樋口真嗣の地獄の怪光線
第14回
逆シャアがガンダムUCのようだ! レグザX920という悪魔、仕事場に来る(そして去る)
2018年11月29日 08:00
名作の復活と落胆。最高のパッケージが欲しい
あの名作が待望のソフト化! なんて文字が踊るとついリンク先へ猛ダッシュですけれども、発売されるフォーマットがブルーレイじゃなくてDVDだった時の落胆がつらい今日この頃でございます。
えーっ? どうして?
リマスターしてると謳っているなら最高画質で出してちょうだいよ!と出てもいない商品を発表された仕様やデータ、価格だけで星一つに断罪してページを開きポチろうとしていた顧客の購入意欲を根こそぎ伐採する密林評論家の皆さんの気持ちもこういう時はわかるような気もするし、一方でこのカツカツなご時世にコストに対して見込まれる売り上げから逆算するとメーカーに対する同情も禁じ得ず、出るだけありがたいと思わなきゃとお布施させていただきたくもなります。
そんな事情を知ってか知らずか企業努力が足りないとか海外を見習えとか事業を推進することの困難さをイメージできないネット弁慶の皆様が自由をかさにきて買ってもいないくせに上から目線で星一つつけてばかり。しかももっと安く海外サイトで買えますよとか書き散らかすなんてどういうつもりでございましょう。
いいですかみなさん! 売り上げが見込まれない商品は出なくなるんですよー!
という気持ちとブルーレイでもないのにこの値段ですか? これなら配信で月額固定で見れるかと思ったら課金扱いになっててどうしようかと躊躇しながらも正直画質はDVDよりいいからダウンロード販売に手を出しちゃえ!という気持ちでブレまくっております。
正直言えばパッケージは売れてほしい。
なぜなら映画や、テレビ番組をそのままの状態で手に入れることこそに費やしたのが我が人生であり、本来形のない、記憶にとどめておくような体験がいつでも任意に繰り返すことができる、記憶のモジュールのようなものだからです。ベータマックスのL500に始まりレーザーディスク、持ち運びやすさで8ミリビデオにハイ8経由でDVD、そしてブルーレイにUHD。パッケージさえ開けず、一度も見ずに新しい規格のパッケージが出てしまうことも一度や二度ではありません。正直、経済効率は悪いです。
だがしかし海外にある本社からのレターヘッド一つでコロコロ変わるような運営方針のサーバーにセーブされている映画は、いつなんどき配信停止になるかわからないじゃないですか。いつでも、どこでも見ることができるように手元においておきたいんですよ最高のクオリティで! 最新のバージョンで! そうでないと不安になっちゃうんですよ!
さてどうしたものでしょうか。
前回、世界を敵に回す覚悟でラウドネスがすべての映画の音響設計を破壊していると告発したつもりがへえ、そうだったのかぐらいの反応しかなくて拍子抜けですよ。
みんな音に対してそんな気にしてないのかな?
そんなこと言ってる間に4K放送や8K放送が始まっちゃうらしく、開局合わせの特別番組がどれもこれも心踊るラインナップ。あきらかに我々の欲望を刺激するような内容です。
有機ELという悪魔、仕事場に来たる
そしてさらなる悪魔の囁きがもう一つ我が仕事場にやってきました。
4KのOLEDテレビです。
有機EL。
東芝の「REGZA X920」(65型)。現有しているのが2014年製の液晶テレビ「REGZA Z10X」ですから数字だけでも92倍。もう期待で胸が張り裂けそうです。
さっそく4Kのソフトを片っ端から再生するともう大変です。
いや今までだって全然すごかったですよ。これでもう何も問題ないと思ってましたよ生きていけますよ普通に。なのになんですかこれは?
もっと画質を良くしようというその欲望は一体どこから来るんですか? どうかしちゃってますよ正直! 科学は、人類はどこまで進化をするつもりなんですか?
それに引き換えどうしたもんですか自分! それまでこれで充分だと思っていた昨日までの自分が霞んで見えます色褪せて見えます俺の審美眼はそんなものだったのか?
そりゃZ10Xだって画質設定のパラメータいじるだけで結構なところまで持ち込めたと思うんですよ。なのにほぼ何もしなくても表現できちゃうのは腰が抜けます。
スピルバーグの最新作「レディプレイヤー1」の極彩色の仮想現実世界オアシスに溢れる小ネタやキャラクターの、洪水が、あるいはなぜか4K UHDで突然発売されたジム・ヘンソンの傑作人形劇「ダーククリスタル」の異世界やクリーチャーのディティール、そして見てない人は後悔する狂気のラビットバトル映画「ピーターラビット」でのイングランド特有の薄曇りの光線とか、どんな素材を持ってきても綺麗に対応していくではありませんか。
というか、これは楽しい。映画が生き返るような感動さえあります。テレビが進化しただけで、こんなに楽しくなるのか。
なんか見た感じがビデオっぽくなっちゃうので敬遠しがちだった倍速モードも、縦方向のスクロールのちらつきが激減。試しに4K UHD BDが発売された「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」の冒頭、次から次へとパンしまくって小惑星5thルナにカメラが入っていくあたりをみると、おお! あのサンライズ作品特有のカクカクしたカメラワークがフレーム補完されてヌルヌルと滑らかになって急に最近のデジタルで仕上げたアニメみたいに見えてくる! まるでガンダムUCみたい。
昭和末期の劇場アニメが(劇場版だから元々リッチだけど)さらにリッチになって生まれ変わったかのようだ!
なんか嬉しくなって返却までの間に仕事場にあるUHD BDを順繰りに再生してテレビの前にかじりつきながら仕事をしてしまいます。
そして時は過ぎ、運送会社の人がX920を持って行き、祭りは終わりました。
何が困るっていいもの見て自分の目がアップデートしちゃったら元に戻れないってことです。
全部がVHSの3倍モードに見えちゃうというか。こんなはずじゃなかったんだよなあ。
本当は50年の時を経て4K-UHD化された「2001年宇宙の旅」を70ミリフィルム上映からアイマックス、8K放送までずらり揃えて徹底比較しようと企んでたんですが肝心のUHD BDが1カ月発売延期になっちゃったので次回に持ち越しです。ではまた。
発売延期といえばディスクユニオンのサントラ専門レーベルのCinema-KANから出るはずだった「連合艦隊」のサントラってどうなったんでしょうかね?