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映画は24コマで観よう! トム様に応え、テレビで映画を観るための設定を4社に聞く
2019年1月18日 08:00
「テレビで映画を見る時は、テレビの動き補間機能をオフにしよう」(トム・クルーズ)
I’m taking a quick break from filming to tell you the best way to watch Mission: Impossible Fallout (or any movie you love) at home.pic.twitter.com/oW2eTm1IUA
— Tom Cruise (@TomCruise)2018年12月4日
12月、トム・クルーズが「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」の配信・パッケージ発売にあわせて発表したビデオコメントが話題を集めた。その内容は、「映画を見るならばテレビの動き補間機能(Motion Smoothing)」をオフにしよう、というもの。
通常、映画は1秒あたり24コマの画で構成され、テレビは基本的毎秒60コマで表示する。また最近のテレビは、動きを滑らかに表示したり、残像感を抑えるため、様々な処理が入っている。
トム・クルーズのコメントは、こうした機能への違和感を表明したものだ。
その理由は映画らしい動きではないこと、そして元の映像とは違う、「ソープオペラ(安っぽいドラマ)っぽい映像になる」と指摘している。
昨夏には、クリストファー・ノーラン監督や、ポール・トーマス・アンダーソン監督らが、メーカーにこうした動き補間を止めるよう呼び掛けたと報道されている。このように、映画製作者からテレビにおける動き補間を問題視する声が続出している。
動き補間・フレーム補間とはなにか
では、この動き補間とはどういうものか。
通常の映画は、1秒あたり24枚の24フレーム/秒で構成される。それに対して、テレビ側の表示はおおむね60フレーム/秒となる。その表示のためにテレビ側には多くの工夫が行なわれている。
24コマの映像を60コマ化するには、いわゆる2-3プルダウンと呼ばれる手法をとる。また、テレビやディスプレイによっては、48Hzや96Hzなど、24Hzの倍数での表示が行なえるものもある。
加えて、ミドルクラス以上のテレビの多くでは、「倍速駆動」と呼ばれる120Hz駆動により、60コマの倍、120コマ/秒の表示が可能な機能を有している。こうした製品では、元映像からコマを増やすために、前後フレームから動きを推定し、生成した「補間フレーム」を用いて、滑らかな動きを再現するものが多い。
60コマのテレビ映像では2倍のコマ数になるし、映画の24コマであれば120コマ、元の画像から5倍の枚数になるので滑らかな表示が行なえる。そのため、スポーツ中継の動きなどがスムーズになるなど、メリットは多い。
しかし、この補間フレームは、元の映像に“存在しない”映像を作り出し、より滑らかに見せるというもの。そのため、フレームの生成品質においては、不自然な動きやノイズのように見えてしまう場合もある。ここの補間フレームの作り方や制御もテレビメーカーやデバイスメーカーの長年のノウハウが貯めこまれている。
そして、トム・クルーズらが問題にしているのもこの補間フレームによる動き補間(Motion Smoothing)だ。
ざっくりいうと、スームズすぎる動きは、映画製作者が意図した表現ではなく、映画的ではない、といった主張だ。
実際、テレビ映像に見慣れている人が、映画の24コマを見ると「カクついて見える」と指摘されることはある。しかし、映画製作者は、基本的に24コマを前提に制作しているため、製作者から見ると滑らかすぎる映像は気持ちが悪い。だから、映画を見る時はこの設定を見直してほしい、というわけだ。
テレビやプロジェクタなどにおける24フレームの問題は、20世紀のDVD時代のさらに前から指摘されており、BD/DVDプレーヤーなどは、24P出力機能を備え、またテレビ側も24フレームの信号をきちんと表示する[映画]モードなどを備えている製品がほとんどだ。
しかし、最近はテレビにおける補間フレームを伴う残像低減技術もより一般的になり、また映像配信サービスなど、映画を家庭で観られる環境はより一層身近になった。そうした状況が、映像制作者側の危機意識を高めているのかもしれない。
確かに、一部のテレビにおいては、かなりアグレッシブにフレーム補間を行ない、映画もすごく滑らかに表示できてしまう機種も存在する。
一方で、大手メーカー製テレビの中上位機種では、概ね120Hzに対応。映画専用の画質モードを備えていたり、より細かな設定が行なえる製品がほとんどだ。例えばフレーム補間の映像生成の強度を選択出来たり、あるいは24Hzの5倍、同じコマを5回繰り返すことで映画らしい動きのまま表示するといった機能など、映画製作者のこだわりに応える機能が数多く搭載されている。
ということで、映像制作者側からの声が高まりつつある現状。テレビメーカー4社に、テレビにおけるフレーム補間や映画モードに関する考え方や、映画鑑賞時の設定方法を聞いた。各社の最新フラッグシップモデルを想定して回答を得ているが、近年の同一メーカー機種であれば多くの製品において応用できるはずだ。
質問は以下の2問
(1)御社テレビの、映画向けの基本的な設定方法を教えてください
(2)映画モードへのこだわりや、フレーム補間の考え方、注意点などをお教えてください
ソニー、シャープ、パナソニック、東芝映像ソリューションの4社から回答を得た。各社からいただいた回答を、ほぼそのまま掲載している。
ソニー
回答の想定機種:BRAVIA Master(A9F/Z9Fシリーズ)
ソニーは、ブラビアMASTER Seriesを代表に、クリエーターの意図をありのままにお届けすることを目指しております。
制作モニターに近い色やコントラストの再現のみならず、フレーム処理にも配慮しております。
MASTER Seriesで採用している「Netflix 画質モード」、「カスタムモード」や「Dolby Vision Dark」といった映画視聴に最適のモードでは、基本的に24Pのテイストを残したフレーム処理がなされております。
具体的には24Pソースはそのまま倍数出力(24Px5=120Hz)し、ソース側ですでに60P変換(2-3 Pull Down)されたソースに対しては自動的にフィルムパターンを検知し、24Pに逆変換の後、倍数出力を行なっています。
なお、Netflix画質モードは、アプリケーションで一度設定して頂いた後、Netflixを立ち上げると常にこのモードになります。また、その他のモードは画質設定モードに変更するだけで楽しんで頂けます。
また、その他の従来モデルにおいても、画質モードを「シネマプロ」にしていただくことにより、同様の効果を得ることが可能です。
シャープ
想定モデル:AQUOS 8K(AX1シリーズ)
(1)基本的な映画向けの設定方法
映画を視聴頂くためのAVモードとして映画モードを用意しております。
当社の以前のモデルは映画モードでも24Pのカタツキを考慮してデジャダー処理を初期設定でONとしておりましたが、2017年モデルより映画視聴時のフイルムの質感を重視してデジャダーOFFを初期値に変更しております。
ですので、一般のお客様は映画視聴時には映画モードを選択頂くだけで、フイルムライクな映像を体感頂けます。
(2)映画モードへのこだわりや、フレーム補間の考え方、注意点
絵作りとしまして、フイルムライクな質感を重視しエンハンス等のエッジ強調及び極度なノイズリダクション処理は行なわず、細線化処理とジャギーリダクション機能により、素直でありながら透明感のある映像をご体感頂けます。
また2KのBDコンテンツや4KのUHD BDコンテンツを8Kにアップスケーリングして表示することでフイルムグレインノイズがまろやかで映画館で視聴頂いている時に近い表現が可能となっております。
さらに、色温度につきましてはD65をベースに設定しておりますが、お客様のお好みでホワイトバランスを微調整できるよう、メニュー上にホワイトバランスのゲイン(高/低)の項目を設け最適化できるようになっております。
パナソニック
想定モデル:有機EL FZ1000シリーズ
(1)映画向けの基本設定
照明を落としたリビングなど、暗室でさながら映画館でみているかのような画質をお楽しみ頂くには、映画制作者の意図を忠実に再現することを意図した、「シネマプロ」モードのデフォルト設定でのご視聴をおすすめ致します。
フレーム補間については、24コマの映画らしい動きの見え方の再現を意図した初期設定にしています。
フレーム補間(メニュー名称「Wスピード」):弱 BD等(24P)・放送(60P)・OTT(24P/60P)共通
Wスピードをオフにした場合、映画制作者の意図に反して過剰なジャダーが目立つなど、映画らしさを損なうケースもあるため、必要最小限の補正を入れています。
(2)映画モードへのこだわりや、フレーム補間の考え方、注意点
ご家庭での本格的な映画視聴体験をご提供するため、「シネマプロ」モードでは“映画制作者の意図を忠実に再現すること”を目指しています。そのため、正確な色や輝度の再現は勿論、ノイズやハローなど元のコンテンツには存在しない情報を極小化することにこだわり続けています。
また、業界でリファレンスとされている有機ELマスターモニターとの厳密な比較やハリウッドのトップカラリストとのコラボレーションを通じ、マスターモニターと同等のレベルの画質が再現できていると考えています。映画業界最大手のポストプロダクションであるDeluxeグループからは、クライアントリファレンスモニターの認定を頂いており、映画制作の現場でもご活用頂いています。
弊社のFZ1000シリーズを通じ、映画制作者が見ているのと同じ映像をご家庭で共有頂き映像に込められた制作者の思いを、是非ご堪能頂きたいと思います。
東芝
想定モデル:有機EL REGZA X920
(1)映画向けの基本設定
1.「映画」モードは、夜のリビングのような外光のない200~100ルクス程度の環境で、映画など作品性の高いコンテンツを視聴するのに適したモードです。
「映画」モードでの「倍速モード」の出荷値は「クリアスムーズ」になっています。「クリアスムーズ」では24Pコンテンツの場合には1枚の原画と4枚の補間フレームが生成されます。
これは200~100ルクス程度の環境下での視覚特性(眼のダイナミックレンジ)に合わせ、画面輝度を比較的明るめに調整した状態で、24Pコンテンツのフィルムジャダーを目立たなくするためです。これにより滑らかな動画が楽しめます。
なお、「倍速モード」を「フィルム」とすることで、映画本来の動きの24コマで楽しむこともできます。
2「映画プロ」モードは、全暗に近い視聴環境で、BDやUHD BDの映画などのコンテンツを視聴するのに適したモードです。
色温度は映画製作の基準の色温度D65としております。
全暗に近い視聴環境での視聴ではフィルムジャダーは目立ちにくいので、「倍速モード」の出荷値は「フィルム」とし、24Pコンテンツの場合には、5枚の原画の繰り返し(5-5フィルムモード)を実施し、映画と同じ24コマのまま視聴できます。
なお、元が24Pのコンテンツを60P映像に変換された放送波で受信したときには、2-3プルダウンした後に24Pコンテンツと同様に5-5フィルム処理を行ない、映画本来の動きに近い表示とします。
(2)映画モードへのこだわりや、フレーム補間の考え方、注意点
レグザの画質思想・哲学として、映画やアニメなど作品性の高いコンテンツに対しては、スタジオのマスターモニターで見る非圧縮マスターの画質をそのまま大画面に引き伸ばしたイメージの画質をリファレンスとしています。
特に「映画プロ」では、製作者の意図に忠実な表現を重視し出荷値ではフレーム補間を行なっておりません。
「映画プロ」の画作りで重視しているポイントは、(1)暗部の階調性、(2)ディテール再現性、(3)自然な色再現と色のつながり、(4)自然な立体感と奥行き感です。
画質決定の際には、特定のコンテンツに偏ることなく、たくさんのBDやUHD-BDのコンテンツで違和感のないように、コントラスト感と階調性、精細感とノイズ感など相反する画質要素をバランスよく再現することに留意しています。
映画視聴用モードで使いこなして欲しい調整項目は以下の通りです。
【SDR 2Kコンテンツ再生時の推奨設定について】
1.BDレコーダーなどの再生機器で2Kを4Kにアップコンバートするのではなく、ぜひ、超解像処理などを駆使したレグザX920のアップコンバート機能で4K映像に変換してご覧いただきたいと考えています。
そのために、再生機器側のHDMI出力解像度設定を、BD再生時は1080P-24Pまたは1080i-60i、DVD再生時は480Pまたは480iとして、オリジナル解像度で入力してください。同時にX920の「色解像度」を「ワイド」としてください(垂直方向の色解像度がアップします)。
2.4Kマスターで製作されたBDやMGVCのBDなど、ノイズが少なく高解像度のコンテンツを視聴する場合には、X920の「コンテンツモード」を「高画質BD」に設定した上で、「ピュアダイレクト」を「オン」していただくと、映像信号回路がフル12bit/オール4:4:4処理となり、微小信号再現性や階調性に優れたベールを1枚剥がしたような映像を再現することができます。
3.「色域設定」をデフォルトの「オート」から「標準」に変更すると、BD製作時の色域であるBT.709となりマスターモニターの色に近づきます。
「オート」もしくは「色域復元」では、BT.709を映画館の色域であるDCI-P3に近づける復元処理が入ります。好みに応じて使い分けてください。なお、アニメでは原画がBT.709で製作されておりますので、「標準」が本来の色に近いおすすめの設定です。
4.「倍速モード」を「映画プロ」のデフォルトの「フィルム」もしくは「オリジナル」(ピュアダイレクト・オン時)から「ハイクリア」にすると、ホールドボケによる動きボケを低減でき映像のキレが向上します。また、同時に階調表現力が2倍となる(パネルへの映像出力振幅が2倍となる)ことで、ディテール再現性や質感がアップし、さらに高画質な映像を再現することができます(ただし、24Pのフィルムソースは2-3プルダウン表示となります)。
5.「映画プロ」のデフォルトのガンマは2.4乗に近い値としています。ヨーロッパ系の映画では2.2乗で視聴した方が作品の意図した映像に近くなる場合が多いので、その場合には「ガンマ調整」を「+4」とすると2.2乗に近い値となります。
【4K/HDRコンテンツ再生時の推奨設定について】
1.HDRコンテンツを再生するHDMI入力は、「機能設定」-「外部入力設定」-「HDMIモード選択」をデフォルトの「通常モード」から「高速信号モード」に切り替えて使用してください。これにより、4K/60P HDRコンテンツの再生が可能となります。
2.「ピュアダイレクト」を「オン」すると、映像信号回路がフル12bit/オール4:4:4処理となり、ベールを1枚剥がしたような、微小信号再現性や階調性に優れた高画質映像を再現することができます。
3.X920ではHDMIの「信号フォーマット詳細表示」機能があり、これを「オン」することで、HDRコンテンツ入力時には編集に使われたマスターディスプレイのピーク輝度や、コンテンツのピーク輝度などの表示ができます。
また、「映像分析情報」表示でも映像の輝度分布やピーク輝度などを確認できます。これらの情報や実際の映像を参考に「HDRブライトネス」や「HDRコントラスト」をデフォルトの「オート」から「手動」にして「00~10」まで設定することで、全体の明るさ感や明部の階調性を調整できます。
テレビの実力を引き出して、映画をさらに魅力的に
各社のコメントからもわかるように、基本的には「映画」系の映像モードにすれば、映画のテイストを損なわずにテレビでの映画表現が行なえるはず。さらに、フィルム風の動き、質感などにこだわりたければ、細かな設定も用意されている。
今回の機種は各社の最上位モデルとなっているが、基本的な考え方はこの数年のモデルであればほぼ同じ。プレーヤーなどのHDMI出力を[24P]を選択しておけば、家庭内で簡単に映画風の表現を再現できるようになるはず。そのうえで、自分好みの設定を見つけてほしい。
もちろん、映画に動き補間を加えて滑らかな表現で見る、というのも悪いことではない。映画製作でも48fpsで撮影されたり、あるいは一部シーンを120fpsで撮影し、滑らかさを表現として活用するクリエイターもいる。必ずしも、24コマだけが映画ではないのだ。映像制作者の意図を知ったうえで、自分の好みを反映できるというのも、個人の趣味ならではの楽しさだ。
また、トム・クルーズのビデオコメントで気になったのは「補間フレーム機能のオフ」を勧めていること。上記のソニーや東芝の例を見てもわかるように、補間フレーム機能(モーションフレーム、倍速モード等)をオフにするよりも、フィルム再現を前提としたモード(フィルム等)を選んだほうが、期待通りの映画風の表現が得られる可能性が高いからだ。
映画をできる限り製作者の意図に沿って再現する、というテーマは、テレビメーカーが最もこだわっている事柄の一つ。ハリウッドの機運が盛り上がってきたことをきっかけに、家庭のテレビでのよりよい映画体験に挑戦してみてほしい。