西川善司の大画面☆マニア

第282回

続・Switchのサラウンド問題。ヘッドフォンで5.1ch再生する方法とは

Nintendo Switchの5.1chサラウンド出力機能を極めろ!

なかなか厄介な、Nintendo Switchのサラウンド再生

2017年に発売された任天堂のゲーム機「Nintendo Switch」(以下Switch)には、ゲーム内サウンドを5.1chサラウンド出力機能があり、大作系タイトルを中心に、意外と対応タイトルが多い。

しかし、Switch自体のサラウンド出力機能に汎用性がないこと、そして任天堂自身があまり同機能の活用を訴求していないことなどが重なり、「日頃からSwitchのゲームを5.1chサラウンドで楽しんでいる人が少ない」という現実がある。

そこで大画面☆マニアでは、改めてSwitchのサラウンド機能の本質を整理し、2023年においてはどのような機材を使えば「まともに再生できるのか」についての情報を取りまとめて提供することした。

前編では、Switchの5.1chサラウンド機能がどんな形式のオーディオ・フォーマットなのかを解説し、これを再生することができる機材の機能要件を紹介した。また、その実例機器として、ソニーのサウンドバー「HT-A5000」の使用インプレッションもお届けした。

後編となる今回は、「Switchの5.1chサラウンド出力を正しく再生できるヘッドフォンは存在するのか?」というテーマをメインに話していくが、その話に移る前に「Switchの5.1chサラウンド出力は光デジタル音声信号に変換できるのか」についても言及しておきたい。

というのも、市販されているサラウンド対応製品には、依然として光デジタル音声信号入力にのみ対応した製品が存在するからだ。ちなみにこの傾向は、サウンドバーだけでなく、今回メインに取り扱うサラウンド対応ヘッドフォンにも当てはまる。

なお本稿では、前編で解説したテーマを理解してもらった前提で話を進めている。「Switchは非圧縮オーディオのマルチチャンネルしか出力できない」や、「ARCやeARCで伝送可能な帯域の違い」の話題は触れない。前編を読了していない場合は、なるべく前編から読み進めていただきたい。

もういい加減「光デジタル」から卒業しませんか

前回は、Switchの5.1chサラウンド出力を正しく再生できるサウンドバーの選び方を細かく解説したわけだが、安価なサウンドバーには、光デジタル音声入力端子しか搭載していないものが多い。

残念ながら、そうした製品は、Switchのサラウンド音声を再生できない。

その理由はシンプルで、「SwitchにはHDMI出力端子はあるが、光デジタル音声出力端子がない」からだ。つまり、物理的に直接接続できない、というのが、分かりやすい“表向きの理由”だ。

しかし、「ちょっと待て! テレビとSwitchをHDMI接続すれば、SwitchからのHDMI音声を、テレビの光デジタル音声出力端子から出力することはできるよね? だったら、その光デジタル音声信号を、光デジタル音声入力端子しかないサウンドバーに接続すれば、サラウンド音声を再生できるのではないか?」。

なんて反論される方もいるかもしれない。

こんな感じで繋げば、Switchの5.1chサラウンドをサウンドバーでも鳴らせそう。しかし、この方法では、ステレオ(2ch)までしか鳴らすことができないのだ

しかし、こうした工夫をしても、いくつかの理由で、サラウンドの再生はできないのだ。

実は、別名「S/PDIF」規格とも呼ばれる光デジタル音声信号は、先進的なイメージのある“光”というワードが付いているものの、その規格設計年度は1985年頃と古い。それこそ、Sビデオ端子などと同世代の技術なのだ。

そしてなんと、光デジタル音声信号のサポート帯域はわずか1.5Mbps程度までしかない。

一方でSwitchが出力するリニアPCM 5.1chサラウンドは帯域にして約4.5Mbpsはあるので、光デジタル音声信号では帯域不足で伝送できない。ちなみに、圧縮オーディオ形式のDolby Digitalは最大640kbps程度(5.1ch)、DTSは最大1.5Mbps程度(5.1ch)となっており、光デジタル音声信号で伝送できる範囲の帯域で設計されている。

というわけで、整理すると、光デジタル音声信号は――

  • a:規格レベルで「リニアPCMの5.1chサラウンドは伝送できない」
  • b:規格レベルで「リニアPCM音声の伝送は2ch(ステレオ)まで」

――として規定されているため、どうしても光デジタル音声信号でサラウンド音声を伝送するなら、圧縮オーディオ形式を使わないとダメ(理由a)。ただSwitchは、非圧縮オーディオ(リニアPCM)の5.1chサラウンドしか出力できないため、“光”に変換したところで、2ch(ステレオ)までしか鳴らせられない(理由b)というわけだ。

多くの読者が気が付いているとは思うが、前編で言及した「帯域不足のARCでは非圧縮オーディオ(リニアPCM)の5.1chサラウンドを取り扱えない」と同じ理屈だ。

ところで、筆者がYouTubeにてゲーム実況している最中に、視聴者からよく受ける質問に、「SwitchからHDMI出力される5.1chサラウンド音声を、HDMIオーディオスプリッターを用いて光デジタル音声に変換すれば、光デジタル音声ケーブル経由で各種サラウンド機器に接続して鳴らせますか?」というものがある。

この質問も「テレビ」の部分が「HDMIオーディオスプリッター」になっただけで、話としては同じこと。上で示したa・bの理由により、答えは「できない」となる。

HDMIの音声信号を分離するスプリッターを使っても、SwitchのリニアPCM 5.1chサラウンドは光デジタル音声から出力できない。またスプリッターは“分離”はできても、“変換”には対応していない。そのため、リニアPCM 5.1chサラウンド音声をリアルタイムにDolby Digital 5.1chなどに変換することはできない

もし、リニアPCMの5.1chサラウンドを、リアルタイムにDolby Digitalの5.1ch信号に変換できるスプリッター機器等が存在すれば、光デジタル音声入力端子しか持たないサウンドバーでもサラウンド出力ができそう。

しかし残念ながら、そのような機器は民生向けには存在しないようだ。「Dolby Digital Encoder」でネット検索するとそれっぽい業務用機器が出てくるが、そもそもそれらはHDMI入力に対応していない。HDMI入力に対応した“そういう製品”の開発/製造は技術的には可能だろうが「今さら光デジタル関連機器を作っても売れない」と、民生機器メーカーは判断しているのだろう。

ただ、テレビ製品には「HDMI入力されたリニアPCM音声信号をDolby Digital変換して、テレビ側の光デジタル音声出力端子から出力できるモデル」がそこそこ存在する。

これを使えば「もしや!?」と思い、私物のレグザ「55Z720X」にSwitchをHDMI接続して試してみたのだが、残念。変換されて光デジタル出力されたDolby Digital信号は2ch(ステレオ)になってしまっていた。

このテストは手持ちの一台でしか行なえなかったので、他のテレビ製品の全てがそうであるという確証はない。ただ、ニーズと実装コストのバランスを考えると、他のテレビ製品も同じではないかと思う。もし「リニアPCM 5.1chサラウンドをDolby Digital 5.1ch信号に変換して光デジタル音声出力できるテレビ製品があるよ!」という情報をお持ちの方は教えて頂きたい。

写真はレグザ「55Z720X」のもの。テレビ製品によってはHDMI入力されたリニアPCM音声を光デジタルに出力する際にDolby Digitalに変換することができるモデルがある。ただ、ほとんどのテレビ製品は、そもそもリニアPCM音声入力についてステレオ(2ch)までの対応となっている。なお、レグザは最新モデルでもこの仕様らしい

ということで、「Switchが出力するリニアPCM 5.1chを再生するために光デジタル音声信号を利用する」というアプローチは、基本的には“無理”と考えた方がいい。

Switchの5.1chに対応したヘッドフォンの選び方

複数台のスピーカーを設置して構築したサラウンドシステムはもちろん、お手軽にサラウンドを楽しめるサウンドバーにしても、室内に音を出すため、住宅事情などで自由に使えないという場合もあるだろう。

そんなわけで“外に音が出ない”ヘッドフォンで、Switchのサラウンドを楽しみたいという方も少なくないと思う。

ただ現在、発売中のサラウンドヘッドフォンで、SwitchのリニアPCM 5.1chサラウンドをまともに再生できる製品は少ない。

まず、製品数の多い「USB接続タイプのSwitch対応ヘッドフォン/ヘッドセット」。

色々と発売されているが、これは全て2ch(ステレオ)までの再生となる。SwitchではゲームからUSBオーディオとして出力できるのは2chまでとなっているためだ。残念ながら、サラウンド対応を謳った製品は、受け取った2ch信号に対して、残響などを与えて疑似サラウンドっぽくするだけの「なんちゃってサラウンド」となる。

Bluetooth接続の場合も同様。Switchは、Bluetooth出力できるのは2chまでとなっている。たとえ「Switch対応」とパッケージに記されていても、2chサウンドを信号処理でそれっぽくしているだけに過ぎないので気を付けたい。

バーチャルサラウンドとなんちゃってサラウンドの違い。「なんちゃってサラウンド」は、大元の出力段階で2ch(ステレオ)になってしまっているので、根本的にサラウンド情報が欠如しているのだ

余談ながら、「USBオーディオは2ch(ステレオ)まで」という仕様は、PS4やPS5も同様である。

ただしPS4の場合、SIE純正ヘッドフォン(CUHJ-15001/CUHJ15005/CUHJ15007)においてだけ、商品に付属する専用USBドングルを使えば、例外的に5.1ch/7.1chなどのサラウンド出力が行なえるようになっている。

これは、前述の純正ヘッドフォンに対してのみ特別な対応を施しているため。PS4ライセンス商品のヘッドフォン/ヘッドセットであっても、前述の純正ヘッドフォン以外は、2chのなんちゃってサラウンド再生となるので注意。

PS5においても、USBオーディオ出力については2chまでの対応となる。ただしPS5では、純正ヘッドフォン以外のヘッドフォンでもサラウンド音声が楽しめるようになった。

どうゆうことかというと、PS5本体側で5.1chや7.1chのサラウンド音源、オブジェクトベースオーディオのサラウンド音源を、PS5独自のハードウェアベースのバイノーラル再生技術ともいうべき「Tempest 3Dオーディオ」機能によって、2ch出力のバーチャルサラウンド音声に変換してくれるように改善されたためだ。

話を戻すと、Switchでは、前出のサウンドバー製品のケースと同様に――

  • 1:eARC対応であること
  • 2:非圧縮オーディオ(リニアPCM)の“5.1ch”サラウンドに対応していること

――という条件でサラウンド対応ヘッドフォンを探すしかない。

この条件を満たす現行製品は、ビクターの「XP-EXT1」(以下EXT1)だけとなる。EXT1は、発売年が2020年とまあまあ新しいこともあり、Dolby Atmos信号にも対応するほか、プロセッサボックス部のHDMIパススルー端子は4K/HDR信号にも対応する。よってSwitchだけでなく、4Kブルーレイプレーヤーはもちろん、PS4 ProやPS5との組み合わせにも最適だ。

このEXT1については、メーカーから実機を借りることができたので、インプレッションを後述する。

現在、発売されている、eARC対応のバーチャルサラウンド対応のヘッドフォンはJVCの「XP-EXT1」だけとなっている。Switchの非圧縮オーディオ(リニアPCM)の5.1chサラウンドの再生にも対応する

Switchでサラウンドが聞ける/聞けないヘッドフォン

EXT1以外だと、筆者が調べた範囲では、ソニーの「MDR-HW700DS」(以下HW700DS。ソニーストアでは取り扱い終了済み)がある。

発売年が2013年と古いため、eARCには対応していないが、付属する別体のプロセッサボックスに実装されているHDMI入力端子が非圧縮オーディオのリニアPCM 5.1chサラウンドに対応しているため、Switchのサラウンド音声を入力して再生することができる。

しかもそのプロセッサボックスには、遅延なしでテレビと接続ができるパススルーHDMI端子が搭載されているため、ゲーム映像の遅延はなし。ただし、このパススルーHDMI端子は、4K/HDR信号には対応しない。よって、PS4 ProやPS5との組み合わせには不向き。とはいえ、4KもHDRも関係ないSwitchとの組み合わせるのに支障はない。

実際に筆者私物のHW700DSをSwitchと組み合わせてみると、5.1chサラウンドの聴感は(古い製品でありながら)意外にも良好である。

スピーカーによるリアル5.1ch再生には及ばないものの、フロント部はワイドで聞こえるし、リア音声は左右の肩あたりにまでは回り込んでくれる印象。3D VPT(Virtualphones Technology)機能を有効化すると、5.1chサラウンドが疑似9.1chサラウンドに拡張され、聴感のワイド感はさらに高まる。

ソニーの「MDR-HW700DS」は直販ストアでの販売は終了済みで、現在は流通在庫のみ。筆者はSwitchやPCゲームを5.1chサラウンドで楽しむために、2020年にビックカメラで約42,000円で購入したが、現在ネット販売では7万円近くまで高騰している。中古品が2万円前後で出回っているので、そちらを狙うのもありだろう
ヘッドフォン部を装着する筆者
プロセッサボックス
背面

ソニーの製品としては、HW700DS以外にも、2018年発売のサラウンドヘッドフォン「WH-L600」がある。「こちらはどうなのか?」と、気になる方もいることだろう。

ソニー「WH-L600」は、「MDR-HW700DS」の下位モデルに相当する製品だ。「WH-L600」も販売終了製品ではないものの、入手性が芳しくないのは「MDR-HW700DS」と同じ

結論から言ってしまうと、SwitchのリニアPCM 5.1chサラウンドの再生には対応できない。

理由はサウンドバーのところで触れた内容と同じだ。L600のHDMI端子はeARCには未対応で、ARC対応までとなっており、リニアPCMは2chまでの対応となっているため。L600には光デジタル音声入力端子もあるが、ここまで読み進めてきた読者であれば、ここについてこれ以上の言及は不要だろう。

なお、パナソニックからも「RP-WF70」というバーチャルサラウンド対応のヘッドフォンが2017年に発売されている。こちらは現行製品扱いで入手も容易だが、やはりこちらもSwitchのリニアPCM 5.1chサラウンドの再生には対応できない。

理由はシンプル。入力端子が光デジタル音声入力端子しかないためだ。

実勢価格は2万円台前半で入手性もコストパフォーマンスもいいのだが、光デジタル音声入力端子しか持たないため、サラウンド音声はベーシックな圧縮オーディオ形式にのみ対応する。正直言って、最近のHDMI機器とは組み合わせ難い

では、ショルダースピーカーやネックスピーカーの中で、SwitchのリニアPCM 5.1chサラウンドが再生できるモデルはあるのか?

これについて調べて見たところ、この製品ジャンルのほとんどがBluetooth接続となるため「対応できない」ようだ。

ただ、本稿執筆最中に発表されたシャープの「AN-SX8」は、この製品ジャンルの数少ない「例外」ということになるかもしれない。

詳細仕様はよく分かっていないのだが、SX8にはトランスミッター兼プロセッサーボックスが付属しており、これがeARCに対応していることが明記されている。

リニアPCM 5.1chサラウンドに対応できるかどうか、シャープに問い合わせたところ、「eARC対応のテレビと組み合わせることで対応可能です」とのことだった。貸出しが間に合わず試すことができなかったが、機会があれば評価してみたい。

ちなみに、シャープのサウンドバー「8A-C22CX1」「8A-C31AX1」は、リニアPCM 5.1chサラウンドに対応していなかったため、筆者自身はSX8には大きな期待を抱いている。

シャープの「AN-SX8」は、Bluetoothだけでなく、HDMIのeARC接続にも対応したネックスピーカー。5.1chサラウンド再生はもちろん、Dolby Atmosにも対応する注目の新製品。リニアPCM 5.1chサラウンドには対応しているとのこと。価格は価格はオープンプライスで、店頭予想価格は39,600円前後

Switch対応サラウンドヘッドフォン「XP-EXT1」を試してみた

SwitchのリニアPCM 5.1chサラウンドに対応するビクターのヘッドフォン「XP-EXT1」をSwitchに接続して試してみた。

前述したとおり、EXT1には別体のプロセッサボックスが付属する。もし使用しているテレビがeARC対応であれば、前編で示した接続図のサウンドバーの部分を、このプロセッサボックスに置き換えたような感じで使用する。

テレビがeARCには未対応(旧規格のARCにのみ対応)している場合や、そういった概念のないゲーミングディスプレイ製品を使っているような場合は、このプロセッサボックスの3つあるHDMI入力のどれかに接続し、HDMI出力端子の方をテレビに接続すればいい。このプロセッサボックスをセレクター的に活用するイメージだ。

プロセッサボックス
背面
ACアダプタ

接続が完了したら、次にやるべきなのが「使い始める前の初期設定」だ。これは、ユーザーごとのヘッドフォンの伝達特性を検出するためのキャリブレーションプロセスに相当する。

やり方は簡単で、ヘッドフォンを被り、テストモードを実行するだけ。テストモードを開始すると、パルス音のようなテスト音がヘッドフォンから発音され、その音をヘッドフォン内部のマイクが録音して分析するという流れ。

マイクで録音された音は、ユーザーの耳の中で反射・回折・共鳴(共振)した音になるので、テスト音のオリジナル波形からどう変調されているかを分析することで、ユーザーの耳内部の構造を推測しようというわけだ。

なお、このプロセスについては、事前にスマートフォンにインストールした専用アプリを介して行なわれる仕組みだ。

この分析プロセスは、それほど時間が掛からずに終わる。あえて難しく言えば、「そのユーザーに最適化されたバーチャルサラウンドサウンドを再生するための頭部伝達関数」がEXT1に登録された、ということだ。

専用アプリはEXT1のリモコン代わりに利用できたり、現状の接続ステータスの確認も行える。この画面は「SwitchのリニアPCM 5.1chサラウンド」をちゃんと入力できていることを表している

聴感は、バーチャルサラウンドヘッドフォンとしては良好。フロント左右チャンネルは正面方向をゼロ度とすれば、左右±40度方向から鳴っているようなワイド感を伴って聞こえる。そして、センターチャンネルはど真ん中にしっかり定位できている事を確認した。リア左右チャンネルは、真後ろから聞こえるというよりは、左右の肩の周辺で聞こえるという聴感だ。バーチャルサラウンド対応のヘッドフォンの定位感としては悪くないと思う。

「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」のプレイにおいては、フロント方向の没入感は極めて良好だった。

馬を駆って走っているシーンなどでは、目の前を通り過ぎていく風や川のせせらぎの音は自分を通り過ぎた後、肩やうなじ周りに収束していくような聴感で、リア方向の没入感も良いとは思う。ただし「敵の足音」を「後ろのどのあたりから聞こえる」というほどの緻密な精細感まではない。

しかし、明らかに通常のステレオヘッドフォンで聴く音響とは異なってはいることは実感できた。

EXT1では、リニアPCM 5.1chサラウンド再生時において、バーチャルサラウンド再生モードを「Neural:X」や「Dolby Surround」から選択することができる。筆者のお勧めは「Neural:X」

せっかくなので、私物のHW700DSとの音質比較もしておこう。

音場のワイド感や没入感に関しては、ほとんど両者同等という印象。EXT1もHW700DSも、通常のヘッドフォンのように頭の中に音が定位するのではなく、耳の外にあるスピーカーから音が鳴っている感じはちゃんとするし、その品質面はほぼ同等だと思う。ただし、定位感に関しては、ベースとなっている仮想音源技術の年度が新しいEXT1の方が上だ。

あと両モデル共に、2.4GHz/5GHzのデュアルバンド対応だが、伝送の安定性はEXT1の方が上だった。筆者宅は2.4GHz/5GHzの電波を使用する機器が複数台設置されている関係で、電波状況はあまりよくない。

HW700DSだと使用中、バンド切換のタイミングか何かでブツブツいうことが1時間に数回あるが、EXT1はこれが全くない。このあたりの安定性も、発売年度の新旧の違いから来るものなのだと思う。

最後に、EXT1のHDMIパススルー機能の性能についての調査報告をしておこう。

遅延計測機器を評価対象のディスプレイ機器に直結した際と、EXT1のパススルー接続した場合との遅延速度を比較してみたが、計測値に違いは見られなかった。つまり「パススルーによる追加遅延はなし」と断言できる。

評価に用いたディスプレイは、HDMI2.1規格対応でHDMI接続で4K/120Hzの入力が可能な、LG「27GP950-B」。写真上側が遅延計測器直結状態での計測。写真下側がEXT1からパススルー接続した状態での計測。計測値に変わりはない

続いて、HDMI2.1規格の帯域の上限に近い4K/HDR、120Hzの映像がパススルーできるかをチェックしてみたところ、以下のような結果になった。

GeForce RTX 4090でチェック。ディスプレイはLG「27GP950-B」だ。色空間はHDRには対応できていたが、パススルーが行なえたのは4K/60Hz、8bitまで

こちらは、残念ながらパススルーが行なえた上限の画面モードは4K/60Hzまで。HDR色空間には対応していたが、10bitモードはパススルーできず、8bitモードでしかパススルーができなかった。

HDR非対応、フルHD解像度のSwitchと組み合わせる場合は何の問題もないが、PS5などの最新ゲーム機、最新ゲーミングPCとEXT1を組み合わせる場合には、HDMIパススルー機能は活用せず、eARC経由で接続した方が無難と思われる。参考にして欲しい。

なお、このSwitchサウンド特集の評判がよければ、SwitchとシャープのSX8を組み合わせた時のインプレッションなどにも挑戦したいと考えている。

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。東京工芸大学特別講師。monoAI Technology顧問。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。近著に「ゲーム制作者になるための3Dグラフィックス技術 改訂3版」(インプレス刊)がある。3D立体視支持者。
Twitter: zenjinishikawa
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