エンタメGO

AIカラー化で観やすくなったNHK「映像の世紀」。カラー化は続くか聞いてみた

(C)NHK

NHKの傑作ドキュメンタリー「映像の世紀」がAIカラー化され、話題を呼んでいる。「カラーでよみがえる映像の世紀」のタイトルで、2025年2月1日から5週にわたって放送中だ。

「映像の世紀」は、19世紀末に人類が映像装置を発明してから、世界各地で撮影されてきた膨大な映像アーカイブを組み合わせて構成された歴史ドキュメンタリー番組。1995年にNHK総合テレビ「NHKスペシャル」の枠で放送されたシリーズ第一弾をはじめ、「新・映像の世紀」「映像の世紀プレミアム」「映像の世紀 バタフライエフェクト」と、これまでにいくつもの続編・関連作が制作・放送されてきた。

今回AIカラー化されたのは、1995年放送の初期シリーズ。全部で11集あるなかから第1集~第5集までの5作がAIカラー化されて、以下の通り放送されている。


    【放送スケジュール】
  • 第1集 20世紀の幕開け~カメラは歴史の断片をとらえ始めた~
    2月1日(土) 15時5分~16時17分
  • 第2集 大量殺戮の完成~塹壕の兵士たちはすさまじい兵器の出現を見た~
    2月8日(土) 15時5分~16時17分
  • 第3集 それはマンハッタンから始まった~噴き出した大衆社会の欲望が時代を動かした~
    2月11日(火・祝) 13時5分~14時17分
  • 第4集 ヒトラーの野望~人々は民族の復興を掲げたナチス・ドイツに未来を託した~
    2月22日(土) 15時5分~16時17分
  • 第5集 世界は地獄を見た~無差別爆撃、ホロコースト、そして 原爆~
    3月1日(土) 16時45分~17時57分

「映像の世紀」は、番組のほとんどを過去の記録映像の組み合わせで成立させるという特性上、19世紀末~20世紀前半の様子を伝える章は、当時のモノクロフィルムの映像だけで構成されていたりする。そこで、今回のAIカラー化が話題になっているわけだ。

なお、シリーズ第一弾が放送された1995年に小学6年生だった筆者は、当時この番組を見てその魅力に取り憑かれたひとり。以来「映像の世紀」ファンを勝手に名乗って30年で、人格の形成にも多大な影響を与えられた。そんなファン的にも今回のAIカラー化は大変興味深く、同時に「第6集以降はAIカラー化しないの?」ってのも気になっていたりする。

せっかくなので今回はそのあたりをNHKに問い合わせた。そこで得られた回答と合わせ、「カラーでよみがえる映像の世紀」の見どころ情報をお伝えしていこう。

AIカラー化で一気に観やすく情報量が上がる

さて、すでに第1集「20世紀の幕開け~カメラは歴史の断片をとらえ始めた~」のAIカラー化バージョンが2月1日に放送されたわけだが、ご覧になった方は、視聴感が大きく変わったのを実感したのではないだろうか。

(C)NHK

当たり前なのだが、モノクロフィルムの映像をカラー化することによって、一つ一つのシーンに映り込むモチーフが何なのかをすぐ判断できるようになり、さらに奥行きと立体感が生まれて、ぱっと見の映像から受ける情報量が多くなる。モノクロ映像を観るより疲れないのもあり、視聴が格段にスムーズになった。

もちろん「映像の世紀」という番組のコンセプトを考えれば、「フィルム時代の映像をモノクロのまま観る構成だから意味がある」という意見もあるだろうし、それはその通り。「過去の時代を、当時の映像装置の画質も含めた生感で享受する」という面で、オリジナルバージョンには揺るぎない価値がある。

その上で、そこに映る情報をよりわかりやすく受け取れるのが今回のAIカラー化バージョンといった感じなので、「オリジナルバージョンとは別物として価値ある映像」として楽しむのが良いのではないか……と個人的には思っている。リュミエールの「工場の出口」をカラーにするとこんな感じなんだ、すごい……! みたいな。あとシンプルに「歴史の勉強をする目線で視聴しやすい」とか。

なおこの第1集AIカラー化バージョンの放映時、視聴者をにわかにザワ付かせたのが、番組冒頭で表示された以下のテロップである。

この番組は1995年に放送した「映像の世紀」を
AIと研究者による映像考証でカラー化しました

また一部残酷な映像などをカット
あるいはモノクロ映像のままにしています

初回放送時から歴史研究が進み
一部ナレーションを入れ替えた箇所があります

「一部残酷な映像」が何を指すのか……という点はかなり重要だ。ちなみに第1集は、19世紀末から20世紀初頭にかけての映像装置の誕生や、同時代に起きたパリ万博、ライト兄弟の飛行機発明、ロマノフ王朝・清王朝の末期の姿を描く等の内容で、残酷と言えそうなシーンは元々少ない。

筆者が気づいたところでは、「センセーショナルなショーを行なうため、興行師から金を受け取りエッフェル塔から飛び降りて即死した男性の話」はエピソードごとカットされていた。一方、「女性の参政権を求めたイギリス人女性のエミリー・デイビソンが、国王の馬の前に抗議の身投げをする映像」はしっかりAIカラー化し放送されていた。

ただ、気になるのはこの後。というのも、第2集は第一次世界大戦、第4集はヒトラーとナチス、第5集は第二次世界大戦がテーマで、とにかく戦争にまつわる映像が多くなってくる。どこが「残酷な映像」と判断されてカットされるのか、逆にカットされないのか。この辺りは、今回のAIカラー化放送のひとつの視聴ポイントになりそうだ。

(C)NHK
(C)NHK

第3集だけが先行して3年前にAIカラー化&放送されたワケ

ちなみにこの「カラーでよみがえる映像の世紀」、実は第3集「それはマンハッタンから始まった」だけが先行でAIカラー化され、2022年3月28日に地上波放送されていたのをご存知だろうか?(その後、同年8月19日に再放送もされている)

筆者も当時の放送を観ており、今回AIカラー化をしなおしたのか……? と気になったので、NHKに確認してみた。結論としては、2月11日に放送予定の第3集AIカラー化バージョンは、2022年に放送されたものと基本的に同じだそうだ。

(C)NHK

なお、過去のエピソードとして2022年放送の第3集情報が掲載されているサイトに、“「映像の世紀」の第1集から第5集までをカラー化。”の文言がすでにあるので、当時から他の4作品もAIカラー化の取り組みは進められていて、それが今回ついに放送されているものと思われる。

では、なぜ第3集だけが先行してAIカラー化の上、2022年に放送されていたのか? NHKの回答は以下の通りだ。

「光と影のコントラストが強い1920年代のアメリカでまずトライしようと考えました。他の時代はすでにカラー化の試みが海外であり、一次大戦と二次大戦の戦間期の時代をカラー化する試みがほかになかったことも理由の一つです」

わかる……! わかりますよNHKさん……! 実は筆者、「映像の世紀」の中でも特にこの第3集が最推し。というか、第3集があるから「映像の世紀」が好きと言っても過言ではない。

第3集。噴き出した大衆社会の欲望が時代を動かした……! 画像は筆者私物「デジタルリマスター版 映像の世紀 Blu-ray BOX」

そのテーマは、第一次大戦の影響から立ち直り、史上空前の好景気に湧き立つ「1920年代のアメリカ」。第1集がリュミエール兄弟のシネマトグラフから始まる映像の誕生、第2集が第一次世界大戦の記録と来て、第3集はちょっと地味に思えるかもしれないが、こういうテーマこそガチでやり遂げるのが「映像の世紀」だ。

そして、“一次大戦と二次大戦の戦間期の時代をカラー化する試みがほかになかった”という切り口に、まさにこの番組らしい硬派な姿勢が現れている。

実際に観てみると、信用貸しの超バブル経済(ヤバイ)に浮かれ、ダイナミックな大衆社会を形成する当時の民衆の映像は非常にきらびやかで、“光と影のコントラストが強い”というのもすごくよくわかる。

加えて第3集でニクいのが、要所要所で時代を代表する作家、スコット・フィッツジェラルドの著作を引用しながら進む演出である。特に終盤、「ジャズ・エイジのこだま」という文章の一節がナレーションで語られながら、リンドバーグの大西洋無着陸飛行を映すシーンが神がかり的にエモい。もちろんバックには、ここぞとばかりに番組テーマソング「パリは燃えているか」のアレンジが流れる。もうこのシーンだけ何回再生したかわからないくらい好き。

この辺のスバラシサについては、過去にImpress Watchで語っているので、お時間がある方はご参照いただきつつ(※なお長文)、ぜひ2月11日の放送でAIカラー化された該当シーンをチェックしてほしい。

第6集以降のAIカラー化は? BS4K・BS8K放送予定は?

さて、お待たせしました。長々と語ってしまったが、まあとにかく多くの方が気になるのは、残りの第6集~第11集や「新・映像の世紀」などの関連作品についてもAIカラー化の予定はあるのか? ということだろう。

時代が下るほど、元がカラーの映像も増えてくるので、今回はひとまず第5集まで……という取り組みなのかもしれないが、第6集以降もモノクロシーンはそれなりに多いので、どうなるか観てみたい。

またAV Watch的には、今回の「カラーでよみがえる映像の世紀」を、今後BS4K・BS8Kで放送する予定があるのかもチェックしておきたいところだ。

で、NHKからの回答は……「第6集以降のカラー化については、今のところ放送予定はありません。BS4K・BS8Kについては未定です」とのことだった。ただ、「今回の放送の反響も受けて、今後検討できればと考えています」という一文が付け加えられていたので、我々視聴者が盛り上がれば、ここからの更なる展開も可能性ゼロではないようだ。

というわけで、「カラーでよみがえる映像の世紀」直近の放送予定は、2月8日(土)15時5分~の第2集と、2月11日(火・祝)13時5分~の第3集。全国の「映像の世紀」ファンの皆さん、ぜひ公式サイトに感想を送ったりSNSで投稿したりして、今回のAIカラー化放送を盛り上げてまいりましょう!

杉浦みな子

オーディオビジュアルや家電にまつわる情報サイトの編集・記者・ライター職を経て、現在はフリーランスで活動中。音楽&映画鑑賞と読書が好きで、自称:事件ルポ評論家、日課は麻雀……と、なかなか趣味が定まらないオタク系ミーハーです。