樋口真嗣の地獄の怪光線

第32回

これが俺たちのモノリスよ。9chアトモスで知覚アップデートだ!

2021年10月27日にリニューアルした「Disney+」

やっとディズニープラスがドルビーアトモスや4Kに対応することになりましたね。これであんなユニバースやこんなギャラクシーも存分に体験できます。長いことソフト化されなかった旧作もひっそりとラインナップに混じってたりするから油断も隙もありません。

1979年、2年前「スター・ウォーズ」(もちろん1作目)が空前の大ヒットを放ち、世界中の映画会社がそれに倣って宇宙を舞台にしたSF映画を作りだし、天下のディズニーも手を挙げて世に問うたのが超大作「ブラック・ホール」。

そのタイトルの通り、宇宙の神秘、宇宙の謎ブラックホールを探検する科学者の物語なんだけど、宇宙船に乗ってるのが「戦争のはらわた」の強欲な敵役・シュトランスキー大佐のマクシミリアン・シェルに、「サイコ」の殺人鬼ノーマン・ベイツのアンソニー・パーキンス。

さらに、この時代のアクション映画には欠かせない言わずもがなのアーネスト・ボーグナインという、健全なディズニー映画とは思えぬ曲者揃いすぎてミッションが絶対にうまくいくはずがないだろうってメンツと、ディズニー映画であることを忘れていないとでも言いたくて無理矢理くっつけた知性のあるロボットのヴィンセントとマクシミリアン。

公開当時、もう翌年の閉館が決まっていた都内唯一のシネラマ劇場・テアトル東京の湾曲した巨大スクリーンへ観にいきました。

それはテアトル東京最後のSF映画(ホントはその直後に「フラッシュ・ゴードン」があるけど、あの当時の鼻持ちならない高校生にとってはSF枠に入れるのには抵抗があった…今はもちろんないけどね!)で、まさしくアトラクションのような映画だったのですがその後、VHSとレーザーディスクで発売(しかも画の左右が切られているトリミング版)されたっきり、国内ではなぜかDVDにもブルーレイ化もされないままだったのですが、やっとちゃんとした状態で見る事ができるようになったのが、配信というプラットフォームだったのです。それも時代の所為なのでしょうか?

The Black Hole | Unofficial Official Trailer | Disney+

しかも、マーベルの大作群はIMAX Enhancedで見ることができるというので調べてみてもシネスコよりも上下が広い、1:1.90という比率らしく、それってほとんど16:9じゃないの? って思うんだけど、まあ画面いっぱい楽しめるからいいっちゃいいんだけど、IMAXの名を冠して、できることってそれだけなの? って言いたくもなりますわな。

公式ページには「IMAX Enhancedのその他の機能は現在、Disney+でご利用いただけませんのでご注意ください」なんて断り書きがしてあるから、もっと他にもすっごい機能があるってことなんじゃないかと勘ぐりたくもなります。そう、かつてドルビーアトモスも4Kも使えなくてマイナスなどと揶揄されていた頃があったことを懐かしむように、いつしかIMAXのすっげえ機能が自宅でも味わえる日が来るのかもしれません。期待して待とうではありませんか!

拡大アスペクト比以外のIMAX Enhanced機能は今後追加予定、とのこと。期待して待ちましょう!

マランツ「SR6015」を体感! 迷いのない力強さ溢れるサウンド!

で、そろそろ買い替えたいとおもってるミドルクラスAVアンプ聴き比べというありがたくて涙が出る企画、試されるのはアンプの実力や表現力よりも私の耳と記憶力だったことが判明。いつになく緊張しますが、前回のヤマハ代表「RX-A4A」に続いて第二走者はマランツのAVアンプ「SR6015」でございます。

マランツのAVアンプ「SR6015」

マランツ。子供の頃親父に連れて行かれた秋葉原のオーディオショップ。

そこにあったのが、マランツ。

国産ではない、アメリカのオーディオメーカー、そんな刷り込みがあるマランツ。

国産メーカーにはないシガーやバーボンの香りが漂います。なんかロゴもメーカーズマークっぽいし。そんだけですけど。

というか子供の頃はマランツって舶来品だった印象だけど、いつしか国産になっていた、というかアメリカのブランドを冠して売られていた時期というか、うわなんだすっげえ複雑。

(※編集部注:マランツはアメリカ発祥で、その後に開発拠点が日本に。現在は日本のディーアンドエム・ホールディングス傘下で、このディーアンドエムホールディングスは米Sound Unitedの傘下にあるという形です)

というか'60年代にマランツ社の経営を握って日本のメーカー・スタンダード工業に作らせていたスーパースコープ社って、アメリカにあった映画の上映システム会社では? なんで?

ていうか昔のチューナー一体型のレシーバー、いとこの長兄が持ってた。この青いイルミネーションというか、オシロスコープで音の波形が見えるのがすげえカッコよかったし。

メーカーのホームページにその歴史が仔細に紹介されているのでそれを見るだけでもお腹いっぱいになります。

なるほど、だから現行のSR6015も真ん中にどことなくメーターを思わせる丸窓がついているのか。松本零士先生のメカと一緒だな。とりあえずゲージの入った丸いアナログメーターをつけるやつ。

そしてこのマランツ、シンプルにしてストレート。きちっと分けてきちっと鳴らす。アテクシの話で恐縮なんですが前回聞いたモデルであり、それ以前からずっと慣れ親しんできたのがヤマハのアンプでして。ヤマハはなんというかDSP、デジタルシグナルプロセッサを昔からずっと前面に押し出して世界中のいろんな街のホールやお店の空間をデジタル的に再現するのが一つの売りというか音作りの柱になっていまして。

同じヤマハの楽器に例えるならピアノというよりも1980年代に一世を風靡した世界初のフルデジタルシンセサイザー「DX7」のようなデジタルのエッジ感こそヤマハのAVアンプらしさではないかと思うんですけど、その対極に位置するのがマランツではないかと感じました。

自動音場設定の様子

設定をいじって自分好みのチューニングに追い込むプロセスよりも繋いだ音源がそのままズバッとスピーカーから出てくる、そんな迷いのない力強さ、分厚く太く揺るぎない頼もしさとでも言いましょうか。

調べるとあちこちで薦めている2チャンネルのステレオで再生しても、これぞオーディオ! って豊かさで確実な満足が得られます。これが9.1chが駆動できるAVアンプでおそらく最もエントリーしやすいモデルであることを考えても、素晴らしい体験です。

余っていたスピーカーをフロントハイトに設置!

…というか書き忘れてたけど、新たに増やしたトップスピーカーの威力たるやとんでもございません。

これがトゥルーアトモスか! 全然違うじゃん!

脳を使って補完していた音場が明瞭になっている。解像度? S/N? そういう単位がぐりぐりって増える感じですよ。スパークしてますよもう。覚醒ですよ。

昨日まで7.1chのアトモスでキャッキャ喜んでいた俺はもはや墓場行きですよ。さらば7.1chで幸福になれていた俺。

そうだ! こうやって人間の知覚はアップデートされなければいつまで経ってもイノシシとエサ争いで負けて穴ぐらに引きこもる猿でしかないのだ。

いでよモノリス。立て人類。

というかこれこそモノリスか。横倒しになってるけど、いっぱいケーブルぶっ刺さなきゃいけないけど、これが俺たちのモノリスよ。

そして今こそアイ! シャル! ビー! スター! チャイルドよ!

モノリスとコンタクトするスターチャイルド樋口
樋口真嗣

1965年生まれ、東京都出身。特技監督・映画監督。'84年「ゴジラ」で映画界入り。平成ガメラシリーズでは特技監督を務める。監督作品は「ローレライ」、「日本沈没」、「のぼうの城」、実写版「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」など。2016年公開の「シン・ゴジラ」では監督と特技監督を務め、第40回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。