西田宗千佳のRandomTracking
Fall Creators Updateで生まれ変わるWindows 10。MRやフォトなど進化
2017年10月17日 08:00
10月17日、マイクロソフトは、Windows 10の大型アップデート「Fall Creators Update(FCU)」の一般提供を開始する。同社はWindows 10以降、OSの機能を「定期的なアップデートによる継続的向上」という形で改善していく方針を取っている。直近のアップデートではどんな価値が追加されるのだろうか? このタイミングで改めて確認してみたい。
「年二回のアップデート」を優先し、機能追加を積み残し
すでに述べたように、マイクロソフトはWindows 10を「進化するプラットフォーム」と位置付けている。Windows 10がリリースされたのは2015年7月のこと。気がついてみれば2年が経過し、これまでに3回の大型アップデートが行なわれている。
まず最初が、2015年11月にリリースされた、通称「Threshold 2(TH2)」。続いて、2016年8月に公開された「Anniversary Update(開発コード名Redstone 1、通称RS1)」、そして、2017年5月に公開された「Creators Update(開発コード名Redstone 2、通称RS2)」があった。今回は4回目であり、開発コード名は「Redstone 3(RS3)」。なので「RS3」と呼ばれることもあるが、本記事のなかでは、正式名称の「Fall Creators Update(FCU)」で呼称する。
とはいうものの、10月17日にFCUへとアップデートしたとしても、すべての機能が当日から使えるわけではない。マイクロソフトは一応、大型アップデートに合わせてWindows 10に目立つ機能を追加していくことになっているが、すでにそのルールは崩れつつある。
マイクロソフトは「年2回の大型アップデートを行なう」というスケジュールの方を優先しており、機能の開発が間に合わない場合、「次の大型アップデートまでに逐次実装していく」方針に切り替えている。
そのため、FCUに実装予定だった機能のうち、かなりの部分が「10月17日の段階では未実装」である。この後に説明する機能の中でも、「後日実装」になったものがある。結果的に、FCUは「大型アップデートにしては機能追加の目立ちにくいアップデート」になっている。
そもそも、目玉機能の一つである「Windows Mixed Reality Immersiveヘッドセットへの対応」も、もともとは一つ前の「Creators Update(RS2)」でスタート予定だったものが、諸々あってずれていってFCUになった……という経緯がある。
重要なのは、「毎年春と秋に大型アップデートがある」ものの「機能面では随時実装」なので、ある日気づいたら新機能が出てきたり、一部UIの挙動が変わったりする場合がある、ということだ。
マイクロソフトはすでに、次の大型アップデート「Redstone 4(RS4)」の準備を進めており、評価版を先行配信する「Windows Insider Program」では、FCUリリースで積み残した機能の提供と、RS4に向けた準備が進んでいる。
目玉は結果的にWindows Mixed Realityか
さてここから改めて、FCUで行われる機能追加について解説していこう。
まず、一番大きいのは「Windows Mixed Reality」への正式対応だ。ただこの点については、以前詳しく記事化しているので、そちらを改めてご覧いただきたい。実際は、ひとつ前の大型アップデートから機能の大部分が搭載されており、FCUにおいて「若干の機能追加」「動作の安定」「動作条件をより低く見直し」が行なわれた、というのが正しい。ヘッドセットの購入が必要になるためハードルは高いし、まだ未完成な部分も多いのだが、今後のための大きな一歩であることは間違いない。FCU公開に合わせ、日本からもいくつか対応アプリが登場する……と耳にしている。
なお、FCU公開時点では提供が開始されていないものの、年末までに、PC向けVRプラットフォームの一大勢力である「SteamVR」対応のアプリをWindows Mixed Realityに対応させる機能が提供される。Windows Mixed Reality対応ヘッドセットで利用可能なVRアプリが大幅に増えることになるので、非常に大きな変化だ。現在は開発者向けにプレビューが行なわれている。
VR関連ではまだまだパフォーマンスが必要だ。そこに関連し、Windowsのタスクマネージャーに多少の変化が生まれる。パフォーマンスのチェックの項目にGPUの詳細が追加されるのだ。CPU内蔵と外付け、それぞれが表示されるのはもちろん、どの機能に負荷がかかっているかも見える。本来はエンジニア向けの機能だとは思うが、VRやゲームなどでPCのパフォーマンス不足を感じた時にチェックすると、どの方向でパーツを交換するべきか、指針が見えてくるだろう。
強化が目立つ「フォト」だが、やはり「積み残し」も
ビジュアル周りで、次に大きな変化が「フォト」アプリだ。OSに付属の写真アプリ……というとあまりいい印象を持たない人が多いかも知れないが、スマートデバイスやクラウドとの連携を考えた場合、OS側で抱えているアプリの機能を強化した方が有利な場合が多いため、アップルにしろグーグルにしろマイクロソフトにしろ、強化を進めているのが現状だ。そしてなにより、写真系の機能は多くの人のニーズがあり、わかりやすい。
Windows 10の「フォト」アプリも、FCUで特に強化が進む。デザイン面での多少の変化があるが、機能面で大きいのは「顔認識を中心とした検索機能の強化」と、動画自動編集機能である「Story Remix」の導入だ。
「フォト」アプリはビュワーから写真管理アプリへと進化を遂げつつあり、そこでは、時系列での自動管理の他、顔認識、写真の内容を認識してのキーワード検索、といったことが可能になっている。
そして、そうやって整理した写真からシンプルなストーリーに沿った「動画」を作るのが「Story Remix」と言われていた機能であり、アプリからは「ビデオのリミックス」として表示されるものだ。簡単に言えば、ソフト側が用意した音楽に合わせ、選択した画像・動画などを自動で組み合わせて1本の動画にしてくれるもので、これ自体は、他のプラットフォームやソフトでも見るようになってきたものである。とはいえ、Windowsに標準でついてくることの価値は大きいし、出来もなかなかだ。3Dで動画にエフェクトを組み合わせることもできる。
とはいえこの機能も、本来はもっと高度なものになる予定だった。3Dのオブジェクトの組み込みはもっと本格的なものだったし、顔認識と組み合わせて、「登場する人物の中で特定の人をスターとして編集する」ことも予定されていた。この機能もデモ通りには動いていないようだ。これらの機能はFCU公開段階では搭載されず、今後アップデートされる機能にリストアップされている。
なお、写真と3Dの合成については、マイクロソフトとしてひとつの方針がある。タブレットのようにカメラを備えたPCで撮影した場合には、その写真にも簡単に3Dオブジェクト合成ができるようにしていく。これは写真と3Dオブジェクトの合成を、ヘッドセットやHoloLensのような特殊な機器を使わない、もっともシンプルな「Mixed Reality」と位置づけているからだ。できることの意味や価値は大きく異なるものの、「現実とCG空間の合成」という意味では共通しており、今後さらに強化されていくことになるだろう。
なお、写真に若干関連するのでここで述べておくが、Windowsの付属ソフトとして長く使われてきた「ペイント」は、今後標準的な機能ではなくなっていく。Windows Storeよりダウンロードできるようになる予定だが、ペイントのもっていた役割は「ペイント3D」に引き継がれる。こうやって少しずつ、アプリの位置付けが変わっていくのも時代、というところだろうか。
また、これは一時的な措置か、なんらかのミスか、それとも本来の処理なのか不明だが、一部の環境では、FCUのリリース候補版において、「Windows Media Player」が削除される場合がある。筆者の環境では削除されなかったし、新規インストールの場合どうなるかなど、きちんと確認ができていない部分もある。だが、Windows Media Playerと同様のことをするアプリはすでに別アプリとして用意されているので、機能だけでみれば価値は薄れた、といえる。
とはいうものの、使い慣れたアプリがなくなると困る人はいるはず。もし見つからなかった場合には、「設定」→「アプリ」→「アプリと機能」→「オプション機能の管理」から追加モジュールのインストールができるので、そちらを試してみていただきたい。
HDRなどを管理する「ビデオの設定」が登場
FCUにおいて、AV関連機能の大きな追加はない。ある意味、Windows Mixed Realityがそういう意味合いを持っている、と言えなくはないが。
PCにおけるビデオ再生は、OSがもっている機能を生かして再生する場合と、独自の機能を使い、OSの表示機能だけを使って再生する場合の2パターンが考えられる。最近はブラウザ上での動画再生が増えていることなどから、前者を利用する場合がほとんどになっている。この「ビデオの設定」は、OS側の機能を使う動画再生に関する設定だ。例えば、HDR対応の機材が揃っている場合の動画再生や、ハードウェアの再生支援機能を生かした再生といったことを設定できる。「設定」といっても細かな項目があるわけではないが、一応チェックしておいた方がいいだろう。
特に、NetflixなどのUWPのビデオアプリはこの設定を利用することがわかっている。HDR再生などをする場合には、ここでの設定が必要になる。
ストレージの管理がより楽に
PCの設定やメンテナンスで面倒なことといえば、「ストレージ容量の確保」が挙げられるだろう。特にモバイル用ノートPCやパフォーマンス重視のPCで、ストレージにSSDなどのフラッシュメモリー系メディアを使っている場合、容量不足を感じている人もいるのではないだろうか。
FCUの場合には、その点に2つのアプローチで応えている。
ひとつは「ストレージセンサー」。これは、以前から存在した「不要なファイルを消す」系の機能の進化版といっていい。容量が少なくなることを検知して、使っていないダウンロード済みファイルや過去のOSのアップデートファイル、一時ファイルなどを消す。機能アップした、というよりも、機能の存在をわかりやすくして、多くの人に使いやすくした……という感じなのだろう。空き容量表示も、名称もたしかにわかりやすい。
もうひとつ、ストレージ容量確保に重要なのが、クラウドストレージである「OneDrive」の変化だ。FCUからは、OneDriveのファイル管理に「ファイルオンデマンド」がつけ加わる。従来、OneDriveのファイルはローカルとクラウドの両方にデータが存在するのが基本だった。PCにファイルを同期をしない、という設定もできるのだが、そうすると、同期をしていないファイルをクラウドから取り出して作業するのが面倒になる。
ファイルオンデマンドでは、ファイルの扱いが「クラウドにあるのがわかっているが、ダウンロードはされていないもの(雲のマーク)」「使うために一時的にダウンロードされているもの(色抜きのグリーンのチェックマーク)」「常にローカルにも同期されているもの(グリーンで塗りつぶされたチェックマーク)」の3種類になる。というとなにか難しいように思うが、要は「常に使うもの以外は、使う時だけダウンロードするようになる」のだ。そのため、利用するローカルストレージの容量がより小さくなる。
実はこの機能、Windows 8時代には「スマートファイル」として存在していたものなのだが、諸事情あったようで、Windows 10になって仕様変更され、なくなっていたものである。たしかにWindows 8時代には扱いに不慣れな部分があり、問題もあったのだろうが、使っている人からは「復活」が強く希望されていたものでもある。
OneDriveは無料なら5GBから、Office365ユーザーならば1TBが使える。マイクロソフト製品を使っていれば、結局、けっこうな容量が使えるようになっている……という人が多いはずである。うまく使えばかなり便利になるはずだ。
目玉の「Timeline」などは積み残しが目立つ
FCUでの大きなテコ入れ一つが「機器連携」だ。いまや、一台のPCだけで生活する人はほとんどいない。スマホとPC、複数台のPC、PCとタブレットなど、生活の中で複数の機器を使い分けている人が多いはず。だが、アクセスしたい情報や仕事のためのデータは分散しがちで、連携には手間もかかる。アップルは自社製品と自社サービスに閉じることで連携を実現しているが、Windowsの場合、色々なメーカーをまたいでそれを実現する必要がある。
特にモバイルデバイスについては、先日、米マイクロソフトのWindows10担当バイスプレジデントのJoe Belfiore氏が「Windows Phone(Windows 10 Mobile)はバグフィックスやセキュリティアップデートは行うものの、新しい機能追加に注力しない」とコメントし、事実上、Windows独自プラットフォームの開発が終了していることを公にした。
Of course we'll continue to support the platform.. bug fixes, security updates, etc. But building new features/hw aren't the focus. ??https://t.co/0CH9TZdIFu
— Joe Belfiore (@joebelfiore)2017年10月8日
マイクロソフトはiPhoneやAndroidとWindowsの親和性を高めることに注力しており、FCUの新機能も、そこが一つの目玉となっている。
事実、FCUの「設定」には、新しく「電話」という機能が現れた。この機能からは、自分の持っているWindows 10が動作しているPCとスマートフォンとを紐付ける。その結果として、Windowsで行なっている作業からスマホへ、スマホで見ている情報からPCへ、といった連携が可能になる。そのために、マイクロソフトは自社の「マイクロソフトアカウント」を活用している。だから実際には、マイクロソフトアカウントで連携する機器のデータを集約した上で、各機器へと受け渡すような形になっているのだ。
機器連携の中核となっているのは「Timeline」と呼ばれる機能だ。Timelineでは、Windowsやスマホ上で行なった作業が時系列で記録され、デバイスをまたいでも続きがすぐに行なえるようになる。ウェブや使ったアプリの履歴が時系列で並び、すぐに確認できる。音楽を聴きながら、ウェブを参考にPowerPointでプレゼン資料を作っていたのであれば、その作業がワンクリックで「レジューム」できるのである。また、「Cloud-powered Clipboard」と呼ばれる機能により、機器をまたいでの「コピー&ペースト」も可能になる。
あ、いや、正確にいえば「なる予定だった」。もうおわかりのように、TimelineとCloud-powered ClipboardはFCU公開当初は実装されず、今後追加される機能になってしまった。マイクロソフト側のクラウドも活用する、非常に複雑な要素を持つ機能なので、慎重に開発を進めているのだろう。
ただし、理想に向けた準備は進んでいる。
現状のでの「連携」として実装済みなのが「Continue on PC」という機能。これは、スマホで見ているウェブのURLをPCへと転送する機能だ。AndroidでもiPhoneでも使える機能だが、ここではiPhoneでの動作例をご紹介したい。
連携にはまず、PCとスマホの連携が必要だ。「設定」の「電話」から、携帯電話の番号を入れてSNSを送信し、自分の手持ちの電話とPCを連携する。
といっても、マイクロソフトのクラウド側に電話番号が登録されるわけではなく、連携アプリのダウンロードURLを簡単に送るための手段であるようだ。ストアにはAndroid・iOSともに「Continue to PC」というアプリが公開されており、このアプリをスマホにインストール後、アプリ内でPCと同じマイクロソフトアカウントでのログイン作業を行なう。すると、マイクロソフトのクラウドを介し、PC側にも「連携した機器」が表示されるようになる。
だから、アプリを直接ダウンロードし、そこから設定してもかまわない。アプリからの直接設定を使えば、電話ではないiPadも登録できる。
あとは簡単だ。各プラットフォームが持つ「共有」機能を使い、「Continue to PC」を呼び出してURLをPCへ送る。Androidの場合は「共有」だし、iOSならば□に↑がくっついたアイコンで示される「Extensions」から呼び出す。そうすると、連携が行なわれているPCのリストが表示されるため、「転送」したいPCを選んでタップする。すると、すぐにPCの側ではブラウザが開き、送ったURLのページが表示されることになる。
注意しなければならないのは、この機能は「PCに一方通行でURLを送る」ものである、ということだ。また、起動していないPCへ送る場合には、選択肢の一番下にある「Continue Later」を選ぶ。すると、URLは登録されたPCすべてのアクションセンターに送られることになる。
相互移行を含めたより高度な機能は、積み残しになっている機能の実装とともに可能になるだろう。そこでは、「Continue to PC」と同じように、スマホ側にアプリが必要になる。そのためにマイクロソフトは、AndroidおよびiOS版の「Microsoft Edge」や「Cortana」を用意し、改良していく。Edgeについては、英語版でのテストが始まったところであり、今後日本語環境でも使えるようになっていくと思われる。
デザインは徐々に新形式へ変更、ストアは「マイクロソフト全体のストア」へ
最後に、外観を含めた細かな部分をご紹介しておきたい。
FCUから、マイクロソフトは「Fluent Design」という新しいデザインを軸に据える。FCUでもすべてではないものの、この方針で機能が更新されている。「フォト」や「Microsoft Edge」のウインドウデザインが少し変わっているほか、アクションセンターやスタートメニューも若干変化する。これから次のバージョンに向け、より大きく見栄えが変わっていくだろう。
また、マイクロソフトのアプリストアであった「Windows Store」は「Microsoft Store」に名称変更し、デザインも若干変わる。アプリだけでなく、SIMカードによる通信プランも販売されるサービスになり、今後はハードウェアもここで売られるのでは……という話がある。UWP形式のアプリを売る場所から、より広い「マイクロソフトの個人への接点」にしていこう、という考えた方なのだろう。そもそも、ここで音楽や映像も売っているわけなので、「マイクロソフト全体のストア」という形になるのは正しい変化だ。
一方で海外では、マイクロソフトが自社で展開していたストリーミング・ミュージックである「Groove」がビジネスを終了し、Spotifyへとユーザーを移行する、という発表もなされている。Windows 10 Mobileの終了の件も含め、マイクロソフト社内で「ビジネスの見直し」が行なわれている雰囲気も感じる。