日沼諭史の体当たりばったり!
第18回
壁掛けテレビへの道(前編)。便利な「つっぱりTVポール」と意外な課題……
2018年3月8日 08:05
ついに4Kテレビを自腹購入する決心がつき、55インチのソニー「KJ-55X8500E」(以下、X8500E)をマイカーに押し込んで家電量販店から連れ帰ったのは、数カ月前の2017年11月のこと。大画面4Kテレビが、でんとリビングに置いてある様を見ると、なんとなく達成感みたいなものを覚える。そのうちに、最薄部が1cm余りしかないこの薄型テレビの本領を発揮させてやりたい、と思うようになるのは人情というものだろう。つまり、壁に掛けたい、という欲求である。
持ち家だから、壁に穴を開けたとしても完全に自己責任。好き勝手に、自由に、気が済むまで“スタイリッシュ”なテレビの壁掛けスタイルにこだわることができる。しかし、そこではたと気がついた。壁に掛けたら本当に“スタイリッシュ”になるのだろうか。ならなかったらどうしよう。一度壁に穴をあけてしまえば、元に戻すのは不可能……とまでは言えなくとも、リカバリーは面倒なことこの上ないし余計なお金がかかる。自分の家とはいえ失敗はしたくない。であれば、壁にかけたときの実際の見た目がどんな風になるのか、どうにかしてあらかじめ確認しておくべきでは……。
そんな風に悩んでいたタイミングでサンコーから登場したのが、壁に穴を開けることなくテレビを壁掛け“風”にできる「つっぱりTVポール」(直販価格は税込19,800円)だ。これを使って“本番”前に壁掛けをシミュレーションしてみよう、と思ったのである。
突っ張り棒方式でテレビをガッチリ支える極太ポール
2月に発売されたサンコーの「つっぱりTVポール」は、床と天井を突っ張り棒で支えることでテレビの設置を可能にするアイテム。突っ張り棒で棚を作ったりするアイデア商品はよく知られているが、それのテレビ版と言える。壁に穴を開けられない賃貸住宅などでも壁掛け“風”にできるのがウリで、手間のかかる工事が一切不要なのも特徴だ。
32~55インチ、耐荷重25kgまでのテレビに対応し、突っ張り棒の設置可能な高さは210~380cm。我が家のX8500Eは55インチで本体重量が18.6kgだから、問題なく設置できる範囲だ。
ということで我が家に届いた「つっぱりTVポール」だが、パッケージサイズが140×170×2,152mm(幅×奥行き×高さ)で、特に高さがこれまで見たことのない大きさになっているので、室内に搬入する際は注意が必要だ。幅と奥行きがない分、取り回しにはさほど苦労しないけれど、開梱前も開梱後も、うっかり天井の照明器具などにぶつけてしまわないよう慎重に取り扱いたい。設置のために仮置きする際にも、スペースを広く空けておかないと作業がままならないだろう。
設置には、テレビ背面側に装着する金具部分の組み立てが必要で、プラスドライバー1本、ないしは大小2本あればOK。ポール自体の固定には備え付けのハンドルとレバーを使うだけなので、作業の難易度は高くない。固定の手順も、床から伸ばして天井に軽く触れたあたりで中間のハンドルを締め付けて固定し、床側にあるレバーを足で踏み抜くだけと簡単だ(力は必要なので汗だくになるが)。
取り付けるテレビが超重量級とは言えないまでも20kg近くあるわけで、ポールにはそれなりの負荷がかかるのが心配。しかし、極太金属製ポールがそんな不安を吹き飛ばしてくれる。テレビ背面側の金具は、数種類のネジやスペーサーが用意されていて、テレビの機種ごとに異なるネジ穴構造に対応。ポールと金具を固定する部分は、こちらもハンドルで締め付ける形で、金具の上下移動や回転が無段階で可能だ。テレビの設置高さの範囲が広く、壁の近くに設置するのでなければ、テレビの向きを360度全方位に調整できるのも面白い。
天井高と内装の素材・構造に要注意
突っ張り棒方式ゆえの手軽さ、使い勝手の良さがうれしい「つっぱりTVポール」。しかし、気を付けておきたいことも多い。まず、賃貸マンションや戸建てを含め、日本の住宅なら多くのケースで対応できるだろうと思えるけれど、設置可能な高さが210〜380cmという点は必ず念頭に置いておきたい。
今回、「つっぱりTVポール」の登場にうれしくなり筆者宅にはほとんど勢いで導入してしまったが、設置場所となるリビングが半ば吹き抜けになっていることがすっかり頭から抜けていた。リビングのある2階は一部の範囲にロフトが設けられていて、テレビ設置場所の天井高は通常の1階分にそのロフト分の高さが加わる。
慌てて天井高(床から梁まで)を計測したところ、設置可能高さ上限にかなり近い約355cmだった。ここまで突っ張り棒を伸ばすと、極太とはいえ少々“しなり”が大きくなる。この状態でポールにテレビをセットしたとしても、曲がって不安定になってしまうようなことはないが、高さが上限の380cmに近づくほど設置作業には慎重さが求められるだろう。床側か天井側のどちらかに“下駄”を履かせて、ポールを伸ばしすぎないようにする工夫をした方がいいケースもあるかもしれない。
次に気を付けておきたいのが、ポールが接する床と天井の素材・構造。そこそこ重量のあるテレビをがっちり支えるために、ポールとともに床や天井にかかる負荷も小さくない。そのため、設置する場所の床と天井は、できるだけ頑丈な素材・構造になっている部分を選ぶ必要がある。内装がコンクリートなら問題ないだろうが、例えば木造の場合、特に天井については、梁のように完全に固定されている箇所でなければならない。石膏ボードだったり、薄いパネルがはまっているだけの天井だと、固定できないどころか穴が空く可能性もある。
筆者宅でもこの問題に悩まされた。リビングの壁側にテレビを設置することを考えたとき、梁の位置関係から設置場所はだいたい2パターンに絞られてしまう。1つはエアコンの真正面、もう1つは通風と採光のためにある高窓、いわゆるハイサイドライトの真正面。どちらのパターンでも極太のポールが立つと違和感が出てしまう位置で、理想的とは言いがたいのだが……。ちなみに梁以外の部分は屋根の形に沿って傾斜しているので、どうやっても固定しようがない。
結局ハイサイドライト側の梁を選んだものの、テレビが隣の寝室の戸に接近する形になり、本来なら左右対称の距離に置きたいオーディオスピーカーの場所がアンバランスになってしまった。自由度の高そうな突っ張り棒方式とはいえ、結局は内装の素材と構造に設置場所が左右される。本来の壁掛けと同様、環境を“選ぶ”アイテムとなってしまうのは仕方のないところだろうか。
見た目はともかく“本番”に向けた配線のシミュレーションに
また、いかに突っ張ってがっちり固定したとしても、床や天井の表面が滑りやすいと不安定になりがちなので要注意だ。筆者宅の床と天井の木材は比較的滑りやすく、例えば近くを通るときにテレビの角に身体を引っかけると、ポールを軸にして簡単に回転してしまう状態だった。一度回転してしまうとポールがずれてわずかに傾き、その後軽く力を入れるだけで簡単にポールが外れてしまう。最悪の場合倒れて大惨事になる恐れもあるだろう。
したがって滑りやすい素材のときは、できればポールが接地する床と天井部分に滑り止めのラバーなどを挟んでおくと安心だ。さらには地震などで瞬間的に建物がたわみ、支えを失って倒れないとも限らないので、保険の意味で転倒防止のひもを壁や梁に結びつけておくのもいいかもしれない。
注意すべきところは多々あれど、大がかりな工事が必要なく、張り出しの大きいテレビ台やAVボードを使うこともなく、ある程度自由な高さと顔振り角度にテレビをセッティングできるのは大きなメリットと言える。プライベート用途以外にも、もしかすると床と天井の剛性が確保されていることの多いオフィス環境での活用にもぴったりかもしれない。筆者としては“本番”の壁掛けに向けて、見た目のシミュレーションにこそならなかったが、テレビをそれに近い宙づり状態しておけるおかげで、配線の位置や必要な長さ、取り回しの方法を検討するのに都合が良かったのが収穫の1つだった。
欲を言うと、カラーバリエーションにホワイトを増やしてもらえれば……というところ。極太のブラックはなかなかに存在感がある。誤解を恐れずに言えば、1人暮らしの男性宅には似合うかもしれない(筆者も1人暮らしだったら気にしなかっただろう)けれど、おそらく日本の家庭で大多数を占める白系の壁の部屋には、さすがに目立ちすぎてスタイリッシュさを出しにくい。壁に溶け込むホワイトであれば、家族も違和感なく受け入れられる見た目になるのでは、と思う次第だ。