樋口真嗣の地獄の怪光線

第29回

アトモスでキメたいのに売ってないAVアンプと、リモート会議不信の話

ファンの皆さま、お待たせしました。樋口監督、4カ月ぶりの帰還です。写真は鋭意制作中・公開日調整中の樋口監督最新作「シン・ウルトラマン」より
(C)2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

ご無沙汰してます。みなさんお元気でしょうか?

酒類の提供規制が当たり前になると、部屋呑み家呑みにシフトするようになりましたな。
こうゆうときは、おうちの再生環境を充実させるチャンスでもあります。私も気がついたら、一組余っていたサラウンドスピーカーを生かすためにDolby Atmosの9.1.2にアップグレードしようとAVアンプを物色すると……あれ?

……ない。

ザックリとした印象ですが、5万円前後のエントリークラスから10万未満にレベルアップすると、7.1chのアトモス対応機になり(←イマココ)、求道者のお宅訪問。そしてアチキじゃ手の届かないハイグレードでインテグレートな巨艦の自慢攻撃(←もちろん嬉しいです。僕らはみんな心にスネ夫が棲んでいるから!)のアンプ、並びにスピーカー構成は9.1.2!

すげえやっぱり! 2本スピーカーついただけで音源の空間移動がより明瞭に! これぞアトモス! これこそアトモス!

俺も欲しいぞあそこ迄の巨艦は手が出せないけど、その下のクラスを狙えばナントカいけそう。いやいけるよう色々頑張る。ありがとうパイセン! 頑張る理由ができたよオイラ!

……と勇んで家電量販店に突撃したらいきなり出鼻を挫かれます。

なんか、ないよ。中堅どころのAVアンプが。

もしかしたらこの巣篭もり事情で? みんなおうちでアトモスキメてるんですか? 一足お先に9.1.2に拡げちゃってるんですか?

と、いう感じと違う。バカ売れしてるなら、いま売れてます! 売り切れてます! みたいなポップで煽ってきたじゃん家電量販店!

なんか大人しくないか? しょぼくれてないか? かき入れドキじゃないのか? これもコロナ禍のせいなのか?

恐る恐るお店の人に聞いてみると、どうも半導体の工場が火事になってから、部品供給が停滞して生産できないらしい。

昨年10月に発生した半導体製造工場の火災事故の影響により、一部製品の供給に影響が出ている。現在は代替生産を進めているという(旭化成エレクトロニクスのサイトより)

宮崎県延岡市にあった旭化成エレクトロニクスの工場で生産されている半導体が最新鋭AVアンプの心臓部で、その生産が止まると製品そのものの供給に甚大な影響をもたらすとは!

おかげで供給が途絶えてこの惨状。

Y社もD社も、私が一番欲しい……というか買うぞと決意したちょっと無理めだけど頑張ればなんとかなる価格帯の製品だけが抜け落ちていて、そのコーナー自体がなんだか活気もなくなっているようです。

俺がこんなこと言うのもどうかと思うけど、今こそおうちでも映画館ですよ! 映画館も最高ですが、お家で見れるのも最高じゃないですか! どうしたんだいったい。。。

さらに旭化成エレクトロニクスが代替生産を委託していたルネサスエレクトロニクス那珂工場からも出火。何か生産システムそのものが老朽疲弊してきているのでしょうか、なんともいたたまれぬ気持ちに打ちひしがれていましたら、やっとこんなニュウスが。

デノン&マランツ、一部製品のDAC変更。AKM工場火災で

これでやっと9.1.2に拡張できます。

できますよね?

できるといいな……。

皆さんはリモート会議生活で従来通りの成果は得られていますか?

おそらくAVアンプをアップグレードできないモヤモヤが他に波及したのでしょうか?

あるいはコロナ禍で当たり前のように執り行なわれるようになったオンライン会議で明らかになった“対面でないと通用しないオノレの人間力不足を何で補完するか?”から端を発した仕事場の動画送信システムの再構築であります。

ちょっとAV Watchとは趣旨がずれるかもしれませんが、お付き合いください。

そもそも一年以上になるこのコロナ禍に於ける打ち合わせ環境の激変で、当たり前のように対面で顔を突き合わせて打ち合わせをしてきた身にとっては、小さい画面では、今まで通りのような昭和テイストのアプローチがまるで通用しなくなってきてます。

確かに打ち合わせ場所までの移動とか関係なく、さっとやってさっと終われる、便利と言えば便利なんですが、そんな便利なやり方で重要な案件の判断とかしてもらえるのでしょうか?

自分ですらそんな懐疑心ですから、世の慎重に石橋を叩いて壊して、その破片の上を八艘飛びして渡り歩いているような皆さんにとっては、この一年余のリモート会議生活で果たして従来通りの成果が得られているのでしょうか?

私は否です。

もちろんこのご時世、映画は軒並み公開延期――すなわち現状のような公開形態で封切りをしても意図した通りの興行収入を得る事ができないから、先送りの後回しという事がまかり通っているので、これから先に起こるのは、後回しにした作品たちの大渋滞です。

しかもそれぞれが大きな資金回収を前提とした規模の大きな映画ばかり。それが感染症の収束を見込んだ時期に公開を狙っているので、水面下で争奪戦が繰り広げられているのですが、それも一体いつ収束するのか?

予想という名の希望的観測がどんどん外れて、その負荷に耐えきれなくなった映画から蜘蛛の糸から手を離して滑落し、人知れずヒッソリと公開といった様相を呈していますから、今新たにそこそこの規模の映画を作りましょうか如何でしょう? とオンライン会議のしょぼい画面で口説かれてもそりゃ判断できんでしょう。

もうすでに作っちゃった映画だってまだ公開の目処が立たないのに新たに、ってそんな皮算用立つわけないっすよね。

現代の魔法使いの画面がカッコよすぎる件

いや、そんな事はどうでもいいんだ。良くないけど。

言いたい事はそういう事じゃなくて、ズームとかチームスの会議とかでやっても対面ほどの効果がないのではないか? と不信感が募ってきまして。

そんなある日、メディアアーティストの落合陽一さんが筑波大学でやっているコンテンツ応用論という講義のゲストとして呼ばれまして、筑波まで行くには、在来線最高クラスの爆速を誇るつくばエクスプレスに乗レルじゃないか、と思ったら昨今の感染症対策でオンラインになると。

せっかく現代の魔法使いと現代のオワコン扱いの特撮屋がつくばの特異点でガチバトルかと思ったら残念。

現代の大学の講義

でも三百人規模のオンライン授業ってすごいなあ。トラフィックの確保でみんなカメラの絵はオフにしとくんだけど、最後だけ一瞬顔を見せてずらっと並ぶ感じはちょっと圧巻でちょっと感動しましたよ。

これが現代の大学の講義なんだな、と。

詳しい様子はこちらから。

ここでもう一つ、衝撃的なことがありまして。

それは落合教授の画面だけ何だかカッコいいんです。

ほら。

落合教授の画面だけ何だかカッコいい写真

左上の俺とかなんだか普通に仕事場バックにものに溺れた片付けのできない残念な人っぷりを炸裂させてるんですけど、落合教授だけなんだかテクノロジーの最前線で戦ってるっぽい感じがするじゃないですか。

どういう事だ?

これが現代の魔法使いの実力なのか?

ウキー! オワコン使いだって負けへんで!

と、張り合うところをちょっと間違えている昭和40年生まれ今年で55歳でございました。

樋口真嗣

1965年生まれ、東京都出身。特技監督・映画監督。'84年「ゴジラ」で映画界入り。平成ガメラシリーズでは特技監督を務める。監督作品は「ローレライ」、「日本沈没」、「のぼうの城」、実写版「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」など。2016年公開の「シン・ゴジラ」では監督と特技監督を務め、第40回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。