西川善司の大画面☆マニア
第283回
ありそで無かった38型4Kモニター「PG38UQ」。4Kドットバイドット表示の最適解かも
2024年1月5日 08:00
ちょうどいいサイズのゲーミングディスプレイ登場!?
筆者は、ASUSの4Kディスプレイ「ROG Swift PG38UQ」(以下PG38UQ。直販価格は152,820円)のニュースを見たときに「ASUSめぇ、いいところ目を付けてきたなー」と思わず呟いた。ええ、上から目線で、すみません。
今や4Kテレビ、4Kディスプレイは普及期真っ只中と言ったところだが、ユーザーによって、求める機種に対する要求が千差万別だ。
27型の4Kディスプレイは、勝率重視のハードコアなゲームファンに引き合いが強く、PCでの作業や映像鑑賞をメインにしたい人は、もう少し大きい画面サイズを望む。とはいっても、43型オーバーのディスプレイは「もはやテレビ」なので、わざわざ割高なディスプレイを購入するくらいなら、ゲームモードやモニターモードを備えた低遅延な4Kテレビをディスプレイとして使った方がいい……という話になってくる。
実際筆者は、2014年からしばらく、40型のレグザ「40J9X」をメインディスプレイとしてデスクトップに設置して常用していた。その様子とともに、同モデルはかつての大画面☆マニアでも取り上げている。
しばらくして40J9XのLEDバックライトがおかしくなり、その後継モデルのレグザ「40M510X」を2017年に導入。現在進行形で原稿を執筆するPC環境のメインディスプレイとして使っている(詳細は「4Gamer」の記事へ)。
なお、40型の4Kレグザは、この40M510Xがラストモデルとなっており、次期モデルからは最小画面サイズが43型(43M520X)となってしまった。
液晶パネル製造メーカーの都合なのだろうが、以降は、手軽に購入できる40型4Kテレビはシャープがリリースするのみに。ちなみに、2023年末現在では流通在庫の旧モデルを除き、現行品の“40型4Kテレビ”は皆無だ。
もし、今の愛機、レグザ40M510Xが壊れてしまったら、次はどうすればいいのか……そんなことをときどき考えていたが、昨年9月に発売された38型のPQ38UQこそ、自分におあつらえ向きではないか。そんな関心を抱いてしまい、急遽、大画面☆マニアで取り上げることになったのである。
概要~丁度良いサイズ感と重量。スタンドの自由度は最小限
ディスプレイ部の大きさは、861×478×522mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は約9kg。一人で十分に持てる大きさだ。梱包状態ではスタンドが別体収納されており、ユーザー自身でディスプレイ部とスタンド部を合体させ、8本のネジで留める必要がある。
ネジは意外にも六角ボルトとなっており、締め付けには六角レンチが必要になる。「六角レンチ、どこに仕舞ったかな?」と探さなくてもOK。ディスプレイ部の接続端子パネル部の蓋の裏に適合サイズの六角レンチが組み付けられている。筆者は手持ちの六角レンチを持ち出してしまったが、大丈夫、付属してます。
スタンド部はブーメラン型、あるいは鳥足状に近い形で、重さは約1kg。3点で台上に設置するスタイルでディスプレイ部を立てることになる。総重量は約10kgだ。スタンド部とディスプレイ部を合体後に設置場所に移動するのも大人であれば一人でできることだろう。
スタンド部横幅は実測で約71cm。設置時には、この幅約71cmのスタンドの先端部がディスプレイ面に対して前に約9cmほどせり出すことになる。
スタンド部の前後長は約25cm。つまり、画面がはみ出ていいならば、71cm×25cmの台があればその上に設置が可能ということ。設置時の占有面積自体は意外とコンパクトだ。
ベゼル(額縁)は、上辺と左右辺が約10mm、下辺は約25mm。上辺と左右辺の額縁は、わずかに前面に段差として突き出た約2mmのフレーム部と、約8mm程度の液晶パネルの未表示領域からなる。画面がそれなりに大きいこともあって、パッと見では、まずまずな狭額縁デザインとなっていると思う。
スタンド部は上下±5度程度のチルト調整はできるが、高さ調整、左右首振り調整には対応しない。また、ピボット(回転)機構もない。背面には100mm×100mmの一般的なVESAマウントのネジ穴が空いており、汎用のディスプレイアームやスタンドを実装できる。
設置台からディスプレイ部の下辺との隙間は約80mm。ブルーレイパッケージ5本分くらいの隙間だ。ディスプレイ部の下に高さ8cm未満であれば小物を置いておけるだろう。
机の上に置いた設置状態で、椅子に座った筆者の目線から見た画面の具合は、上向き最大の5度設定でもまた少し足りない印象。
38型という結構大きい画面サイズの影響もあるのだろうが、自分で試してみた感じでは、手前に突き出たスタンド部の先端を2cmくらいは嵩上げしたい印象を持った。
ユーザーの視線と画面が織りなす角度が、だいたい90度となるあたりが一番画面が見えやすくなる。次期モデルでは、高さ調整機構の搭載と、上向きチルト角の増大を望みたい。まあ、今の状態でもホームセンターで買ってきたゴムブロックなどをスタンド部に咬ませたりすれば、理想の設置状態には近づけられるとは思う(後ろに倒れないよう注意)。
外装面で目に留まるのは、上部に開いた1/4インチのネジ穴だ。
このネジ穴は、ズバリ、一般的な三脚を止めるネジ穴と同径サイズなので、各種アタッチメントを介し、カメラやマイクなどが装着できる。ゲーム実況配信などを行なうユーザーには嬉しい機能だろう。
スピーカーは、5W+5Wのステレオスピーカーを搭載。音質自体は、ゲーミングノートPCの内蔵スピーカー以上、一般的な40型クラスのテレビ内蔵スピーカー以下といった感じ。
音量自体は相応に大音量にできるので、視聴距離が短く、カジュアルにゲームサウンドを楽しんだり、あるいはYouTubeなどの動画を流し見する程度には十分に使える。本格的なサウンド再生を望むならば、ヘッドフォンや別売りのオーディオシステムを組み合わせた方がいいだろう。
電源供給はACアダプタ経由ではなく、別体の三芯電源ケーブルを差し込むタイプ。定格消費電力は最大約50W。この値は、一般的な近い画面サイズの液晶テレビと比較すると半分以下だ。
接続~HDMI、DPの双方にて144Hz出力が可能
接続端子パネルは正面向かって右側の裏側にある。側面側にはHDMI2.1端子を2系統備えており、背面側にはDisplayPort 1.4端子(以下DP端子)を1系統備えている。
HDMI・DP端子とも、4K時でも最大144Hzのリフレッシュレートをサポートする。なお、144Hzの信号を出力するには、GPU側がDSC(Display Stream Compression)と呼ばれる非可逆圧縮伝送技術に対応している必要がある。
PG38UQ側の設定メニューからは、互換性の観点からDSCを無効化する機能があり、これを動作させていると144Hz信号が出力ができない。
このあたりの事情については、筆者がPC Watchで執筆した記事でも紹介しているので、関心があれば参照して欲しい。
本機は、可変フレームレート映像を美しく表示することを可能にするVRR(Variable Refresh Rate)に対応する。VRRには「VRR=FreeSync=AdaptiveSync=G-SYNC Compatible」という公式が成り立つため、現行のVRR系技術には全て対応ができている。
この他、本機に内蔵されたUSBハブ機能を利用するためのUSBアップストリーム端子、USB type-A端子が、DP端子の近隣にレイアウトされている。USBハブはいわゆるUSB3.1相当の5Gbpsまでの伝送速度に対応したもの。
USB type-A端子は、画面上部の正面向かって右よりに1つ、画面下部の正面向かって右寄りに1つが実装されている。上のUSB端子はWebカメラ取り付け用に便利そうだ。下のUSB端子はマウスやゲームコントローラの接続におあつらえ向きか。
3.5mmの3極ステレオミニジャックも、下側のUSB端子の近くに実装されている。ヘッドフォンを挿して楽曲を聴いてみたが音質は良好。PCに直接繋いだときのようなブチブチノイズもなくオーディオ機器クオリティの音質であった。
操作~カスタムリモコンが便利! 疑似ウルトラワイドモードに興奮!
本機にはリモコンが付属し、基本的な操作はこれで行なうことができる。本機は画面サイズが大きいため、やや遠目の、手がギリギリ届かない視距離で使うユーザーもいそうなので、このリモコンの存在はありがたい。
とはいえ、付属リモコンのボタンの数は少なめ。機能が明確に決まっているボタンは、電源ボタン、入力切換ボタン、音声ミュート、音量上げ下げボタンくらいだ。ただ、本機を使いこなす上では必要十分なものとなっている。
というのも、このリモコンの十字ボタンは、メニュー内のカーソル移動のみならず、平常時に上下右の3方向をダイレクトで入力すると、使用頻度の高いメニューを一発で呼び出せるのだ(左と中央の決定ボタンはルート・メニューの呼び出し操作に対応)。
さらに、上下右の3方向ボタンだけではなく、2つあるカスタム1、2のボタンに対しても任意のメニュー呼び出しに割り当てられる。慣れれば、サクサクとモードの切換、調整値の設定変更などが行なえるだろう。これはかなりよく出来たUIシステムだ。ASUS製のディスプレイ全モデルにこのリモコンを付けて欲しいと思ったほど。エントリークラスモデルに対しては別売りでもいい。
筆者の場合は、評価期間中、画質モードに相当する「GameVisual」やFPSカウンター表示などを呼び出せる「GamePlus」、HDR画質モードに相当する「HDR設定」を直に呼び出せるよう、カスタム設定を行なった。使用頻度の高い設定メニューを各ユーザーごとにリモコン上の各ボタンに割り振れるのはプログラマブルリモコンのようで楽しい。
電源投入からDP/HDMI入力からの映像が表示されるまでの所要時間は実測で約8秒だった。DP-HDMI間の入力切換の所要時間は約3.0秒。早くはないが、標準的なスピードといったところ。
リモコンを使わずに操作するには、ディスプレイ部底面部にある十字ボタンを使って操作することになる。
十字ボタンの3方向がマスタマイズ可能な特定メニューへのショートカット操作になっている機能自体は、リモコンと共通。また、正面向かって左側のボタンはデフォルトでは入力選択に割り当てられているが、ここを押したときの効果もカスタマイズが可能である。
本機が搭載する各機能は、ASUS・ROGブランドのゲーミングディスプレイが有するものが多いが、代表的な機能については、本稿でも紹介・解説していこう。
「動的OD」機能とは、動的オーバードライブ機能のことで、液晶画素の応答速度を早めるためのものだ。
具体的には、液晶画素を駆動させる電極に定格よりも強めの電荷を掛けることで、オーバーシュート状態を意図的に作り出し、液晶の配向速度を上昇させるものになる。
設定値としては「オフ-0/1/2/3/4/5」が設定できるが、通常はデフォルトの3で不満はない。上げると応答速度がさらに早まるが駆動画素にオーバーシュート駆動の弊害が顕在化し、動く映像の輪郭付近にリンギング現象(二重輪郭)が現れる。
「ELMB/ELMB SYNC」は、残像低減を目的としたいわゆる黒挿入技術のASUS式技術名。説明を読んだ感じ、ELMB(Extreme Low Motion Blur)の黒挿入は、バックライトのオフと液晶画素の黒表示の合わせ技で行なうようだ。
ELMB SYNCは、VRR(あるいはGPUメーカー提唱の○○SYNC系)と組み合わせて使える黒挿入技術になる。黒挿入はもともと、速い動きの動体の表示フレーム数が足りなくて残像を感じてしまう現象を軽減させるための機能で、そのASUS版がELMBである。対して、ELMB SYNCは、高リフレッシュレート(具体的には120Hz以上)では黒挿入を省略する制御を介入させたELMBとなっている。
リフレッシュレート120Hz未満における通常のELMBでは、黒挿入の時間(「明瞭度レベル」として設定可)や、黒挿入の位置(「明瞭度の位置」として設定可」をカスタマイズできるようになっている。
多くの場合、「黒挿入の位置」を画面の中央で設定すると、一人称シューティングゲームなどで「敵を照準器で捉えやすくなる」といったメリットが期待できるようだ。なお、HDR映像では、機能的な制約でELMB系機能は使えないようになっている。
「GamePlus」は、ゲームをプレイする際に便利な「ゲームプレイ支援機能」シリーズといったもの。照準マーカーを画面中央にディスプレイ側がOSDグラフィックとして描き出す、ゲーミングモニター製品ではお馴染みの「十字線」表示機能はここに含まれる。
「FPSカウンター」機能は、VRRオフ時で活用すればただの現状リフレッシュレートの表示となるが、VRRオン時にゲーム側で垂直同期を有効化し活用すれば、ゲームのリアルタイムフレームレート表示機能として使える便利な機能だ。
買ってきたばかりの新作ゲームが、自分のゲーミングPCでどの程度のフレームレートが実現できているかを確認したり、家庭用ゲーム機のゲームのフレームレート表示に役立てられるだろう。
「GameVisual」は事実上の画質モードで、ASUSが独自制作した各ゲームジャンル(映像ジャンル)に合わせて作られた7種のプリセットと、カスタマイズ可能な1個のユーザーモードが用意されている。
プリセットモードは「シーンモード」(わかりにくいが風景モードの意らしい)、「レースモード」、「映画モード」、「RTS/RPGモード」、「FPSモード」、「sRGBモード」、「MOBAモード」の7種が用意されている。映画モードはビックリするくらい色温度が高かったりするので、モード名に左右されず好きに選べば良い。なお、ゲーミングディスプレイなので、どのモードを選択しても入力遅延などに変化はない。
「ShadowBoost」もゲーミングディスプレイに定番の機能で、暗部を持ち上げる(ブーストさせる)階調補正機能だ。勝ち負けが重要なゲームではお好みで活用すべきだが、シネマティックな映像体験主体のゲームではオフ設定でOK。
「HDR設定」は、HDR映像に対してASUSが独自チューニングした3つのHDR画質モードが選択できる機能になる。
「ASUS Gaming HDR」はPCゲーム向けHDR映像画調、「ASUS Cinema HDR」は映画向け画調、「コンソールHDR」はASUS家庭用ゲーム機向け画調という説明だが、主に階調カーブ(いわゆるEOTF)にのみ影響を及ぼす設定となっており、発色傾向に大きな変化はない。ユーザー自身にここの設定を行なわせる「輝度調整可能」設定も用意されているのがユニーク。
「ASCR」は、ASUS Smart Contrast Ratioの略で、いわゆるフレーム・バイ・フレーム(1フレーム単位)で、コントラストを自動調整する機能になる。
簡単に言えば、暗い映像はより暗く、明るい映像は明るく表示する振る舞いをするようになるので、シネマティックなゲームでは雰囲気が増すが、競技性の高いゲームでは、明暗が頻繁に切り替わってプレイしにくくなる場合があるので、賢く使いこなしたい。
「アスペクトコントロール」は、かなりユニークな機能で、前述したカスタム・ショートカット操作で呼び出せないのが残念に思えたほど面白い機能だ。
一見すると表示映像のアスペクト比を強制設定するだけの機能かとおもいきや、ホストPC側から「そのアスペクト比のモニターとして認識させることができる機能」としての1面も持つ。
用意されているモードはデフォルトの「16:9」の他、「4:3」「21:9」「32:9」があり、「16:9」とそれ以外ではモードの振る舞いが少し異なる。
「16:9」モードでは、デフォルトの「ネイティブモード」「25インチモード」「27インチモード」の3つがあり、各モードではホストPCからは下記の解像度のモニターとして認識させることができる。
モード名 | 最大解像度 |
---|---|
Native | 3,840×2,160ピクセル(※デフォルト) |
Simulate 27" | 2,728×1,536ピクセル |
Simulate 25" | 2,528×1,420ピクセル |
例えば、「25インチモード」や「27インチモード」を選択後「ドット・バイ・ドット」を選択すれば、それぞれのモード名に対応した解像度の映像を、PG38UQの38型の大画面内に25型、27型の実寸サイズで表示させることができる。
拡大・縮小処理無しのドット・バイ・ドット表示なので、本機を意図的に本当の25型や27型のゲーミングディスプレイとして使えるようになる。もちろん、表示領域以外は真っ黒にはなるが。
では、これは一体どのような目的で用意されたモードなのか?
実は、全画面が視界に入りきらないとゲームプレイに支障が出る“競技系(eSport系)のゲームをプレイするためのモード”なのだ。つまり「38型大画面のPG38UQでは表示が大きすぎて遊びにくいゲームを遊びやすくプレイするための小画面機能」ということだ。
なお、38型の画面内に小さく表示されたゲーム画面は、「アスペクトコントロール」設定内の「画面の位置」設定で上下移動させることができる。つまり、バーチャルな高さ調整ができると言うわけ。
いわば、本機の「アスペクトコントロール」機能は、ゲーミングディスプレイにおける“大は小を兼ねる”機能に相当するということになる。
そしてこの機能、「4:3」「21:9」「32:9」の各モードでは、ちょっと趣向の異なった機能を発揮する。具体的には、各モードを設定すると、最大で下記の解像度(&アスペクト比)のモニターとして、ホストPCから認識されるようになる。
モード名 | 最大解像度 |
---|---|
4:3 | 1,280×960ピクセル(※) |
21:9 | 3,440×1,440ピクセル |
32:9 | 3,840×1,080ピクセル |
※1,280×1,024ピクセルのアスペクト比5:4として振る舞うことも可能
4:3モードでは、'90年代のPCゲームで定番だった800×600ピクセルや1,024×768ピクセルはもちろん、昔の家庭用ゲーム機と相性が良い480pの映像も入力できるようになるので(別途、640×480ピクセル解像度を定義する必要がある場合あり)、レトロゲーマーは重宝するかもしれない。
21:9、32:9モードは、PG38UQを疑似的なウルトラワイドゲーミングディスプレイとして活用することができるモードだ。
上下に未表示領域ができるが、ホストPC側はそれぞれ21:9の3,440×1,440ピクセル、32:9の3,840×1,080ピクセルのゲーミングディスプレイが接続されていると認識するので、ゲーム側がウルトラワイドに対応していれば、画面は広画角なゲームプレイが楽しめる。
ただ、画面サイズ的には21:9モードでは36型相当、32:9モードでは34型相当にまで小さくなるので、ウルトラワイドゲーミングの醍醐味である“画面のサラウンド感”はない。とはいえ、お遊び程度でウルトラワイドを疑似体験するには丁度良いだろう。
なお、このアスペクトモードを活用した特殊表示の際には、HDR表示機能が利用できなくなる点は留意されたい。
「ディスプレイの色空間」設定では、色空間モードを手動で設定できる。本機はゲーミングディスプレイではあるが、写真レタッチ、グラフィックデザインなどの作業用にも流用できるポテンシャルを持つ。選べるのは、PC環境では標準的な「sRGB」と、デジタルシネマ向けの「DCI-P3」の2つ。
「PIP/PBPモード」はいわゆる2画面機能だ。メイン画面の4隅に小画面を表示するPIP(Picture in Picture)モードは、アスペクト比16:9の親画面に、同じ16:9の小画面を表示する一般的な親子画面の表示モードになる。
一方、PBP(Picture by Picture)は、アスペクト比8:9の1,920×2,160ピクセルの画面を2つ並べての表示が可能。1つの画面を2台のPCを操作する際に便利な機能だ。こちらのモード利用時もHDR映像の表示は行なえない。
ゲーミング性能~低遅延性能に文句なし
映像入力遅延はいつものように「4K Lag Tester」(Leo Bodnar Electronics)で計測した。結果は以下の通り。
入力解像度 | 遅延実測値 |
---|---|
4K/60Hz | 1.0ms |
1080p/120Hz | 0.8ms |
さすがはゲーミングディスプレイ、文句の付け所がない低遅延性能だ。なお、計測器の都合で60Hzは4K、120Hzは1080pで計測しているが、基本的に、他の解像度でも計測結果はそれぞれのリフレッシュレートに準じた値になるはずである。
内蔵スピーカーの発音遅延についてはベンチマーク映像ソフトの「The Spears & Munsil UHD HDRベンチマーク」の「AV Sync Test」(60Hzモード)で確認したところ、問題なし。こちらも素晴らしい。
PlayStation 5(PS5)とPG38UQを接続した時の「映像出力情報」は以下のとおり。PS5から、4つの解像度モードの全てでVRRとHDRに対応できるようだ。
続いて、Xbox Series XとPG38UQを接続したときの「4Kテレビ詳細」は以下のとおり。4K/120Hz/HDR出力に対応はするが、Dolby Visionには非対応という結果を示した。
画質~ゲーミングディスプレイとしては不満なし
映像パネルは、38型の4K(3,840×2,160ピクセル)解像度のIPS型液晶パネルを採用する。今回の評価は、視距離50cm程度で行なったが、IPS型液晶の広視野角性能の恩恵もあって中央のみならず、画面の端も色変移なく自然に見えていた。
画素形状はIPS型液晶パネルではよく見られる「く」の字型で、開口率も顕微鏡写真を見る限りは60%程度、いたって普通だ。赤緑青の各サブピクセルのサイズも均等で整然と列んでいるので、縦線表現も横線表現も美しい。
白色光のカラースペクトラムを以下に示す。SDR映像用の画質モードは数が多いため、SDRモードではGameVisual(画質モード)を「映画モード」と「sRGBモード」、そしてHDRモードでは「HDR設定」(HDR画質モード)を「ASUS Gaming HDRモード」、「ASUS Cinema HDRモード」の時で計測している。
赤緑青の各色スペクトラムは、鋭いピークが立ち、なおかつ3つの各ピークは綺麗にえぐれているので、混色品質や色再現性は相応に優秀であろうことが見て取れる。
なお、赤のスペクトラムには2つのピークが見られるがこれはケイフッ化カリウム(K2SiF6)を主成分とした赤色蛍光体のKSF蛍光体の特性と思われる。KSF蛍光体は一般的な白色LEDよりも鋭い赤原色スペクトルピークを得るためにしばしば採用される。
液晶パネルに光を注ぎ込むバックライト自体は白色LEDで、恐らく光源自体はディスプレイ部の下辺一列に実装されたエッジ型であろう。
というのも、ベンチマーク映像ソフトの『Spears & Munsil UHD HDRベンチマーク』でバックライトの導光特性を推し量ることができる「FALD ZONE counter TEST」を実行してみたところ、四角い動体が左から右に動くのに同期して、これにやや遅れて画面の上辺から下辺に至るまでの縦長の「光の帯」が追尾するような表現が見られたからだ。
おそらく、下から上へ縦方向に導光板を走らせて画面全域に光を導いているものと思われる。
輝度性能は公称値によれば標準輝度が350nit、最大輝度が600nit。VESAのHDR映像表示品質規格に関しては、DisplayHDR 600に対応しているという。なるほど、最大輝度性能と辻褄が合う。
DisplayHDR 600は、ただ最大輝度が600nitだからとれる規格ではなく、映像の明暗分布に連動してバックライトを焚く「エリア駆動(ローカルディミング)制御に対応しなければならない。前述した“動体に追従する縦長の光の帯”は、まさにローカルディミング実践の証拠、といったところだろう。
テスト用のHDR映像を、様々な最大輝度に設定して視聴したところ、スペック表記通り、最大600nitあたりに設定すると、明暗差と階調分解能のバランスが良いと感じた。実際、『Spears & Munsil UHD HDRベンチマーク』の「Ramps」テストを実行してみると、そんな結果が見られる。
とはいえ、最大輝度を任意に設定できるのはゲーム映像くらいで、昨今のHDR映像コンテンツは1,000nitあたりでマスタリングされている。
では、本機は最大1,000nitの映像を入れた場合は駄目なのかというとそう言うわけではなく、本機の映像エンジンのディスプレイマッピング(≒トーンマッピング)機能が働き、コントラスト感は多少犠牲にして、高階調もそれなりに表現してくれるようだ。
前出のテスト映像を様々な最大輝度に設定して評価したところ、最大2,000nit設定時に1,400nitあたりまでの階調を表現しようとするトーンマッピングになっていた。まあ、最近のテレビ製品も同じような感じなので問題はないだろう。
実際の映像コンテンツを色々と見てのインプレッションはどうか。
SDR映像に関しては、sRGBモードが最も自然な見映えで汎用性が高い。映画モードは色温度が高く、映画との相性はあまりよいとは思えなかった。
HDR映像の画調モードについては前述もしているとおり、PG38UQが搭載する3つのHDR画調モードの「ASUS Gaming HDR」「ASUS Cinema HDR」「コンソールHDR」がある。
そこで、実際の映像コンテンツを見てそれぞれの画調の違いを評価してみたが、「ASUS Gaming HDR」と「ASUS Cinema HDR」は暗部に関しての階調表現に大きな違いはない。しかし、高階調においては、コントラスト重視で高輝度領域を若干飛ばし気味なのがASUS Gaming HDRで、ASUS Cinema HDRはコントラストを多少犠牲にして最大輝度領域を階調表現に割り当てるチューニングとなっていると気付いた。
そして「コンソールHDR」は、暗部の沈み込みを気にせず、むしろ“黒浮き上等”で暗部階調を描き出し、明部についてはASUS Gaming HDRに近く、コントラスト重視で飛ばし気味の高階調表現を行なうようだ。
映画はASUS Cinema HDR一択で、ゲームについては、明部の情報量重視ならばASUS Gaming HDR、暗部の情報量重視ならばコンソールHDR、という感じの使い分けになるだろうか。
発色のチューニングは良好だ。人肌の質感も美しく、原色表現も鮮やかだ。定点観測的に活用しているUHD BDソフト『マリアンヌ』の「暗闇の中の偽装ロマンスシーン」でも、人肌が灰色に落ち来まず、血の気が維持された暖かみのあるくらい人肌になっており、カラーボリュームの作り込み不満はない。
ただ、暗いシーンの多い映像鑑賞時に気になったのは、黒浮きである。
直下型バックライトではなく、エッジ型バックライトなので、エリア駆動を実践して最大コントラストを引き出そうとはしているものの、縦帯状の簡易的なものなので、限界を感じる。ランタンや電飾、照明器具のような自発光表現は伸びやかに明るいのに、その周囲の暗がりは締まらずに鈍く輝いてしまっている。特に画面の四隅は黒浮きはかなり目立つ。
これ以上の黒の締まりを望むには、直下型バックライトシステムの採用を望むしかないが、これを実現すれば価格はグンと跳ね上がる。コストパフォーマンスで選ばれがちなゲーミングディスプレイ製品では、そこに踏み込むにはメーカーにも覚悟が必要だろう。
いずれにせよ、明るめのゲームを楽しんだり、普段のPC作業用のディスプレイとして使う場合においては、現状でも相応に優秀な表示が行なえてはいると思う。
総括~ASUSへ「絶やすな38型」「さらなる高画質版もお願い」
「43型では大きすぎる」「32型はちょっと小さすぎる」「丁度よかったあの40型はもうない」……こんな想いを抱いていたPCユーザーに対し、PG38UQは「ワタシ、そんなアナタのために生まれたの」と言わんばかりの製品である。
ゲーミングモディスプレイとして企画された製品なので、最高位の低遅延性能と充実したゲーミング機能に圧倒されてしまった筆者ではあるが、普通のPCディスプレイとしての完成度も高いことに安心した。ゲーミング用途が主体だからといって、画質が疎かになっていないので、一般的なPCユース向けのディスプレイとしてもオススメはできると思う。
現在、PCディスプレイとして使っている40型のレグザ40M510Xがお釈迦になったとき、その代替候補として本機は最有力候補になりそうだ。
しかし、ここまでの完成度なのであれば、もう少し欲張りスペックなモデルも欲しい。
映像鑑賞や映像編集、写真レタッチ、アート制作、デザイン作業をするためのメインディスプレイとするには、本機は、少しコントラスト感が心許ない。黒浮きの多さを提言させるには直下型バックライトの採用は最低限必要だろう。「ミニLED×量子ドット」技術を採用した、ASUSが誇るProArtバージョンとしての転生もいいかもしれない。
とにかく、ASUSさんには、この38型のラインナップを絶やさないで欲しい。