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クルマの全てを変える自動運転時代のイメージセンサー。王者ソニーの苦闘と挑戦

 今年のCESでソニーは、自動運転向けの画像センサーに関し、パートナーとなる自動車関連メーカーを公開した。自動車メーカーとしてはトヨタ、日産、KIA、ヒュンダイ、自動車系部品メーカーはボッシュ、デンソー、MobileyeにNVIDIAと、トップメーカーの名がずらりと並んだ。

CES 2018のプレスカンファレンスで、平井一夫社長は車載用イメージセンサーで目指す世界とパートナーを発表した

 ソニーが自動車向けのセンサーへの参入を発表したのは、2014年のことだ。対応製品をいくつか発表してはいるものの、パートナーの名前を公開し、ビジネスの進捗状況について語ったのは、今年のCESが初めてのことだった。

ソニーが自動運転向けイメージセンサーの導入パートナーとして、トヨタ・日産・KIA・ヒュンダイ・ボッシュ・デンソー・Mobileye・NVIDIAの8社を公開した

 この4年の間、ソニーの車載向けセンサー事業担当者は、どんな活動をしていたのだろうか? ソニーは、スマホやデジカメ用のセンサーはもちろん、監視カメラなどの業務用センサーでも大きなシェアを持つ。それらと車載用はどう違っていたのだろうか?

 今回、ソニーで車載向けセンサー事業を統括する、ソニーセミコンダクタソリューションズ・車載事業部統括部長の北山尚一氏に、ロングインタビューする機会を得た。彼らの4年間の苦闘と、ソニーのセンサーを使った自動運転車の未来が、彼の言葉から具体性をもって見えてきた。

ソニーセミコンダクタソリューションズ・車載事業部 車載事業企画部 統括部長の北山尚一氏

2014年には「なにもわかっていなかった」?!

「参入を発表した時は、今から考えると、なにもわかっていなかったんです」

 北山氏は冒頭、そう切り出した。

 2014年までソニーの中には、自動車で使うためのセンサーを開発する部門はなかった。北山氏も元々は、監視カメラなどを対象としたセンサーの開発に携わっていた。

北山氏(以下敬称略):弊社の監視カメラ向けセンサーの特性は良好なものです。ですから「(車載も)暗いところが見えればいいだろう」くらいのつもりで始めてしまったんです。そして監視カメラ用の製品を持って、ヨーロッパやアメリカ、日本の各地にある自動車関連企業を回ったのですが、「車載は監視カメラのノリとはまったく違うんだ」ということを、そこで初めて理解しました。

 もちろん、機能安全や信頼、長期保証という部分にも違いはあるのですが、そもそも「カメラに期待すること」が違ったんです。

 車載用は「見えているものが間違ってはいけない」んです。例えば、LEDは色々なところに普及していますが、カメラで撮影するとフリッカー(ちらつき)が出ます。そういうものは、我々が見ても「ああ、ちらついているんだな」くらいの認識ですが、自動車の世界ではそういうことはあっちゃいけない。カメラとは、必要な視野・視野角などがまったく違う。「暗くても見えます」だけじゃ話にならないんだね、ということがそこでわかりました。

 結果、我々はしょぼくれて帰ってきたわけですが、そこからなにを作るべきか、ということを理解することができました。そうしたことを反映して作ったのが「IMX390」という製品です。

 IMX390を持って再び訪れると「車載として期待していたものにかなり近い」との評価をいただきました。さらにそこから「こうすべきだ」「こういうものが欲しい」という要望をいただき、だんだん改良されてきて今に至ります。

 北山氏のいうIMX390とは、2017年4月にプレスリリースが発表された「IMX390CQV」のことである。これは先ほど話に出てきた「LEDでのちらつき」を抑えた上で、120dBという広いダイナミックレンジでのHDR撮影機能を備えた、当時としては世界初の製品である。

IMX390のデモ動画。HDR撮影による「白飛び」防止と、LED信号のフリッカーが抑制されていることがよく分かる

人の視力を超えるセンサーが自動車を変える

 ソニーが取り組んだのは「自動運転」を前提としたイメージセンサーの開発である。では、彼らはどこに目標を置いていたのだろうか? 北山氏の説明は明確である。それは「人間の眼の能力を超える」ことだ。

北山:我々のイメージセンサーの事業は「人間の眼を超える」ことを合い言葉にしてきました。ならば車の持つ眼が人間を超えたならば、人間を超えた運転が出来るはずです。ソニーはライフスタイルをより豊かに・楽しくすることを使命とした会社だと思っているので、車の運転に関係する生活を根本から変えることができるのではないか、と思いました。ならば、人間の視力を完全に超える車が実現できる道具を作ってみせようじゃないか、ということです。

ソニーが車載向けに提供を開始しているイメージセンサー群。左上のIMX224(1/3型・有効120万画素・0.005ルクスでのカラー撮影対応)から始まり、IMX290(右上、1/3型・有効200万画素)、IMX390(左中、1/2.7型有効245万画素)、IMX324(左下、1/1.7型有効742万画素)へと至る

 今回ソニーブースの一角には、同社が開発した車載用センサーの能力を示すための展示が行なわれていた。ちょっとした模型を作り、そこで車載用イメージセンサーの能力を実演していたわけだ。どちらも「肉眼の能力を超える」ものだった。

 暗いトンネルの中に自動車が止まっているが、肉眼では見えない。トラックが出てくる様子も分かりづらい。だが、低光量でも見えること、HDR撮影によってダイナミックレンジが上がることで、それらの問題が解決できる。また、望遠での視聴により、人間の眼で確認するよりもはるかに先の様子が鮮明に確認できる。こうしたことが組み合わされば、自動運転車は「人間よりもリッチな情報を使い、より安全な運転を実現する」ことが、将来的には可能になるはずだ。ソニーはこうした構想に「セーフティコクーン」という名前を付けている。360度の情報検知が、より安全なドライビングを実現する、という発想だ。

ソニーブースでの、車載用イメージセンサーを想定したデモ。人間の眼では見えない暗さや、人間よりも遠くを正確に把握できることをアピールしていた

北山:例えば今回お見せしているのは、真っ暗な中でも見えるセンサーです。前は前照灯が点いているので、まだ見えます。しかし横や後ろは闇で見えませんよね? そうした部分はまったく分からない状態で走ることになります。しかし、イメージセンサーによって360度がカバーされ、暗いところでも見えるようになれば変わります。後ろや横からなにかが迫ってくるのが、真っ暗な状態でもわかります。これは人間ではできない運転です。

 急に物陰から飛び出してくるものを把握するのは、普通の人間にはできません。しかし、人間の動体視力を超えた眼を持っていれば、1000分の何秒かで物事の変化を捉え、その瞬間にブレーキをかけたり、ハンドルを切ったりすることも可能です。

「今の車、そのまま自動運転にして大丈夫なの?」と思われているレベルを超えて、「自動運転じゃないと、人間レベルの安全しか実現できないよね」と言われるものを作れるんじゃないか、と思います。

 人間の眼を超えていれば、より遠く・速く正確に捉えることができます。実際にそういう車を実現したい。今できるかどうか、ということでなく、そこを目指さなければいけない、と思っているんです。そのために必要なイメージセンサーとはなにか、を慎重に考えています。

ソニーが考える「セーフティコクーン」。センサーによって360度の視界をカバーし、より安全なドライビングを目指す

 現在の自動運転のデモでは、あくまで「人間と同じように見た映像」を元に、他の車や歩行者、交通標識などを見分けているものが多い。だが、そこに人の視力を超えるセンサーを搭載することで本当の価値が出るのではないか、というのが、ソニーの主張である。

北山:我々も自動車向けをずっとやってきたわけではないので、気付かないところがあります。そこを自動車メーカー・ティア1(自動車メーカーに直接部品を供給する企業のこと。今回の提携先で言えば、ボッシュやデンソーがこれにあたる)と話す中で色々情報交換をし、「なるほど、そういうニーズならば我々のイメージセンサーのこういう部分を伸ばせば、もっともっと安全性に寄与できる」という風に、逆にご提案することができています。

 いままでの車載カメラというのは、普通のカメラの延長線上のものでした。使う企業の側も「このレベルでいい」と、昨日までのニーズで満足し、割り切っていた部分があります。こちらから「弊社のカメラの特性ならここまで出来ますよ」と提案することによって、キャッチボールが発生し、お互いに良いものを作れるようになってきました。将来どのようなイメージセンサーを作ればいいのか、ということもわかってきています。

自動車のデザインが「センサーの条件」を規定する

 北山氏の話に出てくるように、我々が考える「カメラ」と「自動運転向けイメージセンサー」は明確に異なるものだ。別な言い方をすれば、最終目的が「鑑賞」であるカメラ用と、機械が判断するための「眼」であるイメージセンサーでは、求められる要件が異なるのも当然ではある。

 そういう意味では、イメージセンサーの形やサイズなども、いままでのイメージセンサーとはかけ離れたものでもいい……ということになる。この点はどうだろう? 北山氏は「ある部分はイエス、一部はノー」と答える。

北山:例えば遠距離を見るセンサーなら、縦方向はいりません。なので、アスペクト比は「横長」でもいいかも知れません。Eミラー(バックミラーなどをデジタル化し、ディスプレイに表示するもの)向けの場合には、意外と上下が見たくなります。下を猫が走っているかもしれませんからね。少し上下に広い視野で見れるものが必要になるかも知れません。今はそうなっていませんが、形から変わる可能性は十分あります。

 センサーのサイズについても、今よりももっと大きなものを使うことができるかもしれません。1インチでも2インチでも、半導体ウェハーのサイズが許せばもっと大きなものを作ることだってできます。

 しかし、今の時点では制約があります。

 今は自動車に「デザイン」の制約があります。車のデザインに合わせて、サイズや形が決まっています。ですから、カメラを置く場所は外の角に近い部分やバイザーやミラーの裏側になります。そこにはそれほど巨大なものは置けない。

 すなわち、今の自動車用センサーの制約条件は「自動車という形」にある、ということだ。現状は、センサーの配置を優先条件にデザインが組み立てられる段階ではない。

北山:ドアミラーがなかった頃には、前方にミラーがあっても誰も気にしませんでした。しかし、今は変わりましたよね。同じように、意匠性の問題が解決され、巨大なセンサーをつけてもいい、という時代が来れば、また要件は変わるでしょう。そういう意味では、携帯電話に入るセンサーと似た部分がある……と言えなくもないです。

 では、採用メーカー側から提示される条件のうち、特に厳しいものはどこになるのか? 明るさ、特に逆光への対応などは厳しく求められるが、同様に条件が厳しいのが「熱だ」と北山氏はいう。

 これは若干意外かも知れない。スマートフォンなどでは消費電力への影響が大きく、本体が熱を持って不快になりやすいため、発熱が小さいセンサーが喜ばれる。だが自動車は、携帯機器に比べて電源の制約は小さいし、発熱しても運転者が直接不快になるとも思えない。だが、それとは真逆の観点で「熱」への対策がきわめて重要だ、と北山氏は話す。

北山:イメージセンサー自体がどれだけ電力を食うかということよりも、周辺回路も含めた発熱を気にされます。そもそも自動車がかなり発熱するものなので、環境として厳しいです。

 弊社のイメージセンサーは、温度が100度を超えても絵が崩れるようなことはありません。そこは100%の自信をもって言えます。しかし、周辺の回路はそこまで温度があがると大変なことになりますので……。大きくて消費電力の高いセンサーを使っていい、ということにはならないですね。

 電力はEVならいくらでも供給できるのですが、自動車メーカー側はセンサーの発熱量をすごく気にしています。

 そもそも、自動車には直射日光が当たり続けると簡単に100度を超えるような場所もあります。

 どちらにしても、これらの要件は、関連企業が「今の自動車設計における条件」です。将来車の作り方が変われば、なにもかもが変わる可能性は高いです。

 センサーから出てくる絵の扱いについても、車載用と通常のカメラとでは当然異なる。自動運転をするための「センサー」なのであり、人間が鑑賞する写真とは異なるのは当然といえる。

北山:色はいらない可能性もあります。より少ない画素で解像度や感度を上げなければいけない場合があり、そうすると、コンピュータがより正確な判断を下せる情報として、白黒でもかまわない可能性があります。もちろん、信号やストップランプを見たい、というニーズがあり、赤などを判定する必要がある部分もありますが。

 人が見て感動する絵作りとしてのセンサーと、コンピュータが見て正確に判断するための絵ではなにが違うのか、勉強し直さないといけないと思っています。そこは自動車メーカー・ティア1メーカーとともに考えていきたいです。

 今回発表した物の中でも「IMX324」は、7.4Mピクセルもあるのですが、RCCCのコーディング(赤+クリアーで白)になっています。結果的に、解像度はカラーの製品よりもずっとMobileyeさんなどのメーカーが「こう使いたい、こういう信号が欲しい」というからです。そういう情報がいただけているので、それに合わせて開発をしています。

 まったく違うレベルの話もあります。

 イメージセンサーがもしかすると壊れるかも知れない。壊れるとは思っていませんが、自動車では万が一にも備えなければいけない。その時には、自己診断処理で「いま状況がおかしい」という信号が出せる仕組みを持っていなければいけません。観賞用のカメラならそういったものは不要ですが、マシンビジョンでは、変な情報が入ってきた瞬間に誤動作する可能性がある。

 また、データの改ざん対策も必要になります。万が一、データにアクセスして「歩いている人を消す」という処理が行なわれると、大変な事態を招きかねません。

 ですから、熱も精度もスピードも、すべてが要望によって変わってくる、ということです。

先を走ることでコモデティ化から逃げ切る

 イメージセンサーは「パーツ」だ。高度なパーツを作れることは大きな差別化要因だが、パーツのスペックだけで語るならば、いつかは追いつかれる可能性がある。スマホ用のセンサーやディスプレイパネルでは、先端の高付加価値のものが求められる一方で、後続の企業がスペック面で追いつくまでの時間も短くなってきた。「パーツが最新のスペックを満たす」だけでは、他社に追いつかれれば優位性はなくなる。

 そうすると、差別化のためには「求められたスペックのパーツを売る」だけではない、いわゆる「ソリューション・ビジネス」的な考え方が必要になる。同様の質問に対し、平井一夫社長は「単純に半導体を売るだけではバリューが生まれない。プラスアルファの協業の形を考えたい」と語っている。

 現場を担当する北山氏は、その点をどう考えているのだろうか?

北山:携帯電話がどうなったかを考えると、センサーの後ろにある処理の部分は標準化されて、プラットフォーム化される可能性は高いです。そこに我々が、他社に追いつかれたセンサーを導入すると、差別化はどこですか? という話になる。

 今我々が考えているのは、きちんと先を読んだイメージセンサーを作っていくことです。今日こちら(CES会場)で展示しているようなことの先を仕込んでいけば、そんなにコモデティには陥らないだろう……とは思っています。

 後ろのコンピュータまでは同じでも、その前、センサーと映像のプリ処理の段階では差がつく、という形にしたい。ソニーは映像を処理する、ということについては世界一の会社だと思っているので、差異化は成立すると思います。

 ものづくりそのものは追いつかれる、と思います。しかし、どんなアルゴリズムを使うのか、というようなノウハウやカスタマイズの部分では勝っていける、と思っています。

 では、そこで「ソニーのセンサーが搭載される」ことが、自動車メーカーにとってどのような意味を持つのだろうか? 北山氏は言葉を選びながらも次のように話す。

北山:自動車には、「この機能がないと価値が下がる」という要素がまだ作れる、と思っています。スマートフォンでも、いまや「カメラがない」「カメラの機能が悪い」物は買いたくない。もちろん、カメラで自動車を選ぶことはないでしょう。しかし、「それほど利益のある機能を実現するためのカメラが乗っている」と思ってもらえるようにしなければいけないです。カメラのありがたみを消費者の方々が理解してくれるようにしていかなくてはいけない……と思います。

製品ではないが「ソニーらしい」仕事で車載向けトップシェアを狙う

 発表から4年間、実際にはそれ以上の時間をかけて、ソニーは自動車メーカーとの関係作りを行なってきた。2017年に入り、いくつか成果といえるセンサーが発表されたのは、自動車メーカーとの関係作りの賜物といえる。

 では、「今年メーカーとの関係が発表された」ことには、どんな意味があるのだろうか?

北山:ひとつは……ちょっと妙ないい方になりますが、2014年に平井が「車載センサーをやる」といったことについて、社外からは懐疑的な声も出てきていたので、そろそろのこの辺ではっきりさせておこう、という部分はありました。

 もうひとつは、いままで我々は汎用化ビジネスをやり、多くの企業にご採用いただいてきました。そのため「どの企業にご採用いただきました」という話は、あまり表には出してこなかった、ということがあります。

 我々は車載用としては、まだまだ存在感がありません。ここであえて各社協力のもとお名前は出させていただいて、プレゼンスを高めておきたい、ということはあります。こちらとしてもご迷惑がかからないだけのものを作れるようになってきましたし、生産体制も整ってきましたので、発表してしまおう、ということになりました。

 これだけのメーカーにご賛同いただけた理由としては、ボッシュとデンソーという、2つのティア1メーカーに認めていただけたことが大きいです。彼らの審査は本当に厳しくて、それをパスできたということは、ある種の切符を手に入れたようなものだ、と認識されています。

 品物が良かったことはあります。自動車メーカーの方々は、過去に採用していたセンサーと我々のものを、目の前で本当に比べながら話すんですよ。我々にとっても厳しいことなんですが。その上で、良さをきちんとわかっていただけた。そういうことの積み重ねだと思います。

 ソニーはスマートフォン用のイメージセンサーではトップメーカーの座にいる。そのことが同社の大きな収益源であり、差別化戦略になっている。ソニーは自動車においても、同じ地位を狙いたいのだろうか? 平井一夫社長は「マーケットリーダーにはなっていきたいと思うし、それだけの技術力はもっている」と筆者に話した。

 では、現場の北山氏の手応えはどうだろうか?

北山:だいぶ手応えは出てきたと思います。まだそう断言するのは難しいです。自動車では10年後にならないと、そうは言えないんです。なぜなら今日「採用する」と決めていただいても、製品になるのは5年後ですから。この時間感覚は、家電などとはまったく異なるところです。

 しかし、自動車業界の方からも、ソニーのセンサーに対する期待は高まってきている、と感じています。トップを目指して頑張れるのではないかな、と思っています。

 筆者が見るに、彼らはこのビジネスに相当の手応えを感じているようだ。4年前、自動車会社からダメ出しされ、自ら「なにも分かっていなかった」と感じたチームが、この短期間で厳しいティア1メーカーの目にかなう製品を作れるようになったのは、大変なことだとも思う。その理由はどこにあるのだろうか?

北山:もともとのイメージセンサーの技術が良かった、というのは事実です。自動車メーカーもティア1メーカーも、イメージセンサーは「ここまでしかできない」という、ある種の割り切りをもっていたようです。そこで「ソニーのセンサーではここまでできるのか」ということを見せられた。難しい注文を出してみたら、次に来る時にはそれに対してある程度の答えを持ってきた。我々は、それに答えられるよう努力したんです。その結果が積み重ねて、やっとこの段階まで来た……。そう思います。やっと三合目まで来た……いや、一合目まで来たところですかね。登り口までは来れたかな、と思います。

 まあ、まだ引っ越したばかりで、ご近所にタオルを配っているような段階ですよ(笑)。

 平井社長はインタビューにて、「車載センサーが営業利益に大きく貢献できるのは、まだ先の話」と言っている。このことを北山氏に話すと、「ありがたい話です」と答えた。それだけじっくり取り組むことを許されている、という意味での言葉である。

北山:常々我々は「5年ください」と言ってきました。それがどんどん長くなるのはいけない、と思うので、2020年以降、2025年にはある柱になっていれば……。2014年に言われたわけですから、19年・20年にはなんとか。

 車そのものが変わるのが、2020年からだと思っているんです。その頃に車が変わっていかないと、ソニーのセンサーを使う面白みが出ない、とも思うのです。そこから先は色々と楽しい変化ができると、楽しみにしているんです。

 エンジニア達も、本当にモチベーションがすごく高い。楽しいですね。これから変わる社会に自分達が実際に関われるわけですから。製品ではないですが、本当に「ソニーらしい仕事」だな、と思っています。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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