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ロンドン“が”爆走!? 8K撮りのびっくり映画「移動都市」がマッドだった件

平成最後のトンデモ超大作「移動都市/モータル・エンジン」を君は体感したか?
(C)Universal Pictures

3月下旬、劇場で久しぶりにトンデモナイ珍作に出逢った。先月から全国で絶賛公開中の映画「移動都市/モータル・エンジン」(以下「モータル」)である。

本作の触れ込みは、このようなものだった……

イギリス作家フィリップ・リーヴのファンタジー小説「移動都市」を『ロード・オブ・ザ・リング』『ホビット』3部作で監督/脚本/製作を手掛け、その名を世界に知らしめたピーター・ジャクソンが映画化。
“都市が移動し、都市を喰う世界”を舞台に、衝撃的で新しく、壮大な物語を圧倒的な映像迫力で描き出す冒険ファンタジー超大作!
ロンドンを滅ぼせ、喰われる前に。移動都市が支配する世界へようこそ。

劇場用ポスター。B級臭漂うが、個人的には好きです

作品関係者には大変申し訳ないが……この映画。日本ではほとんど話題にならなかったし、海外での記録的な“大爆死”ぶりを耳にしていたので、正直「ビデオでいいや」と思っていたのだが、全編8Kカメラ撮影(RED WEAPON HELIUM 8K)していたことが判明。大画面で見ないわけにもいかず、半分博打気分で劇場に足を運んだ。

しかし、である。「モータル」は、鑑賞前の予想の斜め上に振り切れた、“マッド”で素敵なトンデモエンタメ作品だったのだ。

“埼玉狩り”にも遭遇せず、無事に日比谷で鑑賞。草ではなくポテトも美味しくいただきました

ハリー・ポッターもビックリなロンドン描写。冒頭はまるで「マッドマックス」

物語の舞台は、今から1,600年後の西暦3718年頃のヨーロッパ。

2118年に勃発した、量子エネルギー兵器・メドゥーサ(MED“USA”)による最終戦争で、地球の地殻は炸裂し、文明は崩壊。わずかに生き延びた人類達はノマド(遊牧民)となり、車輪とエンジンを備えたトランスフォーム&移動式住居(もしくは小都市)での生活を余儀なくされている。

そんな細々と暮らすノマド民にとって、最も恐れる事態が“ロンドンに捕食されること”だ。

この世界におけるロンドンは、市民(主に上流階級)たちのハイソな暮らしを維持するために、小都市から資源を収奪し、かつ捕らえた人々を奴隷にする“プレデター都市”として描かれており、外形寸法が約1,500×2,500×860m(幅×奥行き×高さ)という超ファットボディのまま、時速約160kmで進撃する危険極まりない存在なのだ。

ハリー・ポッターもビックリの巨大爆走都市「ロンドン」。鋼鉄製の開閉ドアにユニオンジャックをペイント。そしてキャタピラ(脚部)の上には、トラファルガー広場の可愛いライオンが鎮座!!
(C)Universal Pictures
ロンドンの博物館では“古代アメリカの神々”としてミニオンズが収蔵、展示されている
(C)Universal Pictures

映画「モータル」は、主人公の少女・へスターが乗り込んだ移動式住居(採掘都市)が、このロンドンに追いかけられるシーンから始まる。

移動式住居と書くと“ハウルの動く城”を思い浮かべる方がいるかもしれないが、本作はそんなカワイイものではない。ロンドンの収奪シーンはさながら、映画「マッドマックス 怒りのデス・ロード」ばりに荒々しく、資源のために都市を捕食すると言うよりも、ほとんど壊しにかかっている。

やりとりを要約すると、このような感じだ。

ヴァレンタイン 「市長! あの採掘都市を捕獲すれば、レンガ・石炭・鉄・塩75トンが手に入ります!」
ロンドン市長  「わずか一週間分の食料か…。仕方が無い! 捕獲しろ!!」
ロンドン市民  「わーい! 久々の獲物だー! 狩れ狩れ~!!」

開始わずか5分。観客の心の準備が整わぬまま、もう目の前は、ヤンチャな修羅の国である。

ロンドンに追われる採掘都市(写真右)
(C)Universal Pictures
本作におけるラスボス“ヴァレンタイン”(ヒューゴ・ウィーヴィング)。目的のためなら手段を選ばない、マッドで冷徹な考古学者
(C)Universal Pictures

「こんな巨大都市を爆走させられる動力源や技術力があるなら、他にもっと使い道があるだろ」という至極真っ当な意見や反論など、本作には一切通用しない。観客の脳の回路をのっけから麻痺させた状態で、エンディングまで爆走するのだ。

捕食された採掘都市
(C)Universal Pictures
ロンドン通過後の地面に残されるのは、ロンドンから排出された廃棄物と巨大なキャタピラ痕。ロンドンは樹木も容赦なく踏み潰すため、更に荒れた大地と化してしまう
(C)Universal Pictures

壊れているのはロンドンだけじゃない。登場人物もキメている

本作は、トム・クルーズのような、誰もが知っているハリウッド俳優/女優は全く出てこないのもポイントだ。そのため、物語に関係する主要キャラは華やかさに欠けるが、みなマッド指数はすこぶる高い。

こちらが本作の主人公へスター(ヘラ・ヒルマー)。母を殺し、自身の顔にも深い傷を負わせたヴァレンタインへの復讐を誓う孤高の少女。最初はツンツンしているが徐々に……
(C)Universal Pictures
ヘスターと行動を共にすることになる、元ロンドン市民のトム。劇中最もパッとしない男である
(C)Universal Pictures

中でも、レジスタンスの女空賊・アナと、人造人間・シュライクのキマリ具合は、本作のマッドぶりに花を添える重要なキャラクターだ。

話は少し逸れるが、モータルの世界は“移動都市”と“移動しない都市”に2極化している。

移動しない都市(静止都市)は、対ロンドンで共闘する“反移動都市同盟”なるものを組織しており、弱い都市を捕食するロンドンに日々レジスタンス活動を行なっている。そんなレジスタンス活動の中心的人物で、ロンドンから多額の賞金を懸けられているのが、女空賊アナ・ファン(ジヘ)だ。

飛行船の操縦桿を握っているのが女空賊・アナ(写真中央)。必殺技はかかと落とし
(C)Universal Pictures

賞金首にかけられているだけあって、とにかくめっぽう強い。そして「私は二度と誰の所有物にならない。命尽きたときは、私の灰は風に流すことになっているの。精神が自由である限り、死など恐れないわ」などと、時折ちょっと何言ってるか分からない発言をする様も、なかなかにきまっている。

そして何より髪型がスゴい。重力への逆らいぶりは、最初、みやぞんの親戚かと思ったほどだ。サングラスを装着し、ショットガンを撃ちまくる彼女の登場シーンは、中盤の見所の1つになっている。

ショットガンをぶっ放すアナ。髪が直立し過ぎて画面に収まりません!!
(C)Universal Pictures

そして、もう一人のマッドキャラが、主人公へスターを執拗に“ストーキング”するシュライクである。

彼は人間を狩り、殺すことを目的とし、倒れた兵士の体と機械から造られた旧世界の人造人間。本来は記憶や感情が無いはずなのだが、彼の中には人間だった時の記憶がなぜか残っており、母を殺されヴァレンタインから命からがら逃げのびた8歳のへスターを養い、育ての親となる。

「ターミネーター」に出てくるT-800のようなシュライク。外観は強面だが、実は中身はとても繊細なピュアハートの持ち主。趣味はがらくた人形収集とお人形遊び
(C)Universal Pictures

これで話が終われば、とても良い人造人間なのだが、このシュライク。トラウマをかかえる哀れなへスターを“解放”するため「お前の心は壊れている。だからオレと同じ人造人間になろう」と勧誘。しかし結果的に拒否られてしまい、へスターを捕まえて人造人間にすべく、彼女を執拗にストーキングするようになってしまう。

約束を反故にされたシュライクは、怒り心頭!! ヘスターへの愛情と憎悪が入り交じった、最恐こじらせサイコ人造人間と化す!!
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しかしシュライクのようなストーキング行為は、現実世界でもダメ! ゼッタイ! である。そんなわけで、彼はクライマックス突入前に、あっけなくも切ないハプニングに遭遇する。彼のつぶらな瞳(緑色のLEDライト)を捉えたシーンは、涙なくしては見られないはずだ。

ヴァレンタインもいい味を出しているが、残念ながらシュライクには及ばない
(C)Universal Pictures

最後に残るのは移動都市ロンドンか静止都市シャングオか

本作のクライマックスは、古代兵器メデューサを手にした移動都市ロンドンと、高さ1,800mの巨大防壁を築き平和な生活を営む静止都市シャングオの攻防戦となる。これにロンドンの進撃を空から阻もうと挑む空賊アナ率いる同盟艦隊が参戦。そして復讐を誓うヘスターとヴァレンタインの一騎打ちが入り乱れ、地上と空中で、互いの存亡をかけた激しい闘いが繰り広げられる。

反移動都市同盟の面々
(C)Universal Pictures

最後は何でもあり! とスタッフが思ったのかどうかは分からないが、クライマックスは人気映画のエッセンスをふんだんに盛り込んだ、ボーダーレスな仕上がりだ。

教会の天井から突き出た古代兵器メデューサは「ロード・オブ・ザ・リング」のサウロンのようだし、同盟艦隊が繰り広げる空中戦はまるで「スター・ウォーズ」。またそうしたビジュアル要素だけでなく、“ルーク、私がお前の父親だ”という展開までオマージュしてくるとは……まさにびっくり、モータルである。

果たして、主人公ヘスターは母殺しへの復讐を果たせたのか。ロンドンは? シャングオは? そして、女みやぞんはどうなったのか……?

劇中に登場する空中都市エアヘイヴン。冒険家だったパズーの父が、竜の巣の切れ目から撮影したラピュタではない
(C)Universal Pictures
女空賊アナの赤い飛行艇ジェニー・ハニヴァー号
(C)Universal Pictures

ド派手なビビッドカラー。8Kカメラ撮りで高解像感はピカイチ

冒頭でも触れたように、本作の撮影にはREDのデジタルシネマカメラ「WEAPON HELIUM 8K」が使われている。最終マスターは4Kのようだが、それでも、8K/8,192×4,320ドットの大判センサーによる高解像感は十二分に体感できる。エッジを効かせた硬めの精細感も、だいぶ派手目の色調も、パンクでマッドな世界観を表現するにはピッタリな印象だ。

撮影中の風景
(C)Universal Pictures

ここまで盛り上げておきながら、最後に残念なお知らせがある。

映画「移動都市/モータル・エンジン」は、公開初日が3月1日、しかも筆者の遅筆も相まって、すでに上映館が全国でも30カ所程度となってしまった。願わくば、平成最後の思い出作りとして大画面でご体感いただきたいが「近くに上映館が無い」「もっと普通に面白い映画が観たい」と言う方は、是非パッケージ、もしくは配信化された時にでも、ご賞味いただきたい。

そして鑑賞時は、なるべく寛大かつ気楽な気持ちで臨んでいただきたい。少なくともマジメに観てはダメ! 絶対! だ。

『移動都市/モータル・エンジン』日本版本予告映像

映画「移動都市/モータル・エンジン」

キャスト
ヘスター・ショウ : ヘラ・ヒルマー(石川由依)
トム・ナッツワーシー : ロバート・シーアン(島﨑信長)
サディアス・ヴァレンタイン : ヒューゴ・ウィーヴィング(大塚芳忠)
アナ・ファン : ジヘ(朴ろ美)
ベヴィス・ポッド : ローナン・ラフテリー(下野紘)
キャサリン・ヴァレンタイン : レイラ・ジョージ(嶋村侑)
マグナス・クローム : パトリック・マラハイド(銀河万丈)
シュライク : スティーヴン・ラング(大塚明夫)

スタッフ
監督 : クリスチャン・リヴァーズ
脚本 : フラン・ウォルシュ、フィリッパ・ボウエン、ピーター・ジャクソン
原作 : フィリップ・リーヴ著 / 安野玲 訳「移動都市」(創元SF文庫刊)
製作 : ゼイン・ワイナー、アマンダ・ウォーカー、デボラ・フォート、フラン・ウォルシュ、ピーター・ジャクソン
製作総指揮 : フィリッパ・ボウエン、ケン・カミンズ
撮影監督 : サイモン・ラビー NZCS
プロダクション・デザイン : ダン・ヘナ
編集 : ジョンノ・ウッドフォード=ロビンソン
衣装デザイン : ボブ・バック
音楽 : トム・ホルケンボルフ

阿部邦弘