西川善司の大画面☆マニア

第211回

【CES】液晶が自発光に見える? ソニーBMDの脅威の高画質

有機ELに肉薄? 薄型でHDRの新技術も

 ラスベガスでCES 2016が開幕。今年は日本の映像機器関連メーカーではシャープと東芝がブース出展を行なっていないこともあり、日本勢のパワーが幾分落ちていることが否めない。だがその分、ソニーやパナソニックが気を吐いている。

液晶テレビバックライト技術である「Backlight Master Drive」に注目!

 本稿では、ソニーブースで出展されていた映像機器関連の新技術についてまとめていくことにしたい。

液晶が自発光みたい!? ソニー「Backlight Master Drive」の秘密

 ソニーブースにおける先進映像技術関連での最大の注目株は、液晶テレビのためのバックライト技術である「Backlight Master Drive」(BMD)だろう。

 基本的には、BRAVIAで採用されている白色LEDを使った直下型バックライトシステムの延長線上の技術だが、その白色LEDの配置粒度を細かくし、総白色LEDの個数を各段に増やしたものになっている。

 公称スペックは非公開だが、エリア駆動の際のブロック数は「1,000分割以上」「Dolby Vision対応のマスターモニター『パルサー』よりも分割数は多い」とのことなので、相当なエリア分割数であると想像できる。

 バックライトシステム自体の実機を見る機会はなかったが、イメージ写真を見た感じでは「ほとんどLEDディスプレイのようなピッチで白色LEDが敷き詰められている」ようだった。これまで民生向けテレビで最大分割数だった東芝CELL REGZAの512分割を、遙かに超えた分割数であることは間違いなさそうだ。

 ブース内の展示では、実際の表示映像と共に、液晶画素を無効化し、直下型バックライトのエリア駆動状態のみを可視化した白黒表示も並べて展示していたのだが、驚かされたのはその白黒表示の方だ。

 一般的な直下型バックライトシステムにおけるこうしたエリア駆動の可視化では、それこそ、モザイク画よりも粗いドット画のような分布になるのが普通なのだが、今回の「Backlight Master Drive」(BMD)では、ややピンぼけ気味の白黒映像そのもののように見えるのだ。

左がバックライトの映像。右が表示映像。この粒度でのバックライト制御が行われているのだ
左右両画像を見比べると、映像中に高輝度部があれば、バックライト側も比較的アグレッシブに高輝度に光らせていることが読み取れる

 つまり、映像の輝度分布を極めて高解像度に制御できているということであり、液晶パネル表示でありながらも、かなり、自発光画素に肉迫した輝度制御ができていることの証なのである。

 担当者の説明によれば、人間の眼球では、角膜に入射した光が水晶体内で拡散したり、眼球内部で迷光現象が起きるために、エリア駆動の分割数をピクセル単位にせずとも、それと同等に近い効果が得られるのだという。今回のBMDの開発にあたっては、実験を繰り返し、「人間の視覚特性上、ピクセル単位のエリア駆動とほぼ同等といえる落とし所」を導出し、それが今回の成果物になっているのだそうだ。

 ブースで見る事が出来た映像は2つ。一つは「ラスベガスの街の夜景」シーンで、もう1つはジェイミー・フォックス主演の「アニー」のヘリコプターで移動するシーンだ。

 ラスベガスの夜景シーンは、漆黒の空の沈み込みはほとんど有機ELやプラズマと同等。漆黒の空に浮かぶ色鮮やかなネオンサインが被るような明暗差が激しい表現であっても明部が暗部に滲み出ることはなく、極めて鮮烈なコントラスト表現が実現出来ていた。

 アニーのシーンでは、やや暗めのヘリの窓から見える屋外情景や、水面に映り込む陽光の照り返し表現などが、現実の情景のようにまぶしく見えてリアルだ。

 それとネオンサインや太陽、その他の照明器具などの自発光オブジェクトの表現が、本当に輝いて見えるのもこのデモ機の最大の特徴のように思える。

こういうネオンサインの見え方は白色有機画素×カラーフィルタのLG式有機ELテレビよりもリアル。高輝度有彩色の色がBMD液晶の方が各段にリアルに見えるのである

 エリア駆動については、たしかに視覚上はほとんどピクセル単位で自発光しているとしか思えない制御になっている。信じられないかも知れないが漆黒部は有機ELとほぼ同等レベル。これはソニー側の実測でもほぼそれに近い値になっているそうだ。

 そして驚くべきは、高輝度の有彩色の見え方だ。白色有機EL画素にカラーフィルタを組み合わせたLG式の有機ELテレビよりも、色味が豊かなのだ。あるいは、高輝度の色表現でも色味が白に振れず、彩度が維持される……と言い換えられるかもしれないが、いずれにせよ「有機ELに肉迫した画質」といっていいレベルであった。

 ソニー側の発表によれば、今回公開された「Backlight Master Drive」技術採用機の画面サイズは85型で、最大輝度(ピーク輝度)は4,000nit(カンデラ)というから相当なものだ。現在、ハイダイナミックレンジ対応を謳う4Kテレビ製品群の最大輝度が約1,000nitくらいなので、今回のデモ機は破格の明るさということになる。

 ソニーによれば「今回の試作機は、LEDの個数こそ従来のBRAVIAと比較すれば圧倒的に多いが、ディスプレイ部の厚みは、従来BRAVIAと同等で、消費電力や発熱量もそれほど従来機から極端に上がるわけではない」とのこと。

 実際に厚みを観察したところ15cm前後といったところだった。最近のモデルと比較すれば厚みはある方だが、冷却システムは従来のテレビ製品と同じパッシブ方式のヒートシンクのみで、電動ファンなどは採用していないとのこと。

 そして、今回の展示はあくまで参考出品ではあるが、近未来的には製品への採用を睨んで開発したものになる、とも明言していた。

「STACKS」の文字に注目。LEDバックライト側の表示もこれが読み取れるほど、BMDは粒度の細かいLEDレイアウトになっているのである

 同画面サイズの直下型バックライトシステムよりもLEDの個数が多くなるため、価格もそれなりに高価になると思われる。しかし、HDRコンテンツを理想に近い形で表示するには、この「Backlight Master Drive」は最適解という気がする。製品化の時を首を長くして待つことにしたい。

新BRAVIA「X93D」に採用された「Slim Backlight Drive」とは?

 今春夏モデルとして見込まれている新BRAVIA「X93D」は、直下型ではなくエッジバックライトシステムを採用しながらも、ハイダイナミックレンジ(HDR)対応を謳う4Kテレビ製品である。

BRAVIA X93Dシリーズ
ディスプレイ部は意外にも薄い

 HDR表示を行なうためには、前出のBMDほどの粒度での制御は難しいとしても、映像の明暗分布に対応した輝度分布でバックライトを光らせることが出来るエリア駆動技術が必要不可欠と言われる。

 液晶パネルの左右、もしくは上下にのみバックライトをあしらったエッジバックライトシステムでは、短冊単位のエリア駆動は行なえても、平面上の任意の独立エリアだけを光らせるような制御はできないというのが常識であった。

 しかし、ソニーが新開発した「Slim Backlight Drive」(SBD)は、二辺にのみあしらったエッジバックライトシステムで直下型バックライトシステムに近い制御を実現するというのだ。

 その原理についての解説や図解はなし。ソニー関係者によれば、今はまだその仕組みは明かせないのだという。

 当初は上下左右の4辺エッジバックライトシステムを想像していたのだが、担当者からは「2辺エッジバックライトシステムであることは断言出来る」と言われてしまったので謎は深まるばかりである。

「Slim Backlight Drive」(SBD)の動作イメージ図

 筆者は、バックライトから伸びる導光板(導光棒?)を対辺側のバックライトには接続させないようにし、これを左右(または上下)互い違いにこの導光板を走らせるような配置を想像した。なお、あるソニーではないテレビメーカーの技術者は、「導光板を二層構造にするパターンもあり得るのでは?」と述べていたが、果たして…。

「HOTELの文字がHDR表現で明るく見える」ことを示すと共に「右側の漆黒の空が、ちゃんと漆黒である」こととことを見せるための映像。HOTELの看板周辺の空は若干光が漏れている感じはあるが、しかし、そこからちょっと離れれば、漆黒の空が表現できている

 実際の映像を見てみたが、たしかに、従来のバックライトと比較して、暗がりの背景に明部の存在が局所的にあるような映像でも、その明部周囲の暗がりへの光漏れは少なく見える。

下が従来のエッジバックライトシステム採用機。上が「Slim Backlight Drive」(SBD)採用機。黒の沈み込みは写真でも違いが分かる
北米のBRAVIAは、今でもアナログ入力端子が充実している

 直下型バックライトシステムには及ばないまでも、エリア駆動らしいエリア駆動はたしかに実現出来ていることを実感できる。

 基本はエッジバックライトシステムなワケなので、コスト的には、直下型バックライトシステムよりはかなり安くできるはずで、費用対効果は大きい技術といえそうだ。改めて実機がリリースされてからじっくりと評価したい。

レーザー+4Kの「VPL-VW5000ES」が展示

 ソニーブースでは、'15年10月に発表されたVPL-VW5000ESの実機、実動展示も行なっていた。

 VPL-VW5000ESは、VPL型番と言うことからも分かるようにホームシアタープロジェクター製品なのだが、「北米地域の富裕層向け」というコンセプトで、北米で3月にリリースされるものになる。価格は日本円にして約700万円。

VP-VW5000ES。ボディはビジネス向けの「VPL-GTZ270/280」と共用

 映像パネルはソニーの4K(4,096×2,160ピクセル)解像度反射型液晶パネルSXRD。かなりの高額商品なので、てっきりSRX型番の映画/業務用シアタープロジェクタに採用されている1.48型の大判パネルかと思いきや、ホームシアター機のVPL-VW500/1000系に採用されている0.74型のものとのこと。

 ボディサイズは550×750×228mm(幅×奥行き×高さ)と大柄で、重量は約40kgとヘビー級だ。

 投射レンズも大口径のものを採用。標準レンズの他にオプションで短焦点レンズも選択可能だ。輝度は5,000ルーメン。この圧倒的な輝度性能は高出力なレーザー光源を採用していることから実現されると説明されている。

接続端子パネル部。HDMI入力はHDMI2.0a対応で、HDR対応、BT2020広色域対応。また、YUV=444の4K/60pにも対応する

 レーザー光源は青色半導体レーザーを採用。この青色レーザー光を蛍光体に照射して黄色の光に波長を変換し、これに純度の高い青をさらにミックスして白色光を作り出し、ここからRGB(赤緑青)の純色を取り出してフルカラーを再現する。この仕組み自体は、エプソンのレーザープロジェクタ「EH-LS10000」の光源の仕組みとそっくりである。なお、ランプ寿命は2万時間とのこと。

 5,000ルーメンという一般家庭のリビング等ではオーバースペック気味な高輝度性能は、200インチ以上の投射を想定しているため。北米の富裕層のホームシアターは200インチ以上のところが多いそうで、それだけの大画面では、このくらいの輝度がないと不十分と言うことらしい。

 さて、純度の高いレーザー光から白色光を作り出していることから、色域カバー率はDCI-P3で100%を達成。

 残念ながら、本機の発売は日本では予定されていなそう。ただ、中長期的に、このレーザー光源4Kプロジェクタのコンセプトは、現在のVPL-VW500系くらいの価格帯に降りてくることはあり得ると、ソニー関係者は述べていた。その日が来ることを楽しみに待ちたい。

完全暗室ではない薄明るい場所で200インチで投影してこの映像。さすが5,000ルーメン(×2)だ

 ブースでは、このVPL-VW5000ESを贅沢にも2台を使って輝度10,000ルーメンによる200インチの4K投射を実践していた。

 「1台でも5,000ルーメンで相当明るいはずなのに、なぜ2台による投射を行なったのか」とソニー関係者に聞いたところ、展示ブース内は遮光ができず、そこそこ明るい空間で200インチ投射をするとなると、VPL-VW5000ESを2台で投射した方が来場者に強いインパクトを与えられるはず、と考えたという。

ブースでの展示はVPL-VW50000ESの2基がけによるダブル投射

SXRDプロジェクタがポータブルサイズに!?

 昨年のCESでも展示された小型のプロジェクタが、今年はボディ形状をリファインされて再出展されていた。

2016年モデルでは凹みを排除したデザインになった
【参考】昨年の試作機

 Portable Ultra Short Throw Projectorと命名されたこの小型プロジェクタ「MP-CL1」は、大きさが1辺、約10cmの立方体形状。今年のモデルでは天板部を平坦にした上で投射部をあしらっている。

 輝度スペックは約100ルーメン。光源にはRGBレーザーを採用するが、レーザー光は内部で拡散され面光源(平行光源)へと変換されて、映像パネルへと照射される。映像パネル自体はソニーの反射型液晶パネルのSXRDだ。解像度は1,366×768ピクセルの720p相当。

 投射画面サイズは22インチから80インチ。フォーカス調整や台形補正までを自動で行なう機構を備えていることから、設置自体が相当にカジュアルに行なえる。

超短焦点投射性能が特徴。壁に密着させての設置で22インチ程度の画面サイズ。そこから離せば離すほど大画面が得られるが投射映像はその分暗くなる。

 スピーカーはモノラルだが、標準装備。外部スピーカー無しで、本機単体で映像と音声が楽しめることになる。AC電源を使用することもできるが、内蔵バッテリーを使っての投射にも対応。庭先でのBBQパーティや、その他の屋外イベントでの利用にも便利に使えることだろう。

子供の室内キャンプを想定した使用例
ベッドルームでの使用事例
天井に設置した使用事例

 映像はHDMI経由の伝送にも対応するが、Miracast(Wi-Fi Direct)経由での無線伝送にも対応する。AV機器からスマホまで幅広い機器との接続が期待できそうである。

 本機は、テレビのような定位置設置を前提としない、「使いたいときに使う」「使いたい人が使う」というカジュアルな映像視聴を実践するための製品で、最高画質を探求してきたこれまでのSXRDプロジェクタの在り方とは異なっている点が面白い。

 個人的には100ルーメン程度では、一般家庭の照明条件下では使うのが難しい気もしているが、製品コンセプトはユニークであり、未来を感じせる。発売は夏頃を予定。価格は未定だ。昨年のCESでは「2015年内の発売を目標」としながらも実現できなかったので、今年はぜひ実際に楽しめるように期待してほしい。

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちら