樋口真嗣の地獄の怪光線

第31回

カモナモアチャンネル! 樋口監督、3年ぶりにAVアンプ更新する・前編

今回は、スピーカーで囲んでガンガン鳴らすと人生が豊かになるお話です!

人間の歴史は欲望の歴史と言っても過言ではない。

欲望を抱き、それを実現するためにありとあらゆる手段を講じて欲望を満たし、それに満たされる事なく新たな欲望を探し求めきいだし再び手に入れる――その繰り返しなのだ。

原音を記録し再生するだけでは飽き足らなくなり、ヒトの持つ左右の耳から定位される位置関係を左右に振り分けた音源のズレで同様の認識に導くことで立体的な音場を得てからというもの、二つしかない耳に対してこれでもかと大量の音源を並べ、鳴らし、ひとり悦に入り誰かに自慢するだけで飽き足らずさらなる音場を求めて邁進する――その繰り返しじゃないか。

尊敬する知人のプロダクツデザイナーが構えた仕事場にお邪魔すると、ドーンと構えた2台の青い筐体。長い年月をかけて構築したであろうサラウンドシステムからの2チャンネルステレオへの回帰。長年にわたる世界のブランドをリードしてきたそのデザインと同様に全ての夾雑物は淘汰排除されるのか。

だとしたら俺はまだ走り続けなければならんのだ。見果てぬ欲望の地平まで。

こちらの製作も走り続けています! 「シン・ウルトラマン」は、2022年5月13日公開!!

といってるうちに半導体の供給不足は我々求道者のみならず、世界のサプライチェーンを巻き込みさまざまな業種に混乱をもたらしているようです。

そんな中でも少しずつかもしれませんが、真っ先に供給不足に悩み苦しみ喘いでいたAVアンプ関連製品の供給が始まってきているので今こそチャンスです。カモナモアチャンネルのモアパワー、モアフェディリティざんすよ!

約3年前に購入したヤマハのAVアンプ「RX-V581」

いざ、限界の向こう側へ! Dolby Atmosというか最新AVアンプすげえ

すでに5.1.2チャンネルのドルビーアトモス環境をヤマハのAVアンプ「RX-V581」を中心に構築してオブジェクトオーディオの世界をとば口から覗き込んでる程度で悦に入って、客人に聞かせその驚嘆の声を聴き満足に浸ってきましたが、それはマヤカシではないのか? 真実のアトモスを目指すのが漢の道ではないのか? その証拠になぜか私の手元には手頃なブックシェルフなスピーカーワンペアが余っているではないか? そのスピーカーで何を鳴らす?

物言わぬ2ウェイブックシェルフスピーカー、ヤマハのNS-10Mが語りかけてきます。

さてどれにしようかと迷っていたら編集のあべちゃんが素敵な提案を。

「どうせなら(AVアンプを)聞き比べてみましょうよ」。

おお! 雑誌やサイトでよく見るクロスレビューってやつじゃな?

ただ自分のシンプルすぎる脳の構造のせいなのか、リニアな単方向での記憶処理しか出来ないので正確な比較ができるとは思えないのです。

しかも10本に及ぶスピーカー端子の抜き差しのあとにセットアップ、諸々動作の確認を挟んだ上での比較のために必死になってプールしたそのサウンドの記憶がどんどん揮発していくでしょう。

世のオーディオ批評のみなさんはどうやっているのでしょうか。その正確無比な記憶力には頭が下がります。

それでも最新鋭AVアンプの聞き比べなんて滅多にできないチャンスですから、お願いしたら宅配便で次々に梱包されたAVアンプが届いて仕事場が箱で埋まります。

今回用意してもらった製品は、それまで使ってきた価格帯よりもちょっとだけ頑張って上を目指したゾーニングということで、それまでが希望小売価格7万円台だったので10万円台にステップアップです。

ヤマハの7ch AVアンプ「RX-A4A」。132,000円

ヤマハからはワンランク上の「RX-A4A」。なぜか今期のヤマハは、スピーカー9本を用いた5.1.4を駆るにはさらにワンランク上のRX-A6Aでないといイカンのだけども、それまでの5.1.4対応のAVENTAGE RX-A2080(22万円)の後継機というにはあまりにも価格帯が違いすぎて今回は断念無念。

ホントはこっちも気になっていた、A4Aの上位機「RX-A6A」(27.5万円)。今回は断念無念

それからデノンの「AVR-X4700H」。こちらは5.1.4対応なので新たな9チャンネルのアトモスが体感できるはず!

デノンの9ch AVアンプ「AVR-X4700」。198,000円

さらにマランツの「SR6015」。去年から続くコロナ禍と半導体供給不足の中、安定供給されていたのか、家電量販店でも唯一潤沢な在庫を誇っていて試聴させてもらったりしていたアンプ。

マランツの9ch AVアンプ「SR6015」。162,800円

この3台が希望小売価格10万円台の最新鋭AVアンプです。ここんところずっとヤマハ一筋できたので他社製品の音を鳴らして聴き比べることができるのも楽しみでありますが、現状この3社……厳密に言えば、2社からしか9.1チャンネルのアトモスを鳴らすアンプがラインナップされていないことに驚きです。もっといっぱいなかったっけ? と調べると色々なメーカーが合併したり買収されたり統合したり消滅したり……盛者必衰なんて言葉で片付けるのは簡単だけど、これでいいのか?

それに取って代わるような海外メーカーがのしあがってきてるようにも見えないし、いつからこんなになっちゃってたの?

配信プラットフォーム各社ともアトモス化を頑張ってやってるし、細ったとはいえそれでも4K Ultra HD Blu-rayだって世界的にリリースはされ続けてるというのに……みんなサウンドバーでお茶を濁せるの? Bluetoothで圧縮転送された音声データで満足できるの?

もっと囲んでガンガン鳴らそうよ! すごく楽しいよ! 豊かになるよ人生が!

現状の7.1チャンネルでも充分イケてると思うよ俺!(でもさらなる上の世界に登ってみたい)

監督が気合いで取り付けた、事務所のハイトスピーカー

箱の積み上がった順で開梱してセットアップです。

トップバッターはオルガン修理の合資会社山葉風琴製造所を祖とする株式会社ヤマハのハイグレードAVレシーバー、AVENTAGEシリーズのRX-A4A。

「音色の正確な再現」、「静と動の表現による躍動感」、「空間描写」を追求したこのシリーズ。筐体中央に巨大なボリュームダイアルが鎮座しています。まるでモノアイです。

これがヤマハの最新AVアンプじゃな。どれどれ

そして、配信というか、ネットワークで買い物した映画たちをドルビーアトモスで再生してみます。同じ7.1cnの環境だからその差異はより明確かもしれませんが明らかに音が豊かになっています。冷凍食品やコンビニ飯と注文してから作って出てくるお店ごはんとでも言いましょうか、美味しさ、嬉しさが込み上げてきます。これだけで充分買い直す価値があります。

AI技術を使ったすごい機能も搭載されているからそれのご利益かもしれませんが、もう違いすぎて分析不可能です。

数値化できない芳醇さが同じスピーカーから溢れて包み込まれます。

これが進化なのですね、博士。科学は正しい使い方をすればかくも私たちに幸せをもたらすのですね!

あと、それまでヤマハのアンプを使っていたからわかることでもあるんですが、リモコンの品質が格段に上がっています。それまでのビッシリ並んだ穴から出ているゴムのボタンを押すのではなく、ワンシートの樹脂の凹凸を押すような一体化されているので、滅多にないけどコーヒーをバシャっとこぼしても大丈夫な感じだし(編集部注:防水仕様ではありません)、何よりその触感は子供の頃に初めて手にしたリモコンから漸く進化した“21世紀”を感じさせるのです。

A4A付属のリモコン
メニュー画面

そしてメニュー画面をはじめとするインターフェイスも、最新のデザインとムダのない操作性が最新モデルを手に入れた満足感を与えてくれます。

そして、余ったスピーカーも壁に取り付けて、いよいよ未踏の9.1chの世界に挑みます。

《次回へ続く!》

余っていたヤマハスピーカーをフロントハイト用に取付けます
9.1chの舞台は整った!
樋口真嗣

1965年生まれ、東京都出身。特技監督・映画監督。'84年「ゴジラ」で映画界入り。平成ガメラシリーズでは特技監督を務める。監督作品は「ローレライ」、「日本沈没」、「のぼうの城」、実写版「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」など。2016年公開の「シン・ゴジラ」では監督と特技監督を務め、第40回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。