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年始の活力を得たい人へ。青春物語『ルックバック』
2025年1月3日 12:00
連休中はストリーミングサービスに浸りたい人も多いだろう。しかし、「高評価」や「おすすめ作品」を片っ端から観られるほどの時間はない。年末年始にタイパなどとは言いたくないが、すぐに良作と出会いたい人に、短編アニメーション映画『ルックバック』をおすすめしたい。Prime Videoで視聴可能。年内は東京、大阪、京都の一部映画館でも上映されている。
地方都市に暮らす2人の少女、藤野と京本が漫画家を目指す青春物語だ。原作は「このマンガがすごい!2022」で第1位を獲得した藤本タツキ氏の作品(ジャンプ+で閲覧可)。同氏は一世を風靡した『チェーンソーマン』の作者でもある。監督・脚本・キャラクターデザインを手掛けたのは『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』や『借りぐらしのアリエッティ』などで知られる押山清高氏。藤本氏と押山氏が込めた創作への情熱が、画面を通してひしひしと伝わってくる。
凝縮された青春の葛藤と情熱、挫折と共鳴、ライバルが映す自分の姿
58分の短い尺ながら、本作には、慢心、挫折、再挑戦、友情、後悔といった感情が詰まっている。個人的には独りで部屋にこもって堪能していただきたいが、家族で楽しむも良しの作品。本作は主人公が抱く漫画への情熱がテーマだが、もの作りに限らず、何かを成し遂げるために努力した経験があれば、きっと心に響くはずだ。
子どもの頃、「足が速い」「ピアノが得意」などの得意分野に自信を持った経験があるだろう。しかし、ある日ライバルの圧倒的な才能を目の当たりにし、その自信が崩れ去る瞬間を味わったことはないだろうか。大人になっても同じだ。営業成績やプレゼンに自信を持っていても、ふと現れる自分より優れた誰かに打ちのめされることがある。
懸命に努力し、手応えを感じたはずなのに、ライバルはあっさりとその上をいく。あきらめにつながる時である。本作で描かれる静かでありながら、鮮烈な感情の移ろいに強く心を揺すぶられてしまう。
ライバルの京本が実は自分を一番認めていたことを知り、創作活動から離れていた藤野は天にも昇る気持ちに。内に秘めていた漫画への情熱が湧き上がる。このシーンは原作でも意図されたものがうかがえ、不自然に思えるほどのアニメーションの躍動感に惹きつけられる。漫画の上手さと絵の上手さを補って共鳴する2人は一気に駆け上がっていく。
アニメ化によってストーリーが改変される作品も多いが、本作は静止画の限界を補完して、アニメーションとして新たな命を吹き込まれている。物語そのものの魅力もさることながら、藤本氏と押山氏の共鳴も感じられて、観る者の胸を熱くさせるのだ。
藤野と京本は、喜びも苦しみも分かち合いながら友情を深めていくが……。物語の行方は、ぜひ実際に観て確かめてほしい。
ルックバック?
タイトルの「ルックバック」を直訳すれば「振り返れ」となるが、それが意味するものは物語の後半で明らかになる。過去を受け止め、それを糧に未来へ進め、というメッセージが込められているのだろう。エンドロールで余韻を存分に味わうためにも、自動再生はOFFにすることをおすすめする。
主人公たちを演じる声優陣の好演も見逃せない。藤野は『不適切にもほどがある!』で注目された河合優実、京本は『今際の国のアリス』のアサヒ役を務めた吉田美月喜だ。
また、ウィキペディアなどで指摘されている通り、既存作品へのオマージュが多数散りばめられている。関連作品をチェックして再視聴するとさらに深く楽しめるだろう。