藤本健のDigital Audio Laboratory

第667回:スマホからBluetooth操作できるハイレゾ対応レコーダ。オリンパス「LS-P2」で録音

第667回:スマホからBluetooth操作できるハイレゾ対応レコーダ。オリンパス「LS-P2」で録音

 オリンパスから、非常にコンパクトなリニアPCMレコーダ「LS-P2」が1月に発売された。一般的なボイスレコーダと同じくらいのサイズではあるが、96kHz/24bitに対応し、ハイレゾ対応を示す「Hi-Res AUDIO」のロゴも取得している。しかも他社を含めリニアPCMレコーダとしては最初のBluetooth対応など、まさに新世代の製品となっているようだ。実売価格も20,000円程度と手ごろであるが、これでどこまでの音質が出せるのか、実際に試してみた。

LS-P2

初のBluetooth対応で使い勝手は?

 Digital Audio Labolatoryでは、これまで数多くのリニアPCMレコーダを試してきたが、そういえば最近あまり取り上げていなかった。振り返ってみてみると、前回取り上げたのが2014年10月のTASCAM DR-44WL以来のこと。以前は、毎週のようにテストしていたような時期もあったので、それに比べると、最近各社とも製品化のペースが落ちているようだ。

 もっとも、96kHz/24bitが一般的になって以来、すでにこれ以上リニアPCMレコーダに求めるべき点はなくなってきたのは事実で、あとは小型化するか、低価格化するかくらいしか思いつかない。もちろん、マイク性能を向上させて、スペック面ではなく実質的な音質を向上させるのは重要な点ではあるのだが、部品やアナログ回路がものをいう部分だから、コストはかかるし、だからといって爆発的な売れ行きが期待できるわけでもないので、各社とも二の足を踏んでいるというのが実態なのではないだろうか?

 そんな中、久しぶりに登場した今回の製品。高音質な再生性能と、ユーザビリティの向上を訴求している。

LS-P2

 一つめの特徴はハイレゾのファイルが再生できるという点で、ハイレゾロゴ(Hi-Res AUDIO)を表示している。96kHz/24bit対応のリニアPCMレコーダなのだから、ハイレゾが再生できるのは当たり前ではある。とはいえ、いまのハイレゾブームに乗らない理由はないので、当然ロゴをつけてきたというわけだ。もっとも、1年ちょっと前に取り上げたTASCAMのDR-44WLも同じ発想でハイレゾロゴをつけてきたので、今後どの製品もそうなっていくのだろう。

 そしてもう一つ、LS-P2の大きな特徴がBluetooth対応になったこと。Bluetoothへの対応は、異なる2つの意味を持っている。一つはBluetoothでのオーディオ再生機能だ。これは一般的なBluetoothスピーカーやBluetoothヘッドフォンなどに接続して再生するためのものであり、A2DPに対応しているので、LS-P2でレコーディングしたものも配信サイトなどからダウンロードした音楽データでもBluetoothデバイスから鳴らすことができる。

Bluetoothペアリング画面
検出された機器から選ぶ

 もう一つはリモコン機能だ。Bluetooth接続したスマートフォンからLS-P2の録音を開始したり、停止したり、また録音中にマーカーを打っていくことも可能になっている。これは、無料配布されている「Olympus Audio Controller BT」というアプリを使うのだが、現在のところAndroidのみの対応でiPhone用のアプリは提供されていない。

スマホアプリ「Olympus Audio Controller BT」から操作可能

 録音中には波形のような模様が現れ、マーカーを付けると左へ流れていく。なお、これは録音レベルの表示ではなく、単にデザインとして使われているもののようだ。

「Olympus Audio Controller BT」アプリの画面
録音中の画面
インデックスを付けられる

 使い方はいたって簡単で、あらかじめ機器間でペアリングをした後に、このアプリを起動すれば操作できるのだ。こうしたリモコンの利用シーンはさまざま考えられる。たとえばピアノの発表会の会場のステージにLS-P2を事前にセッティングしておき、本番スタート直前に座席からの操作で録音を開始するといった使い方だ。

 手元にあったAndroid端末のGALAXY Nexusにアプリをインストールしてペアリングした。部屋の中で使ったところ、多少離れたところから操作しても問題なく動作した。また、手持ちのBluetoothスピーカーに接続して、LS-P2内のデータをワイヤレスで聴くこともできた。

 ただし、ここで操作でできるのは、あくまでも録音開始と停止とマーカー打ちのみであり、スマホ側で再生するとか、レベルメーターなど現在のレコーディング状況を画面でみるといったことはできない。こうしたリモコンの使い勝手という面では、Wi-Fi接続という違いはあるが、以前とりあげたTASCAM DR-44WLに軍配が上がる。なお、ソニーからも2月13日にBluetooth搭載レコーダ「ICD-SX2000」が発売されている。

 LS-P2は、本体にノーマライズ機能を搭載したのも面白いところで、従来のリニアPCMレコーダの中にはなかったように思う。ノーマライズとは音量を持ち上げて、最大レベルをクリップ寸前の0dBまでにすることで聴きやすくするもの。もっとも、これは再生機能というよりは、レコーディングした結果のデータの編集機能ともいうべきものであり、通常は波形編集ソフトを使って行なうものを、機材本体が持ったというわけだ。

ノーマライズ機能を本体に装備

 このノーマライズを実行しても元のデータも残っているので、心配はいらない。音量を変換するわけだから、ある意味音質劣化が生じるが、24bitでレコーディングしていれば、破壊されるのは下位数bit分なので大きな効果がある。実際にこれを実行して試してみると、しっかりノーマライズされているのが確認できた。

上が録音したオリジナルデータ、下がノーマライズ後のデータ

XYセンターマイク利用で立体的な録音

 では、ここからはLS-P2のレコーディング機能に絞って見ていくことにしよう。前述のとおり、非常にコンパクトなボディーであり、バッテリーも単4電池1本のみで駆動するため、その電池を入れても75gという軽量。内蔵で8GBのメモリーがあるので、これで十分使えるが、microSDスロットも搭載されているので、必要に応じてメモリーを増やすことが可能なわけだ。

単4電池1本で動作
スライド収納式のUSB端子を内蔵

 またレコーディングのファイル形式はWAVとMP3の2種類。WAVの最高は96kHz/24bitだが、44.1kHz/16bit、さらにはそのモノラルなど5種類が選択できる。またMP3も320kbps、128kbps、一番下は64kbpsモノラルとなっている。

PCM/MP3に対応
PCMの音質設定
MP3の音質設定

 録音の際の入力レベルは高、中、低、マニュアル、オートの5種類があるが、リニアPCMレコーダとして高音質録音をするのであれば、もちろん選択すべきはマニュアルとなる。また、マニュアルであっても、急な大音量が来たときのトラブルを避けるためのリミッター機能が装備されているほか、ローカットフィルターなども搭載されているが、ここではこれらをオフにして試してみた。

録音レベルをマニュアルに設定
リミッターはOFF
ローカットフィルタもOFFに
オプションのウインドスクリーンを使用

 さっそくLS-P2を持って外に出たのだが、やや風が吹いていたので、オプションのウインドスクリーン「WJ2」を被せた上で再チャレンジ。時間的な問題なのか、近所の公園に行っても、神社にいっても、野鳥の鳴き声をキャッチすることができず、どうしようと思っていたところ、路地の垣根でスズメが鳴いているのを発見。これを録ったものが以下の96kHz/24bitのサウンドだ。

録音サンプル(96kHz/24bit)
スズメの鳴き声lsp2_bird.wav(23MB)
※編集部注:96kHz/24bitの録音ファイルを掲載しています。
 編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
 再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 軽トラックが走り去った後、右からハイヒールの女性がコツコツと足音を立てながら背後を歩き去るのがリアルに分かるはず。最後のほうで遠くからカラスが鳴く声もしっかりと捉えており、かなり立体的な音像空間ができあがっているのを感じられる。

 このLS-P2の大きな特徴となっているのがマイク。写真を見てもわかるように、XY型のマイクが搭載されており、90度の角度で広がっているが、実はそれとは別にセンターにもう一つ低域用の無指向性マイクが搭載されているのが大きな特徴。オリンパスの資料によれば、このセンターマイクのオン/オフによって、低域の出方に大きな違いがでるというのだ。

マイク部
センターに低域用の無指向性マイクも搭載
低域の出方に大きな違いが出るという(出典:オリンパス)
センターマイクのON/OFF設定

 一方で、このセンターマイクがどのように絡んでいるのかはよくわからないが、ソフトウェア的に指向性を変える機能も搭載されている。ズーム機能というのがそれで、-3~+6までの10段階で設定できるようになっており、より広がった音にしたり、中央に狙いをつけた音にすることができる。先ほどの録音では標準設定であるセンターマイクがオンの状態で、ズーム機能は0のオフ状態で録っている。

ズーム機能OFF時
ズームを-2に設定
ズームを+6に設定

センターマイクON/OFFでの録音の変化は?

 このセンターマイクのありなしで、実際どのくらい音が異なるのか、試してみることにした。方法はいつものように、CDを再生した音をマイクで録るという手法。まったく同じセッティングで、3マイクの場合とセンターマイクをオフにした2マイクのもので比較してみた。

録音サンプル(CDプレーヤーからの再生音)
センターマイクON時lsp2_3mic_1644.wav(7MB)
センターマイクOFF時lsp2_2mic_1644.wav(7MB)
楽曲データ提供:TINGARA
※編集部注:96kHz/24bitで録音したファイルを44.1kHz/16bitに変換して掲載しています。
 編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
 再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 いずれも96kHz/24bitでレコーディングしているが、過去の各機器との比較のために48kHz/24bitに変換した状態で周波数分析をかけてみたのだが、このグラフからは2つの違いはあまりハッキリとは見えてこない。ただ、実際に聴き比べてみると、やはり3マイクのほうが、低域がハッキリしたバランスのいいサウンドになっているのがわかる。

96kHz/24bitでの録音結果
48kHz/24bitに変換したデータ

 低域が出ているといっても、低音ブーストというようなものではなく、すごく自然な感じだ。同じオリンパスの機材で過去にLS-7というリニアPCMレコーダを扱ったことがあった。これも同様に3マイクだったのだが、この時は3マイクにすると低音は出るけれど、全体的にボヤけた音になってしまっていたが、今回のLS-P2ではそうした問題は生じていない。

 録音を聴く限りは、基本的に2マイクではなく、常時3マイクの設定でいいのではないかと思った。LS-7に比較すると圧倒的に音質が向上しているイメージだが、他社製品と比較しても引けはとらない。ただ、たとえば前述のDR-44WLと比較すると、高域でのクッキリさに欠ける印象はある。この辺は好みの問題もあるかもしれないが、過去の記事でも同じセッティングで同じ曲を録音しているので、ぜひ聴き比べてみると面白いと思う。

 以上、オリンパスのLS-P2についてみてきたがいかがだっただろうか? こんなにコンパクトな機材でしっかり96kHz/24bitの音を捉えることができるというのは、やはり嬉しいところ。サイズ的にも重さ的にも気にならないので、常にカバンの中に入れておき、いざというときに録るという使い方が良さそうだ。

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LS-P2

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto