第166回:CEATEC特別編 「4K時代」の到来

~見所多いシャープ。ソニーBRAVIAや東芝4K映像に注目~



 今年も日本では最大級の先端ITと家電の総合展CEATECが開幕した。今年の開催テーマは「Smart Innovation~豊かな暮らしと社会の創造」となっており、「エネルギー効率」と「スマート」がキーワードのようだ。

 とはいえ、本連載は「大画面☆マニア」なので、「大画面」をマニアックにフォーカスした話題をお届けすることにする。


■ シャープブース~MOTH EYE、IGZO、ICC。見どころの多いブース展示

シャープブース

 今年のシャープブースは映像マニアからすると、見るべきところが多い。まず、目にとまるのは「MOTH EYE(モスアイ)」テクノロジーだ。MOTHとは「蛾」、EYEは「目」。蛾の目の特性を活用した技術になる。以前QUALCOMMが、蝶の羽根の鱗粉の光学現象を用いたディスプレイMirasol(IMOD)を発表していたが、今回、シャープと大日本印刷が共同開発したMOTH EYEも、同様の昆虫の器官にヒントを得た技術になる。

 MOTH EYEテクノロジーとは、液晶パネルの表示面に直径がナノメートル単位の凹凸を加工して組み付ける技術。テレビ向けには、そうした微細表面構造の樹脂シートを生成して、これをガラスなりアクリル板なりに貼り付けて使用することになる。


液晶パネルを3領域に分割して、それぞれの領域に異なる表面材質をはめ込んだデモ表示。左がグレア表面、右がノングレア表面、中央がMOTH EYE表面

 光の波長に近い凹凸があることにより、外光は拡散反射せずに吸収浸透し(実際には界面付近で反射しているが入射方向にはほとんど反射しない)、内側からの出射光にはほとんど影響を与えない。つまり、液晶ディスプレイの表示面にこのMOTH EYE加工を施すと映像表示としての出力光はそのままに出力でき、外光は反射しない表示特性に出来るのだ。

 いわゆる普通のノングレア加工では、外光を拡散反射するので映り込みは低減できるが、内側からの出射光も拡散してしまうため、ボケ味が強くなったり暗部階調が浮き気味になってしまったりする。MOTH EYEは、いわば、ノングレアパネルの映り込み低減性能と、光沢パネルのコントラスト感、フォーカス感を両立させた技術になるのだ。

 ブースでは、60インチ、70インチ、80インチのAQUOSの各サイズモデルの表示面にMOTH EYE加工を施した試作モデルを展示していた。画質はそのままに、ブース周囲の照明などの映り込みが非常に少なくなっていることを確認できる。


MOTH EYEの概念図MOTH EYEを適用した試作モデルを展示。ここの展示セクションは意外に視聴条件がいいのでMOTH EYE効果が分かりづらいかも

 ただ、直観的にMOTH EYEの利点が分かるのは、半分通常の表面状態、もう半分がMOTH EYE加工した表面のショーケースの展示だ。クリスタルグラスと絵画の展示をこのハーフ&ハーフのショーケースに展示しているが、ここを覗き込むと自分の顔がMOTH EYE加工面には映らないことが分かる。そう、展示物が非常に見やすいのだ。あまりにもショーケース内のものが自然に見えるので、MOTH EYE加工側は何もない中空状態なのかと思ってしまうかも知れない。

 シャープ担当者によれば、MOTH EYEの根幹技術の特許は大日本印刷とシャープが押さえており、製造に関しては大日本印刷が行なうような形態になっているとのこと。この技術は映像パネル以外にも応用が利くため、広く商材として展開していくと見られる。シャープ製品への応用としては、まず、AQUOS上位機への採用が予定されている。

左側がMOTH EYE加工の表面、右が通常の表面。カメラを構えた筆者の手が右側にだけ映っているのが分かるだろうか中央にガラスがないようにに見えるが、実はこの部分がMOTH EYE加工の領域。意外に効果は大きいのだ!
IGZO-CACCの構造模式図

 シャープブースのもう一つの目玉は、IGZOの展示セクションだ。IGZOに関しての詳細は発表時の記事に詳しいが、簡単に解説すると、IGZOはIn(インジウム)、Ga(ガリウム)、Zn(亜鉛)により構成される酸化物半導体で、そのIGZO結晶がC軸方向(3軸直交座標系における第3軸。Z軸)に層状に配置された構造となっているためC-Axis Aligned Crystal(CAAC)構造と呼ばれる。

 IGZOのCAAC構造半導体には幾つかの利点があるが、シャープの得意とするディスプレイ技術に結びつけられる利点としては3つある。

 1つは省電力性能。IGZO-CAAC半導体には「オフ抵抗が高い」という特質がある(一般的な液晶のTFT回路で用いられているアモルファスシリコンの約100倍!)。つまり、電流供給をやめてもある一定期間であれば電位を維持できる。これを液晶画素駆動に応用すると、色情報を書き込んだ後、その後、同一表示内容であれば電流供給を一定時間取りやめても画素状態が維持できるということで、省電力に繋がる(ただし、電子ペーパーほどの長時間維持はできない)。


画素書き込みした後、電流オフにしても短時間であれば状態が維持される。ただし、バックライトは付けっぱなしにしておかなければならないのは変わらない。

 また、IGZO-CAACでは、電子移動度がアモルファスシリコンと比較して20~50倍も高いため、TFT回路の小型化と配線の微細化を推し進めることができる。これが2つ目の利点だ。液晶画素駆動の要、「TFT回路の小型化と配線の微細化」の実現は、そのまま画素開口率の向上に繋がり、これは、ひいては高解像度パネルの実現に繋がる。

 3つめの利点は従来のアモルファスシリコンの生産ラインをほぼそのまま利用出来る生産性の高さとなっている。


IGZOの頭文字は各元素の頭文字から来ている電子移動度の高さはロジックや回路を微細化しても性能が維持できることに繋がる
TFT回路の微細化は高開口率に結びつき、ひいては高解像度パネルの実現性に繋がる電流オフ駆動と高開口率特性の相乗効果で省電力性能に優れる、というデモ

 今回のシャープブース、IGZO展示セクションでは、そうしたIGZO技術の利点を応用して生まれた試作ディスプレイ製品の数々を展示していた。

 10.1型タブレット試作機の液晶パネルは、2,560×1,600ドット(299ppi:Pixel Per Inch)解像度、13.3型のタブレット試作機に採用されていたのは2,560×1,440ドット(221ppi)のものであった。ともに、IGZOによるTFT回路の高開口率を優位に活用して構成した高解像度パネルの応用実例だ。この解像度の液晶パネルというと、身近にはPC用の30型くらいになるため、このサイズに収まっていることにビックリさせられる。


10.1型2,560×1,600ドットパネル採用タブレット試作機13.3型2,560×1,440ドットパネル採用タブレット試作機

 32インチの4K2K(3,840×2,160ドット:140ppi)の液晶ディスプレイも凄い解像度だ。高解像度ディスプレイマニアの筆者は、今すぐにでも1台、欲しくなってしまったが、これも試作機であり、直近での発売予定はないとのこと。残念である。

同じ32型でのフルHDと4Kの解像度をゲームグラフィックスで比較32型4Kディスプレイ試作機。これは画面サイズ的にも解像度的にも現実味があるので思わず「欲しい」と思ってしまった32型の4Kは140ppiとなる。30倍ルーペでみるとドットはなんとか見える

 今回のIGZO展示関連で最も驚かされたのは6.1インチの2,560×1,600ドット(498ppi)の液晶ディスプレイだ。表現として適切なのかよく分からないが、もはや印刷レベルと言った風情だ。ジャギーは見えないし、もはやドット落ちしていても判別不能だろう…というレベルの高精細ぶりだ。

6.1インチの2,560×1,600ドットディスプレイ。約500ppi!!約500ppiだと、30倍ルーペで見てもドットがほとんど見えない

 ここまで圧倒的なIGZO液晶の力を見せつけられると、今後、全ての液晶がIGZO液晶になりそうな予感がしてしまいそうだが、短期的には、IGZOがAQUOSのような大画面液晶テレビに採用される可能性は低いとされている。

 というのも、40型オーバーであれば、アモルファスシリコンの従来の液晶パネルで4Kくらいまでは問題なくできることが分かっているし、いくら追加コストが低いというIGZO液晶でも、ラインの改変は必要であり、最初は歩留まりも完璧ではないため、製造コストはそれなりに高く付く。価格競争が激しい大型テレビでは熟れた方式で行く、というのは理解できる選択だ。

 従って、IGZO液晶パネルは中小型サイズがメインターゲットになる。一方、PCディスプレイのボリュームゾーンである20インチから30インチクラスについては、IGZO液晶が高解像度の実現方式として有望だろう。今回の32型/4Kディスプレイなどは、まさにそうした未来を予見したような展示だと言える。

 なお、IGZO液晶も、使用している液晶分子自体はこれまでの液晶パネルのものと変わりが無いため、発色や視野角、液晶応答速度(低残像性能)といった方面の画質的なアドバンテージは特にない。

シャープと言えばCGシリコン液晶もあった! ブースでは5インチ、フルHD解像度(443ppi)のCGシリコン液晶パネルも展示

 「シャープには「CGシリコン液晶」(Continuous Grain Silicon:連続粒界結晶シリコン)もあったはず」と思った読者もいるかも知れない。確かにCGシリコン液晶はアモルファスシリコンの約600倍の電子移動度を持つ。つまり、IGZO液晶の同じ理屈でいけばCGシリコン液晶も高開口率で、すなわち高解像度パネルが実現できることになる。

 実際、その通りで、今回のシャープブースではCGシリコン液晶の高解像度パネルも展示されていた。ただ、CGシリコン液晶は大型パネルの製造が難しいため、小型サイズではIGZOと競合するが中型サイズはIGZOの方が優位になる。IGZOとCGシリコンの棲み分けは自ずとできるはず、というのがシャープの持論だ。


プライベートブースではICC-LEDテレビの最終デザイン試作機が展示されていた。スピーカーユニットは前面にレイアウト。音質にもこだわった設計となるようだ

 シャープブース、最後の見どころは、やはり、ついに登場間近となったICC-LEDテレビだろう。

 アイキューブド研究所が提唱する光クリエーション技術を用いたテレビ製品が、ついに2012年度内に発表されるとのことで、発表前の最終デモが体験できる展示セクションは非常に注目度が高かった。整理券の配布は早い段階で終わってしまうため、来場した際にはまずは整理券を獲得したいところ。

 アイキューブド研究所が提唱する光クリエーション技術とは、処理内容を端的に言ってしまえば、「フルHD→4K」映像処理技術ということになる。この技術にはICCという略称が付けられていて、これはIntegrated Cognitive Creationの略となる。「Cognitive」とは「経験的事実認識に基づいた」というような意味が込められており、ICC技術とは「人が認識する情景空間を復元する」というふうに説明されている。なお、アイキューブド研究所の創設者で、ICC技術を開発したのは、ソニーの映像エンジンの根幹技術である「DRC」技術を開発した元ソニー・近藤 哲二郎氏だ。

 今回は、発表直前の最終デモと言うことで、実際の映画素材などが見られるかと思ったのだが、デモ内容は今年のInternational CESやIFAのものと同じであった。

今回のCEATECでも、公開しているデモ映像は、内製の試験映像のみ。「そろそろ実際の映画ソースでその効果を見てみたい!」と思ったのは筆者だけではあるまい
ICCプロセッサ。現在は製品化に向けて最終パラメータ調整が行われている

 ただ、開発関係者によれば、実際の開発は最終局面を迎えているそうで、現在は、様々な映像素材、映像シーンに対応するためのパラメータ調整やチューニングがICCプロセッサに対して行われている段階だとのことである。

 現在、いわゆる「画調モード」のような感覚で、映像ソースやユーザーの好みに応じて幾つかのICCモードを提供する予定とのことだ。具体的には「映画」「テレビ」といったモードが企画されているという。また、光刺激や色刺激の知覚強度が弱まる傾向にあるシニア層にむけてのモードのようなものも考案中だとのこと。ICCモードはプリセットモードとして用意される他、ユーザーカスタマイズが出来る余地も残してくれるようだ。

厚みはそれなりにある。スタンドはディスプレイ部の可変を全体で支えるような石板風デザインを採用。横から見ると「逆さT字」状に見える

 ICCモードはアップデート対応だとのことで、適当なタイミングでオンライン経由での追加や更新なども計画されているようだ。

 ICC-LEDテレビは、60型の1モデルで展開され、画面サイズバリエーションは設定されない見込みだ。これは80型オーバーの画面サイズでは、4K解像度のドット密度の魅力が薄れてしまうからだという。

 また、ICC-LEDテレビは、AQUOSブランドではなく、新たな別ブランドが付与されるという。3D立体視についての予定はなし。これは、ICC-LEDテレビの映像表示が「視差による立体表現」ではなく、光クリエーションによる臨場感の再現を目指しているため、と説明されている。ただ、他社製の4Kテレビの3D立体視はこぞってパッシブグラス・偏光方式に対応しているので、未対応はスペック比較において不利になる可能性はある。

 価格は未定だが、60インチモデルながらも「80型のAQUOS LC-80GL7よりも高価になる可能性が高い」という。

 あらゆる角度から注目度の高いICC-LEDテレビ。シャープの最終発表が待ち遠しい限りだ。発売は2012年度を予定。ブランド名の公表も含めて、発表自体は年内に行なわれる予定だという。



■ ソニーブース~84型4Kブラビア「KD-84X9000」がお披露目!

ソニーブース

 ソニーブースでの映像関係の展示の主役は、やはり先頃、発表されたばかりの84インチ4K/2Kテレビのブラビア「KD-84X9000」(11月23日発売予定。168万円)だ。

 解像度3,840×2,160ドット。ソニーは液晶パネルメーカーは非公開としているが、LG製のIPSだと言われている。

 画質はデモ映像を会場で見る限りは上々だ。画面サイズが84インチでありながら、LEDバックライトはエッジ式ということで、輝度の均一性を勝手に心配していたのだが、特に問題も見られない。輝度でコントラストを稼ぐ液晶らしい輝度伸びの優れた画質になっていた。

 ブースを横に大きく使ったKD-84X9000のデモは3D立体視、2プレイヤー同時全画面表示、フルHD→4K変換表示、PS3による静止画4Kリアル表示といったオールラウンドなものになっており、ソニーの同機に掛ける強い意気込みが感じられる。


ソニーの映像系展示の目玉はやっぱりこれ。KD-84X9000だ。PlayStation 3のHDMI端子で特別な伝送方式を用いて静止画に限って4K出力を実現する「PlayMemories Studio」のスペシャル版

 筆者が特に感動を覚えたのは、2つ。

 その1つは3D立体視だ。KD-84X9000は、パッシブグラス/偏光方式の3D立体視になっているが、偶数ライン1,080本、奇数ライン1,080本を左右の目に振り分けての表示になるので、偏光方式ながらもフル解像度の3D立体視表示が得られるのだ。しかも、アクティブシャッターグラス方式とは違い、左右の目に左右の目用の映像が同時に表示されるので明滅がない。これは3D映像が明るいというだけでなく運動視差の知覚精度も高くなるので、メガネを掛けた3D立体視としては理想に近い表示になっている。

 ソニーは「パッシブグラス式なのにフルHD“以上”の解像感が得られる」と訴求していた。横解像度が4K化されているため、「4K"1K"」として表示している、というわけだ。

 横方向の4K化の恩恵は正直筆者には分からなかったが、フルHD機のパッシブグラス式3D立体視では気になっていた角度の浅い線のジャギー感が全くないことには感動した。4Kテレビの3D立体視は、フルHDソースであれば、パッシブグラス式でいいのではないか、と強く感じた次第だ。

 ちなみに、3D立体視の表示原理をほぼそのまま応用してプレイヤー1とプレイヤー2の映像を表示するソニーのSimulViewも、KD-84X9000ならば4K"1K"状態になる。

Blu-ray 3Dの3D立体視の本命は4K"1K"×パッシブか?SimulView、プレイヤー1の映像SimulView、プレイヤー2の映像

 もう一つ、KD-84X9000のデモで感動したのはフルHD映像の4K化映像だ。微細凹凸の陰影がくっきりと描き出されるだけでなく、面表現におけるグラデーションもなだらかに、丸いものは一層丸く見えるような、立体的な映像情報の増強が行なわれている印象だ。

 この処理は、4K対応の新映像エンジン「4K X-Reality Pro」によるものと説明されている。図解されたアルゴリズムによれば、フルHD映像を4Kにアップスケールしてから超解像処理を適用するのではなく、フルHD映像に対して超解像処理をして、超解像化されたフルHD映像をアップスケールしているという。

 実際の処理は、複数のフルHDフレームの相関から超解像処理を行ない、これを4Kにアップスケールする段階で陰影増強や階調強調処理をしていると、担当者は説明していた。

フルHD→4K化デモンストレーションフルHD映像4K化された映像のほぼ同一箇所。こちらは動画のワンシーン。動画でもここまで超解像化されている
84インチの4Kパネルの画素70インチのフルHDパネルの画素

■ 東芝ブース~本邦初公開の4K版「AGNI'S PHILOSOPHY」を見よ!

東芝ブース

 東芝ブースの目玉は、2013年初旬発売予定の84インチの4Kレグザの試作モデルの展示になる。

 84インチの4Kパネルは、実はソニーのブラビアKD-84X9000と同じLG製のIPS液晶パネルになる。パッシブグラス・偏光方式による3D立体視対応も検討しているという。

 同一パネルの4Kテレビということで、熾烈な直接対決となるわけだが、画質面での大きな訴求ポイントは、東芝は今回でフルHD映像の4K化処理が“第2世代”に進化したという部分になる。


4Kテレビを想定して新開発された「レグザエンジンCEVO 4K」

 何が"第2世代"なのかといえば、それは新開発の映像エンジン「レグザエンジンCEVO 4K」のことを指している。なお、この新映像エンジンの新フィーチャーとして強く訴求されているのは「4K微細テクスチャ復元」と「4K輝き復元」の2つだ。

 「4K微細テクスチャ復元」は、テクスチャ表現における輝度変移を抽出し、これを選択的に先鋭化するものだ。「4K輝き復元」はハイライト部分の先鋭化処理に相当し、図解を見た感じでは、その復元には線形処理ではなく、高次曲線を用いているようだ。プロシージャル的なアプローチではあるが「ハイライト部分の先鋭化」という発想は、シャープのICCとよく似ている。

 ブースではフルHDのブルーレイ映像の4K化デモとして、画質評価ソフトとしては定番の「ダークナイト」がサンプルとして上映されていた。

ネイティブ4K映像84インチの4Kレグザの画素拡大写真。ややピンぼけ気味だが、ソニーのKD-84X9000と画素は同一形状だった
次世代ファイナルファンタジーコンセプト映像「AGNI'S PHILOSOPHY」の4Kリアル解像度版。これはリアルタイムレンダリングによる4K-CG作品で、プリレンダーではない。次世代ゲームグラフィックスはこのレベルになる…としたら4Kテレビも欲しくなるのでは?

 注目は、本邦初公開の次世代ファイナルファンタジーコンセプト映像「AGNI'S PHILOSOPHY」の4Kリアル解像度版の上映だ。

 同作はスクウェアエニックスの新世代ゲームエンジン「Luminous Studio」を用いたリアルタイムレンダリング技術デモであり、今回の4Kレグザのために改めてレンダリングしなおされたバージョンになる。ブースでの上映は4Kビデオストリーム再生になっているが、もともとの映像はハイエンドPC向けGPUを用いて実際にリアルタイムレンダリングを行なったものである。

 ドイツで開催されたIFAで初公開されたが、日本では東京ゲームショウでも公開されなかったレアコンテンツなので必見だ。主人公キャラクタの少女AGNIは一体だけで40万ポリゴン。1フレームあたりの最大ポリゴン数はなんと1,000万ポリゴン。これは現在のPS3クラスのゲームグラフィックスの10倍のジオメトリ量に相当する。

 「次世代ゲーム機のグラフィックスはこのくらいになる」という夢を抱いてみると一層楽しめるはずだ。なお、レンダリングに用いられているリアルタイムCG技術については、筆者のGAME Watchでの連載記事を参考にしていただきたい。


第2世代4K REGZAは、HDMI接続による3,840×2,160ドットの30Hzに対応する

 それと、今回の84インチ4Kレグザに代表される東芝の第2世代4Kレグザでは、3,840×2,160ドットの30HzのHDMI入力の対応を表明している。つまり、特殊なインターフェースボックスを用いずとも、PCと直接、HDMIケーブルで4K接続ができるということだ。ブースでは、未発売のハイエンドDynabookと55型の4K REGZAとの接続デモも公開されている。

 実は、AMD、NVIDIAなどの最新DirectX11.1世代GPUは既に4K出力に対応しており、むしろ対応ディスプレイ機器(テレビ)の登場待ちとなっていた。映画ソフトやテレビ放送の4Kコンテンツの登場時期は見えていなくても、PCゲーミングではいち早く4K-READY状態なのである。



■ パナソニックブース~20インチ4K液晶ディスプレイと145インチの8K4Kプラズマ

 パナソニックブースの映像機器系の目玉は、今年のInternational CESでも公開された20インチの4K液晶パネルのデモと、ドイツのIFAで公開された145インチの8K4Kプラズマディスプレイのデモだ。

 20インチの4K液晶ディスプレイは、ドットピッチ216ppiのIPSα液晶パネルを採用したものになる。CESで公開されていたものと同一のものだが、デモの内容を改め、ユーザーが選んだ国の情報を、高精細地図、高密度文字情報、4Kリアル解像度映像などで見せてくれるという内容になっていた。

 地図はぱっと見、ただ潰れて見えているだけのようだが、表示面に顔を近づけると、細い路地にも極小の文字で地名が書き込まれているのがわかり、その高密度な情報量に驚かされる。

20インチの4K液晶ディスプレイの活用デモ

 シャープブースで200ppi~500ppiクラスの高解像度パネルが展示されているので、高解像感という意味では驚きは少ないかもしれないが、こちらのデモの方が、4K活用のリアリティは感じられる。中型小型サイズの高解像度液晶パネルの画質の差をパナソニックブースとシャープブースとで比較して鑑賞すると楽しいかもしれない。

145型の8K4Kプラズマディスプレイ

 145型の8K4Kプラズマディスプレイは、その大きさに圧倒されるが、ドットピッチ的には60ppi程度なので、先ほどの20インチ4K液晶パネルやシャープのIGZO液晶パネルと比較すると大した値に感じられないかも知れない。

 しかし、60ppiはプラズマディスプレイとしては高精細なパネルになる。ドットピッチ的には現行のフルHDプラズマテレビのフルHD/42型モデル(50ppi程度)よりも高精細なのだ。また、この高精細画質が145型という巨大な1枚パネルで表示できている、という事実にも改めて驚かされる。

 先行きが不安視されるプラズマディスプレイだが、コストに遠慮さえしなければ、このような超大型の1枚パネルの製造は、やはりプラズマの方が優位ではある。今後、プラズマが生き残る道は、このような超大画面ディスプレイという方向性なのかもしれない。



■ 三菱電機~「LASERVUE」液晶テレビなど

赤色レーザー×シアン色LEDをバックライトに用いたLASERVUE Panel採用の「LCD-55LSR3」は既発売の製品だが、来場者の注目を集めていた

 三菱電機ブースにおける映像機器関連の展示は、既発売製品が中心だったが、シアン色LEDバックライトと赤色レーザー光源を組み合わせたハイブリッドバックライトシステムを採用した「LASERVUE Panel」液晶テレビ「LCD-55LSR3」は結構な人気を集めていた。

 三菱電機らしい記憶色再現志向の画作りと、鮮烈な赤の発色は、やはり人目を引くようだ。

 このLASERVUE PANELだが、シアン色バックライトシステムは左右のサイドエッジに実装されており、8エリア×2(左右)=16個の16エリア駆動が行なわれている。

 では、赤色レーザー光源はどこにあるかと言えば、実は、ディスプレイ部の両サイドエッジ側ではなく、ベゼルエッジよりもかなり内側(位置的には液晶パネルの裏側)に実装されている。そこからエッジに向けて赤色レーザー光は照射され、エッジ部に実装された拡散板で赤色光は拡散光となり、シアン色LEDバックライトシステムと混合されるのだ。なお、赤色レーザー光源は前述の1エリアにつき2個実装されており、総計で32個の赤色レーザー光源が実装されているという。

HEVCデコーダのブロックダイアグラム

 このLASERVUEテレビの裏側でひっそりと行なわれているHEVCのデモも、三菱電機ブースの映像系展示の見どころの1つとなっている。

 HEVCは、High Efficiency Video Codingの略で次世代MPEG技術として研究開発が進められているコーデックだ。HEVCは、ITU-T(国際電気通信連合電気通信標準化部門)では「H.265」、ISO(国際標準化機構)では「MPEG-H PART2」と呼ばれているもので、同ビットレート時にMPEG-4 AVC(H.264)の2倍の圧縮率を目標として開発されている。

 ブースでは、16コアCPU搭載、NVIDIAのFERMIコアGPU搭載のTESLAボードを搭載したワークステーションを用い、GPGPU支援でHEVCをリアルタイムデコードするデモを実演している。GPGPUは、ブロック歪み除去を初めとしたループフィルタなどを行なう部分で活用されているとのこと。


HEVCリアルタイムデコーダの実演デモ

■ 終わりに~4Kブームの到来。しかし手近な4Kコンテンツは?

 今回のCEATECにおけるテレビ、映像機器、ディスプレイ機器の展示を見た感じでは、3D立体視ブームはひとまずの落ち着きを見せ、代わりに一気に、4Kを初めとした高解像度パネルブームが到来した手応えがある。

 ただ、3D立体視の時と同じで、4Kコンテンツは圧倒的に不足しており、当面はフルHD映像を4K化がコンテンツの主役となる。4Kは、テレビに新しい価値をもたらすための有効な手段となるのだろうか。

(2012年 10月 4日)

[Reported by トライゼット西川善司]

西川善司
大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちらこちら。近著には映像機器の仕組みや原理を解説した「図解 次世代ディスプレイがわかる」(技術評論社:ISBN:978-4774136769)がある。