーダと比較して高音質で、バッテリが長時間持つという点で非常に優れた製品であった。もちろん、高音質という点では、現在でも他機種に引けをとらないのだが、他社製品もかなり高音質化されてきて、大きな差がなくなってきたのも事実だ。

 一方、気になるのがその大きさ。競合製品と比較してかなり大きく、持ち歩きにくいという問題がある。また価格的に他社製品より高めというのもウィークポイントであった。

 そのソニーが、コンパクトでかつ低価格で出してきたのがPCM-M10。実際、ローランドのR-09HRやズームのH2と比べて、だいたい同じ大きさ。また、iPod touchと比較しても縦横のサイズはほぼピッタリだ。

サイズの比較。左からR-09HR、iPod touch、PCM-M10、H2iPod touchと縦横のサイズはほぼ同等

 マイクはPCM-D1やPCM-D50で特徴的だったX-Y型ではなく、左右の角に埋め込む形で120度に固定した全指向性マイクとなっている。また必要があれば外付けのプラグインパワー対応のマイクを接続できるほか、ライン入力も備えている。

内蔵マイクは左右の角に。120度固定の全指向性マイク入力とライン入力を装備

 付属のACアダプタで動作させることもできるが、もちろんバッテリでの動作も可能。アルカリ電池とニッケル水素電池に対応しているので、ここではPCM-M10に2本のエネループ(eneloop)を入れてさっそく使ってみた。

ACアダプタ駆動も可能ニッケル水素電池のエネループを使用した

 確かにPCM-D50と比較すると断然軽く、持ちやすくなって快適。一方で使い勝手はPCM-D50を踏襲している。一番印象的なのは、液晶ディスプレイの右側に設置されているレコーディングレベルを調整するボリューム。

 PCM-D1やPCM-D50と同様にちょっと重めになっていて、使いやすい。ボタン式だと、録音最中に調整すると、カチカチと音が入るし、軽いボリュームだと、固定しづらく動いてしまう危険性があるため、このくらいが非常にいいのだ。

 一方で、リアにはPCM-D50などにはなかったオートレベルモードが用意されている。高音質でのレコーディングを求めるのであれば、オートを使うケースはあまりないが、初心者ユーザーが失敗なく録音するためには便利ではある。

側面には録音レベル調整ボリュームを搭載裏面にはオートレベルモードを用意

■ 音質をチェック

モニター音量調整はボタン式

 ヘッドフォンでモニターしながら、屋外に出てみると、高感度で音を拾う。最初、モニター音量が小さかったので、調整しようとしたらすぐに見つからず、よく探したらUSB端子の下にボタン式のものがあった。

 個人的には、これもボリューム式であるといいなと思うのだが、やはり軽量・小型化のためには仕方ないところなのだろう。比較的穏やかな日であったせいもあるが、風には強そうで、ちょっとした風ならノイズは乗らず扱いやすい。


別売のウィンドスクリーンを装着

 別売のウィンドスクリーン「AD-PCM2」(オープンプライス/店頭予想価格5,000円前後)もお借りできたので、これも試してみたが、これはさらに強力。結構な風があっても、問題なく録音できてしまうのだ。ただ、かなりキツく、本体に被せるにはちょっと苦労するが……。

 いつも録っている裏山で鳥の鳴き声を捉えてみたので、ぜひ聴いてみてほしい。設定は24bit/96kHzのWAVで、マイク感度は高に設定している。またリミッタ、ローカットフィルターはオフにしている。この画面を見ても分かるとおり、ローカットフィルターの設定はオンとオフのみで、周波数の設定などは用意されていない。同様にリミッタもPCM-D50のようにリミッタが働きはじめてから、切れて復帰するまでの時間設定などはない。


24bit/96kHzのリニアPCM(WAV)モードで録音マイク感度を高に設定
リミッタ、ローカットフィルターはオフ

録音サンプル
鳥などの鳴き声を収録bird.wav(16.9MB)
編集部注:録音ファイルは、24bit/96kHzに設定して録音したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 最初にヒヨドリの鳴き声がした後、遠くで鳴くカラスの声などのバックに自動車のエンジン音が聴こえる。これは200mほど下を走るクルマの音だ。また20~25秒のあたりで、大きな鳴き声が聴こえるが、これはヒヨドリが頭上約5m程度のところを、右から左へと飛び去るときの音だ。羽ばたく音を含めかなりリアルでかつ立体的に聴こえるだろう。PCM-D50のX-Y型と比較するとステレオ感はやや弱いようにも思えるが、十分な性能は持っている。


■ ほかのリニアPCMレコーダと音質を比較

 次に取り組んだのは、音楽のレコーディング。いつものとおり、TINGARAに提供してもらった楽曲「Jupiter」をモニタースピーカーで再生させたものを約50cmの距離で録音し、それを解析するという手法だ。

マイクのそばにLEDを装備

 実は、このテストを行なってはじめて気づいたのがマイクのそばにあるLEDの存在。-12dBを超える音量になると緑のLEDが点灯し、ピークを超えてしまうと赤のLEDが点灯するようになっている。

 もちろん、液晶ディスプレイにレベルメーターがあるので、それを見ればいいのだが、-12dBで点灯するのは意外と使いやすい。確かにこのレベルで録音されていれば高音質に録れるため、赤が点灯しない範囲で、できるだけ緑が点灯するようレコーディングレベルを調整しておくといいわけだ。


バンドルソフト「Sound Forge Audio Studio LE」

 実際、そうしながらレコーディングしたデータを聴いてみてほしい。24bit/96kHzでレコーディングした後、バンドルされているSound Forge Audio Studio LEでノーマライズ処理をかけ、さらに16bit/44.1kHzへ変換したものである。

 聴いた感じ、非常にキレイに録れているのだが、ほかの機材で録った音と比較すると微妙に違うものを感じる。よく言えば優しい感じの音、悪く言えば高域が弱いというか音の抜けがいまひとつと感じる。試しについ先日扱ったオリンパスのLS-11、そしてだいぶ以前にテストしたPCM-D50の波形と比較してみると、やはりそれぞれに形の違いが出ている。


録音サンプル:楽曲(Jupiter)

「PCM-M10」サンプル
pcm-m10.wav(7.0MB)

参考:「LS-11」サンプル
ls-11.wav(7.1MB)

参考:「PCM-D50」サンプル
pcm-d50.wav(7.1MB)

楽曲データ提供:TINGARA
編集部注:録音ファイルは、いずれも24bit/96kHzで録音した音声を編集し16bit/44.1kHzフォーマットで保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 

 特にこのグラフから高域が弱いという結果にはなっておらず、かえってよく出ているくらいなのだが、たとえば12~16kHzにかけての減衰カーブがPCM-M10の場合緩やかになっている。このあたりが音の聴いた感じに影響を与えているのかもしれない。

 同じ24bit/96kHz対応の機材なのにPCM-M10がPCM-D50の後継機種ではなく、別ラインナップであるのは、前述のローカットやリミッタの機能差やSBM(Super Bit Mapping)機能の有無とともに音質的なグレードに違いがあるということなのだろう。おそらく、見た目どおりマイク部分の差がこの音の差に現れているのだと思う。


■ microSDに対応。別売でスピーカー内蔵キャリングケースも

 もっとも、PCM-M10になって進化している点もいろいろある。録音フォーマットとしてリニアPCMだけでなくMP3にも対応したことや、リモコンが標準で装備されること。さらにメモリースティック マイクロに加えてmicroSD/microSDHCに対応するようになったことは嬉しいところだ。

付属のリモコンmicroSD/microSDHCにも対応

 4GBのフラッシュメモリが内蔵されているとはいえ、入れ替え可能なメディアは便利。価格がやや高めで入手しづらいメモリーススティック マイクロだけでなく、microSD/microSDHCに対応してくれたことで、より使いやすいものとなっている。

クロスメモリー録音機能も利用可能

 また、内蔵のフラッシュメモリへ録音している途中で記録許容量を超した場合、自動的にメモリーカードに切り替えて録音を継続する「クロスメモリー録音」機能を装備したのもひとつの進化点だ。反対にメモリーカードから内蔵メモリへの自動切替にも対応する。

 一方、PCM-D50ではヘッドフォン端子とライン出力が別々に装備されていたが、PCM-M10では兼用となり、メニュー設定で切り替えられるようになっている。そして、この端子に接続するユニークなオプション「CKS-M10」(オープンプライス/店頭予想価格8,000円前後)も登場した。電源不要で使えるパッシブ型の48mm径ステレオスピーカーを搭載したキャリングケースとなっており、ちょっとした再生用として便利に使えそうだ。

ヘッドフォン出力とライン出力はメニューで切替別売のパッシブ型のステレオスピーカーを内蔵したキャリングケース「CKS-M10」

 なお、モノラルではあるが、M10本体にもスピーカーが搭載されているので、音を確認する程度であれば、わざわざCKS-M10を用意する必要はない。

日本語のメニュー表記も可能。ただし、今回使用したデモ機は英語モードで撮影

 最後に補足としておきたいのが日本語表記。本体の各ボタンには日本語で説明が書かれているほか、液晶ディスプレイでのメニュー表記も日本語化がされている。ただ、手元に届いた製品はファームウェアが最終製品になっていないのか、英語、スペイン語、フランス語の3カ国語となっていたため、英語モードで撮影をおこなった。

 リニアPCMレコーダは英語表記の機材が多いが、すべて日本語になっていると、この手のレコーダに馴染みの薄い人でも操作しやすいのではないだろうか。



(2009年 10月 5日)

= 藤本健 =リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by藤本健]