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埼玉県人が観た「翔んで埼玉II」。くだらなすぎて滋賀と行田へ行きたくなった
2023年11月24日 12:05
埼玉県人へのディスりが話題を呼んだ、映画「翔んで埼玉」から4年。待望の続編となる「翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~」が、11月23日より全国劇場で公開された。
続編の舞台は、関西。正直鑑賞するまでは「『翔んで埼玉』なのになぜ関西?」「どこから琵琶湖に繋がるの?」と、“シリーズ2作目の失敗”を予感していたのだが、怒涛のご当地ネタと豪華キャストによる怪演、そして最高にくだらなすぎるほど振り切れたストーリーに脱帽。ディスり、パクり、お下劣、なんでもアリの、壮大な茶番劇を見終わった後、筆者は“とびだしとび太”のいる滋賀と行田へ行きたくなった。
再びワン埼玉を目指し「越谷に海を作る!」
まず始めに、あらすじを紹介しておこう。なお、以下には一部のストーリーやギャグシーンについて記載しているので、鑑賞前に情報を見たくないという人は注意してほしい。
前作では、東京都知事の息子で名門私立高校・白鵬堂学院生徒会長の壇ノ浦百美(二階堂ふみ)が、埼玉解放戦線を率いる帰国子女の転入生・麻実麗(GAKCT)と出逢い、埼玉を開放する戦いに身を投じて行く様が都市伝説として描かれた。今作は、東京への通行手形制度が撤廃された3カ月後から物語が始まる。
手形の撤廃により、関東一帯には平和が訪れ、蔑まれていた埼玉県人も自由に東京へ行けるようになった。しかし、あるものは東京の流行ファッションで着飾り、あるものは高田馬場のコットンクラブでモスコミュールを飲み、あるものは東京ネズミーランドへ出掛けるなど、埼玉解放を目指し“ワン埼玉”となっていたはずの県人たちは繋がりを忘れ、現状維持で満足するようになっていた。
さらなる平和を求めて活動(=日本埼玉化計画)する麗と百美は、埼玉県人の横のつながりが薄いという問題と、バラバラになってしまった埼玉県人の心を再び一つにするべく、ある計画を立てる。
それは、埼玉を東西に走る新路線・武蔵野線を作り、既存路線(JR埼京線・JR京浜東北線・西武新宿線・西武池袋線・東武東上線・東武伊勢崎線)と接続。そして路線が交差する場所・越谷に海をつくる――というものだった。
冷静に考えれば無謀とも思える計画だが、海を欲してやまない各支部長らはその発表を聞くや狂喜乱舞。「正気かよ」と懐疑的だった百美も、「海岸から砂を持ち帰り、(越谷に)広大なビーチを作る」と話す麗の言葉で、“パラソルの下で愛しの麗と熱い抱擁”を妄想し賛同。こうして、黒い千葉の砂ではなく、未開の地・和歌山の白浜にあるという美しい白い砂を求め、麗と解放戦線の仲間たちは船で西へ向かうことになる。
途中、船が嵐に巻き込まれ難破するも、麗は運よく和歌山の海岸に漂着。そこで麗は、滋賀解放戦線の桔梗魅(杏)と運命的な出会いを果たす。
桔梗は麗に、大阪府知事の嘉祥寺晃(片岡愛之助)、その妻の神戸市長(藤原紀香)、そして京都市長(川﨑麻世)ら関西を牛耳り、滋賀県人、和歌山県人、奈良県人らが非人道的な扱いを受けていること。そして白浜も大阪人のためのリゾート地とされ、通行手形のない者は入ることができないうえに、和歌山解放戦線のリーダーである姫君が囚われていることを告げる。
こうして、桔梗は姫君を、麗は嘉祥寺に囚われた仲間たちを救い出そうとするが、その過程で麗も嘉祥寺の手中に落ちてしまう。そしてそこで麗は、嘉祥寺が日本征服のための恐るべき計画を企てていることを知るのだった――。
ストーリーの振り切れっぷり……完全に酒でも飲んでいたに違いない
実はこれを書いている筆者も、埼玉で産み落とされ、埼玉で育ち、仕事とかこつけて埼玉から東京へ埼玉臭を輸送している埼玉解放戦線の一員だ。小中学生の9年間は水泳部に所属。埼玉の高校を卒業後、夢だった湘南エリアの大学に通うも、ビーチに蔓延るパーティーピーポーに馴染めず、江の島上陸は果たせずじまいだった(今も江の島童貞だ)が、海へのあこがれは強い。
また東京方面へ出掛けることはあっても、北上はもちろん、東西の横移動もほとんどしない。埼玉県人なら、横に移動しても、何もないことは分かっているからだ。
だから今作の“海への執着”と“横の繋がりが希薄”という埼玉県人の特徴を捉え、舞台を関西へと広げる展開はうまいなと思ったし、関西のご当地ネタを細かく拾ってギャグに仕上げる発想には感服した。
魔夜峰央の漫画をベースにした前作と違い、今作は完全なオリジナルストーリーになっている。聞けば、監督、脚本、プロデューサーの3名で台本を書くため、関西へ取材の旅へ出掛けて構想を練ったとのこと。ストーリーの振り切れっぷりから察するに、完全に酒でも飲んでいたに違いない(笑)。
そして、キャストの振り切れっぷりにも笑った。劇中に登場する“白い粉”でキマってしまうGACKTや二階堂ふみの大阪人変身バージョンはもちろん、特に極悪非道な大阪府知事役を演じる片岡愛之助の怪演が見物。劇中には、まだ公にされていない出演者も多数登場するので、有名人を見つける遊びも楽しめる事だろう。
相変わらず酷いディスリ(笑)。しかし埼玉県人は滋賀に嫉妬した
とはいえ、ディスりの内容と偏見は郷土愛を通り越し、相変わらず酷い(笑)。
例えば、映画序盤で描かれる強制収容所のシーン。収容所内では、穴という穴に梅干しの種を詰め込まれたまま足つぼ地獄を歩かされる「和歌山県人ショー」、鼻から溢れ出るほど鮒ずしを詰め込まれたまま信楽焼割りをさせられる「滋賀県人ショー」、鹿の被り物をして鹿印せんべいの奪い合いをさせられる「奈良県人ショー」などが催され、寅柄の衣装を身に着けた大阪人たちが爆笑している様子が描かれる。
そういえば前作では、千葉解放戦線が埼玉県人に行なう所業として、穴という穴にピーナッツを詰め込み、九十九里で永遠に地引き網漁を強いられるというディスリがあった。どうやら監督(それとも脚本家?)は、“穴という穴に郷土品を詰め込むシリーズ”がお好きなようだ。
また前作では、埼玉と千葉の県境・流山を挟んで行なわれた有名人出身地対決があったが、今作でも登場。ネタバレになるため詳細は割愛するが、今作でも名対決が繰り広げられる。もちろんこれ以外にも、滋賀、そして関西のディスりのオンパレードが全編で展開する。埼玉の家族が登場する“現代パート”でも埼玉ディスりは登場するが、滋賀のインパクトに比べると弱く、今回は滋賀のディスられっぷりに完敗、嫉妬した。
唯一惜しかったのは、前作で千葉解放戦線のリーダーとして活躍した阿久津翔(ジャガーさんの息子)の不在と、鉄道会社への交渉のため関東に残ることになった百美の活躍の少なさだろうか。是非シリーズ3では、阿久津の雄姿、そして百実の変顔と埼玉県人を罵倒する姿がもっと見たい。
ともあれ、「翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~」は、アタマを空っぽにして楽しめるエンタメ作品だ。埼玉県人はもちろん、関東も方も、今回の犠牲者である関西の方も、そして将来犠牲者候補のその他地域の方も、寛大な心で、壮大な茶番劇を劇場で楽しんでみてはいかがだろうか。